監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
変形性膝関節症の概要
膝関節の軟骨がすり減り、関節の変形や痛みを引き起こす慢性の関節疾患のことを変形性膝関節症といいます。
変形性膝関節症は女性に多くみられ、高齢者になるほど発症率が高くなる傾向です。
膝関節の軟骨は、太ももの骨である大腿骨、スネの骨である脛骨の間に存在し、関節の滑らかな動きを可能にします。
しかし、この軟骨がすり減ると、骨同士が直接擦れ合い、痛みや炎症を引き起こします。
さらに、膝関節の周囲にも影響を受けて、腫れや膝に水がたまるなどの症状がみられる場合があります。
変形性膝関節症になると、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を大きく低下させるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症の発症には、下記のようなさまざまな原因が関与しています。
加齢
関節軟骨は年齢とともに弾力性を失い、荷重時のクッションの役割を果たせなくなり、その結果、使いすぎによってすり減り、関節が変形し、炎症を起こして痛みを生じます。
性別
変形性膝関節症は、60歳以上では女性は男性の約1.5〜2倍の有病率になることがわかっています。
その理由として、女性ホルモンの減少が大きな理由です。
骨・軟骨・筋肉が健康に保たれるには、女性ホルモンの1種類であるエストロゲンが関係していると考えられており、エストロゲンの分泌量は、閉経後に急激に減るため、60歳以上になると発症率が高くなるといわれています。
肥満
体重量が増加すると合わせて、膝関節にかかる負荷も高くなります。
そのため、体格指数であるBMIが25以上ある場合は、膝関節への負担が増えて、変形性膝関節症になりやすいといわれています。
膝関節の外傷
スポーツ外傷、日常の小さな怪我、事故などによる膝関節の怪我や、手術歴がある場合は関節が正常に機能しなくなり、変形性膝関節症を発症するリスクが高まります。
筋力不足
膝関節周りの筋肉が弱いと、関節にかかる負担が増加します。
平地歩行や階段、立ち上がり動作など1回では問題ない動きでも、繰り返しおこなうことで、膝関節にストレスがかかった結果、軟骨が擦り減り、関節の隙間が狭くなることで痛みが出てきます。
変形性膝関節症の前兆や初期症状について
変形性膝関節症は、時間の経過とともに、症状が悪化してしまうため、早期に発見し適切に対処することが重要です。
下記に変形性膝関節症の前兆や初期症状について詳しく説明します。
前兆
前兆の段階では、膝関節に軽い違和感や不快感のある場合があり、特に長時間座っていたあとや、歩き始めたときにその違和感が強くなります。
また、運動後や長時間の立ち仕事のあとに、膝関節が腫れるような症状がみられた場合は、関節液が増加し、関節内で炎症が起こっているサインになるため注意が必要です。
初期症状
変形性膝関節症による初期の痛みは、主に運動後や朝起きた直後に感じることが多い傾向で、この痛みは徐々に悪化し、日常生活に支障をきたすようになります。
また、膝関節を動かす際に、ゴリゴリ、ギシギシといった音がすることがあります。
これは、軟骨がすり減り、骨同士が擦れ合うことによるものです。
このように、動きが制限されるだけでなく、朝や長時間座った後に、膝関節がこわばり、動かしにくくなります。
上記のような初期症状が進行すると、次のような症状が現れることがあります。
持続的な痛み
動作時だけでなく、休息時にも膝関節に痛みを感じるようになり、その痛みで夜中に目が覚めることもあります。
関節の変形
膝関節が変形し、見た目にも腫れや膨らみが確認できます。
また、O脚やX脚になったり、変形のために膝が曲がりづらくなったりします。
歩行困難
痛みや関節の変形により、歩行することが難しくなり、杖や歩行補助具が必要になることがあります。
変形性膝関節症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。
変形性膝関節症は膝関節の変形による痛みと機能障害を引き起こし、整形外科で診断と治療が行われています。
変形性膝関節症の検査・診断
変形性膝関節症を適切に治療するためには、正確な検査や診断は欠かせません。
ここでは、変形性膝関節症に対して、一般的に行われる検査。診断方法について説明します。
問診
患者さんの主な症状、痛みの程度や持続時間、痛みが発生するタイミングなどを詳細に問診します。
また合わせて、過去の膝関節への怪我や手術歴、ほかの関節疾患の有無、家族歴なども確認します。
身体診察
膝関節の外観を観察し、腫れや変形、皮膚の色の変化などを確認するだけでなく、実際に膝関節を触診して、痛みのある部位、腫れ、熱感の確認や、実際に膝関節の曲げ伸ばしなどをして、動きをチェックし、どれくらい膝関節が動くか、動作時の痛みをみます。
X線検査
変形性膝関節症を確認するためによくおこなわれる検査です。
変形性膝関節症の場合には、X線写真で軟骨の下にある骨が硬くなる軟骨下骨硬化や、関節のすきまが狭くなる関節裂隙の狭小化、とげ状の骨である骨棘などがみられます。
MRI検査
X線検査では骨の外見のみで、関節の内部まではわかりませんが、MRIは半月板や軟骨、靭帯など骨以外の組織まで映し出すため、変形性膝関節症の進行状態をより詳細に把握することが可能です。
また、関節内にたまっている水や、骨の炎症の所見などを確認することもできます。
CT検査
骨の詳細な状態を確認するためにCTがおこわれる場合があります。
CTは、複雑な骨の変形や骨折が疑われる場合に有効です。
変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症の治療は、症状や進行度に応じて、下記のように保存療法、薬物療法、手術療法にわかれます。
保存療法
保存療法は下記の内容が代表的です。
生活習慣の改善
体重管理やウォーキングなどの適度な運動をとり入れることで、膝関節へかかる負担を減らします。
その中でも、水中エクササイズは、関節に優しくよくおこなわれる方法です。
物理療法
温熱療法や冷却療法、電気刺激療法、超音波療法などをおこない、膝関節の痛みや炎症を軽減させます。
足底板療法
靴の中敷きパッドを補強することにより、体のバランスを安定的に保持することができます。
例えばO脚で膝の内側が痛い人に、足底板で足の外側に傾斜をつけることによって、膝の外側で体重を受けて内側の負担をへらすようにすることもあります。
運動療法
ストレッチや筋力トレーニングを、理学療法士などのリハビリテーション職の指導を中心におこない、膝周囲の筋力強化や、可動域を改善させます。
薬物療法
薬物療法は下記の内容が代表的です。
鎮痛剤
アセトアミノフェンや非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)などの鎮痛薬の内服がよくおこなわれます。
また、それ以外にも、鎮痛の成分が入った湿布薬や塗り薬なども処方される場合があります
関節内注射
変形性膝関節症に対する注射にはヒアルロン酸製剤やステロイド製剤などがあります。
ヒアルロン酸注射(関節内注射)は、関節液の主成分であるヒアルロン酸を、膝関節に直接注射して痛みをやわらげる治療法でよくおこなわれます。
手術療法
保存療法や薬物療法で効果が得られない場合、下記の手術が検討されます。
関節鏡視下手術
1cm程度の穴を開けてから、関節内を直接視覚的に確認し、すり減った関節軟骨の破片や損傷した半月板を取り除くことで痛みを軽減し、膝を動かしやすくする手術です。
関節鏡視下手術は、膝の変形が進行していない、初期の変形性膝関節症に適しています。
脛骨骨切り術
脛骨骨切り術は、関節内視鏡手術で症状の改善が期待できないときに検討され、脛骨の一部を切って角度を変えることで、偏ってしまった荷重を矯正できるよう、傾きを修正する手術です。
脛骨骨切り術は自分自身の関節を温存できるのが大きな特徴で、症状は軽症~中等症かつ、若年の方(40代〜50代)におこなわれることが多い手術です。
人工膝関節置換術
すり減って変形してしまった関節の表面を、人工的な部品に置き換える手術で、関節全体を置き換える全置換術(TKA)と、一部だけを置き換える単顆置換術(UKA)があります。
人工関節置換術をおこなえば、痛みの軽減効果はありますが、正座や激しい運動は難しくなります。
そのため、 高齢で、活動性の低い方が適応です。
変形性膝関節症になりやすい人・予防の方法
変形性膝関節症になりやすい人は、先程紹介したように、
- 高齢者
- 女性
- 肥満者
- 膝に負担のかかる職業やスポーツをしている人
- 膝に怪我や手術の経験がある人
などの人が変形性膝関節症になりやすい傾向です。
そのため、予防策としては下記のような内容が有効です。
適度な運動
ウォーキングや水中エクササイズなど、膝関節への負担が少ない運動を日常生活にとり入れることで、膝周りの筋肉を強化し、関節の安定性を高めることができます。
体重管理
適正体重を維持することで、膝への負担を減らすことができます。
そのために健康的な食生活と定期的な運動を意識して体重を管理しましょう。
適切な靴の選択
膝関節への衝撃を和らげるクッション性のある靴を選ぶことで、関節への負担を軽減できます。
姿勢の改善
正しい姿勢を保つことで、膝関節にかかる負担を分散させる効果が期待できます。
変形性膝関節症は、予防と早期発見が重要です。
そのため、定期的な健康チェックや適切な生活習慣を心がけて、発症リスクを減らし、膝関節の健康を保ちましょう。