国内でも、虫歯・歯周病をはじめとする口腔トラブルの「予防」の意識が高まりつつある。しかし、スウェーデンやアメリカといった歯科先進国と比べると、まだまだ遅れをとっているといわざるを得ない。予防治療が“歯の健康によい”ことは何となくわかっていても、虫歯ができたから治療を受ける、というレベルで、予防のために定期的に歯科医院に通っている人はごく少数だと思われる。予防治療にはどんなメリットがあるのか、そして患者はどんな理解、意識を持つべきなのか。「あかまつ歯科クリニック」の赤松先生に話を伺った。
Doctor’s Profile
赤松 佑紀
あかまつ歯科クリニック 院長
朝日大学歯学部卒業後、京都府立医科大学大学院医学研究科統合医科学専攻博士課程を経て、京都府立医科大学大学院医学研究科歯科口腔科学助教、京都府立心身障害者福祉センター附属リハビリテーション病院歯科医長、国賀歯科医院勤務を経て、2014年10月に「あかまつ歯科クリニック」を開院。ヨーロッパ型の診療プロセス“MTM(メディカルトリートメントモデル)”を導入し、予防治療を基礎とした診療に力を入れている。
虫歯・歯周病のリスクを下げる予防治療、良質の治療を可能にするのもまた予防治療
少なくとも、予防治療が「お口の健康によい」ということは、多くの方が知っていることと思います。それでもなぜ、予防治療に取り組めない方がいらっしゃるとお考えですか?
患者さんがご自身のお口の「見えないリスク」をご存じでないからではないか、と考えます。現状のリスクを明らかにしなければ、予防を実現するための方向性を定めることができません。
「見えないリスクを」知るために、先生は診療でどんな検査をされていますか?
初診時には
口腔内写真撮影、デンタルXP全顎撮影、歯周病精密検査を行います。2回目の受診で、
唾液検査により、細菌の種類や数、唾液の質などを調べます。
それでどんなことがわかるのでしょうか?
虫歯リスク診断ソフト『カリオグラム』を活用し、検査結果から食事、細菌、感受性、環境という4つのリスクをグラフ化します。この情報が治療方針の立案、説明に非常に役立っています。歯学的な理解を患者さんと共有し、納得していただいた上で、一人ひとりに合った予防プログラムを組んでいきます。
歯周病のリスクについてはどうでしょうか?
『OHIS(Oral Health Information Suite)』という歯周病リスクの評価システムを導入しています。膨大な疫学データをもとに、世界基準の精度の高い評価が可能です。
現状のリスクを知ったことで、患者さんに変化はありますか?
リスクがビジュアル化され、私や衛生士から説明を受け、お口の現状と目指すべき方向を理解していただいていると思います。とはいえ、すぐに予防プログラムを完璧に実践していけるとは限りません。プログラムが進む中での効果の実感、私たちからの繰り返しの説明も大切になります。
予防には取り組んでいないけれど、虫歯や歯周病にならずにいる、という方も中にはいらっしゃるようです。
確かにいらっしゃいますよ。でも、厳しいようですが、そういった方々の多くは「何となく虫歯・歯周病になっていないだけ」という可能性が高いといえます。
悪くならないから必要ない、というものではないのですね。
リスクを知り、対策を講じて初めて、その方にとってのベストが達成されます。そもそも、ほかの人より虫歯や歯周病になりにくいからいい、という問題ではありませんよね。ご自身のお口の健康をどれだけ長く維持するか、ということに目を向けるべきだと思います。
予防治療に取り組まないことで生じるリスクを教えてください。
虫歯や歯周病が起こりやすくなるということ。これは皆さんご存知かと思います。ただ、それだけではありません。お口の衛生環境がよくない状態で、ある意味“満を持して”起こった虫歯・歯周病は、治すのに時間がかかります。また、より高度な治療が必要になります。
虫歯や歯周病になったときの患者さんの負担が増えるということですね?
そうです。通院回数が増え、1回の治療時間が長くなり、そして自由診療ともなれば費用は高額になります。ただ、保険診療での治療だと、思いのほか安く済んでしまう。このことも、「虫歯になってから治せばいいか」という患者さんの無意識を生んでいると考えられますね。
衛生環境がよくないお口は治療が難しくなるとのことですが、これは虫歯や歯周病以外の治療でも同じことがいえるのでしょうか?
審美歯科も
インプラントも
矯正歯科も、さらには
ホワイトニングも、歯や歯ぐきの状態がよくなければ前処置として虫歯や歯周病の治療が必要です。また、しっかりと前処置をしても、
健康なお口の方と比べると再発やトラブルのリスクは高くなります。良質な予防治療ができていてこそ、良質な治療が可能になるのです。
予防治療と聞くと、歯科医院で受けるPMTCや歯石取りを思い浮かべます。
そうですね。もちろん、当院でも
PMTCや歯石取りを行っています。ただ、これらの処置を
“予防治療”と捉えるのは避けていただきたいと思っています。
それはどうしてでしょうか?
PMTCや歯石取りを受けなくてはならないということは、すでに
予防治療が実践できていないともいえるわけです。もちろん、部分的にプラークや歯石が溜まっていればこれらの処置は必要ですが、その後もこれまで通りに過ごしていては、再びプラーク・歯石が溜まります。これでは悪い状態の維持です。
確かに、歯科医院に通っているだけでは、積極的な予防治療とはいえないような気がします。
歯科医院できれいにしたお口を、セルフケアで維持、さらには向上させなければなりません。そのためには、予防プログラムへの理解によるモチベーションの向上と、歯ブラシだけでなく、デンタルフロス、歯間ブラシ、洗口剤などを活用したセルフケアが欠かせません。
となると、セルフケアの質は非常に重要ですね。
おっしゃる通りです。何しろ、3カ月に一度歯科医院に通ったとして、1年で4回、つまりそれ以外の約360日は、患者さんの手によってお口の健康を支えなければなりません。
定期健診では、セルフケアのアドバイスも受けられますか?
もちろんです。「お口をチェック・きれいにするだけで終わらせてはいけない」というのが当院の定期健診のあり方です。オーラルケア用品の選び方から使い方、食生活などについても、改善のためのポイントをお伝えします。
では、実際にあかまつ歯科クリニックを受診した場合、どのような診療が行われるのでしょうか?
10年後や20年後、さらにその先を見据えてお口の健康をサポートするため、
MTM(メディカルトリートメントモデル)というヨーロッパ型の診療プロセスに沿って進めます。
具体的に、それはどういった流れになりますか?
まず、必要な検査を行います。次に疾患の原因を取り除き、症状を軽減させます。そして治療結果をモニターし、さらに再発予防に必要な処置を講じ続けていく、という流れになります。私の考える予防治療、また良質な歯科治療を実現するためには欠かせないプロセスです。
先生のお話を聞いた後だと、MTMの実践はごく当たり前のことのようにも感じられます。
そうです。当たり前のことではありますが、一つひとつの工程をしっかりと行うと、手間・時間がかかります。また、この工程を踏襲していくことで、予防治療に対する患者さんの理解が深まっていき、より効果的な予防ができるようになります。
本気になって、「生涯28本の健康な歯」の維持を目指す
子どもが受診するときも、唾液検査などは行われますか?
お子さんは成長とともにお口の環境が著しく変化していくため、数年に一度の
定期的な唾液検査をおすすめしています。その上で、予防のためのアドバイスをいたします。大人と同じように、「何となく虫歯がない」状態から、「こういう対策をしているから虫歯がない」という状態に移行させることが重要です。
その後のお子さんの意識にもよい影響がありそうですね。
幼いうちから予防治療を当たり前のものとしておくことは大切ですね。歯科医院という空間に慣れておくことや、信頼の置ける歯科医院を見つけておくことも、将来的にお口の健康に好影響をもたらすでしょう。
歯科衛生士さんの知識・技術も重要になるかと思います。どんな指導をされていますか?
外部の講習会に参加したり、院内研修を行ったり、講師をお招きするなどして、私を含めて全員がレベルアップに努めています。また、衛生士が患者さんに説明・アドバイスをする機会も少なくありませんので、誰が担当しても、わかりやすい伝え方ができるよう指導しています。
医院全体で、患者さんご自身の理解を大切にしているのですね。
何事も、“知る”ことで初めて積極的・主体的になれます。歯科の場合はもちろん私たちのサポートが欠かせませんが、主役は患者さんです。そのために、少しでも深く理解していただける説明を行いながら、テーラーメイドの治療をご提案いたします。
その他、通いやすさという点で気をつけていることはありますか?
当院は歯科衛生士の担当制を敷いております。患者さんからは「安心感がある」とご好評をいただいています。診療室も完全個室ですので、リラックスして処置を受けていただいたり、お話をしていただけるかと思います。
最後に、このページをご覧の方にメッセージをお願いします。
適切に予防治療に取り組めば、親知らずを除いた28本、あるいは28本に近い数の歯を生涯維持することは十分に可能です。当院では、これを本気で目指しています。そのために、お口の健康の価値、お一人おひとりの現状の口腔リスクを、すべての方に知っていただきたいと思います。誰のものでもない、ご自身のお口です。当院で自分の“お口を知る”ことから始めていただければと思います。
良質な予防治療に取り組んでこそ、良質な治療が可能であることは、多くの人が見落としていたポイントではないでしょうか。治療が必要になったとき、いかに最小限の侵襲で治療できるかどうかは、それまでの予防治療への取り組み方に左右されるのです。取材中、「理解していただきたい」という言葉が、赤松先生の口から何度も語られました。これまでお口の健康について、あまり深く考えたことのなかった方も、知ることで、理解することで、予防治療への取り組み方を大きく変えることができそうです。
医院情報
あかまつ歯科クリニック
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〒655-0051
兵庫県神戸市垂水区舞多聞西1丁目27-19 |
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神戸市営地下鉄「学園都市」から、161番バスにて「舞多聞西5丁目」「学園南公園前」下車して徒歩3分 |
診療内容 |
歯科一般 予防 小児歯科 矯正歯科 歯科口腔外科 |