被ばく量は従来CTに比べ半分程度 「マルチスライスCT」
さまざまな病気の早期発見に役立つCT検査。検査の重要性は知りつつも被ばくを心配している人もいるでしょう。その被ばく量を半分程度に抑えられるのが、CTの新技術である「マルチスライスCT」です。どのような技術なのか、どうして被ばく量が減るのかなどを、日本医学放射線学会認定専門医の伊藤省吾先生に聞きました。
監修医師:
伊藤 省吾(医療法人社団・伊藤医院 院長)
順天堂大学医学部卒業。1968年から50年以上の歴史をもつ、医療法人社団・伊藤医院の3代目院長を務める。専門分野は内科・放射線科。公益社団法人・日本医学放射線学会診断専門医などの資格をもち、マルチスライスCT検査や認知症スクリーニング検査などの各種検査、筋肉注射による花粉症治療などに通じている。大森医師会所属。
目次 -INDEX-
マルチスライスCTとは
編集部
マルチスライスCTとは何ですか?
伊藤先生
レントゲンや従来のCTでは発見することができなかった、小さな病変を発見できるCTです。CTにはX線を出す「管球」という部分があり、その反対側に「検出器」という部分があります。この検出器がたくさんあるものが、マルチスライスCTです。検出器が4つあれば「4列マルチスライスCT」といいます。従来のCTでは機械の1回転で1断面しか撮影できませんでしたが、4列であれば4断面を同時に撮影できます。
編集部
マルチスライスCTにはどのようなメリットがあるのでしょう?
伊藤先生
従来のCTと比べて、撮影時間が短い、被ばく量が少ない、検査結果がより正確になることが挙げられます。
編集部
「撮影時間」はどのくらい短縮できるのでしょうか?
伊藤先生
従来のCTで2分程度かかっていた範囲を、10秒ほどで撮影できます。10秒だと体感としてはあっという間なので、患者さんから「ちゃんと撮ってくれたんですか?」と疑われてしまうこともありますね。
編集部
「被ばく量」はどのくらい減らせるのですか?
伊藤先生
従来の5~6割ほどに減らせます。マルチスライスCTによってかなり軽減しているため、安心して受けていただけることは確かです。
編集部
「検査結果が正確になる」理由はなぜですか?
伊藤先生
従来のシングルスライスCTでは、息を何度も止めて、複数回撮影する必要がありました。撮影のたびに体が少しずつ動くので、画像がぶれていたのですが、マルチスライスだと、1回息を止めるだけでまとめて撮影でき、複数回の撮影が必要ありません。さらに1回の撮影時間も短いので、呼吸などによる体の動きも最小限になり、画像がぶれにくくなるからです。
スライス数は多いほどいい?
編集部
マルチスライスCTにも列の種類がありますが、この列数(スライス数)は多いほどいいのでしょうか?
伊藤先生
そうとは限りません。たとえば、スライス数を増やすと被ばく量も増えます。たくさん放射線を当てるわけですから、被ばく量は必然的に増えるわけです。
編集部
スライス数が増えて検査時間が短くなっても、被ばく量が減るとは限らないのですね?
伊藤先生
確かに、検査時間が短くなれば被ばく量はその分減ります。しかし、スライス数が増えれば「時間あたりの被ばく量」は増えます。被ばく量は、検査時間やスライス数といった単独の要素で決まるのではなく、複数の要素が絡み合って決まります。医師や放射線技師がこれらの要素をうまく調整することで、被ばく量をより少なくできます。
編集部
画像の鮮明さについては、スライス数が多いほど良いのでしょうか?
伊藤先生
厳密にはスライスの厚み(スライス厚)が関係します。スライス厚が薄いほど細かい撮影をできます。しかし、ノイズが増えてかえって見にくくなることもあります。細かい撮影をできるのはメリットですが、状況に合わせて「適切なスライス厚」を選ぶ必要があります。
編集部
スライス数とスライス厚の調整が必要だと?
伊藤先生
はい。過不足なく、患者さんの体の状態に合わせて調整する必要があります。スライス数は機器ごとに固定されているため、それ以外の部分を、放射線技師や医師の技術によって調整します。
編集部
同じ機器で、医師による検査レベルの差はあるのですか?
伊藤先生
もちろんあります。画像は当然ながら「実物ではない」いわば「虚像」であり、その虚像を「どれだけ実物に近く正確に写せるか」には、技術の差が大きく出ます。
編集部
具体的にはどのような技術ですか?
伊藤先生
「撮る技術」に加えて「見る技術」が必要です。技師さんがいい写真を撮ってくださっても、映っている病変などを見逃しては意味がありませんし、医師が撮影から行う場合も、診断で見落としがあれば、やはり問題です。撮影と診断の両方で、高い技術や豊富な知識・経験が要求されます。
被ばく量
編集部
被ばく量をすくなくするにはどうするのですか?
伊藤先生
患者さんの症状や体格によって、データを得るために必要な放射線量が変わってきます。その見立てを的確に行うには、医師の知識・経験が必要です。できるだけ1回の検査で結果がわかり、トータルでの被ばく量を減らせるよう、あえて1回の線量を増やすこともあります。
編集部
CT以外の検査だと、被ばくはないのでしょうか?
伊藤先生
たとえばMRI検査や超音波検査、内視鏡検査などは被ばくがありません。最初にどの検査を受けるべきか医師でも判断がつかない場合、「被ばくを避けるためにMRIから受ける」などの選択肢もありえます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
伊藤先生
マルチスライスCTの検査は非常に簡単に終わります。そのため「他の検査よりマルチスライスCTを受けたい」という患者さんもいます。しかし、病気によって適した検査は異なるのです。たとえば、発症したばかりの脳梗塞などはMRI、胆のうポリープなどは超音波検査、胃や大腸の検査などは内視鏡検査が適しています。ご自身の症状でどの検査が最適かは、医師に相談すれば正しく説明してくれます。このためCTも含めて特定の検査にこだわるのではなく、まずは医療機関に相談し、ご自身がどの検査を受けるのがベストかを、把握していただけたらと思います。
編集部まとめ
マルチスライスCTは従来のCTと比較して、被ばく量が半分程度になるなど多くのメリットをもちます。しかし、マルチスライスCTも万能な検査ではありません。自身の症状に適した検査が何なのか、正しく把握するためにまずは医療機関に相談するようにしましょう。
医院情報
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アクセス | JR京浜東北線「大森」駅北口 徒歩12分 大森駅山王口バス停より乗車、3つ目の「馬込銀座」バス停下車徒歩2分 |
診療科目 | 内科、放射線科、外科、胃腸科 |