監修医師:
伊藤 規絵(医師)
レム睡眠行動障害の概要
レム睡眠行動障害 (rapid eye movement (REM)sleep behavior disorder:RBD)は、睡眠時随伴症の一種で、REM睡眠中に体が動き出してしまう睡眠障害であり、睡眠時随伴症候群(パラソムニア)の一つです。
通常、REM睡眠中は筋肉の緊張が低下し、体が動かなくなりますが、RBDではこの神経調節機能に不具合が生じ、夢の内容に合わせて体が動いてしまいます。主な特徴として50歳以降の男性に多く発症し、加齢とともに増加する傾向があります。
睡眠後半に症状が多く現れる傾向があり、大声での寝言、奇声、暴力的な動き(殴る、蹴るなど)が特徴的です。症状を起こすとすぐに覚醒し、夢の内容を覚えていることが多いようです。
RBDは、パーキンソン病(Parkinson,s disease:PD)、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)、多系統萎縮症(Multiple system atrophy:MSA)などの神経変性疾患と高い頻度で合併することが知られています。これらの疾患に共通するαシヌクレインというタンパク質の蓄積との関連も指摘されています。
診断は主に症状の聴取によって行われますが、確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography;PSG)が用いられます。
治療には主にクロナゼパムなどの薬物療法が用いられますが環境調整も大切です。さらにRBDは単なる睡眠障害ではなく、将来的な神経変性疾患のリスク因子としても注目されており、早期発見と適切な管理が重要です。
レム睡眠行動障害の原因
おもに脳幹部の機能異常に起因すると考えられています。
RBDの直接的な原因は、レム睡眠中に通常起こるべき筋肉の緊張低下(筋弛緩)が適切に機能しないことです。健常者では、脳幹の神経回路がレム睡眠中の筋弛緩を制御していますが、RBD患者ではこの制御機構に障害が生じています。
RBDは多くの場合、神経変性疾患と密接に関連しています。特にPDやDLB、MSAです。これらの疾患に共通する特徴として、αシヌクレインというタンパク質の異常蓄積が挙げられ、この蓄積が脳幹の機能障害を引き起こし、RBDの症状につながる可能性が指摘されています。
その他の原因として、αシヌクレイノパチー以外の神経変性疾患(マシャドジョセフ病 / 脊髄小脳変性症3型や進行性核上性麻痺など)や頭部外傷、脳炎や髄膜炎などの炎症性疾患、アルコール摂取、睡眠不足や特定の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の使用なども指摘されています。
また、明確な原因が特定されていない特発性RBDもありますが、将来的に神経変性疾患を発症するリスクが高い例が含まれている可能性があります。
レム睡眠行動障害の前兆や初期症状について
おもに睡眠中の異常な行動として現れます。
初期段階では、大声で寝言を言う( 睡眠中に突然大きな声で話す)ことや異常な動き(手足を振り回したり、寝ているのに起き上がって歩き出すこと)があります。
また、夢の内容に沿った行動(夢で見ている内容に合わせて、現実でも同様の動きをすること)があります。覚醒後の意識の明瞭さ(異常行動中に起こされるとすぐに覚醒し、夢の内容をはっきり覚えていること)もあるようです。
これらの症状は、特に睡眠の後半に多く現れる傾向があります。初期症状としては、これらの行動が軽度であることもありますが、放置すると症状が進行し、より危険な行動を伴うことがあります。
レム睡眠行動障害の病院探し
脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
レム睡眠行動障害の検査・診断
睡眠中のエピソードに関する問診と臨床症状の評価、睡眠検査によって行われます。
1) 問診
ベッドパートナーからの情報が有用です。睡眠中の異常行動(大声での寝言、叩いたり蹴ったりする暴力的な動きなど)やその症状が睡眠後半に多いこと、起こされるとすぐに覚醒し、夢の内容を覚えているなどを問診で確認します。
2)神経学的診察
PDやDLB、MSAなどの神経変性疾患の合併を確認するために、神経学的診察を行います。小脳症状(体幹・四肢の運動失調や企図時振戦、眼球運動障害など)や錐体外路症状(筋強剛や動作緩慢、無動など)、自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害など)の有無を確認します。
3)PSG
RBDの確定診断には、PSGが不可欠です。この検査では、レム睡眠中の筋緊張の持続(筋弛緩の欠如)や異常行動とレム睡眠の一致の有無、また他の睡眠障害の除外を行います。
4)画像検査
必要に応じて、頭部MRI画像やMIBG心筋シンチグラフィー、ドパミントランスポーターシンチグラフィーでPDやMSAなどの神経変性疾患の評価を行います。これらの総合的な評価により、RBDの診断が行われ、同時に関連する神経変性疾患のリスク評価も可能となります。
鑑別診断
1)non-REM(NREM)睡眠随伴症(ノンレムパラソムニア)
錯乱性覚醒、睡眠時遊行症や睡眠時驚愕症などのノンレムパラソムニアは、RBDと似た症状を呈することがあります。しかし、これらは通常入眠後2時間以内に発生し、患者さんは覚醒しにくく、夢の内容を覚えていないことが多いようです。一方、RBDは睡眠後半に多く、患者さんはすぐに覚醒し、夢の内容を鮮明に覚えています。
2)睡眠関連てんかん
睡眠時てんかんは小児と高齢者に多い傾向があります。前頭葉てんかんや側頭葉てんかんが多いようですが、前者は家族性のこともあります。尿失禁を伴う点や、間欠期脳波で発作波を認める点で鑑別が可能なことがあります。
3) 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
REM期の呼吸イベントからの覚醒後に、RBD様の異常行動を起こすことがあり(pseudo-RBD)ますが、いびきや日中の眠気など、特徴的な症状があります。
4)その他
睡眠関連解離性障害や律動性運動障害なども鑑別の対象となります。
正確な診断には、詳細な病歴聴取とPSGが不可欠です。これらにより、RBDに特徴的なレム睡眠中の筋緊張の持続と異常行動を確認できます。
レム睡眠行動障害の治療
主に薬物療法と非薬物療法の組み合わせで行われます。
1) 薬物療法
主な治療薬としてクロナゼパムが使用されます。これは抗てんかん薬で、レム睡眠中の筋弛緩を促進し、異常行動を抑制する効果があります。リバスチグミンやメマンチンについては、PDに合併するRBDに対する効果が報告されています。高齢者や睡眠時無呼吸症候群を併発している患者さんには、メラトニン作動薬であるラメルテオンが代替薬として使用されることがあります。ただし、いずれの薬剤も適応外使用であることに注意する必要があります。また海外では、メラトニンも推奨されていますが、日本では治療薬として使用できません。
2)非薬物療法
環境調整と生活習慣の改善が重要です。具体的には、睡眠環境の安全確保(ベッドを低くする、危険物の除去など)や、規則正しい睡眠スケジュールの維持、ストレス管理、アルコールやカフェインの摂取制限、適度な運動の実施などの対策が推奨されます。
3)併存疾患への対応
RBDは神経変性疾患の前駆症状である可能性があるため、定期的な経過観察と必要に応じて神経内科的評価を行います。
治療の目標は、症状の軽減と安全性の確保、さらには潜在的な神経変性疾患の早期発見と管理です。個々の患者さんの状態に応じて、これらの治療法を適切に組み合わせることが重要です。
レム睡眠行動障害になりやすい人・予防の方法
主に中高年の男性で、特に50歳以上に多く見られます。この障害は、PDやRBD、MSAといった神経変性疾患と関連しており、これらの疾患を持つ人々に高頻度で発症します。予防の方法としては、ストレスの管理や生活習慣の改善が挙げられます。
具体的には、規則正しい睡眠習慣を維持し、アルコールやカフェインの摂取を控えることが推奨されます。また、睡眠環境を整えることも重要です。ベッドを低くしたり、布団で寝るなどの転倒のリスクを減らす工夫をします。また寝室から鋭利な物や壊れやすい物など危険物の除去を行います。ただし、RBDは神経変性疾患と関連している可能性があるため、症状が現れた場合は早めに専門医に相談することが重要です。
参考文献
- Rapid eye movement (REM)睡眠行動障害の診断,告知,治療
- https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/rem_sleep_behavior_disorder
- 伊藤規絵著:ねころんで読める歩行障害 メディカ出版,大阪,2023