監修医師:
勝木 将人(医師)
結節性硬化症の概要
結節性硬化症はTSC1やTSC2という遺伝子の異常で起こる先天性疾患で、全身に過誤腫という良性の腫瘍が出現します。
発症率は非常にまれで、世界で診断されているのは数万人のうち1人ほどの割合です。
子どものころの知的発達の遅れや、繰り返すてんかん発作によって発見することが多いですが、妊娠中の胎児の超音波検査で心臓腫瘍が発見されたときに気づくこともあります。
結節性硬化症で見られる症状は年齢によって異なります。
新生児期に心横紋筋腫、乳幼児期に知的障害やてんかん発作、学童期に脳や腎臓の腫瘍、顔面血管線維腫、20〜40代の女性に肺リンパ脈管筋腫症などが起こることが特徴です。
症状の有無や程度には個人差がありますが、症状が命に関わることもあるため、定期的に受診し、対処療法で経過を見ていくことが重要です。
(出典:難病情報センター「結節性硬化症(指定難病158)」)
結節性硬化症の原因
両親のどちらかが結節性硬化症であったり、受精した精子や卵子の遺伝子が突然変異した場合は、結節性硬化症の子どもが産まれる可能性があります。
両親のどちらかが羅患している場合、産まれてくる子どもが結節性硬化症に羅患している確率は約50%です。
結節性硬化症の原因となるTSC1遺伝子やTSC2遺伝子は、通常、腫瘍の生成を抑えるハマルチンやチュベリンというタンパク質をつくっています。
結節性硬化症は、どちらかの遺伝子に変異がある場合に起こると考えられています。
結節性硬化症の前兆や初期症状について
結節性硬化症の初期症状は、胎児期や乳児期の心横紋筋腫や皮膚の白斑、てんかん発作などです。
てんかん発作は見られないケースも増えていますが、乳幼児期の点頭てんかんやそれ以降に起こる焦点意識減損発作は、重度の知的障害が残る可能性があります。
学童期以降は皮膚のこぶ(爪や腰、お腹など)や顔面血管線維腫が増え、巨大化することがあります。
腎臓の血管筋脂肪腫が破裂して大量出血したり、脳の上衣下巨細胞性星細胞腫(じょういかきょさいぼうせいせいさいぼうしゅ)によって周りの脳組織が圧迫されたりして、命の危険にさらされることもあります。
女性に起こる肺リンパ脈管筋腫では、病態が悪化すると呼吸不全につながりやすく、命を落とすケースもあります。
結節性硬化症の検査・診断
結節性硬化症は遺伝子検査や臨床診断基準によって診断されます。
TSC1遺伝子とTSC2遺伝子のどちらかに機能的な喪失変異があれば確定診断となりますが、症状がでていても遺伝子異常が検出できないケースもあります。
臨床診断基準は大症状と小症状の有無で判断され、一定数の項目が当てはまれば、結節性硬化症の可能性が高まります。
大症状 | 小症状 |
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結節性硬化症の治療
結節性硬化症に対する根本的な治療法は開発されていないため、対処療法が基本となります。
てんかん発作や皮膚症状、脳や心臓、腎臓の腫瘍、肺リンパ脈管筋腫症に対して治療をおこないます。
主に細胞の増殖や成長を制御するmTOR阻害薬のビガバトリンやラパマイシン、エベロリムスが利用されます。
てんかん発作の治療
点頭てんかん以外のてんかん発作では、発作型に応じた抗てんかん薬を投与します。
副作用などで薬物投与の継続が難しい場合は、病巣に対する手術をおこなったり、ケトン食を導入したりすることもあります。
点頭てんかん発作の治療は、副腎皮質ホルモン薬やビガバトリンの投与、原因の病巣を取り除く手術などから選択します。
ビガバトリンは脳のGABA濃度を上げる作用がありますが、副作用として網膜障害を起こす可能性があります。
皮膚症状の治療
皮膚症状に対してはラパマイシンを塗布します。
顔面血管線維腫や爪線維腫などが大きくなった場合は手術で切除することもあります。
上衣下巨細胞性星細胞腫の治療
上衣下巨細胞性星細胞腫の治療は、無症状の場合はエベロリムスの投与、急性に症状が進行している場合は摘出手術を検討します。
頭蓋内圧の亢進を抑えるために、脳脊髄液短絡術をおこなうこともあります。
心横紋筋腫の治療
心横紋筋腫に対しては、エベロリムスを使用することもありますが、成長とともに自然消失するケースが多いです。
不整脈が続く場合は、抗不整脈薬を投与することもあります。
腎臓腫瘍の治療
直径3〜4cm以上の腎血管筋脂肪腫に対してはエベロリムスの投与をおこない、改善が見込めない場合は摘出手術や動脈塞栓術も検討します。
腎のう胞で血圧が高い場合は、降圧薬を使用します。
肺リンパ脈管筋腫症の治療
肺リンパ脈管筋腫症の治療は基本的にラパマイシンを投与します。
閉塞性換気障害の合併には気管支拡張薬、気胸や胸水、腹水の合併には内科的・外科的治療をおこないます。
呼吸不全が進行したケースでは肺移植の対象になります。
結節性硬化症になりやすい人・予防の方法
結節性硬化症は遺伝する疾患ですが、結節性硬化症患者の両親に遺伝子異常や症状が見つからないケースが60%以上あることがわかっています。
予防する方法はありませんが、結節性硬化症が判明した場合は、生活上で症状の重篤化を防ぐことが大切です。
顔面血管線維腫がある場合は、紫外線によって症状が悪化する可能性があるため、日焼け止めや帽子を使用して対策しましょう。
肺リンパ脈管筋腫症の女性はピルの内服やホルモン治療、妊娠で症状が悪化する可能性があるため、婦人科や産婦人科に受診する際は必ず申告しましょう。
妊娠・出産は、呼吸状態の悪化につながり、命の危険にさらされることもあるため、十分な設備の整った施設を選ぶ必要があります。
また、飛行機などで大きな気圧の変化が伴うと気胸を発症するリスクがあるため、できるだけ控えましょう。
関連する病気
- 心横紋筋腫
- 皮質結節
- 爪線維腫
- 閉塞性換気障害
- 多発性網膜過誤腫
- 皮質結節
- 上衣下巨細胞性星細胞腫
- 多発性腎嚢胞
- 腎血管筋脂肪腫
- 肺リンパ脈管筋腫症
参考文献