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野球肘
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

野球肘の概要

野球肘は、繰り返される投球動作によって肘に生じる障害の総称です。発症する時期によって小児期型野球肘と成人型野球肘に分類され、さらに部位によって内側型・外側型・後側型の3種類に分類されます。小児期型野球肘では外側型の上腕骨小頭離断性骨軟骨炎が、成人期では内側型の内側側副靱帯損傷が多いとされています。

野球肘の多くは投手に発症し、投球動作によって肘関節に強い外反(肘が外に開く動き)、回内(前腕を内側に捻る動き)、伸展(肘が伸びる動き)のストレスがかかることで生じます。初期症状では特に大きな症状がないため見逃されやすく、徐々に強い痛みや可動域制限、握力の低下などの症状が見られることが特徴です。

腕のパワーだけで投げようとするピッチャーに発症することが多く、股関節や体幹の柔軟性が低下している選手は特に注意が必要です。股関節での柔軟な重心移動ができないため、腕のパワーに頼ることになり、肘にかかる負担も大きくなると考えられています。

野球肘を発症した場合、痛みが引くまで投球動作を禁止し、安静にしないといけません。痛みが引くまでは股関節や体幹のストレッチや前腕筋群のストレッチ・マッサージを行います。痛みが引いてきたら徐々に肘・手関節の筋力強化、ピッチング練習を行い、痛みが出ないフォームを模索していきます。

このような保存療法でも経過が良くない場合には、手術を行います。離断生骨軟骨炎では分離した骨片の除去、内側側副靱帯損傷では損傷した靭帯の再建術を行うことが一般的です。しかし小児期で手術に踏み切ることはまれで、成人型で痛みが引かない場合に検討することがほとんどです。

野球肘

野球肘の原因

野球肘の原因は繰り返される投球動作です。投球時は肘に外反・回内の力が強くかかるため、肘にかかる負担が大きくなり痛みが生じると考えられています。小児期型野球肘は、成熟しきっていない骨の剥離や骨端線(成長期特有の骨断端にある隙間)の離開、成人型野球肘は関節軟骨や骨棘、筋と腱の付着部、靭帯の障害によって起こります。

内側型・外側型・後方型でもそれぞれ以下のように原因が異なります。

内側型

内側型は投球動作による肘の外反・回内により、肘の内側にある屈筋・回内筋が強く働き、内側の筋腱付着部・靭帯が伸びることが原因です。内側側副靱帯損傷や、手関節屈筋や肘回内筋の筋膜炎、内側上果の骨端線離開などが起こります。

外側型

外側型は投球時の肘の外反により、外側の骨に強く加わった圧迫力によって上腕骨や橈骨が損傷されることが原因です。離断性骨軟骨炎や橈骨頭障害などが起こります。

後方型

後方型は、投球最終期での肘の外反と伸展による上腕骨と肘の骨の衝突にともなう骨の損傷が原因です。骨がぶつかることでできる骨棘(衝突によってできる骨の増殖組織)も痛みの原因となります。肘頭疲労骨折や肘頭の骨棘などが起こります。

野球肘の前兆や初期症状について

野球肘は前兆となる自覚症状が乏しく、はっきりと症状を訴えることが少ないのが特徴です。痛みや可動域制限といった症状を訴える時には重症化していることが少なくありません。

野球肘は選手本人の自覚症状が乏しいため、チームの指導者やトレーナーが見極めることが大切になります。初期では他者が外反を強制することで痛みを訴えることや、筋肉や骨への圧痛や可動域の左右差が見られることがあるため、日々のチェックが重要です。

野球肘の検査・診断

野球肘の検査は理学所見やエコー診断、レントゲン・MRIなどの画像診断で行います。

理学所見

理学初見では、肘に対する外反ストレステストや、筋肉や骨の圧痛、可動域のチェックを行います。外反ストレステストでの痛みや圧痛、可動域の左右差があれば野球肘の可能性があります。しかし、理学所見のみで野球肘と確定診断はできず、特に初期段階では理学初見で野球肘を発見するのは困難です。

エコー診断

エコー診断は理学所見で痛みがない野球肘の発見に役立ちます。特に野球肘は初期症状が少なく、痛みがなくても炎症が起きている可能性はあるので、早期発見のためにエコー診断は重要です。

炎症の発見のみに着眼すればMRIでも可能ですが、エコー診断は現場で発見できる利点があります。ポータブルエコーであればどこでも使えるので、選手の定期ケアなどで早期に発見できる可能性も高くなります。

レントゲン・MRIなどの画像診断

レントゲン・MRIなどの画像診断ではエコーよりも正確な診断が可能です。骨棘や離断性骨軟骨炎はレントゲンでも発見できますが初期段階では見落とされることもあるため、初期段階ではMRIの方が炎症や病変の特定に向いています。

野球肘の治療

野球肘の治療では第一に安静を考えます。安静にするだけでなく、消炎鎮痛剤や湿布、肘を中心とした上肢全体のマッサージ・ストレッチで痛みの緩和も図ります。

痛みが落ち着いてきた段階で徐々に肘や手関節の筋力トレーニングを導入し、負荷量を上げていきます。投球練習ではいきなり全力投球はせず、キャッチボールやシャドーピッチングで投球フォームの改善を図らないといけません。上肢の使い方はもちろん、軸足からの体重移動などを意識することで腕にかかる負担の軽減を図ります。

野球肘の治療は多くが手術をしない保存療法で改善しますが、保存療法で痛みが引かない場合は手術も検討します。適応となる手術は、骨棘や骨片などを取り除くクリーニング手術や、損傷した腱や靭帯を再建するトミー・ジョン術などです。特にトミー・ジョン術はアマチュアからプロ選手まで幅広い野球選手が受けている術式です。

野球肘になりやすい人・予防の方法

野球肘は股関節や体幹の柔軟性が悪い人に発症しやすい傾向があります。精度の高い投球をするためには股関節によるスムーズな重心移動と、上方向への体幹の伸び上がりが必要ですが、股関節や体幹が硬いとこれらの要素が不足します。その不足を補うために肘の力に頼って球を投げることにより、野球肘のリスクが高まります。その他には1試合での投球数が多かったり、登板間隔(投手が次の試合まで出場するまでの期間)が短かったり、球速が速いことも野球肘になりやすい原因です。

予防方法は、全身のストレッチやケアをしっかりすることが大切です。肘に負担がかからない体作りやダメージの蓄積を軽減することで、野球肘の発症を抑えられます。

投球数や登板間隔、投球フォームの改善も野球肘の予防には重要です。少しでも痛みや違和感がある場合にはチーム関係者に速やかに報告し、野球肘の原因となる要素を取り除けるようにしましょう。


関連する病気

  • 内側側副靱帯損傷(ないそくそくふくじんたい損傷)
  • 内側上果の骨端線離開
  • 離断性骨軟骨炎(だんりせいこつなんこつえん)
  • 橈骨頭障害
  • 肘頭疲労骨折

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