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顔面神経麻痺
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

顔面神経麻痺の概要

顔面神経麻痺とは、顔の筋肉を動かす神経(顔面神経)に麻痺が起きる病気です。顔面神経は脳から側頭骨・耳の下を通り、顔面の筋肉にはりめぐる神経で、さまざまな器官や筋肉を支配しています。
顔にある表情筋に信号を送り、目を閉じたり口を動かしたりしていますが、経路の途中に障害が起こると顔面神経麻痺を発症して麻痺した部分の表情筋を動かせなくなります。また、顔面の筋肉を動かして表情を作る以外に唾液や涙の分泌を促す役割も果たしているため、日常生活上でさまざまな困難を引き起こす危険な病気です。
見た目にも影響するため、心理的ストレスがなにより大きい病気です。顔面神経麻痺は、早期治療で治るものが大半ですが、原因によっては難治であり部分的な麻痺が残ることがあります。1年間で人口10万人あたり50人程が発症し、2割以上に後遺症が残るといわれています。

顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺の主な原因は、以下のようなものが挙げられます。

  • ウイルス感染
  • 外傷
  • 細菌感染
  • 腫瘍
  • 先天性

顔面神経麻痺の多くの原因は、単純ヘルペス、水痘帯状疱疹ウイルスによる感染です。単純ヘルペスが関与するベル麻痺が全体の約60%を占めており、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化により発症するラムゼイハント症候群が約20%を占めています。

疲れやストレスで免疫が落ちると、おとなしくしていたウイルスが暴れ出し神経を障害します。その他に、事故やけが・外科手術などで顔面の神経が損傷・切断されて起こる場合があり、全体の約10%です。また脳や顔面神経の経路にできる腫瘍による神経の圧迫で顔面神経麻痺を起こす場合もありますが、全体の10%未満です。

その他、中耳炎によるもの・先天性のものなどありますが、ともに発生頻度は低いといえます。まれな原因として、マダニに刺されて細菌感染し発症するライム病でも、顔面神経麻痺がみられることがあります。

顔面神経麻痺の前兆や初期症状について

顔面には口や目を閉じたり、笑ったりする表情筋が20個以上あります。表情筋が麻痺すると、目の乾燥食べ物や飲み物が口からこぼれるなどの初期症状とともに、顔の動きに違和感が生じます。また、顔の片方のみの発症が多く、顔が曲がったような左右非対称の状態になるのも特徴です。

ラムゼイハント症候群では、帯状疱疹ウイルスの活性化によって耳や側頭部に強い痛みを伴うことがあります。顔面神経は表情筋以外にも、涙・唾液の分泌・味覚・鼓膜の動きにも影響を及ぼします。主な症状は以下のとおりです。

  • まぶたを閉じるのが難しい
  • 額にしわを寄せることができない
  • 表情を作れない
  • 口が閉じられない
  • しゃべりにくい
  • 味覚がわからない
  • 目が乾き充血して涙が出る
  • ほうれい線がなくなる
  • 頬を噛んでしまう

上記のような症状があった場合には、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診しましょう。
 

顔面神経麻痺の検査・診断

顔面神経麻痺は、発症後早期の耳鼻咽喉科受診が必要です。耳鼻咽喉科では、原因疾患・障害部位・障害程度(予後)の診断を行います。
検査や診断について以下を確認しておきましょう。

原因疾患の診断

原因疾患の診断には、麻痺発症時の状態・前駆症状・難聴や、めまいの有無・既往症に関する十分な問診が欠かせません。また、麻痺が一側性か両側性か・麻痺の部位・耳介や口腔粘膜に帯状疱疹がないかなど理学的所見も重要です。
また、神経耳科学的検査・画像診断・ウイルス抗体価などの血液検査を行い、腫瘍病変や脳血管障害との鑑別を行う必要があります。

障害部位の診断

障害部位の診断は、涙腺機能検査・アブミ骨筋反射・唾液腺機能検査・電気味覚検査・画像診断などの検査結果より判定します。
主に、外傷性顔面神経麻痺で手術治療を行う際に行います。

顔面神経麻痺の予後診断

顔面神経麻痺の予後診断は、40点法での顔面運動評価(柳原法)や、神経興奮性検査(NET)・誘発筋電図検査(ENoG)などの電気診断法があります。
柳原法は、病初期の麻痺程度の評価ができ、予後診断や治療法の選択には欠かせない検査です。電気診断法は、顔面の神経を電気で刺激して筋肉の反応をみる検査です。発症1~2週間後に行い、筋肉や末梢神経の障害の程度を判断し、予後診断や治療効果の判定を行います。柳原法との複合的な判断で、正確な麻痺の程度診断ができます。

顔面神経麻痺の治療

顔面神経麻痺は、発症から3日以内の受診が、完治するか後遺症が残るかのわかれ道になる重要分岐点と考えられています。

治療は、まず原因を調べることが重要です。原因が判明すれば、原因に対する治療を行うとともに、麻痺に対する治療を早期に行います。

薬物療法

ベル麻痺とラムゼイハント症候群の主な治療は、神経の炎症やむくみを抑えるステロイドホルモン剤と、単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬による薬物療法を行います。
発症後3日以上経ってからでは治療効果が下がるので、発症したら早期の耳鼻咽喉科受診が必要です。患者さんの状況に応じて入院での点滴・外来通院での点滴・内服加療を行います。

リハビリ療法

後遺症を軽減するために早期よりリハビリ指導やストレッチを行います。顔面神経麻痺のリハビリは筋力を強化する目的ではなく、顔面の不自然な動き(病的共同運動)やひきつれ(顔面拘縮)などの後遺症を予防する目的で行います。
焦らずじっくり行うことが重要で、やり過ぎや低周波刺激などの電気刺激は顔面のひきつれを助長するため禁忌です。

手術療法

薬物療法で症状の改善がみられない場合は、顔面神経減荷術を行います。顔面神経減荷術は、側頭骨のなかにある、炎症などでむくんだ顔面神経を包んでいる骨を削って除圧する手術です。
発症後1ヵ月以内の施行が望ましいといわれています。麻痺の後遺症が残ることもあり、必要時は形成外科と連携して整容改善手術を行います。

ボツリヌストキシン注射

顔の表情の左右差・顔面拘縮・病的共同運動などの、顔面神経麻痺の後遺症に対しては、ボツリヌストキシン注射での治療が有効です。
細かな表情の微調整が可能なため、中~軽症の不全麻痺・拘縮・病的共同運動が改善する効果が期待できます。ボツリヌストキシン注射の効果は3~5ヵ月すると消えるため、年に2~3回繰り返して行う必要があります。

顔面神経麻痺になりやすい人・予防の方法

顔面神経麻痺の多くは、ウイルス感染や神経に潜伏しているウイルスの活性化によって引き起こされます。
ウイルスから体を守るためには免疫が関係しており、日頃から免疫を保つ、もしくは免疫をあげる生活を心がけることが重要です。

顔面神経麻痺になりやすい人

過労やストレスの蓄積が原因で免疫が低下している人は、ウイルスの再活性化を引き起こしやすく、顔面神経麻痺を発症しやすいと考えられています。糖尿病・免疫不全症・免疫抑制剤治療中の患者さん・がん患者さんも、ウイルスの再活性化が起こりやすいです。
水疱瘡(水ぼうそう)の既往がある人も、年齢とともに免疫が低下するため帯状疱疹の発症率が上昇します。日常生活で急激なストレスを受けた際は、顔面神経麻痺を引き起こしやすいため注意が必要です。マダニに噛まれて細菌が身体に入って起こるライム病も顔面神経麻痺を引き起こします。
山や草むらで作業をする人も発症しやすい環境なので注意が必要です。

顔面神経麻痺の予防

顔面神経麻痺の予防は、ウイルスの再活性化を防ぐことが重要です。ストレスを溜めない・適度に休息するなどして、免疫を低下させない生活を心がけましょう。普段から健康診断を受け、持病を把握しておくことも大切です。
水痘帯状疱疹ウイルスにはワクチンがあります。一方でワクチン接種には副反応もあり、稀に重篤になることもあります。ワクチン接種による予防はメリットとデメリットを天秤にかけて検討しましょう。
山や草むらに入るときは、長袖・長ズボンを着用し、マダニから身を守る工夫が必要です。顔面神経麻痺の症状は、ある日突然起こります。発症後に受診せず様子をみてしまうと、治療開始が遅れ後遺症を残す可能性が高まります。症状がみられた場合は、すぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。


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