監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
急性膵炎の概要
急性膵炎は、膵臓が急激に炎症を起こす病気です。膵臓は胃の裏側に位置し、消化酵素を分泌して食物の消化を助ける外分泌機能と、血糖値を調節するホルモン(インスリンやグルカゴン)を分泌する内分泌機能を持っています。
急性膵炎は、膵臓内で消化酵素が異常に活性化され、膵臓自体を消化してしまうことが原因で発症します。重症化すると、ほかの臓器にも影響を及ぼし、多臓器不全を引き起こすことがあります。
急性膵炎の原因
急性膵炎の原因は多岐にわたりますが、主な原因としてアルコールの多量摂取と胆石が挙げられます。
アルコール
アルコールの多量摂取は、急性膵炎の最も一般的な原因の一つです。アルコールは膵臓に直接的なダメージを与え、膵液の分泌を過剰にし、膵管の内圧を上昇させることで膵炎を引き起こします。
胆石
胆石は、膵液の流れを妨げることで急性膵炎を引き起こします。胆石が膵管を塞ぐと、膵液が膵臓内に滞留し、消化酵素が膵臓自体を消化してしまいます。
その他の原因
脂質異常症
高脂血症が原因で膵炎を引き起こすことがあります。
薬剤
特定の薬剤が膵炎を引き起こすことがあります。]
感染症
ウイルス感染が原因で膵炎を引き起こすことがあります。
外傷
腹部の外傷が原因で膵炎を引き起こすことがあります。
特発性
原因が特定できない場合もあります。
急性膵炎の前兆や初期症状について
急性膵炎の前兆や初期症状には以下のようなものがあります。
腹痛
急性膵炎の最も一般的な症状は腹痛です。痛みは通常、みぞおちから左脇腹にかけて感じられ、背中にまで広がることがあります。痛みは大変激しく、立っていられないほどの強さです。
吐き気と嘔吐
急性膵炎の患者さんは、しばしば吐き気と嘔吐を経験します。これにより、食欲が低下し、体重が減少することがあります。
発熱
急性膵炎は発熱を伴うことがあります。発熱は身体の炎症反応の一部であり、感染症が併発している場合には特に高熱が出ることがあります。
腹部膨満感
腹部が膨満し、張った感じがすることがあります。これは、膵臓の炎症によって腹腔内に液体が溜まるためです。
黄疸
胆石が原因の場合、胆管が詰まることで黄疸が発生することがあります。黄疸は皮膚や白目が黄色くなる症状です。
全身のだるさ
急性膵炎の患者さんは、全身がだるく感じることがあります。これは、体全体が炎症反応に対処しているためです。
血圧の低下と意識障害
重症の場合、血圧が急激に低下し、意識が混濁することがあります。これは、ショック状態に陥るためであり、緊急の医療処置が必要です。
急性膵炎の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、消化器内科です。急性膵炎は膵臓の炎症であり、消化器内科での診断と治療が必要です。
急性膵炎の検査・診断
急性膵炎の診断は、臨床症状、血液検査、画像検査を基に行われます。
臨床症状
急性膵炎の診断には、典型的な臨床症状(激しい腹痛、吐き気、嘔吐、発熱など)が重要です。これらの症状が急性膵炎を示唆する場合、さらなる検査が行われます。
血液検査
血液検査では、膵臓の消化酵素であるアミラーゼとリパーゼの濃度が測定されます。これらの酵素の濃度が上昇している場合、急性膵炎が疑われます。
画像検査
画像検査(超音波検査、CTスキャン、MRCPなど)は、膵臓の炎症の程度や原因を確認するために行われます。これにより、膵臓の腫れや液体の貯留、胆石の有無などが確認されます。
超音波検査
膵臓の腫れや周囲の液体貯留を確認するために使用されます。特に胆石の有無を確認するのに有効です。
CTスキャン
膵臓の炎症の程度、壊死の有無、合併症を評価するために使用されます。特に重症例では重要な検査です。
MRCP
膵臓や胆管系の詳細な画像を得るために使用されます。特に総胆管結石症の検出に優れています。
急性膵炎の治療
急性膵炎の治療には、主に以下の方法が用いられます。
絶食と輸液
急性膵炎の治療の基本は、膵臓を休ませることです。これには、絶食と輸液が含まれます。絶食により、膵液の分泌を抑え、膵臓の負担を軽減します。輸液により、体内の水分と電解質のバランスを保ちます。
痛みの管理
急性膵炎の痛みは大変激しいため、痛みの管理が重要です。鎮痛薬が投与され、痛みを和らげます。
抗生物質
感染症が併発している場合、抗生物質が投与されます。これにより、感染症の拡大を防ぎます。
手術
胆石が原因の場合、胆石を取り除く手術が行われることがあります。また、膵臓の壊死組織を除去する手術が必要な場合もあります。
栄養管理
重症の急性膵炎の患者さんには、経管栄養や静脈栄養が行われることがあります。これにより、栄養状態を維持し、回復を促進します。
経管栄養
可能であれば、経管栄養で栄養を投与します。経管栄養が不可能な場合は、太い静脈に挿入した静脈内カテーテルを通して栄養を投与します(静脈栄養)。
静脈栄養
経管栄養が不可能な場合に使用されますが、感染性合併症や臓器不全のリスクがあるため、経腸栄養が望ましいとされています。
その他の治療
経鼻胃管
吐き気や嘔吐が持続する場合やイレウスがある場合に、水分と空気を除去するために経鼻胃管が挿入されます。
酸素吸入
血圧が低下しているか、ショック状態になっている場合は、輸液と薬で血液量が注意深く維持され、心臓の機能が綿密にモニタリングされます。酸素吸入が必要になる場合もあり、最も重篤な場合では人工呼吸器が必要になります。
急性膵炎になりやすい人・予防の方法
急性膵炎になりやすい人には、以下のような特徴があります。
リスク要因
過度の飲酒
アルコールの多量摂取は急性膵炎の主要な原因です。
胆石
胆石が膵管を塞ぐことで急性膵炎を引き起こします。
脂質異常症
高脂血症が急性膵炎のリスクを高めます。
薬剤
特定の薬剤が急性膵炎を引き起こすことがあります。
感染症
ウイルス感染が急性膵炎の原因となることがあります。
予防の方法
急性膵炎の予防には、以下の方法が有効です。
飲酒の制限
アルコールの摂取を控えることが重要です。
健康的な食生活
脂肪分の多い食事を控え、バランスの取れた食事を心がけます。
定期的な健康診断
胆石や脂質異常症の早期発見と治療が重要です。
適切な薬剤の使用
医師の指示に従い、薬剤を適切に使用します。
感染症の予防
手洗いや予防接種などで感染症を予防します。
急性膵炎は適切な治療と予防により、症状の改善が期待できる疾患です。専門家の助けを借りながら、長期的な視点で治療に取り組むことが重要です。
参考文献