俳優・赤塚真人さん逝去 「食道がん」の初期症状やセルフチェック項目とは?
俳優の赤塚真人さん(73)が、7月4日(木)に食道がんのためになくなったと報じられています。生前は映画「幸福の黄色いハンカチ」や「男はつらいよ」などに出演するほか、さまざまなテレビドラマで活躍してきました。赤塚さんの訃報に際し、食道がんの初期症状・検査法・治療法・早期発見のポイントや何科へ受診すべきかなどを解説します。
※この記事はMedical DOCにて【「食道がんの初期症状」はご存知ですか?セルフチェック法も医師が解説!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
「食道がん」とは?
食道は、咽頭(のど)と胃の間をつなぐ管状の臓器です。そして、食道がんとは、解剖学的に喉と胃をつなぐ場所にある約25cm程度の食道部位にできる悪性腫瘍のことです。統計学的に、女性よりも男性に多いがんとして知られています。今回は、食道がんの初期症状、検査方法、治療法などを紹介していきます。
食道がんの前兆となる初期症状
いわゆる「食道」と呼ばれる内臓は、口から食べた物を胃に運ぶ働きを持つ管状の臓器です。一般的には、私たちの口から食べ物が入ってきた際には、食道壁が自然と動かされて食べ物が胃に送られる仕組みになっています。食道は体の中心部にあり、その周囲には心臓や大動脈、肺といった重要な臓器に囲まれています。
食道の構造は、粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層から構成されています。がんの初期段階では食道の表面(粘膜)から発症し始め、がんが進行すると深い層まで侵されることになります。そして、一番外側の外膜まで達すると、がん細胞が食道を超えて周囲の臓器に転移します。
食道がんの初期段階では、あまり自覚症状を持たないケースがほとんどですが、なかには「食べ物を飲み込むときに、胸がチクチクと痛む」「熱いものを飲むときにしみる」「食べ物がつかえる感じがして、うまく飲み込めない」などの症状が出てきます。これらの症状について詳しく解説します。
胸の違和感
食べ物を飲み込んだ際に胸の奥にチクッとした痛みがある、熱いものを飲むとしみるなどの症状は、食道がんの早期発見につながることがある重要な症状です。これは炎症がおきている食道の粘膜に固形物や熱いものが当たり刺激するため起こる症状です。ただし、基本的に食道がんは初めはほとんど症状がないケースが多いため、胸の違和感を自覚した時点である程度がんが進行してしまっていることもしばしばあります。
また、食道がんが周りの肺や背骨、大動脈を圧迫するようになると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。したがって、胸や背中の痛みを自覚した時には、もう既にがん転移を起こしている末期の状態の可能性もあります。
うまく飲み込めない
嚥下障害(うまく飲み込めない)という症状は食道がん初期の症状というより、食道がんに気づくきっかけとなる最初の症状として多いものです。食道がんが大きくなると食道が狭窄し、食べ物を飲み込む際のつかえ感が現れます。がんが大きくなるにつれて、食道の内側が狭くなると、飲食物がつかえやすくなり、次第に軟らかい食べ物しか通らなくなります。さらにがんが大きくなると、食道がほぼ閉塞してしまい液体すら通らなくなり、唾液も飲み込めなくなることもあります。
嚥下障害は食道がんの進行に合わせて、どんどん症状が悪化します。気づいた時点でできるだけ早く消化器内科を受診し、治療することが大切です。
食欲がなくなる
つかえ感が強くなると食事量が減って体重が減少することもあります。認知症などで本人がつかえ感を自覚していなかったり、周囲に伝えていなかったりするケースでは、原因不明の食欲低下をきっかけに食道がんが見つかることもあります。特に風邪を引いているわけでもないのに数ヶ月単位で食が細くなっている場合や、固いものや熱いものを避けて柔らかいものやゼリー状のものを好むようになってきた場合には、一度食道がんを疑い医療機関を受診することをお勧めします。受診すべき診療科は消化器内科もしくは消化器外科です。
食道がんの検査法
胃カメラ
胃カメラ検査とは、内視鏡スコープを口または鼻から挿入し、胃や十二指腸、食道などを直接観察する検査です。初期の食道がんには自覚症状がほとんどありませんので、自覚症状が出る前に受ける定期的な胃カメラ検査(胃内視鏡検査)は、早期食道がんの発見と確定診断が可能な唯一の検査です。
実際に、初期の微小な食道がんは、検診や人間ドックなどで受けた胃カメラ検査で発見されることがほとんどを占めますので、普段から喫煙習慣がある、お酒を飲むと顔が赤くなる、逆流性食道炎を繰り返しているなど、発症リスクの高い方には胃カメラ検査を推奨します。
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査は、内視鏡検査のひとつです。内視鏡の先端についた超音波装置を用いて食道壁の層構造の乱れや食道壁外の構造などを観察することができます。
超音波内視鏡検査を実施することで、食道がんが「どのくらい深く広がっているか」「周りの臓器まで広がっていないか」「食道の外側にあるリンパ節に転移していないか」について、より詳しく評価することができます。
バリウム検査
バリウム検査とは、バリウムを飲んでからレントゲンで食道や胃の状態を調べる検査です。バリウムを飲んで、それが食道を通過するところをX線で撮影する検査であり、がんの場所や大きさ、食道内腔の狭さなど全体を確認します。
以前は胃がん検診でバリウム検査が主に行われ、異常が見つかると内視鏡検査が二次検査として実施されていました。しかし、バリウム検査はレントゲンを使って胃の形状や表面を観察するため、ある程度がんが進行していないと食道がんを見つけることができません。一方で、内視鏡検査は直接胃の内部を観察し、色の変化や粘膜の細かな変化を検出できるため、早期胃がんの検出には内視鏡検査のほうが有効です。胃がん検診では、高い診断力を持つ内視鏡検査よりも従来胃透視検査が優先されていた理由は、実施が容易(移動式の検診バスでも可能)で、コストが低く、検査時間が短いため、より多くの人々を迅速に検査することができるという利点があったからです。
もしご自身で胃がん健診の内容を選択できるようであれば、内視鏡検査を選択することをお勧めします。口からの内視鏡検査は苦痛を感じる人もいるため、最近では鼻から挿入する細い内視鏡や鎮静剤を使用する施設もあります。ご自身の好みに合わせて受診する施設を選びましょう。
食道がんの治療法
食道がんの治療法としては、大きく分類すると内視鏡治療、手術療法、放射線治療、薬物を用いた化学療法の4種類が挙げられており、各々の治療法のメリットを生かしながら、病変の状態や病期に照らし合わせて個々の患者さんに応じた治療を実践します。
内視鏡的切除
まず、粘膜内にとどまっている0期の初期がんでは、食道を温存するように内視鏡で病変部を切除する治療法が推奨されています。
内視鏡的切除は、がんを取り除くために食道内部から行う手術です。この方法には二つの主要な技術があります。一つは、内視鏡の先にある細いワイヤーの輪(スネア)を使って、がんの部分を切り取る「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」です。もう一つは、高周波ナイフを使用して、がんを粘膜下層から剥がすように切り取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」です。
この手術は、がんが食道をほぼ全周にわたっている場合でも、5cm以下の大きさならこの方法で治療できます。手術で取り除いた組織は、がん細胞が残っていないか、リンパ節に広がっていないかを病理検査でチェックします。もしがん細胞が残っているか、リンパ節に広がるリスクが高いと判断された場合は、さらなる治療が必要になります。
内視鏡的切除の合併症は出血や穿孔(食道に穴が開くこと)、食道の狭窄(食道が狭くなること)などです。出血や穿孔が起こった場合、吐き気や嘔吐などの症状が現れることがあります。また、治療した場所から出血が持続すると貧血による立ちくらみやめまいが出現するおそれもあります。治療後に今までになかった症状が出現した場合は内視鏡的切除の合併症の可能性があるため、手術をしてもらった医療機関を早めに受診しましょう。
化学放射線療法
食道がんⅠ期になると、手術療法が標準治療として提案されることが多いですが、状況によっては手術と同等レベルの治療効果が期待される化学放射線療法が実践されることもあります。
化学放射線療法は、化学療法(薬でがん細胞を攻撃する治療)と放射線治療(放射線を使ってがん細胞を破壊する治療)を一緒に行うことを指します。この方法は、放射線治療単独よりもより高い効果が期待できます。
化学放射線療法が主に選ばれる場面は手術(内視鏡的切除を含む)でがんを取り除くのが難しい状態の時です。がんのステージとしては初期段階(0期)から比較的進行した段階(ⅣA期)まで、幅広いステージに施行されます。また、さらに進行したⅣB期のがんに対しても、症状を和らげるために行われることがあります。
手術
Ⅱ期・Ⅲ期に進行すると、標準治療法としては手術が可能な健康状態に該当する場合には化学療法を行ったのちに手術するのが第一選択となります。
食道がんに対する外科手術は、現在のところ本疾患に対する標準的な治療法として確立しており、がん病変部の発生している部位が食道のどの部位に位置するかによって手術の具体的な手順が異なってきます。
例えば、頸部に存在する食道がんの場合には、がんが小さい時には頸部食道のみを切除しますが、腫瘍が大きく周囲組織に浸潤しているケースでは咽頭や喉頭、あるいは全ての食道組織を病変部と共に切除して、小腸の一部や胃を利用して食道再建を行います。また、胸部食道に位置するがん病巣の場合には、最近では医療技術の進歩に伴って胸腔鏡や腹腔鏡などを駆使して手術を行えるようになりました。
すぐに病院へ行くべき「食道がんの初期症状」
ここまでは食道がんの初期症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
胸や背中の痛み、体重減少などの症状を認める場合は、消化器内科へ
食道がんの初期段階では、あまり自覚症状を持たないケースがほとんどです。がん病変そのものが進行すると、「食べ物を飲み込むときに、胸がチクチクと痛む」「熱いものを飲むときにしみる」「食べ物がつかえる感じがして、うまく飲み込めない」などといった症状が出てくるようになります。
また、がん細胞が周りの臓器やリンパ節にまで広がって波及してしまうと、胸の奥や背中に痛みを感じたり、痰に血が混じったりするようになり、さらには食欲の減退や体重減少といった徴候が見られる以外にも声のかすれなど多種多様な症状が現れてきます。
したがって、物が飲み込みにくくなる、あるいは胸がつっかかって違和感を覚える、そして自分の声質に異常があった場合には、消化器内科もしくは消化器外科を受診しましょう。
受診・予防の目安となる「食道がん」のセルフチェック法
- ・物のつかえ症状がある場合
- ・胸の痛みがある場合
- ・背部痛がある場合
- ・血痰がある場合
- ・食欲がなくなる場合
- ・体重減少がある場合
食道がんを早期発見するポイント
食道がんが進行すると、リンパ節や他臓器にまで転移してしまうために、早期発見、そして早期治療に繋げることが大切です。
喫煙や飲酒は全体的にがんの発症に関係があるといわれていますが、食道癌に限っては他のがん疾患以上に、これらのリスク因子が発症に大きく関係していると考えられています。毎日3合の飲酒を続けた際には、食道がん以外のがんの場合は発症リスクが約1.6~1.7倍程度であるのに対して、食道がんでは同量の飲酒によって約5倍もリスクが上がるといわれています。毎日の生活の中で出来る限り節酒・禁煙するよう心がけましょう。
食道がんは早期発見して早期的に治療ができれば、比較的良好な予後が得られることが期待できるので、定期的に健康診断を受けましょう。
「食道がんの初期症状」についてよくある質問
ここまで食道がんの初期症状を紹介しました。ここでは「食道がんの初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
食道がんの初期症状にげっぷはありますか?
甲斐沼 孟(医師)
典型的ではありませんが、げっぷを繰り返す、慢性的な嘔気がある、物が飲み込みにくいなどの症状がある場合には、食道がんの初期症状である可能性があります。
のどの痛みは食道がんの初期症状でしょうか?
甲斐沼 孟(医師)
食道がんでは、時にのどの痛みを自覚する場合があります。気になる場合には、消化器内科など専門医療機関を受診しましょう。
食道がんを発症すると痛みを感じやすい部位はどこがありますか?
甲斐沼 孟(医師)
一般的に、食道がんにおいては、胸の痛みや背中の痛みを感じやすいことが多いといわれています。症状が継続する場合には、胃カメラ検査など実施して適切に診断してもらいましょう。
編集部まとめ
食道がんは、のどと胃の間をつなぐ臓器である食道に悪性腫瘍が発生する疾患です。食道がんが進行すると、リンパ節や他臓器にまで転移してしまうために、早期発見、そして早期治療につなげることが必要不可欠です。発症早期の段階では自覚症状がほとんどないことから、健康診断など定期的な検診が必要になります。
食道がんは進行スピードが他のがんよりも早く、またリンパ節への転移や他臓器への血行性浸潤が多くみられるために、進行したステージでは手術が難しく手術前後の予後(生存率)も大きく変わってきますので、何よりも発症予防に努めることが重要です。
食道がんに対する治療法は、患者さん自身の希望やがん以外の合併症の有無、全身の健康状態を総合的に考慮して決めていきますので、担当医や専門医とよく相談して治療計画を立てましょう。