更年期障害におすすめな漢方とは?更年期障害の症状や気血水についても合わせて解説!
年齢を重ねて、更年期障害に悩む方も多いのではないでしょうか。
または、「これは更年期障害?」と判別がつかずに悩む方や、「漢方を試したいけれど合っているものが分からない」という方もおられると思います。
本記事では更年期障害と漢方について、以下の点を中心にご紹介します。
・更年期障害で現れる症状
・漢方の考え「気血水」とは
・更年期障害におすすめの漢方薬
更年期障害と漢方について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
佐藤 綾華(医師)
目次 -INDEX-
更年期障害とは?
更年期障害は、男女ともに40歳を過ぎた頃から現れる、様々な体調の不調や情緒不安定などの症状群を指します。
この症状は、性ホルモンの分泌量の変化が主な原因とされています。
女性の場合、閉経期前後の約10年間(45〜55歳頃)で卵巣ホルモンのエストロゲンの分泌が急激に減少し、この変化がさまざまな症状を引き起こします。
しかし、更年期の症状はエストロゲンの減少だけでなく、心理的な要因や生活環境なども影響しており、症状の出方には個人差があります。
主な症状としては、のぼせや顔の火照り、動悸、異常な発汗、頭痛やめまい、生理不順などの身体的症状や、興奮、イライラ、不安感、うつ、不眠などの精神的症状が挙げられます。
一方、男性の場合は、30歳以降からテストステロンの分泌が徐々に減少し始め、40歳代後半に症状が現れることがあります。
しかし、ホルモンの分泌量の変化が緩やかであるため、老化の一部として認識され、症状に気付かないことが多いようです。
男性は機能不全(ED)も症状として現れることがあります。
更年期障害の症状は、ホルモンのバランスの乱れやそれに伴う自律神経の乱れが主な原因とされています。
適切な治療や生活習慣の見直しにより、症状の緩和が期待されます。
更年期障害の症状
更年期は、男女ともに40歳を過ぎた頃から特有の体調の不調や情緒不安定などの症状が現れる時期を指します。以下でその症状について詳しく解説します。
体の症状
更年期における身体的な症状は多岐にわたります。
主な症状として、
・のぼせや顔の火照り
・突然脈が速くなる、心臓がドキドキする
・動悸や息切れ
・異常な発汗
・血圧が上下する
・耳鳴り
・頭痛やめまい
・手足の冷え
・肩こり、腰痛、疲労感
・生理不順
・機能不全(ED)
などが挙げられます。
また、閉経後には、膀胱炎や尿失禁、腰や膝の関節痛、目やのどの粘膜の異常などの症状も現れることがあります。
これらの症状は、ホルモンのバランスの乱れや、それに伴う自律神経の乱れによって引き起こされると考えられています。
心理面の症状
更年期には、身体的な症状だけでなく、精神的な症状も現れることが多いようです。
具体的には
・イライラや不安感
・うつ症状(理由もなく落ち込む、やる気がでない等)
・集中できない
・不眠
などが挙げられます。
これらの症状は、ホルモンのバランスの変化や、それに伴う自律神経の乱れ、さらには日常生活のストレスなどが影響して現れることが考えられます。
特に、初期の症状が曖昧であるため、自分の体調の変化に気付かず、ストレスが溜まり精神的症状を悪化させるケースが多いとされています。
更年期の症状についての正しい知識と対処方法を理解しておくことが、心身の健康を保つために重要です。
更年期障害の治療・漢方療法について
更年期障害(更年期症候群)とは、日本の女性が平均して50歳頃に閉経を迎える前後の10年間(45歳から55歳まで)に現れる心身の症状を指します。主な症状としては、顔のほてり、急激な発汗、手足や腰の冷え、疲れやすさ、肩こり、頭痛、不眠、イライラ、憂鬱などが挙げられます。原因としては、卵巣機能の低下による卵巣ホルモンの低下とそれに伴う自律神経の乱れが考えられています。
更年期障害の治療法として、ホルモン補充療法が存在しますが、長期間の使用にはリスクも伴います。そのため、漢方治療が推奨されることがあります。
漢方では、患者の症状や体質を観察し、気、血、水という生体エネルギーのバランスを整えることを目的としています。例えば、更年期障害でよく見られる肩こりや頭痛は、血の滞りによって生じると考えられ、これを改善するための漢方薬が処方されます。
また、不眠や髪の抜ける症状は、血の不足と捉えられ、それを補うための漢方薬が用いられます。
更年期障害は、多くの女性が経験するものですが、その症状や程度は人それぞれ異なります。自分の体質や症状に合わせた治療を選ぶことが大切です。漢方治療は、体全体のバランスを整えるアプローチをとるため、多くの人々に支持されています。
漢方の考え方となる気血水
漢方医学は、古代中国から伝わる伝統的な医学であり、体の中のエネルギーやバランスを重視する考え方が特徴です。その中心的な概念である「気血水」について以下で解説していきます。
気血水とは
「気血水」は、漢方医学において「身体を巡る三大要素」として捉えられています。
「気血水」は、人の体内でのエネルギーの流れや機能、そして体のバランスを保つための基盤となるものです。
健康な状態は、「気血水」三つの要素がうまく体内を巡ることで成り立ち、どれかが乱れると体調不良や病気を引き起こすと考えられています。
気
「気」とは、生命活動を支えるエネルギーや活力のことを指し、自律神経と関わる要素です。
体内を流れる気の流れがスムーズであれば、体は活発に動き、生命活動が正常に行われます。
しかし、「気」が不足したり流れが滞ったりすると、様々な症状が現れることがあります。
漢方において、「気」が不足している状態を「気虚(ききょ)」、気の巡りが滞った状態を「気滞(きたい)」と分類します。それによって現れる症状は、以下のとおりです。
【気虚の主な症状】
疲労感、虚弱体質、息切れ、冷え、胃もたれ、下痢、頻尿、やる気が起こらなくなる、など
【気滞の主な症状】
不安、イライラ、偏頭痛、おなかの張り、生理不順、不眠、うつ、ため息が増えるなど
血
「血」は、身体を流れる赤い液体のことで、全身に栄養を行き渡らせる役割があります。西洋医学で言う「血液」を含む栄養物質を指します。
「血」が不足したり巡りが悪くなったりすると、様々な症状が現れることがあります。
漢方では、血液が不足した状態を「血虚(けっきょ)」、血の巡りが悪く、滞った状態を「瘀血(おけつ)」と分類します。症状は、以下のとおりです。
【血虚(けっきょ)の症状】
めまい、立ちくらみ、動悸、抜け毛、目の疲れやかすみ、肌荒れ、手足のしびれ、涙が出にくくなる、眠りが浅い、肌や爪にツヤがなくなる、など
【瘀血(おけつ)の症状】
慢性的な肩こり、腰痛、頭痛、重い生理痛、手足の冷え、下肢静脈瘤、慢性的な関節痛、不整脈、胸痛、シミやあざが出来やすくなる、肌荒れなど
水
「水」とは、血液以外の体内の水分や液体のこと(体液、リンパ液、涙、尿など)を指し、体の機能や代謝活動をサポートしています。
「水」は、カラダ全体に水分を行き渡らせることで、肌・関節・臓腑などをスムーズに働かせる潤滑油のような働きがあります。また、カラダの中の余分な熱を抑え、汗や尿として排出する働きもあります。
体内で「水」の巡りが悪くなると、代謝が低下し、余分な水分が体内に溜まります。
その結果、むくみ、手足の冷え、倦怠感等の症状が現れるようになります。
漢方において、体に水分が不足した状態を「陰虚(いんきょ)」、水の巡りが滞った状態を「水滞(すいたい)、痰湿(たんしつ)」と分類します。それによって現れる症状は、以下のとおりです。
【陰虚の症状】
顔色が赤い、のぼせ、ほてり、肌や目の乾燥、口の乾き、耳鳴り、便秘など
【水滞(痰湿)の症状】
吹き出物、肥満、めまい、吐き気、身体がだるい、むくみ、下痢をしやすい、お腹がちゃぽちゃぽする、水のような鼻水が出る、など
更年期障害におすすめな漢方薬
更年期症状が強く、日常生活に影響を及ぼす場合、更年期障害として治療が必要となります。エストロゲンの分泌が確認されるケースや、ホルモン補充療法が適さない方には、漢方薬が推奨されることが多いようです。更年期障害におすすめの漢方薬を、症状別に紹介します。
疲れやすくイライラしやすい方
疲れやすく、イライラしやすい方におすすめの漢方薬は「加味逍遙散(かみしょうようさん)」です。
加味逍遙散は、中国の宋代に出版された漢方処方箋集「和剤局方」に由来するもので、婦人科三大漢方の1つとされています。
逍遙という言葉は「いったりきたりする、ぶらつく」という意味があり、不安や不眠、上半身の灼熱感、怒りっぽさなどの神経症状を指しています。
特に、疲れやすく、イライラや不安を感じる方に広く用いられます。
加味逍遙散には、柴胡、芍薬、当帰、茯苓、蒼朮、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷などの生薬が含まれています。これらの成分が組み合わさることで、肩のこりやめまい、頭痛、のぼせ、発汗、イライラ、不安などの多様な心身の不調を和らげる働きが期待できます。
特に、体質が虚弱な女性や、精神的な不安を感じる方、月経不順や更年期障害を抱える方におすすめです。
ただし加味逍遙散には副作用の可能性もあるため、偽アルドステロン症やミオパチー、肝機能障害などの症状が現れた場合は服用を中止し、医師に相談することが必要です。
また、妊婦の方は牡丹皮の成分が含まれているため、使用前に医師との相談が推奨されます。
顔や手足にほてりがあり汗ばむ方
顔や手足にほてりがあり汗ばむ方へおすすめの漢方薬は、「温清飲(うんせいいん)」です。
温清飲とは、更年期障害に伴う手足のほてりや汗ばみ、のぼせなどの症状におすすめの漢方薬です。体内の熱を冷まし、湿を取り除く働きがあります。
特に、体が熱く感じる、汗をかきやすい、のぼせやすいといった症状に対しておすすめです。
温清飲には、知母、黄柏、茯苓、当帰、桂皮、甘草などの生薬が含まれています。これらの成分が組み合わさることで、体内の熱を冷やし、湿を取り除きます。
また、血行を良くする働きもあり、体の冷えや熱をバランスよく調整できます。
ただし温清飲を服用する際には、他の薬との併用や、アルコールとの相互作用に注意が必要です。
また、妊婦や授乳中の方は、使用前に医師との相談をおすすめします。
貧血で疲れやすい不眠症の方
貧血で疲れやすい不眠症の方におすすめの漢方薬は、「加味帰脾湯(かみきひとう)」です。
加味帰脾湯とは、産婦人科領域での精神症状の治療において、使用される漢方薬です。
体質が虚弱で顔色が悪く、貧血気味で精神不安や心悸亢進、不眠などの精神神経症状、微熱、下血、吐血、鼻出血、寝汗、全身の倦怠感、食欲不振などの症状を伴う場合に用いられます。さらに、軽度のうつ病や耳鳴り、めまいに対しても用いられます。
産後の精神症状に対しても、「加味帰脾湯」はおすすめです。
産後は、女性ホルモンの急激な変動や育児のストレス、母乳のトラブルなどにより、抑うつ、イライラ、不安感、不眠、食欲不振などの精神的な症状が現れやすくなります。
これらの症状に対して、加味帰脾湯を使用すると、症状の緩和が期待できます。
冷え性や生理不順の方
更年期には、体の冷えや生理不順といった症状が現れることがあります。これらの症状は、女性ホルモンの変動や自律神経の乱れによって引き起こされます。
特に、冷え性は血行不良や筋肉の緊張、ストレスなどが原因となり、手足の冷えや全身の冷えを感じることがあります。
生理不順は、月経周期の乱れや月経量の変動、月経痛などの症状が現れます。
冷え性や生理不順の方におすすめの漢方薬は、以下の通りです。
当帰四逆加生姜黄連湯(とうきしぎゃくしょうきょうおうれんとう):
冷え性や生理痛、生理不順の方におすすめです。血行を良くし、筋肉の緊張を和らげる働きがあります。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):
あまり体力がなく、身体の冷えや疲れを感じやすい方におすすめです。貧血、頭痛、腰痛、肩こり、むくみ、耳鳴りの他、月経異常にも役立ちます。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):
冷え性や頭痛、めまいなどの症状におすすめです。体のバランスを整える働きがあります。
五積散(ごしゃくさん):
あまり体力のない方や、病気をしやすいタイプの方におすすめです。腰痛の他、頭痛、胃の不調、関節痛などにも役立ちます。
温経湯(うんけいとう):
日頃から冷え性で手足にほてりを感じる方、口が乾きやすい体質の方におすすめです。不眠や頭痛などの他、月経異常にも役立ちます。
月経前症候群(PMS)にお悩みの方
月経前症候群(PMS)とは、月経の約1週間前から始まり、月経開始とともに症状が軽減するものを指します。
PMSの症状には、乳房の張りや痛み、頭痛、イライラ、抑うつ感、食欲不振などがあります。これらの症状は、女性ホルモンの変動やストレス、生活習慣の乱れなどが影響していると考えられます。
月経前症候群(PMS)にお悩みの方には、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」や「桂枝茯苓丸」が、症状の緩和におすすめです。
加味逍遥散:
イライラや抑うつ感、頭痛などの症状を和らげる働きがあり、体のバランスを整えます。
桂枝茯苓丸:
加味逍遥散と同様に、体のバランスを整える働きがあり、PMSの症状を緩和させます。
月経前症候群(PMS)のほか、月経前不快気分障害(PMDD)に関しても、「加味帰脾湯」の使用が検討されることがあります。
PMSは、排卵から月経までの期間に、下腹部痛、頭痛、乳房痛などの身体的症状や、抑うつ、イライラなどの精神的症状が現れるものを指しますが、特に精神的な症状が強い場合はPMDDと呼ばれます。
PMDDの症状に対して、「加味逍遥散」や「抑肝散(よくかんさん)」が使用されることがありますが、服用しても変化が不十分な場合や特定の症状が強く出る場合には、「加味帰脾湯」が選択されることもあります。
以上、更年期障害におすすめの漢方薬についての情報でした。
医師や薬剤師と相談しながら、ご自身の症状や体質に合った漢方を選びましょう。
漢方薬を服用するときの注意点
漢方薬の服用には注意も必要です。特に、複数の漢方薬を同時に服用する場合や副作用については、十分な知識と理解が必要です。以下では、これらのポイントに焦点を当て、詳しく解説します。
2種類以上の漢方薬を服用しないようにする
漢方薬はそれぞれ特定の成分があり、複数の漢方薬を同時に服用すると、成分のバランスが乱れる可能性があります。
例えば、甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、大黄(ダイオウ)などが含まれている漢方薬を一緒に飲むと、同じ生薬成分が重なることにより作用が強く出て、不快な症状が出る場合があります。
また、相反する機能を持つ漢方薬を併用すると、効果が打ち消される可能性もあります。
したがって、複数の漢方薬を服用する前には、必ず医師や薬剤師に相談することが重要です。
医師より処方を受けている場合は、医師・薬剤師の考慮の上処方されているため、2種類以上飲んでも大丈夫でしょう。
副作用が出る場合がある
漢方薬は自然由来の成分で作られているため、副作用は少ないとされています。しかし、それでも副作用が無い訳ではありません。特に、妊娠中や授乳中の場合、漢方薬の成分が母乳に移行する可能性があり、乳児に影響を与えることがあります。
また、漢方薬には食前や食間に服用するものが多く、食後に服用すると効果が変わる場合もあります。
副作用や服用方法については、医師や薬剤師に詳しく尋ねてみましょう。
ほかにも、漢方薬を服用する際に何か疑問や不明点があれば、自己判断せず、医師や薬剤師に相談してください。
まとめ
ここまで更年期障害と漢方についてお伝えしてきました。
更年期障害と漢方の要点をまとめると以下の通りです。
・更年期障害で現れる主な症状としては、のぼせや顔の火照り、動悸、異常な発汗、頭痛やめまい、生理不順などの身体的症状や、興奮、イライラ、不安感、うつ、不眠などの精神的症状が挙げられる
・漢方の考え「気血水」とは、漢方医学において「身体を巡る三大要素」
・更年期障害におすすめの漢方薬は医師に相談の上、症状に合わせて飲むことが大事
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献