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歯肉炎と歯周炎の違いは?

 更新日:2023/03/27

はじめまして。日本歯周病学会認定医としてメープルデンタルクリニック大久保で勤務しております剣持正浩と申します。
歯肉の赤みや腫れ・出血・膿み・歯の動揺(揺れ)・口臭・歯肉の退縮(歯ぐきがさがる・歯根が露出する)などを主訴に歯科を受診した人や、自覚症状が乏しくても定期検診や歯周疾患検診を受けた時に「歯周病」と診断されたことがある人は、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか?

平成23年歯科疾患実態調査から推定される歯肉に何らかの症状がみられる患者数は約9400万人にものぼるといわれており、高齢になるにつれ歯肉に所見のある人は増えていき、35〜69歳でほぼ80%以上に及ぶといわれています。
つまり、歯周病は特定の人だけがかかる疾患ではないということです。また、最近では生活習慣病としても位置付けられていて、食習慣・歯磨き習慣・喫煙・全身性疾患との関連性が指摘されています。しかし、実際に治療を受けている患者数は約260万人であり、「歯周病に気づいていない」もしくは「気づいていても受診・治療していない」人が大勢いることがわかります。
歯周病とう蝕は、歯科の2大疾患といわれ、下記の負のサイクルを引き起こす疾患です。

①発症・進行により歯の喪失がおきて・・・
②口腔機能障害が生じ・・・
③全身の健康に悪影響

また、日本人の歯の喪失原因の第1位(約4割)が歯周病です。
では、歯周病ってどういう病気なのでしょうか?
日本歯周病学会では、「歯周病は歯肉病変と歯周炎に大別され、歯周病は非プラーク性歯肉疾患を除き、歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患であり、歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨からなる歯周組織に起こる疾患をいう。
さらに、上記疾患のほかに壊死性歯周疾患、歯周組織の膿瘍、歯周—歯内病変、歯肉退縮および強い咬合力や異常な力によって引き起こされる咬合性外傷が含まれる」と定義されています。
難しい言葉が並びますが、歯肉炎と呼ばれるものは歯周病学会の分類システムでは歯肉病変の中に分類されているものなので、今回は歯肉病変歯周炎にフォーカスを当て、特徴や治療法の違いについてみていきましょう。

 歯肉病変

•主な自覚症状として、歯肉の発赤(赤み)・腫脹(腫れ)・出血で、排膿や歯の動揺(揺れ)ではない。
歯肉(歯ぐき)にのみ炎症性病変が生じたものです。
•セメント質(歯根表面を覆っている組織)・歯根膜(歯根と歯槽骨を結びつける組織)・歯槽骨(歯を支えている骨)は破壊されていません。
•歯肉ポケット(仮性ポケット)の形成:歯肉が腫れることにより、歯と歯肉の間の溝が深くなる。

歯肉病変の主な分類

(1) プラーク性歯肉炎
(2) 非プラーク性生肉炎(プラーク細菌以外の感染・粘膜皮膚病変・アレルギー反応・外傷性病変)
(3) 歯肉増殖(薬物性歯肉増殖症、遺伝性歯肉繊維腫症)
(4) HIV感染に関連してみられる歯肉病変
主な歯肉病変は、細菌と代謝物のかたまりであるプラークが原因となるプラーク性歯肉炎です。
では、プラーク性歯肉炎の特徴をみていきましょう。

プラーク性歯肉炎の特徴

(1) 原因は細菌性プラークです。
(2) 炎症は歯肉に限局(歯肉の腫れや出血など)している。
(3) 炎症により歯肉が腫れて増殖し、歯肉と歯の間の溝の深さが深くなる(歯肉ポケットの形成)。
(4) プラークコントロールによって改善する。
(5) プラークがたまりやすい状況(不適合な被せ物や詰め物・歯並びなど)にあると増悪する。

(6) 歯周炎の前段階と考えられている。
プラーク性歯肉炎を放置することでプラークによる持続的な刺激・・・

炎症がセメント質・歯根膜・歯槽骨に波及・・・

大部分は歯周炎に・・・となります。

歯肉病変の治療

• 原因を除去することが一番重要です。例えばプラークが原因であれば、プラークを除去することです。
• セルフケア(ホームケア)や歯科医院での治療により健康な状態の歯肉に治癒します。
• プラークを効率的に除去する正しいブラッシング方法やブラッシングに加えて、デンタルフロスなどの補助器具を併用するセルフケアが特に重要です。
• 治癒してからも、再発しないようなホームケアや、定期的な歯科医院の受診が大切です。

 歯周炎

• 主な自覚症状として、歯肉の赤み・腫れ・出血・排膿・歯の揺れや移動・口臭など
• 炎症が歯肉のまわりから、セメント質・歯根膜・歯槽骨などの深部歯周組織に波及したものです。
• 進行は比較的ゆるやかで数年単位で進行します。
• 歯ぎしりやくいしばりなどにより、進行が早まることもあります。
• 侵襲性歯周炎と呼ばれる短期間で急速に進行するものもあり、注意が必要です。また、進行の程度は、重度糖尿病による歯周組織の抵抗力の低下や喫煙などの生活習慣により影響されます。
• 歯周ポケット(真性ポケット)の形成:歯肉の腫れと、歯を支えている骨が吸収することで、歯と歯肉の間の溝が深くなる。

歯周炎の主な分類

(1) 慢性歯周炎
(2) 侵襲性歯周炎
(3) 遺伝疾患に伴う歯周炎
侵襲性歯周炎と呼ばれる全身的に問題は認めないが、急速に組織の破壊が起き、家族内で多く見られる(歯周炎になりやすい遺伝的体質)という特徴をもつ歯周炎がありますが、主な歯周炎は慢性歯周炎です。
では1つの例として、慢性歯周炎の特徴をみていきましょう。

慢性歯周炎の特徴

(1) 発症し始めるのは25歳ごろだと言われていますが、発症時期は35歳以後が多い。
(2) プラーク性歯肉炎が歯周炎に進行し、セメント質・歯根膜・歯槽骨が破壊される。
(3) 歯肉は腫れ、歯周組織の破壊が進行することで、歯と歯肉の間の溝の深さが深くなる(歯周ポケットの形成)。
(4) 歯周ポケットが深くなると、歯周病原細菌が増殖しやすい状況になり、炎症が持続する。
(5) プラークが貯まりやすい状況(不適合な被せ物や詰め物・歯並びなど)だと増悪する。
(6) 歯ぎしりやくいしばりなどがあると、急速に進行する。
(7) 歯の部位によって進行度に違いがある。
(8) 急激に進行する活動期がある。
(9) 歯周炎が進行すると悪循環になり、さらに急速に進行する。

歯周炎の治療

• 原因の除去が一番重要です。
• ブラッシングなどのホームケアは、歯周炎の治療にも非常に重要であり必ず必要であるが、ホームケアだけでは治癒を見込めない
• 歯周炎の進行度により、治療が大きく変わります。
• 歯周炎の進行度が重度なほど複雑な治療が必要になるため、歯周病専門医の適切な診査診断と治療が必要であり、重要だと思われます。
• 進行度が重度なほど再発の危険性も高いため、治療後も再発しないようなホームケアや、定期的な歯科医院の受診が大切です。

 まとめ

歯肉病変は歯肉だけが炎症を起こしていますが、歯周炎は歯肉のまわりからセメント質・歯根膜・歯槽骨などの深部歯周組織に炎症が広がっています。
• 自覚症状として、歯周炎は歯肉病変の症状に加え、排膿や歯の病的な動揺(揺れ)を認めます。
歯肉病変と歯周炎の治療は、プラークを除去する正しいセルフケアと適切な歯科治療による原因の除去が一番大事であり、再発を予防する上でも治療後の定期的な歯科医院の受診が必要である。
• 歯周炎は進行度により複雑な治療が必要となるため、歯周病専門医の受診をお勧めいたします。
• 歯肉病変と歯周炎の自己判断はお勧めできませんし、自覚症状があまりなくても歯周病に罹患している可能性があるので、定期的に歯科を受診しましょう。

この記事の監修歯科医師