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物忘れの原因は?症状・対処法・セルフチェック法を紹介

 公開日:2024/02/26
物忘れ 原因

物忘れは歳を重ねるごとに増えていく人が多く、仕方のないことだと割り切っている人は少なくありません。

しかし加齢による物忘れか、疾患による物忘れかを見誤ることは非常に危険です。

見分けるためのコツは物忘れの頻度や、物忘れ以外の症状が出ているかどうかです。

物忘れが症状の1つだった場合、見逃してしまうと症状が重くなり完治が遅くなる可能性があります。

今回は物忘れの原因やセルフチェック法について解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

物忘れの原因

医師 薬剤師 歯科医師 白衣を着た男性
物忘れの原因は大きく分けると加齢・ストレス・脳の疾患の3種類に分類できます。これらが単体で物忘れを引き起こすこともあれば、複合的に関係する場合もあるため注意が必要です。
加齢・ストレスによる物忘れは予防によって対処できますが、脳の疾患が原因の場合は予防ではなく治療が必要です。
急激に物忘れが進行している場合、脳外科・物忘れ外来などで検査を受けましょう。
ここからは原因となる3種類について解説します。

加齢

物忘れの原因である脳細胞の萎縮はさまざまな原因で発生しますが、その内の1つが加齢です。
加齢による物忘れは、以前はすぐに思い出せたことが覚えられなくなりますが、忘れたという自覚があるという特徴があります。
また完全に思い出せないわけではなく、時間をかけたりヒントを出したりしてもらうことで思い出せるという特徴もあります。
加齢による物忘れは生活習慣の改善や、脳へ十分な刺激を与えて進行を緩やかにすることが可能です。
加齢による物忘れは緩やかに進行しますが、急激に物忘れが進行している場合は注意が必要です。
自覚症状がなくても身近な人に指摘された場合、一度専門機関の検査を受けてみましょう。

ストレス

女性の頭 頭皮ケアイメージ
物忘れは心因ストレスが原因で発生することがわかっています。具体的な病名として、解離性障害・うつ病・適応障害などが挙げられます。
心因ストレスが物忘れに繋がるメカニズムは現在も研究が続いていますが、まだ完全に解明されていません。
ストレスによるダメージを回避するため、記憶を思い出せないようにする防衛反応が原因ではないか、という仮説が現在有力視されています。
心因ストレスによる物忘れは、ストレスの原因から距離を置く・ストレスをため込まないようにするなどで改善する可能性があります。
しかし早く完治しようと焦ってしまうと症状が長期にわたる可能性もあるため、焦らず専門機関の治療を受けることが重要です。

脳の疾患

アルツハイマー・脳梗塞・てんかんなど原疾患が脳にある場合、症状として物忘れが発症する可能性があります。
これらの症状は原疾患と呼ばれ、特定し治療を受けることが物忘れの改善に効果的です。
脳に発生した疾患の特定には脳外科・物忘れ外来を受診し、検査を受けることが求められます。
また脳の疾患が原因の場合、物忘れ以外にも性格の変化・頭痛・ふらつきなどが発生し外傷に繋がる危険性があります。
これまで経験したことのない頭痛や、いままで出来たことが突然できなくなるのは非常に危険な兆候です。速やかに専門機関で検査を受けましょう。

物忘れの症状は?

問診票を持つ女性医療従事者 診察する
加齢に伴う物忘れと、疾患が原因による物忘れはいくつか異なる点があります。
これは記憶に関連する機能が衰える加齢と、記憶に関する機能に不備が生じる疾患では、現れる症状が異なるためです。
記憶は以下の3つの工程を経て蓄積されます。

  • 情報を脳内に取り込む
  • 新しい情報をほかの情報と関連付け思い出しやすくする
  • 情報を取り出す

ここからは物忘れの症状について詳しく解説します。

忘れているものはヒントがあると思い出す

物忘れは脳内に該当する情報を忘れているだけで、取り出せなくなったわけではありません。
情報を思い出すために時間が以前より長くかかったり、素早く思い出すためには工夫が必要なのが加齢による物忘れの特徴です。
そのため思い出すヒントとして関連付けを行う・時間をかける・メモを取るなど対策を行う必要があります。
思い出すのに時間がかかるものの、きちんと思い出せる場合は極端に不安に感じる必要はありません。
思い出しやすくする工夫を専門機関や身近な人と考え、ルール作りを行っていきましょう。

何かを忘れたということは覚えている

食事をしたことは覚えているが何を食べたのか忘れてしまっている、というのが物忘れの典型的な例です。
これは何かを食べたのは覚えているが、何を食べたのかは忘れたことを自覚している状態を表しています。
一方認知症の場合、忘れたという自覚症状がありません。そのため食事をしたこと自体を忘れてしまったり、既に服用した医薬品をまた飲んでしまったりする危険性があります。
忘れたことの自覚がある場合は、忘れないようにする工夫を自宅で行いましょう。

場所や時間の見当はすぐつく

もの忘れは記憶障害の1つに数えられ、側頭葉にある海馬の働きが加齢によって弱まることで発生します。
海馬は見当識と呼ばれる、現在の場所・時間を把握する能力にも関係しています。
加齢による脳機能の低下では、この見当識の働きまで極端に低下することは稀です。
そのため物忘れが緩やかに増加しても、場所・時間を忘れていない場合は加齢による物忘れと判断することが可能です。
頻繁に場所・時間がわからなくなる場合、何らかの理由で海馬に異常が発生している可能性があります。一度脳外科・物忘れ外来を受診し、検査を受けましょう。

日常生活に支障がない程度の忘れがある

加齢による物忘れは緩やかに進行していくものの、日常生活に支障の出るまで悪化するケースは稀です。
また忘れ方も一部の記憶が思い出せないだけで、忘れたことは認識しています。
脳の疾患による物忘れは進行が早い・特定の記憶を全て失う・新しいことを一切覚えられない、といった日常生活に支障が出るケースが珍しくありません。
脳外科・物忘れ外来を掲げている医療機関の公式ホームページでは、ご自身の物忘れについて確認するセルフチェックシートを公開していることがあります。
物忘れが進行していないか不安な場合は、一度チェックシートで確認してみましょう。

物忘れの対処法

指さす笑顔の女医
物忘れは主に加齢に伴う老化現象であり、現在のところ完全な予防策は存在していません。そのため重要になってくるのは、物忘れを悪化させない対処法を実践することです。
脳の細胞を活性化させる・ダメージを与えないようにすることが、物忘れの対処法として効果が期待できます。
ここからは物忘れの対処法について解説します。普段の生活に気を配り、物忘れが起きない生活習慣を身に付けましょう。

運動習慣を持つ

公園をランニングする人
定期的に運動を行うことは、2つの面から記憶に良い影響を与えます。1つは主に肝臓から作られるホルモン量の増加、もう1つは海馬の神経細胞の成長です。
主に肝臓から作られるIGF-1は骨・神経・皮膚といったさまざまな人体の成長に関わっており、増加することで記憶力・認知力・意欲増加の効果が期待できます
また近年の研究で、負荷の低い運動は海馬の活動を活性化し、神経細胞の成長を促すことがわかりました。負荷の低い運動とは早歩き程度のウォーキング・サイクリングなどです。
運動習慣を持つことはストレスの発散にも効果があります。日頃から運動を行う習慣をつけることは、物忘れの対処として有効です。

睡眠をとる

睡眠を十分にとることは身体の疲労回復・脳の老廃物除去に効果があります。疲労回復はストレス緩和に効果があり、老廃物除去はアルツハイマー病の予防に重要です。
睡眠はレム睡眠・ノンレム睡眠の2つに分かれています。記憶の整理・定着を行うレム睡眠を十分に取ることが、物忘れ対策では重要です。
レム睡眠・ノンレム睡眠の周期には個人差があり、夜更かしやストレスで簡単に崩れてしまいます。
入浴・食事・日光を浴びるといった行動に気を配り、日頃からリズムを調整することを心がけましょう。

食生活の改善

サラダを持って考える若い女性
脳には大小さまざまな血管が通っています。そのため食生活の乱れ・大量のアルコール摂取・喫煙などは、血管を通じて脳に悪影響を与える危険性があります。
特定の食べ物を摂取しすぎる、逆に極端に制限しすぎる食生活は危険です。特に見落としがちなのは炭水化物を抜く食事法で、必要最低限を下回る摂取量は脳の活動に悪影響を与えます。
アルコールの摂取量が多い場合、脳の萎縮・記憶・学習力の低下を引き起こすことが動物実験などでわかっています。
休肝日を作る・一度に大量のアルコール摂取を控えるなど、普段から節制を心がけましょう。
喫煙は一酸化炭素・活性酸素などが含まれており、インスリンが効きにくくなったり血栓ができやすくなったりするため、脳に疾患が起こる危険性が高まります。

ストレスを溜めない

過度のストレスは記憶力の低下を引き起こす原因です。うつ病・適応障害といった心的ストレスが原因で発症する症状の多くは、記憶力の低下を引き起こします。
ストレスの原因を取り除く・原因から距離を置く・医師から処方された医薬品を服用するといった対処を行い、ストレスを溜め込まないよう心掛けましょう。

物忘れのセルフチェック法

シンプルなメモ帳とペンのイメージ
通常の物忘れであれば、日常生活に支障が出るほど進行することは殆どありません。しかし、できる限り進行を緩やかにするためにも、普段からセルフチェックを行うことが重要です。
セルフチェックを行うことで、脳の疾患による物忘れだった場合もいち早く気づきやすくなります。
ご自身の物忘れが深刻になっていないか、物忘れを起こしたことを忘れていないかを普段から気にしておきましょう。
ここからはセルフチェック法を3つご紹介します。段階を踏んで解説していくため、ご自身に当てはまっていないか確認してみましょう。

約束を忘れてもいつの約束かは覚えている

加齢による物忘れと脳の疾患による物忘れを見分ける方法として、忘れたことを思い出せるかが挙げられます。
加齢による物忘れでは、約束を忘れていても、指摘されれば思い出すことが可能です。
一方認知症・健忘症のような脳の疾患がある場合、指摘をされても思い出せず、相手が嘘を付いていたと感じ怒りを覚えることもあります。
約束を忘れないためには約束の日をメモしておく・メモを見返す習慣を普段から身に着けることなどが有効です。

今日の日付と曜日がわからない

物忘れの場合、日付・曜日・場所を間違えて答える場合があります。これらの情報を整理し回答する脳の機能は見当識にあたります。
この見当識も加齢により衰えやすくなりますが、脳に疾患がない場合、間違えることはあっても指摘されれば思い出すことが可能です。
しかし脳に疾患が発生すると指摘を受けても分からず、不安になり歩き回る徘徊や衝動的な行動が増えることがあります。

同じことを何度もしてしまう

上記でも解説しましたが、物忘れではやったことは思い出せなくても忘れたことを自覚しています。
しかし忘れた自覚がなく何度も同じ行為をしている場合、脳に疾患がある可能性が考えられるため注意が必要です。
例えば置く場所を固定している所持品の場所を思い出せず、その位置を知っている人に何度も場所を確認してしまうケースが一般的です。
認知症の1つである「物取られ妄想」は、探している所持品を見つけられないのは誰かが盗んだからだ、という妄想から攻撃的になる症状を指します。
加齢による物忘れ以外の場合、記憶以外の機能にも悪影響が出る場合があります。何度も同じ行動をしていると気づいた場合、1度物忘れ外来で検査を受けてみましょう。

物忘れは病気の一症状の場合も

タブレットで説明する医師
加齢による物忘れと疾患による物忘れを見分けることは困難です。そのため周囲の人に変化を指摘された場合や、これまでと違った物忘れを自覚したら注意が必要です。
原疾患が存在する物忘れは、多くの場合物忘れ以外の症状が確認されます。
認知症であれば妄想・作り話・性格の変化、うつ病の場合は気分の落ち込み・睡眠障害・食欲不振などです。
物忘れの症状が徐々に深刻になる場合も、原因となる疾患が存在する可能性があります。
気になる症状が出たら放置せず、脳神経外科・精神科・物忘れ外来などで検査を受けましょう。

物忘れをしにくくする工夫も大切

人差し指を立てるポーズをする男性
原疾患がない物忘れを防ぐためには、普段の生活から物忘れを起こさないようにする工夫が必要です。食生活の見直し・十分な睡眠・運動は物忘れ対策に効果が期待されます。
また積極的に外出し、他者とコミュニケーションを取ることも有効な手段です。人と会う用事を作る際は、予定の組み立て・時間管理・身体を動かすことなどが行われるため、自然と物忘れ対策に繋がります。
さらにコミュニケーションを取る手段として趣味に関係するサークルを選べば、複数人と会話をする機会が得られ、より脳に刺激を与えられます。

編集部まとめ

グッドサインのポーズをとる女医
今回は物忘れの原因について解説しました。加齢に伴う物忘れは避けることが難しいですが、ただの物忘れと考えていたら脳の疾患だったというケースが存在します。

疾患のサインを見逃さないためには、ご自身で兆候に気づけるセルフチェックを行ったり、誰かに物忘れを指摘された際に脳外科・物忘れ外来などを受診したりすることが重要です。

また物忘れの予防には、負荷の低い運動・バランスのとれた食事・十分な睡眠が重要です。普段の生活からこれらを心掛けることが求められます。

この記事の監修医師