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歯周病とレントゲンの関係について

 更新日:2023/03/27

こんにちは。日本歯周病学会専門医の中西伸介です。
今やレントゲンは医療業界において、病状を把握する上で最も必要な検査項目の一つです。詳しく調べたい対象物に放射線をあて、色の濃淡で対象の構造物の様子、病変の有無などを調べることがきます。
基本的にレントゲンは歯や骨などの硬組織を調べるときに使われ、歯肉や粘膜などの軟組織をはっきりと見ることはできません。

 1.レントゲンでわかること

 

画像からわかること

歯石(大きいもの)
・歯槽骨の吸収状態(溶けている程度)
・大きな虫歯
・被せ物の状態(不適合・隙間からの虫歯)
・歯根の先端の炎症(病態が進行した場合)
・歯槽骨内の病変の有無と大きさ(嚢胞・腫瘍・その他骨に影響を及ぼす病変)
・歯根の長さ(個人差あり 治療の予後に影響)
・歯及び歯根の破折(亀裂の場合は不明なことも)
・顎関節の骨の異常
 

画像ではわからないこと

・歯肉の状態(色や形態)・病変の有無
・粘膜の状態(色や形態)・病変の有無
・舌の状態(色や形態)・病変の有無
・唾液腺など軟組織の状態・病変
※原因が硬組織の場合(唾石など)は写ってくることがあります
・歯の着色の状態
・金属部分の直下の小さな虫歯(金属と虫歯の像が重なり判別できないことがある)
・小さな虫歯(初期虫歯などは判別不能)
・歯の神経の生死
 

 2.レントゲンの種類

2−1デンタルレントゲン

 
1〜2歯程度の歯の状態を調べるのに適している小さなレントゲンのことをデンタルレントゲン写真と呼びます。撮影範囲がかなり小さいため、当然被曝量もかなり少なくすみます。長所は焦点も絞ってあるので画像が細部まで見られることです。例えば、視診だけでは発見しにくい、歯と歯の間の虫歯、被せ物の不適合状態、そこから2次的に発生した虫歯、歯冠・歯根の破折、歯石の付着状態、歯槽骨の吸収(溶けている)程度、根の炎症などを見るのに適しています。また歯周病に関して言えば、治療前と治療後に比較すると、治療によって歯石が除去できているか、骨の密度が上がっているか、骨が再生しているかを判断するのに非常に有用です。
欠点は範囲が狭く、歯槽骨において、全体像を把握できないので、フィルム外にどれだけ大きな病変が存在していても、自覚症状がなければ知ることができない場合があるという点です。そして歯周病治療においては骨の密度や骨の再生など細部を知りたいので歯がほぼ揃っている方の場合10〜14枚撮影します。この撮影方法を10枚法、14枚法と呼びますが歯周病治療の評価に非常に重要となってきます。撮影時間はかかってしまいますが特に歯周病専門医では撮影するケースが多いです。
また撮影用のフィルムが小さいため、撮影用のインジケーター(フィルムを固定する器具)にセットし、インジケータごと口の中に入れ、噛んだ状態で撮影を行います。そのため特に奥歯を撮影するときは嘔吐反射の強い方は不向きとなることがあります。また顎関節症などで大きく口が開けられない方や、噛んでくださいなどの指示に従えない方(乳幼児の方や、場合により認知症の方)なども撮影が困難になります。

2−2 パノラマレントゲン

 
数歯の歯及び周囲組織の状態を見るのに適したデンタルレントゲンに対して、顎全体を撮影できるパノラマレントゲン写真というものがあります。これは顔の周囲を装置が1周し、1回の撮影で広範囲を確認することができます。範囲は左右の顎関節、上顎洞の一部、歯牙全体、上下顎骨など口腔全体に及びます。1度で済むため負担が少なく、大まかな病態を把握したり、異常な像を発見するのに役立ちます。例えば歯周病による骨吸収が局所的に起きているのか、全体に及んでいるのか、歯槽骨内に手術を必要とする病変は存在していないか、大きな虫歯や根の先端の炎症はないかなどです。初診時に撮影し、患者様の主訴と照らし合わせ、原因を突き止め、それ以外に口の中にトラブルがないかを網羅的に調べます。欠点としては広範囲を撮影するため、デンタルに比べると画像の精度が若干下がり、歯と歯の間など画像の重なりが多くなり小さい虫歯などが見つけにくくなります。しかし、先に述べたようにパッと見て全体像が把握できるメリットは大きく、広範囲に及んでいる歯周病の方は治療前、治療後の歯周病の治癒経過、程度が簡単に比較できます。また年単位で比較するのも容易なので、メインテナンスに入ってからも数年に一度撮影し経過を追って変化がないか調べていくことができます。
そういった意味でも、変化があった時にすぐに対応できるので、記録を残しておくということはとても重要です。
またいつでもなんでも相談できるかかりつけ医を見つけておくということはとても大事です。
先ほどデンタルでは口の中にフィルムを入れて撮影するとお話しましたが、このパノラマレントゲン写真はその必要はありません。位置を決定するために固定は必要ですが、患者様のストレスは少ないと思いますので著しい嘔吐反射の方や、開口障害がある方でも撮影は可能です。頭部が固定できる方であれば装置の高さは自由に変えられるので車椅子の方でも、乗ったままで撮影は可能です。
 
以上、一般的に使用頻度の高いレントゲン撮影についてお話しさせていただきました。それぞれに長所があり、どちらがいいというのではなく使い分けることによってより有益な情報を画像から読み取ることができます。
次に使用頻度は前述の2つほど高くはありませんが、さらに精密な診断を得るために重要な装置をご紹介いたします。

2−3 歯科用CT

医科では割と一般的に使用されている装置なのでCTという言葉は比較的耳にすることも多いと思いますが、通常のレントゲンとの一番の違いは画像を平面で見るか立体(3D)で見るかの違いです。今まで述べた、デンタルレントゲンパノラマレントゲンは組織や病気のある場所を平面でみます。よく考えてみると、人の体も、病変も立体ですよね、しかし画像で見ると平面になってしまう。平面画像で言うところの病変の上下左右の大きさはなんとなくわかるけれど、奥行きのことは全く情報を得ることができません。これを奥行きまで見ることができるのがCTです。病変の大きさを立体的に把握するのはもちろん、人の頭部は小さい中にも組織の中に非常に重要な血管や神経がたくさん通っています。病気がその神経や血管の方に及んでしまうとさらに重篤な症状を引き起こすこともあります。そして治療に際しても、重要な組織と病変がどのくらい距離があるかを知ることで、治療の予後の判定(成功率)や、治療のリスクを減らすことができるのです。
CT検査は全ての患者さんに行うわけではありませんが、精密な診断という意味では非常に有用です。
通常のレントゲン検査に比べると若干被曝量は上がりますが、歯科用CTの場合特徴としては医科のものより対象物が小さいため画像も細かい断面に設定することができ小さな病変でも見逃しません。また口腔領域では上顎と下顎は別の組織と捉えられており、上顎は上顎、もしくは上顎洞、下顎は下顎と撮影範囲を設定することができ、限定することで被曝量を大幅に減らすことができるというメリットがあります。歯科領域全般において撮影することが多いのは、骨の中の病変が疑われた時(嚢胞や腫瘍)治療しても治癒しにくい歯周病や、根の炎症、上顎洞炎、インプラント治療前の評価(神経までの距離等)を評価したい時などです。
 

 3.まとめ

 
レントゲン撮影は、病変の発見のために行うと一般的に認知されていると思います。もちろん初診時の病変発見に非常に有用な診断方法の1つですが、それだけではなく、治療の評価や長期的な変化(異常がないことの確認)を行う上でも大切な評価方法といえると思います。
歯周病に関して言えば、歯周ポケット計測など、レントゲン以外にも歯周病の進行程度を細かく調べる検査方法はありますが、歯周病は歯肉の内部で起きている炎症であり、さらに言えば硬組織の代表である骨に異常が見られる病気です。それらを目で見て確認できるという視覚的に確認しやすい検査です。その検査を適切なタイミングで選択して行うということは非常に重要です。
またいかによくある質問をご紹介します。
 

 レントゲンQ&A

Q1.被曝量が心配です。頻繁にレントゲンを撮影しても大丈夫ですか?

A.
人は宇宙線や建材や地殻、体内から放射線を浴びています。通常に生活しているだけでも1年間で1.0-2.4mSv(地域により)の放射線を自然界から浴びていると言われていますが、医療用の被曝量を比べてみるとデンタル 0.01mSv/回 パントモ 0.03mSv/回 歯科用CT 0.1mSv/回となり、一番被曝量の多い歯科用CTを1年間に10回撮影したとしても1年間の自然界から受ける被曝量より少ないことがわかります。ちなみにニューヨークまで飛行機で往復したとして受ける放射線は0.11-0.16mSvだそうです。このことを踏まえて考えると歯科のレントゲンの被曝量がほとんど無視できるぐらい少ない量であることがお分かり頂けると思います。医科で行う胸部レントゲンは0.06-0.15mSv/回といわれています。さらに、近年ではレントゲンもデジタル化しており、少ない被曝量で細部まで詳細に撮影することができます。
 

Q2.妊娠中にレントゲンは撮影できませんか?

A.
妊娠中は、お腹の赤ちゃんのことを第一優先に考えたいのは当然だと思います。歯科医師も妊娠中にわざわざ必要のないレントゲンを撮ることはしません(メインテナンスなど)、しかし治療上撮る必要がある場面もあると思います。被曝量で考えるとQ1でもお答えしたように自然界から受ける放射線はどう避けても年間 1.0-2.4mSvであり、デンタル1回照射で受ける被曝量は0.01mSvですから100回デンタル撮影してやっと年間に受ける自然界からの被曝量と同じになります。さらに妊娠の有無にかかわらず防護服を着用し首から下を保護します。そしてデンタルは対象物に対して非常に近い位置から照射し、狭い範囲に照射します。そのためお腹に届く線量はほとんどないと言ってもいいでしょう。ですから例えば妊娠に気づかず歯医者さんでレントゲンを撮ってしまったとしても必要以上に心配する必要はないでしょう。
ただし、いくら安全と言っても原則として妊婦さんや赤ちゃんに負担を避けるためむやみに撮影は行いません。妊娠初期はなるべくレントゲン撮影を避け、安定期に入ってから行うこともあります。

この記事の監修歯科医師