監修医師:
伊藤 喜介(医師)
膵のう胞の概要
のう胞とは体の組織内にできた閉鎖した袋(嚢)状の病変のことを指し、特に膵臓にできたのう胞のことを膵のう胞といいます。
膵のう胞にはさまざまな種類が含まれますが、今回その中でも比較的発生率の高い、仮性のう胞と膵管内乳頭粘液性腫瘍について説明していきます。
膵仮性のう胞の概要
膵仮性のう胞は膵臓の炎症や外傷などで、膵液、炎症性浸出液、壊死物質が膵臓の周りに溜まって、周りの臓器で覆われることで生じるのう胞となります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の概要
腫瘍性の膵のう胞の中で最も多く発生するのがIPMNです。
腫瘍は膵液を運ぶ膵管にできます。
膵管は木の枝のように分かれており、木の幹にあたる主膵管に生じるものを「主膵管型IPMN」、木の枝にあたる分枝膵管に生じるものを「分枝型IPMN」と呼びます。
のう胞の壁が腫瘍細胞で覆われており、袋の中にはネバネバとした粘液が入っていることが多くなります。
主膵管型IPMNは多くががん化することがわかっています。
一方で、分枝型IPMNのがん化率は2〜3%程度であるため治療方針は異なります。
膵のう胞の原因
膵仮性のう胞の原因
膵仮性のう胞の原因としては膵炎、膵外傷が代表的です。
急性膵炎では10%程度の患者さんに、慢性膵炎では約30%の患者さんに起こるとされています。
のう胞の中身は急性膵炎では壊死物質であることが多く、慢性膵炎や膵外傷では浸出液や膵液であることが多いです。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の原因
IPMNの原因としてわかっているものはありません。
男女比は2:1程度で男性に多く発生しますが、その理由についても明らかになっていません。
膵のう胞の前兆や初期症状について
膵仮性のう胞の前兆や初期症状
膵仮性のう胞の症状は原因となる疾患である膵炎や膵外傷の症状が生じます。
また、のう胞ができることで、腹痛、お腹のしこり、吐き気・嘔吐が起こることがあります。
のう胞が大きくなり、胆管や腸(十二指腸、小腸、大腸)を圧迫してしまうと、黄疸や腸閉塞症状を引き起こす場合があります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の前兆や初期症状
IPMNは症状が出ないことが多いですが、10%程度で膵炎を引き起こし腹痛や背部痛といった症状が発生することがあります。
また、病変によって胆管が閉塞してしまうと発熱や黄疸といった胆管炎の症状がおこります。
IPMNは症状から見つかることは少なく、超音波検査やCT検査を受けた際に偶然見つかることが多い疾患です。
気になる場合は消化器内科を受診しましょう。
膵のう胞の検査・診断
膵のう胞を疑った場合は、以下のような検査を行うことで診断をします。
腹部超音波検査
外来や病室にて簡便に行うことができる検査であり、膵のう胞を疑った場合にはまず行う検査となります。
のう胞の存在だけでなく、内部の構造まで観察することができます。
膵臓は背中側にあり、膵臓の前面には胃があるため、腹部超音波検査での発見は難しい場合もあります。
腹部CT検査
腹部超音波検査で膵のう胞を疑った場合には、続いてCT検査を行います。
造影剤を用いてCT検査を行うことでより詳細な構造を確認できます。
構造をみることで、のう胞性疾患の鑑別(確定診断)を行うことができます。
MRI検査(MRCP)
MRIを用いて膵管や胆管の構造を観察することができます。
膵管の拡張、閉塞、狭窄などを確認することができます。
IPMNでは主膵管型IPMNと分枝型IPMNを見分けることに役立ちます。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡(胃カメラに似た口から挿入するカメラ)を用いて、膵管や胆管の出口である十二指腸乳頭部から造影剤を用いて膵管の形や閉塞の程度を評価することができます。
膵管の拡張、閉塞、狭窄を評価することができます。
超音波内視鏡(EUS)
内視鏡の先端から超音波検査を行うことができます。
胃の壁を通してのう胞の存在を体表からの検査より詳細に見ることができます。
また、超音波をガイドとして針を刺し、内部の細胞を採取する(超音波内視鏡下穿刺吸引法:EUS-FNA)ことも可能です。
採取した細胞を顕微鏡で確認することで確定診断をつけることができます。
膵のう胞の治療
膵仮性のう胞の治療
症状のない膵仮性のう胞は治療の対象とならず経過観察となります。
一方で、のう胞に感染があった場合や、胆管や腸の通過障害を生じた場合は次に示すような治療の対象となります。
ドレナージ
ドレナージとは管を入れてのう胞の中身を吸い出す治療のことを指します。
胃カメラを用いて胃の中からのう胞に管を入れて治療する内視鏡的経胃ドレナージや、お腹の表面から管を入れて治療する経皮ドレナージが行われます。
手術
ドレナージを繰り返し行っても改善が見られない場合は手術を行います。
手術では、壊死物質を除去するネクロゼクトミーを行います。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の治療
IPMNの治療は主膵管型IPMNと分枝型IPMNで方針が異なります。
- 主膵管型IPMNは悪性(がん)の頻度が高いことから、診断がつき次第手術を行います。
- 分枝型IPMNでは、5㎜以上で造影されるのう胞壁の壁在結節(のうほうの壁に盛り上がったできものがある)や、10㎜以上の主膵管の拡張が各種検査で見つかった場合は、悪性(がん)のリスクが高いため手術の適応となります。
これらの所見がみられない分枝型IPMNではがん化のリスクがあるため、定期的な外来受診で画像検査(超音波検査、CT検査)を3ヶ月あるいは半年毎に行い経過を見ていくこととなります。
手術となった場合は、IPMNの場所によって方法が異なります。
十二指腸に近い膵頭部のIPMNに対しては膵頭十二指腸切除術などを、脾臓に近い膵尾部のIPMNに対しては膵体尾部切除術が選択されます。
膵のう胞になりやすい人・予防の方法
先ほども説明しましたが、膵仮性のう胞は膵炎に引き続いて発生します。
そのため膵炎の予防は仮性のう胞の予防につながります。
一方でIPMNにはこれといった原因は明らかになっていません。
発生の予防をすることは難しいと考えられます。
しかし、早期発見は悪化(がん化)する前の発見、処置につながります。
そのため定期的な健診の受診による画像検査は重要と考えられます。
関連する病気
- 精巣上体炎(Epididymitis)
- 精索静脈瘤(Varicocele)
関連する病気
- 膵臓癌(Pancreatic Cancer)
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
参考文献
- 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版