監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
男性更年期障害の概要
男性更年期障害(加齢性腺機能低下症:Late-Onset Hypogonadism; LOH)は、中年から高齢の男性に見られるホルモンバランスの乱れによって引き起こされる症候群です。
特に病気ではないにもかかわらず、中高年の男性において、何となく調子が悪い状態や、突然の身体のほてりや発汗が続く場合、男性更年期障害の可能性があります。
女性の更年期障害と比べて認知度が低いですが、身体や精神にさまざまな症状を引き起こし、生活の質を大きく損なうことがあります。
男性の体内では、中年以降に加齢に伴ってテストステロン(男性ホルモン)の分泌が徐々に減少し、身体、精神、性機能の症状が発生する場合があります。
男性更年期障害の原因
男性更年期障害の主な原因は、テストステロンの減少です。
テストステロンは、男性の性機能、筋肉量、骨密度、精神的な健康などに重要な役割を果たしています。このホルモンの減少により、身体的および心理的な変化が生じます。
特に、加齢に伴うテストステロンの自然な低下が主な要因とされていますが、ストレス、肥満、慢性的な疾患(糖尿病や高血圧など)、生活習慣の乱れも関与しています。
女性の更年期障害においては、一般的に閉経の前後5年ほどの時期に見られ、その時期を過ぎると徐々に症状が治まっていきます。
これに対して男性の更年期障害では、テストステロンの減少の速さや時期は個人差が大きく、中年以降、どの年代でも起こる可能性があります。
男性更年期障害の前兆や初期症状について
男性更年期障害の初期症状は多岐にわたりますが、以下のような兆候が一般的です。
身体的症状
- 性欲の減退
- 勃起不全
- 筋力や体力の低下
- 体脂肪の増加
- 関節症や筋肉痛
- 頻尿
精神的症状
- 気分の落ち込みやうつ症状
- イライラや不安感
- 集中力、記憶力の低下
- 睡眠障害
- パニック
これらの症状は、個々の男性によって異なり、程度もさまざまです。
初期症状を見逃すと、後々の生活の質に大きな影響を及ぼすため、早期の対応が重要です。
男性更年期障害の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科です。男性更年期障害はホルモンの変化による症状であり、内科での診断と治療が行われます。
男性更年期障害の検査・診断
男性更年期障害の診断は、主に症状の評価と血液検査によって行われます。
診察では、患者さんの症状や生活習慣、病歴について詳細に聞き取りを行います。
また、ハイネマンのAMSスコアという指標を用いて、自分が男性更年期の傾向にあるかどうかを自己診断することもできます。
症状 | ない | 軽い | 中等度 | 重い | とても重い | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 総合的に調子が思わしくない | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
2 | 関節や筋肉の痛み | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
3 | ひどい発汗 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
4 | 睡眠の悩み | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
5 | よく眠くなる、もしくは疲れを感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
6 | いらいらする | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
7 | 神経質になった | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
8 | 不安定 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
9 | 身体の疲労感や行動力の減退 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
10 | 筋力の低下 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
11 | ゆううつな気分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
12 | 「人生の山は通り過ぎた」と感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
13 | 力尽きた、どん底にいると感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
14 | ひげの伸びが悪くなった | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
15 | 性的能力の衰え | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
16 | 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
17 | 性欲の低下 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
合計: 点 |
合計点により、以下のように判断できます。
17~26点:なし
27~36点:軽度
37~49点:中等度
50点以上:重度
合計点が高いほど、テストステロンの量が低下している可能性が高いとされています。
当てはまる項目が多い方は、男性更年期障害の専門家を受診してください。
血液検査では、テストステロンのレベルを測定し、ほかのホルモン(LHやFSHなど)とのバランスも確認します。
国際的な基準では、血中のテストステロン値が300ng/ml以下で男性更年期障害と診断されます。
また、日本では総テストステロンのほか、遊離テストステロンの研究も進んでおり、この遊離テストステロン値が8.5pg/ml以下であれば男性更年期障害と診断されています。
ただ、数値の範囲以上に実際の症状の有無が重要であり、テストステロン値が正常の範囲内であっても重度の症状が出る場合や、逆に数値が悪くても全く問題ない場合があります。
うつ病やほかの身体的疾患が原因である可能性も考慮しながらの診断となるため、総合的な評価が必要です。
男性更年期障害の治療
男性更年期障害の治療は、テストステロン補充療法(TRT)が一般的です。
TRTは、テストステロンの低下を補い、症状の改善を図る方法です。具体的には、注射、経皮パッチ、ゲルなどの形態でテストステロンを補充します。
治療に伴う合併症として、肝機能障害や血液が濃くなる多血症という症状が出る可能性があります。
テストステロンが肝臓で代謝されることや、テストステロンの投与により赤血球が増加することが原因です。
このため、治療中は定期的な血液検査を行い、テストステロンのレベルや副作用の有無を確認します。
このほか、上述の副作用や持病の関係でホルモン補充療法に適さない場合や、テストステロン値が標準の範囲内にもかかわらず男性更年期障害の症状が認められる場合などに、桂枝夜苓丸、八味地質丸、当帰坊薬散、加味逍遥散といった漢方薬での治療を行うこともあります。
また、生活習慣の改善も重要です。
バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠、ストレス管理などが、テストステロンの自然な分泌を促し、症状の緩和に寄与します。精神的なサポートが必要な場合は、カウンセリングや心理療法も有効です。
男性更年期障害になりやすい人・予防の方法
男性更年期障害になりやすい人の特徴
高齢
年齢とともにリスクは増加します。
生活習慣病
糖尿病、高血圧、肥満などの既往歴がある人。
ストレス
長期間にわたる高ストレス環境。
不健康な生活習慣
不規則な食生活、運動不足、過度のアルコール摂取、喫煙。
男性更年期障害の原因がテストステロンの減少にあることはすでに述べました。
必然的に、予防のためにはテストステロンの減少につながる行動を避け、テストステロンの分泌を促す生活習慣をとり入れることが鍵となります。
まず何よりも健康的なライフスタイルの維持が重要です。
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理を心がけることが推奨されます。
生活習慣が乱れることで自律神経のバランスが崩れ、ひいてはホルモンバランスが崩れることにつながります。
ごく一般的な健康対策が、男性更年期障害を改善させていくために重要です。
また、定期的な健康診断を受け、早期に異常を発見することも重要です。特に、テストステロンのレベルが気になる場合は、専門の医師の診察を受けることをおすすめします。
改めてまとめますと、男性更年期障害は、中年以降の男性に見られるホルモンバランスの乱れに起因する症候群で、身体的および精神的な症状を引き起こすものです。
テストステロンの減少が主な原因であり、生活習慣やストレスも関与します。
早期の診断と適切な治療が重要であり、健康的なライフスタイルの維持が予防につながります。
自分自身の体調変化に気を配り、必要に応じて医療機関を受診することが、男性更年期障害の影響を最小限に抑えるための鍵となります。
心身の不調を年齢のせいだと片付けず、適切な治療を受けることで生活の質が向上し、快適な生活を送ることができます。
気になる症状がある場合は専門家に相談してください。
参考文献