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認知症の症状と対処法|家族が知っておくべきこととは?

 公開日:2024/02/26
認知症の症状と対処法|家族が知っておくべきこととは?

認知症の症状は徐々に現れてきて、少しずつ、しかし確実に悪化していきます。それまでできていたことができなくなったり、ミスが増えたり、常識的には取るはずがない行動を取ってしまったりします。
そんなとき頼りになるのが家族です。家族が認知症患者さんの症状をみつければ、早期に治療に取り組むことができます。そして早期治療によって、認知症の症状を和らげたり病気の進行を遅らせたりできることがわかっています。
認知症を理解することは、家族が適切なサポートを提供するための第一歩です。この記事では、認知症の症状の理解から、症状の対処法、さらには予防方法まで、幅広く説明します。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

認知症の症状の基本的な理解|何が起こっているのか

認知症の症状の基本的な理解|何が起こっているのか

「認知症」って、一体何なのでしょうか? 認知症とは、ざっくり言ってしまうと、人の思考や記憶の能力が低下してしまう状態のことを指します。これが進行すると、日常生活を自分で行うのが難しくなってしまうこともあります。ただ、認知症には色々な種類があって、それぞれが異なる症状を持つと言われています。

認知症の定義と主なタイプ

まず、「認知症」という言葉自体の意味から見ていきましょう。認知症とは、脳の病気やダメージが原因となり、思考力や記憶力が低下する状態のことを指します。また、認知機能の低下や社会生活への支障が6カ月以上継続して改善する見込みがないことによっても定義されます。
認知症にはいくつかの主なタイプがあります。

・アルツハイマー型認知症

これは認知症の中でも特に多く見られるタイプで、初期の段階では特に新しい情報の記憶が難しくなるのが特徴です。アルツハイマー病の患者さんの脳には、アミロイドβやリン酸化タウというタンパク質が溜まっていることから、これが脳細胞を障害していると考えられています。

・レビー小体型認知症

脳にαシヌクレインというタンパク質が溜まって発症するレビー小体病が原因となる認知症です。記憶の問題だけでなく、幻覚を見たり、体の動きが困難になったりするのが特徴です。

・前頭側頭葉変性症(FTD)

脳の前頭葉と側頭葉が萎縮して血流が低下することで発症すると言われています。指定難病に認定されていて、その症状の一つに認知症があります。行動や性格の変化、言葉に関する問題が主な症状です。

・血管性認知症

脳の血管にかかる病気がきっかけとなって発症する認知症です。脳の血管の病気には脳梗塞や脳出血などがあります。脳に栄養や酸素がいかなくなり、脳細胞が死滅して認知症を引き起こします。突然の記憶力の低下や歩行困難などの症状が出ます。

早期発見のために知っておくべき認知症の症状

早期発見のために知っておくべき認知症の症状

認知症は、特に初期の段階だと症状が少しずつ出てくるため、なかなか気づきにくいと言われています。ただし、早く気づいて対処できれば、生活の質を高めたり、症状の進行を遅らせることも可能です。
認知症は完治しない病気であると思っている方も多いでしょう。確かに悪化した認知症を治す方法はないのですが、症状の進行を遅らせたり、若干ではありますが治療やケアによって症状を改善させたりすることも不可能ではありません。
そのため認知症もそのほかの病気と同様に、早くみつけて早く治療に取りかかったほうがよいのです。だからこそ、認知症の初期症状について理解しておくことはとても大切だと言えます。

初期の認知症の症状

初期の認知症患者さんには、記憶に障害が出る、日常生活が困難になる、言語が不自由になる、といった症状がみられます。
記憶障害といっても、知っている人の名前が出てこないといったことや、財布を忘れてしまうといったことは単なる物忘れのことが多く、それは認知症の症状ではありません。認知症による記憶障害は、たった今終えたばかりの作業を覚えていない、といったような、周囲の人が少し驚くレベルのものです。ただの物忘れとは違い、時間が経つと改善されず、繰り返すことで記憶が固定されないのが特徴です。同じ質問を何度も繰り返したり、約束や予定を忘れたりすることもあります。
このような記憶障害は日常生活にも支障を及ぼし始めます。家族が「認知症かもしれない」と気づかないと、言った言わないの喧嘩になってしまうこともあるでしょう。

さらに、これまで当たり前にこなしていた料理や買い物といった日常生活のタスクが難しくなることがあります。例えば買い物に行く場合、着替えて、必要な商品を考えて、財布とエコバッグと自動車の鍵を持って家を出て、車を運転してスーパーマーケットに行って、必要な商品を買い物かごに入れてレジでお金を支払って、車を運転して帰宅する、という段取りが必要ですが、健常者はこれをほぼ無意識に計画できます。しかし認知症を発症すると、これらの計画が立てられなくなるのでミスが多発します。
言葉を見つけるのが難しくなる、会話の途中で何を言おうとしたかを忘れる、同じ言葉を繰り返すなどの症状が出ることもあります。たとえば、お茶を入れるための急須を何と呼ぶのかが思い出せなかったり、話の途中で突然何を話していたのかを忘れてしまうことがあります。

進行する認知症の症状

認知症が進行すると、行動や気分が著しく変化したり、混乱や失認を引き起こしたり、身体的な変化が起きたりします。
行動の著しい変化には、異常行動や徘徊(はいかい)などがあります。気分の著しい変化には、認知症を発症する前はおとなしい性格だったのに、突然怒り出すようになる、といった症状があります。異常に焦ったり、異常に興奮したりといった症状もみられます。反対に、何も感じなくなってしまうこともあり、例えば普段は喜ぶはずの孫の訪問にも反応しない、といった状況が見られることもあります。

健常者であれば混乱するようなシーンではないのに混乱してしまうこともあります。失認とは五感による認識を働かせられない状態のことです。例えば食事のときに、目の前にマヨネーズがあり、それが見えているはずなのに「マヨネーズがない」と言ったりします。これは目がとらえた視覚情報を脳が解釈できないことで起きます。見えていないわけではなく、見えているものが理解できないのです。

身体的変化には、例えば筋肉や関節に異常がないのに服を脱いだり着たりすることができなくなる、といった症状があります。また精神上の不具合と合わせて、外出好きだった人がめっきり外に出なくなる、といった行動に変わることがあります。
以上のような症状が出たら、それが認知症のサインかもしれません。ただ、何かしらの症状が出たからといって必ずしも認知症とは限らないということを覚えておきましょう。症状が出たら、まずは専門の医療機関に相談してみてください。早期発見と適切なケアが、認知症と上手に付き合っていくための鍵となるのです。

認知症の症状を医療機関で診断する方法

認知症の症状を医療機関で診断する方法

「最近物忘れが多くなってきたかも…」そんな風に感じたら、まずは一度医療機関で診てもらうことをおすすめします。認知症かどうかを判断するためには、専門の医師による診断が必要です。
では認知症疑いの人が医療機関にかかったら、具体的にどのように診断が進むのでしょうか。

認知症の診断プロセス

医療機関の医師は、ご家族やご本人から「認知症かもしれない」「認知症の症状に似た症状を起こしている」という訴えを聞いたら、本当に認知症なのかどうか、それとも別の病気がその症状を引き起こしているのかどうか、といったことを確認します。
例えば、アルツハイマー型認知症にも鬱病にも、気持ちの落ち込みや記憶障害がみられます。そのため気持ちの落ち込みや記憶障害だけではどちらの病気を発症しているのかわかりません。しかしアルツハイマー型認知症の患者さんは、記憶障害が起きているのにつじつまを合わせようとする傾向が顕著にみられます。一方で鬱病の患者さんは、医師が記憶について尋ねても「わからない」といったように否定的に答える傾向があります。

認知症患者さんを多く診ている医師はその特徴をよく知っているので、患者さんを詳しく問診することで認知症かどうかの「当たり」をつけます。

認知機能テストとその役割

患者さんを詳細に問診したり家族から話を聞いたりするだけでも、医師はかなり高い確率で認知症かどうかを見極めることができますが、しかし診断を確定させるには客観的な情報(エビデンス)が必要になります。そこで認知症が強く疑われる患者さんには、認知機能テストを受けてもらうことがあります。これは、記憶力や計算能力、言葉の理解力などを試す簡単なテストで、医師が認知症の可能性を判断するための一つの指標となります。

最もよく行われるのは「MMSE(ミニメンタルステート検査)」という認知機能テストです。患者さんに単純な計算をしてもらったり、日付や場所を尋ねたりして認知機能を点数化します。点数が一定水準より低いと認知症の疑いが高いとみなされます。

画像診断の重要性

認知症の疑いが濃厚になると、医師は患者さんに脳の画像検査を受けてもらうはずです。CTやMRIを使って脳の形状をみます。これで脳が萎縮しているかどうかや、脳の血流の状態などを確認するのです。
これらの診断プロセスを経て、医師は認知症かどうか、またその原因は何かを判断します。さらにどのタイプの認知症なのかもこの段階で判明します。診断がつけば、それに基づいた適切なケアや治療を始めることができます。

認知症の症状に対処する|家族ができるサポートとケア

認知症の症状に対処する|家族ができるサポートとケア

認知症の症状には専門の医療機関での治療が必要ですが、家族ができるサポートやケアもとても重要です。認知症と診断された後は、どのように家族がサポートしていけば良いのでしょうか。ここでは日常生活のサポートと医療的な対処のほか、家族自身の心のケアについて解説します。

日常生活でのサポート

家族による日常生活でのサポートでは、できないことだけを支援してあげる、できることはこれまでとおりしてもらう、というスタンスが重要になります。それというのも、認知症の診断が下っても、その人ができることは健常者と同じようにできるからです。できないことだけをそっとサポートしてあげることで、患者さんの自尊心を守ってあげることができます。
日常生活のサポートでもう一つ心がけたいのは、安全な生活環境の提供です。認知症の方は、日常生活での事故やケガのリスクが高くなることがあります。例えば、鍋の火を消し忘れる、道に迷ってしまう、転んでしまうなどです。家具の配置を見直したり、火の元を確認したり、GPSを使った追跡デバイスを利用したりするなど、安全な生活環境を提供しましょう。

また、コミュニケーションの取り方も工夫したいものです。認知症の方は言葉を見つけるのが難しくなることがあります。そんなときは、ゆっくりと話す、繰り返し説明する、身振りや表情を豊かにするなど、コミュニケーションの方法を工夫しましょう。

医療的な対処法と治療

認知症患者さんへの治療では、医療従事者だけでなく家族も加わると効果が高まることがあります。例えば認知症の薬が処方されても、認知症患者さん本人は飲み忘れてしまうかもしれません。その場合、家族がきちんと薬を飲ませてあげることが大切です。
音楽療法やアート療法など、薬を使わない療法もあります。これらは気分を安定させたり、記憶を刺激したりすることがあります。これは非薬物的な治療で、医師にはできず家族だけが可能な治療法と言えるでしょう。

家族自身の心のケア

認知症患者さんをサポートする家族が介護疲れを起こしてしまったら、いわゆる「共倒れ」になってしまいます。そのため認知症患者さんの家族は自分自身を癒すセルフケアを心がけてください。介護サービスを使うことで家族は自由時間を確保でき、遊びに行くことができます。認知症患者さんのサポートでは優しさが最も重要になりますが、自分に余裕が生まれると人に優しくできるようになります。
そしてセルフケアがうまく機能しなかったら、サポートグループやカウンセリングを利用してみてください。日ごろの愚痴やつらいこと、困っていることを吐露するだけでも気持ちが楽になることがあります。認知症の家族を持つ人々と情報交換をしたり、専門家からアドバイスを受けたりすることも有効です。

家族ができるサポートやケアは、認知症の方の生活の質を大きく左右します。どんな小さなサポートも、大切な一歩となります。患者さんと一緒に、認知症と上手に付き合っていく方法を見つけていきましょう。

認知症の症状を予防する|健康的な生活習慣の重要性

認知症の症状を予防する|健康的な生活習慣の重要性

ここまで家族と認知症患者さんとの関わりについて解説してきましたが、この章では認知症を予防する方法を紹介します。
認知症は現在、完全に治療することはできませんが、そのリスクを減らすことは可能です。健康的な生活習慣を身につけることで、認知症の予防につながります。では、具体的に何を意識すれば良いのでしょうか。

食生活に気をつけて認知症予防

アルツハイマー型認知症や血管性認知症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病によって発症リスクが高まることがわかっています。
そして生活習慣病を予防するには、食生活を改善する必要があります。血圧や血糖値、中性脂肪などを上げない食事を心がけましょう。特に、オメガ-3脂肪酸が豊富な青魚や、抗酸化作用のある果物・野菜を積極的に摂ると良いでしょう。

運動で認知症予防

適度な運動も認知症予防に効果的です。特に、有酸素運動は脳の健康に良いとされています。たとえば、ウォーキングや水泳、自転車などを日常に取り入れましょう。運動は心肺機能を高め、脳への血流を改善します。これにより、認知機能の低下を防ぐことが期待できます。

社会的なつながりが認知症予防に

脳を活性化させるには、社会とのつながりをしっかり持っていることも大切です。仕事を引退すると急に人と会わなくなることがありますが、それは社会的なつながりを弱めてしまいます。
近所づきあいや友人との交流、趣味を増やすといったことに取り組むだけで社会とのつながりは強固になっていきます。人と交流することで、脳は新たな情報を処理し、記憶を作り出します。これが脳を活性化させ、認知機能を維持します。また、新しいことを学ぶことも脳の活性化につながります。例えば、楽器の練習や新しい言語の学習など、日々新しいことに挑戦し続けることが大切です。
健康的な生活習慣を身につけることで、認知症の予防につながります。これらの生活習慣は、認知症だけでなく、心疾患や糖尿病などの生活習慣病の予防にも効果的です。なるべく健康的な生活を続けて、認知症と上手に付き合っていきましょう。

まとめ

まとめ

家族が認知症患者さんにしてあげられることはたくさんあります。安全な生活環境の提供やコミュニケーションの工夫、自分自身の心のケアなど、家族ができることは多くあります。
認知症とは、患者さんが一人で戦うものではなく、家族や医療機関、そして社会全体で支え合うものです。認知症と上手に付き合うための知識を身につけ、自分自身や大切な人の生活の質を守っていきましょう。

この記事の監修医師