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自己免疫性肝炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

自己免疫性肝炎の概要

自己免疫性肝炎(AIH)は、肝臓に対する自己免疫反応によって引き起こされる慢性肝炎の一種です。自己免疫とは、本来は体を守るために働く免疫システムが、誤って自分自身の組織を攻撃してしまう現象を指します。自己免疫性肝炎では、免疫システムが肝細胞を異物とみなし攻撃することで、肝臓に炎症が生じます。
AIHは慢性的に進行し、治療せずに放置すると肝硬変や肝不全を引き起こす可能性があります。しかし、適切な治療を受ければ症状を抑えることができ、生活の質を維持しながら長期的に管理することが可能です。発症の原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境的要因が関連していると考えられています。AIHは女性に多く見られ、特に中年女性に多い疾患です。

自己免疫性肝炎の原因

自己免疫性肝炎の正確な原因はまだ解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。

  • 遺伝的要因
    AIHには遺伝的要素が関与している可能性が高いです。特に、HLA(ヒト白血球抗原)という遺伝子の異常が関連しているとされています。HLAは免疫反応を調節する役割を持っており、これに異常があると自己免疫反応が過剰に働き、肝細胞を攻撃してしまうことがあります。
  • 環境的要因
    自己免疫性肝炎は、ウイルス感染や特定の薬物の使用、またはホルモンの変動などが引き金となることがあります。ウイルス性肝炎や風邪を引き起こすウイルス、またはインターフェロンなどの薬物が、免疫システムを異常に活性化し、自己免疫反応を引き起こす可能性があります。
  • 免疫システムの異常
    自己免疫性肝炎は、体内の免疫システムが正常に機能しなくなることで発症します。免疫系が正常であれば、体内の異常な細胞やウイルスを攻撃しますが、自己免疫疾患では、自分の健康な細胞や組織を攻撃します。AIHの場合、肝臓の細胞が免疫システムの標的となり、これが慢性的な炎症や肝臓の損傷を引き起こします。

自己免疫性肝炎の前兆や初期症状について

自己免疫性肝炎の症状は人によって異なりますが、初期の段階では疲れやすい、食欲が落ちる、体重が減るといった全身的な症状が現れることがあります。中には無症状の人もいて、健康診断や献血などの検査で偶然に見つかることがあります。
この病気は急激に発症する場合と、ゆっくり進行する場合があります。急激に発症した場合は、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、お腹に水がたまる腹水、肝臓が硬くなる肝硬変といった重い症状が出ることがありますが、こうしたケースはまれです。
無症状であっても血液検査で肝臓の働きが悪くなっていることが示されることが多く、特にアミノトランスフェラーゼという肝臓の酵素の値が上がっていることが特徴です。
また、皮膚のトラブルとして軽い発疹やかゆみが見られることがあります。時には、関節の痛みや発疹、吐き気や腹痛などの症状も出ることがあります。
さらに、自己免疫性肝炎を持つ人の中には、関節リウマチや1型糖尿病、自己免疫甲状腺炎などの他の自己免疫疾患を併発する場合もあります。

自己免疫性肝炎の検査・診断

自己免疫性肝炎の診断は、血液検査や画像検査、肝生検などを通じて行われます。診断の目的は、肝臓の炎症や損傷の程度を確認し、他の肝疾患との区別を行うことです。

血液検査

自己免疫性肝炎の診断において、血液検査は非常に重要です。肝機能を評価するために、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)といった肝酵素の値が測定されます。これらの値が高い場合、肝臓に炎症がある可能性が高いです。また、ガンマグロブリン(特にIgG)の上昇もAIHの特徴です。
また、自己抗体(ANA、ASMA、AAA、抗LKM-1など)の存在を確認するための血液検査も行われます。自己抗体は、自己免疫疾患の診断において重要な指標であり、これが陽性である場合、AIHの可能性が高まります。

画像検査

超音波検査やCTスキャン、MRIなどの画像検査を使用して、肝臓の状態を詳しく調べます。これにより、肝臓の腫れや形状の異常、肝硬変の有無などを確認することができます。

肝生検

肝生検は、肝臓の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。これは、AIHの確定診断に非常に有効です。肝生検を行うことで、肝臓の炎症の程度や線維化の進行具合を評価し、治療方針を決定します。

自己免疫性肝炎の治療

自己免疫性肝炎の治療は、免疫抑制療法を中心に行われます。免疫抑制剤を使用することで、過剰な自己免疫反応を抑え、肝臓への攻撃を減少させます。治療は長期間にわたることが多く、症状の再発を防ぐために定期的なフォローアップが必要です。

ステロイド療法

AIHの治療において、最も一般的に使用されるのはステロイド薬(プレドニゾロンなど)です。ステロイドは、免疫反応を抑制し、肝臓の炎症を軽減する効果があります。初期治療では高用量から開始し、症状が改善すると徐々に用量を減らしていく方法が取られます。

免疫抑制剤

ステロイドの効果が不十分な場合や、副作用を避けたい場合には、免疫抑制剤(アザチオプリンなど)が使用されます。これにより、免疫システムが過剰に働かないようにコントロールし、肝炎の進行を防ぎます。

維持療法

自己免疫性肝炎は、治療によって一時的に症状が治まっても、再発することが多いため、長期的な維持療法が必要です。再発を防ぐためには、低用量のステロイドや免疫抑制剤を継続して使用することが一般的です。また、定期的に医師の診察を受け、血液検査や肝機能の状態をチェックすることが重要です。

肝移植

AIHが進行し、肝硬変や肝不全に至った場合、肝移植が検討されることがあります。肝移植は、肝臓の機能を回復させるための最終的な治療法ですが、ドナーの確保や術後の免疫抑制療法など、複雑なプロセスが伴います。

自己免疫性肝炎になりやすい人・予防の方法

自己免疫性肝炎になりやすい人

自己免疫性肝炎は、以下のような特定のリスクを持つ人々に発症しやすいとされています。

  • 女性
    自己免疫性肝炎は特に女性に多く見られます。特に中年女性に多く、ホルモンの変動が影響している可能性があります。
  • 遺伝的要因がある人
    家族に自己免疫疾患を持つ人がいる場合、AIHのリスクが高まることがあります。
  • ウイルス感染後の人
    ウイルス感染や特定の薬物を使用した後に、自己免疫反応が過剰に働き、AIHが発症することがあります。

予防の方法

自己免疫性肝炎を十分に予防する方法はまだ確立されていません。リスクが高い人は注意する他ありません。

  • ウイルス感染後の予防
    ウイルス感染が自己免疫性肝炎の引き金となることがあるため、感染症の予防が重要です。特に、風邪やインフルエンザなどの感染症にかからないよう、手洗いやうがい、ワクチン接種を徹底することが有効です。
  • 定期的な健康チェック
    自己免疫性肝炎は、初期段階での自覚症状が少ないため、定期的な健康診断が早期発見に役立ちます。特に肝機能に異常がある場合は、早めに医師に相談し、適切な検査を受けることが大切です。


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