

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
プロフィールをもっと見る
兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
目次 -INDEX-
巨大児の概要
巨大児(macrosomia)とは、出生時の体重が標準を大きく上回る新生児を指します。 その定義には様々な基準があり、国際的に統一された明確な定義は存在しません。一般的には以下のいずれかの基準で定義されます。- 出生体重が4,000g以上
- 出生体重が4,500g以上
- 在胎週数に対する90パーセンタイル以上(large-for-gestational age, LGA)
巨大児の原因
巨大児の主な原因は、母体と胎児の要因が複雑に絡み合っています。 最も一般的な原因は妊娠糖尿病で、母体の高血糖が胎児の過剰な成長を促進します。母体の血糖値が上昇すると、胎盤を通じて胎児に過剰なブドウ糖が供給され、胎児の膵臓からインスリンが過剰に分泌されます。このインスリンが成長因子として作用し、胎児の過剰成長を引き起こします。 その他の要因として、母体の肥満、過期産(42週以降の出産)、多産婦、男児、遺伝的要因などが挙げられます。また、一部の内分泌疾患(甲状腺機能亢進症など)や、特定の遺伝性疾患(Beckwith-Wiedemann症候群など)も巨大児の原因となることがあります。 母体の体格も重要な要因で、身長が高く、体重が重い女性は巨大児を出産する可能性が高くなります。さらに、妊娠中の過剰な体重増加も巨大児のリスクを高めます。これらの要因が単独または複合的に作用して、胎児の過剰成長を引き起こします。巨大児の前兆や初期症状について
巨大児自体には特定の前兆や初期症状はありませんが、妊娠中に以下のような兆候が見られる場合があります。- 妊婦の腹部が通常より大きく見える
- 子宮底長が妊娠週数に比べて大きい
- 妊婦自身が体重増加を感じる
- 息切れや腰痛などの不快感が強い
巨大児の検査・診断
巨大児の診断は主に以下の方法で行われます。超音波検査
胎児の推定体重、頭囲、腹囲、大腿骨長などを測定します。これにより、胎児の成長パターンや大きさを評価します。母体の体重増加のモニタリング
妊娠中の過剰な体重増加は巨大児のリスクを高めるため、定期的に体重をチェックします。糖負荷試験
妊娠糖尿病のスクリーニングとして行われ、巨大児のリスク評価に重要です。子宮底長の測定
妊娠週数に比べて子宮底長が大きい場合、巨大児の可能性が考えられます。MRI検査
超音波検査で評価が難しい場合に補助的に用いられることがあります。 これらの検査結果を総合的に判断し、巨大児の可能性が高いと判断された場合は、適切な分娩計画を立てます。ただし、出生前の推定体重には誤差があるため、実際の出生時まで確定診断はできません。巨大児の治療
巨大児自体に対する直接的な治療法はありませんが、妊娠中のリスク管理と適切な分娩方法の選択が重要です。妊娠中の管理
- 適切な血糖コントロール(妊娠糖尿病の場合)
- 適切な体重管理と栄養指導
- 定期的な胎児成長のモニタリング
分娩方法の選択
- 経腟分娩か帝王切開かの判断(推定体重、骨盤計測、既往歴などを考慮)
- 必要に応じて計画的帝王切開の検討
分娩時の管理
- 肩甲難産のリスクに備えた準備
- 必要に応じて器械分娩(吸引分娩、鉗子分娩)の検討
新生児管理
- 低血糖のモニタリングと管理
- 呼吸状態の観察
- 外傷の有無の確認
巨大児になりやすい人・予防の方法
巨大児を出産しやすい人
巨大児を出産しやすい人には、妊娠糖尿病や糖尿病の既往がある女性、肥満の女性、過去に巨大児を出産した経験のある女性、高身長の女性、多産婦、高齢妊婦などが含まれます。また、妊娠中の過剰な体重増加も巨大児のリスクを高めます。予防の方法
予防法としては、妊娠前からの適切な体重管理が重要です。肥満の女性は、可能であれば妊娠前に適正体重を目指すことが推奨されます。妊娠中は、適切な栄養摂取と適度な運動を心がけ、過剰な体重増加を避けることが大切です。特に、炭水化物の過剰摂取は避け、バランスの取れた食事を心がけましょう。 妊娠糖尿病のリスクがある女性は、早期からの血糖管理が重要です。妊娠初期の検査で精査が必要となった場合は精査や、必要に応じて適切な治療を開始します。血糖コントロールが必要な場合は、食事療法、運動療法、場合によってはインスリン療法などが行われます。 定期的な産前検診を受け、胎児の成長を適切にモニタリングすることも重要です。胎児が大きくなりすぎている兆候がある場合は、早めに対策を講じることができます。 これらの予防策を総合的に実施することで、巨大児の発生リスクを軽減し、母子の健康を促進することができます。しかし、すべてのケースで予防が可能というわけではありません。巨大児のリスクが高い場合は、医療提供者と綿密に相談し、適切な分娩計画を立てることが重要です。参考文献
- Weissmann-Brenner A, et al. (2012). Maternal and neonatal outcomes of large for gestational age pregnancies. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica, 91(7), 844-849.
- Araujo Júnior E, et al. (2017). Macrosomia. Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynaecology, 38, 83-96.
- Beta J, et al. (2019). Prediction of macrosomia at birth in type-1 and 2 diabetic pregnancies with biomarkers of early placentation. BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology, 126(1), 114-121.
- Ye J, et al. (2015). Searching for the definition of macrosomia through an outcome-based approach in low- and middle-income countries: a secondary analysis of the WHO Global Survey in Africa, Asia and Latin America. BMC Pregnancy and Childbirth, 15, 324.
- American College of Obstetricians and Gynecologists. (2020). Macrosomia: ACOG Practice Bulletin, Number 216. Obstetrics & Gynecology, 135(1), e18-e35.




