監修医師:
西田 陽登(医師)
ヌーナン症候群の概要
ヌーナン症候群は、1962年にアメリカの小児心臓医であるジャクリーン・ヌーナン氏が報告した疾患で、先天性な遺伝子異常が原因で発症し、平成27年7月1日より指定難病の医療費補助対象となっています。
特徴としては、身体的特徴や発達遅延、心臓の異常を伴いますが、すべての方が同じような症状を呈するとは限りません。
なお、日本における発症率は、10,000に1人程度といわれており、現在では約600人の患者数がいると報告されています。
ヌーナン症候群は、症状の重症度によって大きく異なり、合併する心疾患が生命予後に影響を与える可能性がありますが、適切な医療管理と支援を受けることで、生命予後に大きな問題はなく、多くの場合は日常生活を送れるため、早期の診断と適切なケアが重要です。
ヌーナン症候群の原因
ヌーナン症候群の原因は、主に遺伝子の異常といわれています。
具体的な遺伝子として、「RAS-MAPKシグナル伝達経路」に関係する分子のPTPN11・SOS1・RAF1・RIT1・KRAS・BRAF・NRAS・SHOC2・CBL遺伝子などが重要ですが、ヌーナン症候群の場合はこれらの遺伝子が、生まれつき異常な状態であることが報告されています。
ヌーナン症候群の前兆や初期症状について
ヌーナン症候群の前兆や初期症状は、主に出生時から乳児期にかけて現れることが多く、下記のような身体的な特徴や発達の遅れが確認されます。
顔貌
最初に気づかれることが多いのは、顔の特徴的な外観です。具体的には、高く幅広い額、両目が離れている、低い耳、下がったまぶた、短い首などがみられます。
また、成長に伴い顔は三角形に近づいていき、皮膚のシワが顕著になります。
身長・体表の変化
成長の遅れもヌーナン症候群の初期症状の1つです。
出生時の身長は正常範囲内であっても、その後の成長が遅く、小柄な体型となる傾向です。
その他にも、みぞおち付近が凹む漏斗胸や、足の裏が内側に向いている内反尖足などの症状がみられます。
心臓
心臓の異常もヌーナン症候群の初期症状で、多くのヌーナン症候群の子どもは先天性心疾患がみられます。
肺動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症などが代表的です。
血液
血液が固まりにくくなるなど、血液の異常を伴う場合があります。
また、血液のがんの1種である白血病を合併することもあります。
精神発達
発達面の遅れがあり、学習障害や知的障害、統合運動障害などがみられる場合があります。
上記のような症状に気が付いた場合は、早めに医療機関の小児科を受診しましょう。
ヌーナン症候群は、早期に発見して適切な医療ケアを受けることで、症状を管理し、生活の質を向上させることが可能です。
ヌーナン症候群の検査・診断
ヌーナン症候群の検査・診断には、Ineke van der Burgtらが提唱した評価基準が主に使用されています。
この評価基準では下記の6項目をそれぞれ主な症状である「A=主症状」と、主症状に追加して現れる症状の「B=副次的症状」を複合的に評価して診断します。
顔貌
A=主症状
典型的な顔貌
B=副次的症状
本症候群を示唆する顔貌
心臓
A=主症状
肺動脈弁狭窄、閉塞性肥大型心筋症、またはヌーナン症候群に特徴的な心電図所見
B=副次的症状
上記以外の心疾患
身
A=主症状
3パーセンタイル未満
B=副次的症状
10パーセンタイル未満
胸郭
A=主症状
鳩胸、漏斗胸
B=副次的症状
広い胸郭
家族歴
A=主症状
第1度親近者に確実なヌーナン症候群の患者あり
B=副次的症状
第1度親近者にヌーナン症候群が疑われる患者あり
その他
A=主症状:次の全てを満たす(男性)
精神遅滞、停留精巣、リンパ管形成異常
B=副次的症状
精神遅滞、停留精巣、リンパ管形成異常のうち1つ
確実なヌーナン症候群の要件を満たしたあとに、遺伝子検査をおこなった結果、「RAS-MAPKシグナル伝達経路」に異常がみつかった場合にヌーナン症候群の確定診断をおこないます。
ただし、臨床遺伝専門医による診断が推奨されています。
ヌーナン症候群の治療
ヌーナン症候群の治療は、患者さんの症状や重症度に応じて異なります。
心臓に問題がある場合は、フォローを行いながら、必要に応じて薬物療法や手術療法などをおこないます。
また、成長の遅れがみられる子どもに対しては、成長ホルモンの投与を行うことで、成長を促進し、最終的な身長を改善することが期待されます。
その他にも、発達障害に対しては、なるべく早期に発達を遂げるための支援を行います。
ヌーナン症候群になりやすい人・予防の方法
ヌーナン症候群は、遺伝子の異常が原因で発症する先天性疾患のため、特別な予防方法などはありません。
ヌーナン症候群の多くは、家族の中でその病気を持っている人がほかにいない「孤発例」として現れますが、ヌーナン症候群を持つ親がいる場合は、子どもも同じ遺伝子を受け継ぐ可能性があります。
ただ、親がヌーナン症候群の既往があるからといって必ずしも子どもが発症するわけではないので、その点には注意が必要です。
参考文献