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高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

表皮水疱症の概要

表皮水疱症とは、皮膚を構成する表皮と真皮をつなぐタンパク質が欠損しているため、わずかな刺激で皮膚が水ぶくれ(水疱)になってしまう先天性疾患です。
皮膚は表皮と真皮に分かれており、表皮の一番下には基底膜と呼ばれる膜があります。これらの構造は接着構造分子と呼ばれるタンパク質で強固に結合しており、皮膚の強度が保たれています。
表皮水疱症の患者さんは、この接着構造分子が先天的に少ないかまったくないのが特徴です。
日本国内では、未受診も含めて500~1000人の患者さんがいると推定されています。表皮水疱症は、剥離が起こる部位によって以下のように分類されています。

  • 単純型
  • 接合部型
  • 栄養障害型
  • キンドラー症候群

下記の内容を押さえておきましょう。

単純型

単純型表皮水疱症は、表皮の内部が剥がれて水疱ができる症状で、全体の約4割を占めています。軽症例では水疱が手のひらや足の裏に限定されており、水疱から潰瘍になっても、痕を残さずに自然治癒するケースがほとんどです。重症例では、遅発性の筋力低下や胃の幽門閉鎖を合併する場合があります。

接合部型

接合部型表皮水疱症は、表皮と基底膜の間が剥がれて水疱ができる症状で、全体の約1割を占めています。接合部型のなかでもヘルリッツ型と呼ばれる病型では、生まれたときから全身に水疱やびらんが生じ、敗血症で死亡するケースも少なくありません。非ヘルリッツ型では、頭部の脱毛や爪の変形・歯の異常などを伴いますが、致死的になることはまれです。

栄養障害型

栄養障害型表皮水疱症は、基底膜と真皮の間が剥がれる症状で、全体の約5割を占めています。栄養障害型は、さらに遺伝特性によって優性型と劣性型に分けられています。両親のどちらかが遺伝子変異を持っていると発症するのが優性型で、両親どちらも遺伝子変異を持っていないと発症しないのが劣性型です。劣性栄養障害型表皮水疱症は、出生直後から全身に水疱やびらんが繰り返し生じ、手指が癒着したり食道が閉鎖するなど極めて重症になります。優性栄養障害型表皮水疱症では、出生直後から水疱やびらんを生じますが、成長とともに改善していく患者さんも少なくありません。

キンドラー症候群

キンドラー症候群は、表皮と真皮のさまざまな部位が剥がれて水疱が生じる病気で、患者さんの比率はごくわずかです。かつては別の病気と考えられてきましたが、現在では表皮水疱症のひとつと認定されています。手足に水疱が生じ、全身の皮膚が薄く色素沈着しやすいのが特徴です。日光に過敏になり、皮膚がんに進行するケースも報告されています。

表皮水疱症の原因

表皮水疱症は、遺伝子の異常によって生じる先天性疾患です。人間の身体を構成するタンパク質は約25,000種類あり、表皮水疱症に関連するタンパク質は約20種類が見つかっています。

なかでもケラチン5・ケラチン14・インテグリンα6・インテグリンβ4・プレクチン・ラミニン332・17型コラーゲン・7型コラーゲンが主要な原因物質で、これらのタンパク質を構成する遺伝子に異常が生じて、表皮水疱症となります。

原因となる変異遺伝子には優性遺伝のものと劣性遺伝のものがあり、優性遺伝で子どもが発症する確率は50%です。発症しなかった場合にも、子どもは変異遺伝子のキャリアーとなり、キャリアー同士の子どもは劣性遺伝によって発症する可能性があります。

遺伝子に変異が起こる原因は不明であり、予防法は現在のところありません。

表皮水疱症の前兆や初期症状について

表皮水疱症は先天性疾患であるため、出生直後から症状がでることが少なくありません。目に見える症状だけでなく、生命に危険が及ぶ症状もあるため注意しましょう。表皮水疱症の主な初期症状は、以下の3つです。

  • 皮膚の水疱・びらん
  • 低栄養・鉄欠乏性貧血
  • 皮膚からの感染症

下記の説明を確認しましょう。

皮膚の水疱・びらん

表皮水疱症では、皮膚を構成する表皮と真皮の剥がれによって、皮膚の強度が極端に低いのが特徴です。わずかな刺激や摩擦で皮膚が剥がれ、水疱やびらん状態になります。軽症例では手のひらや足の裏に限定されますが、重症例では全身に症状がおよび、生活の質が著しく低下します。表皮水疱症の治療は皮膚科が中心となるため、症状がある場合は皮膚科を受診してください。

低栄養・鉄欠乏性貧血

栄養障害型の表皮水疱症では、食道や咽頭などの消化管内部にもびらんが生じるため、食事がうまく取れずに栄養不良となる方が少なくありません。また、皮膚の外傷による出血を繰り返すため、鉄欠乏性貧血がよくみられます。貧血や低栄養による体調不良などがある場合は、内科を受診してください。表皮水疱症の治療が必要な場合は、皮膚科と連携して治療を行います。

皮膚からの感染症

皮膚は体内に細菌などが侵入するのを防ぐバリアの役目をしているため、皮膚が弱くなると細菌感染を生じやすくなります。水疱が破れた部分から細菌に感染し、敗血症などで死に至る例も少なくありません。傷口の化膿や皮膚炎が広がっている場合は、早めに皮膚科を受診してください。

表皮水疱症の検査・診断

表皮水疱症が疑われる症例では、医師による視診のほか、病型を確定するために詳しい検査を行います。

表皮水疱症では病型ごとに症状の経過が異なり、治療方針にも影響するため、病型の確定は極めて重要です。

表皮水疱症では、主に以下のような検査で病型を確定します。

  • 電子顕微鏡による皮膚生検
  • 蛍光抗体法による皮膚生検
  • 遺伝子検査

下記の詳細を押さえておきましょう。

電子顕微鏡による皮膚生検

患部の皮膚を採取して、光学顕微鏡よりも倍率の高い電子顕微鏡で異常なタンパク質を特定する検査です。電子顕微鏡では、遺伝子を構成する塩基配列まで見えるため、異常な部分を発見しやすくなります。

蛍光抗体法による皮膚生検

特定の抗原に反応する抗体を蛍光色素で色付けし、皮膚の細胞内に特定の抗原がないかを調べる検査です。異常なタンパク質の発見に用いられ、電子顕微鏡と組み合わせて高い精度で病型を特定できます。

遺伝子検査

患者さんの血液を5ml程採取し、遺伝子の配列を調べる検査です。近年では次世代シーケンサーにより、数千種類の遺伝子を一気に調べられるため、難病の原因解明に役立っています。

表皮水疱症の治療

現在のところ、表皮水疱症を根本的に治す治療法はありませんが、自家培養表皮ジェイスが一つの治療になることがあります。栄養障害型表皮水疱症または接合部型表皮水疱症で、4週間以上持続しているびらん・潰瘍や潰瘍化と再上皮化を繰り返すびらん・潰瘍に対し使用できます。

治療は基本的に対症療法となり、症状の進行を抑えたり、合併症を予防したりするのが目的です。

表皮水疱症の主な治療は、以下の3つです。

  • 皮膚の保護
  • 感染症の治療
  • 合併症の治療

下記の内容を確認しておきましょう。

皮膚の保護

表皮水疱症の治療では、皮膚を保護して水疱をできるだけ生じさせないことが極めて重要です。発生した水疱は穿刺で滲出液を抜いてからガーゼで保護します。潰瘍になっている部位には、軟膏外用と創傷被覆材で湿潤療法を行います。

感染症の治療

水疱が破れた部位や潰瘍面からの細菌感染は、表皮水疱症で特に注意すべき合併症です。細菌感染が生じた場合は、抗菌作用のある外用薬を用いるとともに、抗生物質を内服します。

合併症の治療

表皮水疱症の合併症は、細菌感染のほかにも栄養不良・鉄欠乏性貧血・心不全・腎不全・筋ジストロフィー・幽門閉鎖症などがあります。皮膚科・内科・眼科・歯科などが連携して治療にあたります。皮膚の炎症を繰り返すことにより皮膚がんに進行する場合もあるため、定期的な検診が不可欠です。

表皮水疱症になりやすい人・予防の方法

日本では表皮水疱症の患者さんと遺伝子キャリアーは500~1,000人と推定されているため、キャリアー同士が偶然に結婚する確率は100,000~200,000人に1人です。表皮水疱症の原因となる遺伝子変異が起こる理由はわかっておらず、予防や予測は難しいでしょう。

患者さんの生活では、皮膚を保護して摩擦や刺激を極力避けること・不要不急の外出は控えることが指導されます。栄養を十分に摂取できない場合は、経口栄養剤や点滴による栄養補給が必要になるため、血液検査や骨量検査を定期的に行いましょう。表皮水疱症による栄養不良では、貧血だけでなく骨密度の低下も見られるため、悪化する前に治療を開始します。

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