監修医師:
河辺 泰宏(医師)
インフルエンザA型の概要
インフルエンザA型は、オルソミクソウイルス科に属するインフルエンザウイルスA型によって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。主に冬に流行し、飛沫感染および接触感染を介して迅速に伝播します。インフルエンザA型ウイルスの表面に赤血球凝集素HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)という蛋白が存在して、A型の亜型はHAとNAの組み合わせにより144種類あり、変異を起こしやすいため、毎年のようにちがう株が流行します。インフルエンザA型は軽症から重症まで幅広い症状がみられますが、免疫機能が未成熟な小児や免疫力が低下した高齢者、妊婦に対して重篤な症状を呈することがあるため、適切な診断と治療が重要です。
インフルエンザA型の原因
インフルエンザA型は、インフルエンザウイルスA型による感染が原因です。ウイルスは主に飛沫感染を通じて広がり、感染者がくしゃみや咳をする際に飛沫として放出されるウイルスを吸い込むことで感染します。また、ウイルスが付着した手で目や鼻、口を触れることによっても感染が広がる可能性があります。A型ウイルスは、特に閉ざされた空間や人が密集する場所で急速に広がるため、流行時には予防策が重要となります。
インフルエンザA型の前兆や初期症状について
インフルエンザA型の症状は急速に現れ、一般的には感染から1〜4日以内に発症します。かぜ症候群(感冒)に比べて、発熱や全身倦怠感などの全身症状が強い特徴があります。初期症状には、突然の高熱(通常38度以上)、激しい悪寒、全身の筋肉痛や関節痛、強い倦怠感、頭痛などがみられます。また、咳、のどの痛み、鼻水や鼻づまりといった呼吸器症状も伴います。これらの症状を認めた時には、子どもであれば小児科、高齢者や基礎疾患のある方は専門医の診察を受けることが望ましいです。なぜなら、特に小児では熱性けいれんを起こしやすく、脳症を合併したり、免疫力が低下している高齢者や基礎疾患を持っている人では、肺炎や基礎疾患の悪化により死亡することがあるからです。脳症はインフルエンザB型と比べてインフルエンザA型に多くみられ、発症時期は、発熱後6時間~1日以内が多くみられます。成人例は少ないですが、致死率は65歳以上で20%と高くなっています。
インフルエンザA型の検査・診断
インフルエンザA型の診断には、迅速診断キットを使用する方法が一般的です。迅速診断キットでは、鼻や喉の粘膜から採取した検体を用いてウイルス抗原を検出し、数分で結果を得ることができ、迅速な診断と治療が可能となります。しかし、検査実施のタイミングが早く、採取した検体のウイルス量が少ない場合には偽陰性、つまりインフルエンザA型に感染していますが、検査上は陰性となることがあります。また、新しいインフルエンザ検査機器では、咽頭の画像データや患者の体温、自覚症状などをAIが解析し、インフルエンザに特徴的な所見や症状を検出することが可能です。他にも、より詳しい検査として、血清抗体検査、ウイルス分離、遺伝子検出法などがあります。
インフルエンザA型の治療
インフルエンザ発症早期(48時間以内)に抗ウイルス薬を使用すると、病気の期間を半日から1日程度短縮できると言われ、肺炎などの合併症の減少、入院期間短縮、死亡率の減少などの効果があることも報告されています。そのため、早期診断に基づく、早期治療を行うことが推奨されます。治療には、以下の抗ウイルス薬が使用されます。
また、インフルエンザウイルス曝露後に発症予防を目的として、抗インフルエンザ薬の予防投与が行われることがあります。
タミフル(オセルタミビル)
タミフルは飲み薬です。発症後48時間以内に服用することで、ウイルスの増殖を抑制して、症状の軽減と病気の進行を防ぐことが期待されます。5日間連続で服用することが必要です。
リレンザ(ザナミビル)
リレンザは吸入薬で、ウイルスの増殖を抑制します。吸入薬のため、気道に直接作用し、迅速に効果を発揮します。インフルエンザB型にも効果が高いという報告もあります。
イナビル(ラニナミビル オクタン酸エステル)
イナビルは吸入薬で、単回投与で効果を示します。長時間作用型のため、1回の吸入で効果が持続します。
ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)
ゾフルーザは、単回投与で効果を示す新しいタイプの抗ウイルス薬で、ウイルスの増殖を阻害することが特徴です。
ラピアクタ(ペラミビル)
ラピアクタは点滴静注による投与が必要で、特に重症患者や経口薬が困難な患者に対して使用されます。
これらの抗ウイルス薬を用いることで、インフルエンザA型の症状を軽減し、病気の進行を抑えることができます。治療を受ける際には、医師の指示に従い、適切なタイミングで薬を使用することが重要です。また、解熱鎮痛剤で症状を緩和し、十分な休養と水分補給を行うことも必要です。
インフルエンザA型になりやすい人・予防の方法
インフルエンザA型になりやすい人
インフルエンザA型にかかりやすく、重症化のリスクがあるのは、5歳未満(特に2歳未満)の幼児、65歳以上の高齢者、慢性疾患を持つ人、免疫力が低下している人、妊婦と出産後2週間以内の人です。こういった方は、インフルエンザが重症化するリスクが高く、予防が非常に重要です。
予防の方法
最も効果的な予防策は、毎年のインフルエンザワクチン接種です。ワクチンは、インフルエンザウイルスに対する免疫力を高め、感染や重症化を防ぐ効果があります。加えて、手洗いやうがい、マスクの着用といった日常的な予防策も実施することが推奨されます。健康的な生活習慣を維持し、免疫力を高めることも重要な予防策となります。
参考文献
- 日本感染症学会:一般社団法人日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」.2019年10月24日.
- 日本感染症学会:日本感染症学会提言「今冬のインフルエンザに備えて 治療編〜前回の提言以降の新しいエビデンス〜」.2021年12月21日.
- 高宮光:インフルエンザワクチンの有効率と接種率.インフルエンザ2019;20:177-178
- Okuno II, et al:Characteristics and Out-comes of Influenza Associated encephalopathy Cases Among Children and Adults in Japan.2010-2015, Clin Infect Dis 2018;66:1831-1837.
- Tejada S, et al: Neuraminidase inhibitors and single dose baloxavir are effective and safe in uncomplicated influenza: a meta-analysis of randomized controlled trials. Expert Rev Clin Pharmacol. 2021;14(7):901-18. doi:10.1080/17512433.2021.1917378.