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~実録・闘病体験~ 「常にトイレの場所を確認」生活丸ごと潰瘍性大腸炎に奪われていた

 更新日:2023/03/27
~実録・闘病体験~ 「常にトイレの場所を確認」生活丸ごと潰瘍性大腸炎に奪われていた

頻回なお手洗いをはじめ、下痢や血便といった症状が現れる「潰瘍性大腸炎」という指定難病をご存知でしょうか。はたして、日常生活にも影響が出るこの病気と、どのように向き合えばいいのか。今回は、1998年に潰瘍性大腸炎を発症して、現在は漢方薬だけで日常生活を送るまでになったちこさん(仮称)に、どのような治療を受け、現在はどこまで回復しているのか、話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。

ちこさん

体験者プロフィール
ちこさん(仮称)

プロフィールをもっと見る

神奈川県在住、1973年生まれ。夫、子ども2人との4人暮らし。診断時の職業は、フリーのイラストレーター。1998年に潰瘍性大腸炎を発症。同時にアトピー性皮膚炎、偏頭痛、喘息を発症して初入院。プレドニゾロン内服、ステロイドパルス療法、大腸の良性ポリープ切除2回など計6回の入院を経て、ステロイド薬なしで過ごせるようになる。現在は漢方薬のみ服用。今は家事と子育ての合間、趣味のマンガを描くことに励んでいる。

村上 友太

記事監修医師
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

最初は突然の下痢と血便

最初は突然の下痢と血便

編集部編集部

最初に気づいた症状や病気が判明した経緯について教えてください。

ちこさんちこさん

最初の異変は、突然の「下痢」と「血便」でした。不安で病院を受診したところ、大腸炎との診断でした。その後、一度は快方に向かいました。しかし、それから5年後、下血だけではなく、ひどい倦怠感と頭痛、発熱といった症状が出たので再度受診した結果、潰瘍性大腸炎の診断がつきました。この頃は、喘息と全身のアトピー性皮膚炎も発症していたため、かなり身体の状態が悪かった時期です。

編集部編集部

どのような検査を受けましたか?

ちこさんちこさん

20年以上前のことで記憶が定かではありませんが、胃カメラや大腸内視鏡検査、大腸バリウム検査、血液検査、触診などの検査だったかと思います。

編集部編集部

病気が判明したとき、どのような心境でしたか?

ちこさんちこさん

医師から「特定疾患の難病で、一生治りません」と説明を受けましたが、落ち込むよりも病名がついてホッとした気持ちが勝りました。また、発熱と下血で仕事を休みがちでしたが、「先生は難病と言うけれど、私は治るから大丈夫」という想いが心のどこかにありました。しかし、なかなか症状が治らず、日が経つにつれ難病の怖さを実感しました。診断がついて1~2年ほど経った頃が、一番精神的に辛かった時期ですね。

編集部編集部

食事については、どのような説明がありましたか?

ちこさんちこさん

最初は、絶食をする必要があると説明を受けました。体調の回復具合をみながら、「流動食、低残渣食(ていざんさしょく)、普通食」の順に徐々に食事を戻すとのことでした。

編集部編集部

薬の飲み方についても、注意点があったそうですね。

ちこさんちこさん

はい。ステロイド薬の「プレドニゾロン」を服用する際は、徐々に減量して最終的にはゼロにするため、途中で勝手に薬の量を増減しないよう、厳重な注意がありました。また、今年から飲み始めた漢方薬についても同様で、症状が改善されたとしても勝手に増減せず、服用を続けることになっています。

編集部編集部

今までに受けた治療について教えてください。

ちこさんちこさん

1998年に潰瘍性大腸炎を発症して、ステロイド薬の内服を開始しました。1999年にステロイドパルス療法を受け、2002年と2005年には入院してプレドニゾロンの内服をしました。2009年と2013年に大腸の良性ポリープ切除手術を受け、2012年の5回目の入院後、ようやくプレドニゾロンなしで過ごせるようになりました。その後、2019年に全ての薬の服用をやめて経過観察しましたが、2021年からは漢方薬のみ服用しています。

何度も便意に襲われて生活が蝕まれる

何度も便意に襲われて生活が蝕まれる

編集部編集部

発症後の生活には、どのような変化がありましたか?

ちこさんちこさん

とにかくトイレの回数が増えて、1日に何度も行ったり、夜中もトイレで起きたりしてしまうため、生活を丸ごと潰瘍性大腸炎に持っていかれました。外出時は、常にトイレの場所の確認が必要で、トイレがない場所には怖くて行けなくなりました。また、発熱時は、きつくて行動ができませんでした。

編集部編集部

お仕事にも大きな影響ありますよね?

ちこさんちこさん

はい。当時、イラストの仕事と並行して、アルバイトもしていたのですが、仕事中にトイレの回数が増えました。そのため、大切な説明を受けている時や電話応対時など、急に仕事を中断せざるを得ない場面が多々ありました。また、仕事仲間と昼食に行く際にも、会計時に自分だけトイレに籠もってしまい、仲間が午後の仕事に取りかかった頃に1人遅れて仕事に戻ることも肩身狭く感じました。さらに、通勤途中でもトイレが近くなって途中下車することもあったので、電車移動は大変な負担でした。

編集部編集部

ダブルワークをしていたのですね。

ちこさんちこさん

そうです。イラストの仕事は自宅でもできたので、しばらくは細々と続けることができました。しかし、子どもが生まれてからは体力的に余裕がなくなり、仕事をすべて辞めました。その後、子育てに専念してからは徐々に心身とも落ち着いていきました。

編集部編集部

治療中の心の支えとなったものは何でしたか?

ちこさんちこさん

家族や友人、それからSNSでつながった同病の人たちですね。特に夫には感謝しています。私の病気のことに関して、感情を表に出すことはほとんどなく、具合が悪くなって入院しても、その度に淡々と受け止めてくれました。それが大きな安心感につながりました。けっして周りの人の支えなしでは、ここまでこられなかったと思います。1人きりではここまでこられなかったと思います。

編集部編集部

SNS上のつながりも大きな存在だったのですね。

ちこさんちこさん

はい。同じ病気で悩んでいる人がSNSで発信されていて、それに気づいた時には病気の孤独感から抜け出せました。SNSも使い方次第では、こうした良いつながりを持てるようになる。いい時代ですね。

編集部編集部

もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?

ちこさんちこさん

結婚して子どもも授かったし、趣味の登山もまたできるし、今は楽しくマンガを描いたり、子育てと自分育てをしたりできるから、未来の心配は不要。だから今、この瞬間に集中して、「焦らず、悲観せず、笑顔を忘れずに」と伝えたいですね。

「難病」に囚われず、「希望」をもってほしい

「難病」に囚われず、「希望」をもってほしい

編集部編集部

現在の体調や日常生活はどうですか?

ちこさんちこさん

現在は、1日に1~2回の普通便で収まっています。下痢もしますが、すぐ落ち着きます。日々の食事やお弁当作り、買い物、洗濯などの家事全般はこなせる程度に回復しています。また、休日にはトイレのない公園や海へ子どもと一緒に出かけて、体調が悪かった時にできなかったことを日々楽しんでいます。

編集部編集部

仕事についてはいかがでしょうか?

ちこさんちこさん

家事の合間にマンガを描いています。集中して描き終えた後の達成感はヤミツキになりますね。マンガはブログとInstagramに載せており、「潰瘍性大腸炎 ちこ」で検索すると出てきます。少しでもみなさんの心が晴れる時間となればと思い発信しています。

編集部編集部

潰瘍性大腸炎を知らない人たちへ、一言お願いします。

ちこさんちこさん

潰瘍性大腸炎の罹患者と健康な人は、見た目では区別がつきません。症状が酷くなってステロイド治療をすると、副作用でふっくらとした体型や顔になり、むしろ健康そうにみえることもあります。また、突然激しい便意に襲われるため、オムツなどで対策する人も多いと思います。こうした病気で、一刻も早くお手洗いが必要な人が世の中にいることは、この機会に知っておいてほしいです。

編集部編集部

医療関係者に望むこと、伝えたいことはありますか?

ちこさんちこさん

大変お世話になり、心より感謝をお伝えしたいです。ありがとうございます。医学について全く無知ですが、西洋医学と東洋医学の垣根がもっと低くなってほしいと感じました。患者側が漢方治療を望む場合、安心して主治医に相談しやすい空気になってほしいなと願います。

編集部編集部

最後に、メッセージをお願いします。

ちこさんちこさん

この記事の読者のなかには、今現在もご自身や家族など大切な人が潰瘍性大腸炎で苦しんでいる人もいらっしゃるでしょう。「難病」という2文字にとらわれず、これからまだまだ続く人生は「希望」を持ってください。助けが必要な時は周囲にSOSを出す勇気を持ってほしいですし、辛い時は薬だけでなく自然治癒力も信じて、焦らずに過ごしてください。

編集部まとめ

潰瘍性大腸炎という難病について、ご自身の経験をマンガで表現しているちこさんに話を伺いました。「お手洗いが大きな問題であるとともに、薬を色々と使って治療することで、健康なままでは気づきにくい大切なことに早くから気づくことができる」という点を教わりました。また、「SNS上のつながりに助けられ、逆に今はSNSで経験を発信して他人を助ける」という点にも、患者同士の助け合いの形を垣間見ることができました。

この記事の監修医師