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腰椎圧迫骨折
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

腰椎圧迫骨折の概要

腰椎圧迫骨折は、脊椎の一部である腰椎が圧力によってつぶれてしまう状態を指します。腰椎は、背骨の腰の部分を構成する骨で、体を支える重要な役割を担っています。この部分が何らかの理由で外部から強い圧力を受けたり、骨自体が弱くなったりすると、骨折が起こることがあります。
特に高齢者や骨粗しょう症の患者では、軽い転倒や体のひねりなど、日常的な動作でも骨折が起こりやすいです。腰椎圧迫骨折が発生すると、激しい腰痛が現れ、体を動かすのが困難になります。
疼痛は耐えられる程度で医療介入なしで解消する場合もありますが、他の画像検査で偶然骨折が見つかった場合、患者は疼痛エピソードを思い出すことが多いです。また、骨折によって背骨が変形し、姿勢に影響を及ぼすことがあります。骨折が重症の場合、神経が圧迫され、脚や臀部にしびれや麻痺が生じることもあります。
腰椎圧迫骨折は、放置すると長期間にわたって慢性的な痛みや運動障害を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
特に、高齢者や骨密度の低下が進んでいる人に多く見られる疾患です。

腰椎圧迫骨折の原因

腰椎圧迫骨折は、主に外部からの圧力や骨の強度低下によって引き起こされます。
以下は、腰椎圧迫骨折の主な原因です。

骨粗しょう症

最も一般的な原因は、骨粗しょう症です。骨粗しょう症は、骨の密度が減少し、脆くなる病気で、特に閉経後の女性や高齢者に多く見られます。骨粗しょう症の患者は、わずかな転倒や無理な姿勢でも骨折を引き起こすリスクが高くなります。圧迫骨折は、通常の活動や軽い事故でも発生することがあり、特に背骨がその影響を受けやすいです。

外傷や事故

若年層や中高年でも、外部から強い力が加わることで腰椎圧迫骨折が起こることがあります。例えば、交通事故やスポーツ中の激しい衝突、転倒などが原因となることがあります。これらの外的要因により、腰椎に瞬間的な高圧力がかかり、骨がつぶれるように骨折してしまいます。

癌(転移性骨腫瘍)

一部の癌患者では、がん細胞が骨に転移し、骨が脆くなることで腰椎圧迫骨折が発生することがあります。特に乳がん、肺がん、前立腺がんなどは、骨への転移が比較的多い疾患です。転移したがん細胞が骨を侵食し、骨の強度が著しく低下するため、圧迫骨折を引き起こす可能性があります。

加齢

加齢そのものも、腰椎圧迫骨折のリスク要因です。歳を重ねると、骨の新陳代謝が低下し、骨の強度が減少します。また、年齢とともに筋力も低下し、転倒するリスクが高まるため、腰椎圧迫骨折を引き起こしやすくなります。

骨の疾患

その他の骨の疾患、たとえば骨軟化症や骨形成不全症などがある場合、骨が異常に弱くなり、圧迫骨折を引き起こす可能性があります。

腰椎圧迫骨折の前兆や初期症状について

腰椎圧迫骨折は、通常、突然の激しい痛みを伴いますが、症状の進行具合や個人の状況によっては、軽度の痛みから始まることもあります。
以下は、腰椎圧迫骨折の前兆や初期症状です。

突然の腰痛

圧迫骨折の最も一般的な症状は、突然の腰痛です。特に転倒や重い物を持ち上げた後に、急に腰に強い痛みを感じることが多いです。この痛みは、動くと悪化し、横になっている時や休息中に軽減されることがありますが、完全には消えないことが多いです。

背中の圧迫感や違和感

腰椎が圧迫されて骨折すると、背中全体に圧迫感や違和感を感じることがあります。初期の段階では、単なる背中の疲れや張りのように感じることもありますが、時間が経つにつれて痛みが増していくことがよくあります。

身長の低下

複数の腰椎圧迫骨折が発生すると、背骨がつぶれて身長が低下することがあります。特に、骨粗しょう症を抱える高齢者では、数センチメートル単位で身長が低くなることがあり、これは腰椎圧迫骨折の典型的なサインです。

姿勢の変化(円背)

骨折によって背骨の形が崩れると、背中が丸くなり、いわゆる「円背(猫背)」の状態になることがあります。これは、骨折による変形の結果であり、特に複数の圧迫骨折が発生した場合に顕著になります。

足やお尻のしびれ・筋力低下

骨折が重度で神経が圧迫されると、足やお尻にしびれや筋力低下が生じることがあります。これは、腰椎の周囲にある神経が圧迫され、正常な神経伝達が妨げられるためです。進行すると、日常的な動作や歩行にも支障をきたす可能性があります。

腰椎圧迫骨折の検査・診断

腰椎圧迫骨折が疑われる場合、医師は患者の症状や過去の病歴を確認し、身体的な検査や画像検査を行って診断を確定します。

問診と身体検査

まず、医師は患者の症状の経緯や痛みの場所、程度などを聞き取ります。特に、いつから痛みが始まったか、何がきっかけで痛みが悪化したか、過去に骨粗しょう症や転倒の経験があるかどうかが重要です。次に、腰や背中を触診し、圧痛のある場所や姿勢の変化を確認します。また、神経が圧迫されているかどうかを確認するために、足の感覚や筋力のテストも行います。

X線検査

X線検査は、腰椎圧迫骨折を確認するための基本的な検査です。X線を用いることで、腰椎の形や骨の変形を確認できます。特に、椎体がつぶれているかどうかを明確に見ることができます。

CTスキャン

CTスキャンは、骨折の詳細を確認するために使用されます。腰椎の断面画像を取得することで、骨折の正確な位置や、他の骨への影響を評価できます。また、骨折が単純なものか、複雑なものかを判断するのにも役立ちます。

MRI検査

MRIは、骨だけでなく、椎間板や神経、軟部組織の状態も評価できる検査です。特に神経が圧迫されている場合や、骨折によって神経症状が出ている場合には、MRIが有効です。また、腫瘍や感染症が原因で骨折が発生している場合も、MRIで確認することができます。

骨密度測定

骨粗しょう症が原因で骨折が発生した可能性がある場合、骨密度測定が行われます。これにより、骨の強度や骨密度が評価され、今後の治療や予防対策に役立ちます。

腰椎圧迫骨折の治療

腰椎圧迫骨折の治療法は、骨折の重症度や患者の全体的な健康状態に基づいて選択されます。軽度の骨折では、保存的治療が中心となりますが、重度の場合や神経症状がある場合には、手術が検討されることがあります。

保存的治療

  • 安静
    軽度の圧迫骨折の場合、まずは安静が重要です。骨が癒合するまでの間、無理な動作を避け、ベッド上での安静を保つことで、骨折の治癒を促します。
  • コルセットの使用
    腰部を固定し、骨折部位を安定させるために、コルセットやブレースが使用されます。これにより、痛みを軽減し、骨の治癒をサポートします。コルセットの装着は、数週間から数か月にわたり、医師の指導に従って行います。
  • 鎮痛薬
    痛みを和らげるために、鎮痛薬が処方されることがあります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが一般的に使用されます。強い痛みがある場合には、オピオイドが一時的に処方されることもあります。
  • 理学療法
    骨がある程度癒合した段階で、理学療法が開始されることがあります。理学療法では、腰や背中の筋肉を強化し、再発を防ぐためのエクササイズが行われます。これにより、背骨の安定性が向上し、日常生活に早く復帰できるようになります。

手術療法

  • 経皮的椎体形成術(バルーンカイフォプラスティ:BKP)
    この手術は、骨折した椎骨の中にバルーンを挿入して膨らませ、その後に骨セメントを注入することで、椎骨を安定させる方法です。この手術により、痛みの軽減と骨の再構築が期待されます。比較的低侵襲な手術で、早期に回復できることが特徴です。
  • 脊椎固定術
    重度の圧迫骨折や、椎骨が大きく変形している場合、脊椎固定術が行われることがあります。この手術では、椎骨を金属製のネジやプレートで固定し、背骨の安定性を保ちます。この方法は、骨折による背骨の不安定性を根本的に解消するための治療です。

腰椎圧迫骨折になりやすい人・予防の方法

腰椎圧迫骨折になりやすい人

腰椎圧迫骨折は、特定の要因を持つ人々に発症しやすい傾向があります。
以下は、腰椎圧迫骨折のリスクが高い人々です。

  • 骨粗しょう症の患者
    骨密度が低下しているため、軽い衝撃や日常的な動作でも骨折しやすくなります。
  • 高齢者
    加齢による骨の弱化や筋力の低下により、転倒や事故のリスクが高く、圧迫骨折を起こしやすいです。
  • 閉経後の女性
    エストロゲンの減少により骨密度が低下し、骨粗しょう症が進行しやすいため、腰椎圧迫骨折のリスクが高まります。
  • 骨転移のあるがん患者
    骨に転移したがん細胞が骨を弱らせ、圧迫骨折を引き起こすことがあります。

予防の方法

腰椎圧迫骨折を予防するためには、以下のような生活習慣や対策が有効です。

  • 骨密度を保つ
    骨粗しょう症を予防するために、カルシウムやビタミンDを十分に摂取することが重要です。また、骨を強化するために、適度な運動を行うことが推奨されます。特に、ウォーキングや筋力トレーニングは、骨密度の維持に役立ちます。
  • 転倒防止
    高齢者や骨粗しょう症の患者は、転倒を防ぐための工夫が必要です。例えば、家の中の障害物を取り除いたり、滑りにくい靴を履いたりすることで、転倒のリスクを減らすことができます。
  • 定期的な骨密度検査
    骨粗しょう症のリスクが高い人は、定期的に骨密度を測定し、骨の健康状態をチェックすることが重要です。早期に骨密度の低下を発見することで、予防的な治療を開始することができます。
  • 適切な運動
    腰や背中の筋肉を強化するために、適度な運動を取り入れることが推奨されます。特に、体幹を鍛えるエクササイズは、背骨を支える筋肉を強化し、骨折を防ぐ効果があります。

腰椎圧迫骨折は、高齢者や骨粗しょう症の患者に多く見られる疾患ですが、適切な予防と早期の治療によって、合併症を防ぎ、快適な生活を維持することが可能です。


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