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芸人・大瀬うたじさん逝去 「脳幹出血」の原因・なりやすい人の特徴を医師が解説

 公開日:2024/07/08

芸人の大瀬うたじさんが脳幹出血のため、7月6日(土)に亡くなったことを、所属する漫才協会の公式サイトが発表しました。76歳でした。かつては「大瀬ゆめじ・うたじ」のコンビを組んでいましたが、解散後はいわゆる「ピン芸人」として活動していました。大瀬さんの訃報に接し、脳幹出血の症状・原因・発症しやすい人の特徴・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。

※この記事はMedical DOCにて【「脳幹出血の症状」はご存知ですか?原因・なりやすい人の特徴も医師が解説!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

村上 友太

監修医師
村上 友太(東京予防クリニック)

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医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事した経験がある。現在、東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。

「脳幹出血」とは?

脳幹とは、脳の深部にあり意識や呼吸などの生きるために必要な機能を担う部位です。
頭部画像検査では、おおよそ真ん中に位置しており、中脳・橋・延髄から構成されます。
脳幹出血は脳出血の中では10%程度の割合で起こると言われますが、生命の維持が危ぶまれることがあるため、脳出血の中でも最も予後が悪いタイプであるとされています。
今回はこの脳幹出血について解説します。

脳幹出血の代表的な症状

脳幹は生命維持に必要な機能を司るため、出血によって致命的な症状が生じることがあります。また、脳幹部には、脳神経核といって顔や頚部などに関係する末梢神経の中枢部分が複数あることから、顔や頚部などのさまざまな症状を呈することがあります。

意識障害

脳幹には意識の中枢があるため、脳幹出血を発症すると意識障害に陥ることがあります。
脳幹出血の程度によりますが、大きな声で話しかけても体を揺さぶっても、簡単に意識状態が改善しないという可能性もあります。普段いびきをかかない方が、突然大きないびきをかくようになった場合には注意が必要です。

眼球運動障害

代表的な目を動かす神経には動眼神経、滑車神経、外転神経がありますが、これらの神経がダメージを受けることによって眼球運動障害をきたします。目の動きの悪さはダメージを受けた部位によって異なりますが、片側の目だけではなく、両目とも動かしづらくなり、ものが二重に見えてしまうなどという症状が見られます。

片麻痺(片側の体の運動機能の低下)

左右どちらか片側の運動機能の低下のことを片麻痺といいます。脳幹出血を生じると手足や顔を動かす神経がダメージを受けるため、麻痺してしまいます。脳幹部は重要な神経の集合体であるため、画像上は出血量が少なめに見えても重度の神経症状が出現することがあります。

構音障害

構音障害とは、音を作る器官やその動きに問題があって発音がうまくできない状態のことをいいます。脳幹出血では口周囲や喉の筋力が低下することがあります。そのため、唇や舌の動きが悪いと喋りづらくなり、声にかすれがあったりうまく声を発することができなかったりします。

嚥下障害(飲み込む機能の障害)

脳幹出血によって喉の筋肉を動かす神経が働かなくなるため、飲み込めなくなることがあります。食べ物だけではなく、よだれを飲み込む動作がうまく機能しないため、むせたり食道ではなく気管に入ったりしてしまうことになります。気管に食べ物や液体が入っていくと窒息や誤嚥性肺炎を生じる危険性が高い状態になってしまいます。そのため、このような状況で食事をとる場合には、胃菅といって鼻の穴から胃にチューブを挿入して、そのチューブから栄養剤を胃の中へ流し込むという方法で対応します。

脳幹出血の主な原因

高血圧

脳出血の最大の発症原因は高血圧です。これは脳幹出血の場合にも当てはまります。
血圧が高い状態が続くと、血管への負担が高まり、動脈硬化が進んでしまうことで、結果的に血管が破れて出血しやすくなるという変化が生じてしまいます。
高血圧は脳以外の心臓などの病気にも悪影響を及ぼす可能性があります。長期間にわたって血圧が高い状態を放置するということは避けるべきです。

脳幹部の血管異常

脳血管の異常が脳幹部に見られる場合もあります。
特に海綿状血管腫という血管の病気が脳幹部で見られる場合には注意が必要です。
海綿状血管腫は脳内の至る部位で発生する可能性がありますが、脳幹部にできる海綿状血管腫は他の部位のものに比べて出血率が高く死亡率も高いという特徴があります。脳幹部は重要な神経線維などが密集していることから、小さな出血でも神経症状が出現して見つかるケースもありますが、脳ドックなどで偶然見つかることもあります。

脳幹出血を発症しやすい人の特徴

高血圧症の人

前述のように血圧が高いことが脳幹出血の発症原因として重要です。
塩分摂取量が多い食事を続けていたり、肥満であったり、睡眠時無呼吸症候群などの病気を有していることも血圧が上がる要因となるので、当てはまる場合には注意が必要です。

喫煙者・アルコール多飲の人

喫煙は脳卒中以外にも、がんや心臓病、肺の病気などの危険性を高めることが知られています。タバコをやめることで発病リスクを下げる効果がありますので、今から禁煙を実践することでも全く遅くありません。
そして、大量にアルコールを摂取することも脳卒中のリスクを高めることがわかっています。1日1合程度を目安に飲酒するようにし、週に2日程度は休肝日を設けるようにしましょう。

すぐに病院へ行くべき「脳幹出血の症状」

ここまでは脳幹出血の症状となる症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

突然意識状態が悪くなった場合は、脳神経外科へ

脳出血は突然発症します。大声で話しかけても揺さぶっても意識が戻らない場合や、嘔吐を繰り返している場合には、救急車を呼んですぐに病院を受診する必要があります。
症状だけでは脳幹出血かどうか判断できず画像検査を行い診断しますが、脳幹出血の場合には致命的な状況に陥る可能性も高いので、早く受診することが大切です。

受診・予防の目安となる「脳幹出血の症状」のセルフチェック法

  • ・急に意識が悪くなった場合
  • ・急に手足の動きが悪くなった場合
  • ・急に目の動きが悪くなった場合
  • ・急に喉の動きが悪くなってうまく飲み込めない場合

脳幹出血を予防する方法

適切な血圧管理

血圧を下げることが脳出血の発症予防に効果的です。そしてこれは生活習慣を見直して改善させることで実行することが可能な方法です。
高血圧の改善には塩分摂取量を減らすことと適度な運動が必要です。かつて日本人は塩分摂取量が多い傾向があって重度の高血圧患者も多いと言われていました。脳卒中は国民病と言われ、1970年前後までは脳卒中の中でも脳出血が多数を占めていました。しかし、塩分摂取量を減らすことや降圧薬を用いることで脳出血の死亡率は徐々に減ってきたという経緯があります。ラーメンやスープの汁は残すこと、漬物や佃煮は食べすぎないことなど、食事方法ですぐできることから取り組むことがおすすめです。また、有酸素運動を中心とした運動習慣を続けることも一緒に行うことが良いでしょう。これらの対策でも血圧の値が改善しない場合には、降圧薬を用いて治療する必要があります。

健康的な生活習慣の維持

喫煙や肥満、睡眠不足、食べ過ぎ、飲み過ぎなどの生活習慣から生じる生活習慣病が動脈硬化の原因となり、血管の病気を引き起こすことにつながります。
禁煙や適切な食事量、睡眠時間の確保を行うなど、可能な限り健康的な生活習慣を維持することが望まれます。

脳幹部の異常血管に対する治療

脳幹部に異常な血管があって出血の原因となっている場合にはそれに対する治療を考慮します。
前述のように脳幹部にできる海綿状血管腫は出血率が高く死亡率も高いことが知られています。出血を繰り返すこともあることから、海綿状血管腫を摘出する手術を検討します。
脳幹部は脳の深部にあり重要な神経が密集している部位なので、手術に伴う合併症の可能性もある難易度の高い手術です。そのため、新たな合併症が最小限で済むように、適切なタイミングをみはからって手術を行うことになります。担当医からよく説明を聞いてください。

編集部まとめ

脳幹部は生命維持に必要な中枢機能があり、また重要な神経が密集して存在する場所です。脳幹出血は出血量が多いと致命的になりますし、少量の出血量でも重要な部位にダメージが及ぶと神経症状が出現することがあります。自分自身で可能な発症予防法は血圧管理ですので、生活習慣の見直しを行い改善に努めていただければと思います。

この記事の監修医師