監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
ばね指の概要
ばね指は、手指を曲げるための屈筋腱と、屈筋腱の浮き上がりを抑え、力を伝える役割を果たす靱帯性腱鞘(じんたいせいけんしょう)に関連する障害です。
指を曲げる動作は、前腕の筋肉から手指の屈筋腱に伝わります。屈筋腱がベルトのように靭帯性腱鞘の中を移動し、指の曲げ伸ばしが行われますが、靭帯性腱鞘が何らかの理由で厚くなると、屈筋腱が靭帯性腱鞘に引っかかり、動きが妨げられます。そこへ力を入れて引っかかりが解消される際に、ばねのように指が跳ねる現象が起こります。これがばね指の主な特徴です。
ばね指の発生は、主に手の過度な使用によって引き起こされることが多いとされ、主に女性にみられる傾向にあります。これには、妊娠、産後、更年期などの女性ホルモンの変化が関与していると考えられています。
また、糖尿病患者さんにも見られる傾向があります。
ばね指が放置されると、指の関節が硬くなる拘縮を引き起こし、動きが困難になる可能性が高まります。
ばね指の診断では、指の曲げ伸ばしの際の痛みや腫れなどを診ます。ばね指が主に見られるのは、親指、中指、薬指です。
ばね指の症状が見られた場合は、整形外科の受診が推奨されます。放置していると、症状は徐々に進行し、治療が困難になることがあります。そのため、早期の診断と治療が重要とされています。
ばね指の原因
ばね指は、手指の屈筋腱と腱鞘に炎症が発生し、引き起こされる疾患です。炎症は主に手の過度な使用から起こり、例えばキーボード操作やマウスの使用、ゴルフやテニスのような手を多用するスポーツ、ピアノの演奏などが原因で起こります。
また、家事など日常生活の動作も、指の屈曲を頻繁に行うため、ばね指のリスクを増加させます。
女性においては、妊娠、産後、更年期といったホルモンバランスの大きく変化する時期に、血行不良が生じやすくなり、それによって腱鞘が狭窄しやすくなるため、ばね指の発症率が高まるとされています。
また、関節リウマチや糖尿病といった疾患がある場合も、末梢の血行不良が腱鞘の炎症を促し、ばね指のリスクが増加します。
ばね指は、腱鞘内の摩擦や圧迫により、指の曲げ伸ばしがスムーズに行えなくなることが特徴です。なかでも親指や中指に多く見られ、重症化すると痛みや動きの制限が顕著になり、日常生活に支障をきたすこともあります。そのため、早期の治療と適切な手の使用が重要とされています。
このような背景から、ばね指は、生活習慣や健康状態を見直す契機ともなり得ます。
ばね指の前兆や初期症状について
ばね指の前兆と初期症状は、主に指の使用に起因し、適切な対処を行わないでいると症状の悪化につながることがあります。
初期症状として、手のひら側の指の付け根に痛み、腫れ、熱感が現れることがあります。特に指の曲げ伸ばし時にスムーズでなく、引っかかる感じやこわばりが感じられる場合、ばね指の可能性が高いと考えられます。指が曲がった状態から伸ばす際に、ばねのように跳ねる現象が起こることが特徴です。
また、朝起きたときに指の動きが硬く感じられ、日中の活動によって徐々に改善するのも、ばね指の症状の1つです。しかし、放置すると指の動きが制限され、関節拘縮を引き起こす可能性があるため、初期段階での対応が重要です。
これらの症状がみられた場合、 整形外科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
症状が軽度の場合は、安静や指の使用を控えることで改善に向かうこともありますが、症状が進行している場合は、さらなる医療的介入が必要になることがあります。
早期発見と適切な治療が重要です。
ばね指の検査・診断
ばね指の検査は、問診、触診、超音波検査、レントゲン検査などを行います。診断は、検査結果をもとに、他の疾患との鑑別に注意しながら、診断されます。
まず、問診では、指の痛み、腫れ、ばね現象の有無について確認します。次に、手のひら側の指の付け根に圧痛があるかどうかを触診で評価し、指の動きを観察し、指が曲がった状態から伸ばす際に引っかかりを感じるかどうかを確認します。
さらに、診断を補助するために画像診断も利用されます。
超音波検査(US)は、腱と腱鞘の間の異常や腱の引っかかる箇所を具体的に視覚化し、炎症の程度を評価するのに役立ちます。
また、MRI検査は、症状が繰り返し出る場合や、他の原因が疑われる場合に行われることがあります。
レントゲン検査は、手を酷使している方の指関節の変形など、他の疾患との鑑別や稀な腫瘍などを区別するためにも行われることがあります。ばね指は腱の炎症のため、レントゲン検査を行っても、通常、骨に異常が見られることはありません。
ばね指は一般的には症状と臨床所見により診断されますが、これらの補助検査は症状の原因を明確にし、適切な治療計画を立てるのに重要です。
特に糖尿病や透析患者さん、関節リウマチを持つ方では、症状が多発する可能性があるため、これらの検査を通じて広範な評価を行うことが推奨されます。
ばね指の治療
ばね指の治療は、症状の重さや個々の生活状況により異なりますが、主に保存的療法と手術療法の二つに分けられます。
保存的療法
ばね指の初期段階で炎症が軽度の場合、局所の安静や投薬が行われます。
炎症が改善したら、手指の屈伸運動を40度前後の温水中で行うことが推奨されます。1日3回に分けて、10〜20分程を目安に行います。これにより、腱と腱鞘の炎症が軽減され、症状の改善が期待できます。
上記の運動だけで改善が見られない場合、また、痛みが強く、ばね現象がない、あるいは軽い場合は、炎症を抑えるために腱鞘内へのステロイド注射が行われます。この方法は、約60%の患者さんに半年以上の症状緩和をもたらすとされています。
また、症状が慢性化している場合や、ステロイド注射での改善が見られない場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬の処方や、体外衝撃波治療が考慮されることもあります。これらの治療は、炎症を抑えること、痛みの緩和に焦点を当てています。
数回の注射を行っても症状がぶり返す場合は、手術が必要となります。
手術療法
保存的療法で効果が見られない場合や、症状が重度で日常生活に支障をきたしている場合には、手術が選択されます。
手術は局所麻酔下で行われ、腱鞘を切開し、腱がスムーズに動くようにするのが目的です。
手術は短時間で完了し、術後の回復も早いとされていますが、痛みの消失や機能回復には数週間を要することもあります。
どの治療方法を選択するかは、患者さんの症状や、生活の質、そして潜在的なリスクなどを総合的に考慮したうえで、医師との相談により決定されます。
特に繰り返し発生するばね指の場合や、日常生活に大きな支障をきたしている場合には、積極的な治療が推奨されます。
ばね指になりやすい人・予防の方法
ばね指は主に指の酷使で起こりますが、女性ホルモンや糖尿病などの疾患も関係するといわれています。
ばね指になりやすい人
ばね指になりやすい方には、以下のような特徴が見られます。
- 更年期の女性:女性ホルモンの変動が指の腱や腱鞘に影響を与える可能性があります。
- 妊娠・産後の女性:この時期にも女性ホルモンの急激な変化があり、同様に腱鞘炎のリスクが高まります。
- 手を頻繁に使う方:パソコン作業、縫い物、楽器演奏、スポーツなど、手を酷使する方は注意が必要です。
- 慢性疾患を持つ方:糖尿病、関節リウマチ、透析患者さんなど、これらの条件は腱鞘炎を引き起こす可能性が高いとされています。
ばね指の予防方法
ばね指の治療には時間がかかるため、まずは発症の予防が大切です。
また、一度発症し完治した場合でも、再発を防ぐため、以下のような対策を講じることをおすすめします。
- 適切な休息を取る:長時間同じ動作を続けることは避け、定期的に手指の休息を取りましょう。手首への負担を減らすためのグッズの使用などもおすすめです。
- 温水での手指運動:毎日、40度前後のお湯で手指の屈伸運動を行うことで、腱と腱鞘の柔軟性を保ちます。
- ストレッチと強化運動:ストレッチで腱の緊張や腱鞘との摩擦の軽減や、血行を改善し、手指の筋肉を強化します。また、柔軟性を高める運動を行うことで、腱鞘炎のリスクを減らすことにつながります。
- 栄養バランスのいい食事:全体的な健康を支える栄養豊富な食事を心がけ、慢性病の管理にも努めましょう。特に糖尿病患者さんは、日常生活で血糖コントロールをしっかりと行うことが重要となります。