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過多月経
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

過多月経の概要

過多月経とは、月経時の出血量が通常よりも多い状態を指します。一般的に、正常な月経の月経による出血は1周期あたり37~43mLが正常値とされ、経血量が140mLを超える場合を過多月経と定義します。この状態は、女性の生活の質に大きな影響を与える可能性があり、適切な診断と治療が必要となることがあります。過多月経は、単独で発生することもありますが、過長月経(月経期間が長い状態)を伴うこともあります。過多月経の原因は様々で、ホルモンバランスの乱れ、子宮の器質的疾患、全身疾患など、多岐にわたります。過多月経は、必ずしも深刻な健康上の問題を示すわけではありませんが、持続的な大量出血は貧血や疲労感をもたらし、日常生活に支障をきたす可能性があります。

過多月経の原因

過多月経の原因は多岐にわたり、複数の要因が関与していることがあります。
主な原因の一つとして、ホルモンバランスの乱れが挙げられます。エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることで、子宮内膜が過剰に増殖し、月経時の出血量が増加することがあります。この現象は特に思春期や更年期など、ホルモンの変動が大きい時期に起こりやすい傾向があります。子宮の器質的疾患も重要な原因となります。例えば、子宮筋腫は子宮の筋層に発生する良性腫瘍で、月経量の増加を引き起こすことがあります。
また、子宮内膜ポリープは子宮内膜に発生する良性の腫瘍で、出血の増加の原因となることがあります。
さらに、子宮腺筋症は子宮内膜組織が子宮筋層内に侵入する疾患で、月経痛の増強とともに過多月経の原因となることがあります。
全身疾患も過多月経に関与することがあります。
甲状腺機能異常では、甲状腺ホルモンの過剰や不足が月経周期や出血量に影響を与えることがあります。
また、血液凝固異常により出血が止まりにくくなることで、月経量が増加する可能性があります。
薬剤の影響も無視できません。ホルモン剤や抗凝固薬などの薬物療法が、月経量に影響を与えることがあります。
さらに、妊娠関連のトラブルも過多月経の原因となることがあります。
流産や異所性妊娠などが大量出血を引き起こす可能性があります。
これらの原因は単独で存在する場合もありますが、複数の要因が組み合わさって過多月経を引き起こすこともあります。そのため、正確な診断のためには、総合的な検査と評価が必要となります。適切な治療方針を決定するためには、個々の患者の状況を詳細に把握し、原因を特定することが重要です。

過多月経の前兆や初期症状について

主な症状

過多月経の主な症状には以下のようなものがあります。
これらの症状の程度は個人差が大きく、生活に支障をきたす程度も様々です。

  • 大量の月経出血:通常の月経よりも明らかに多い出血量を認めます。例えば、1〜2時間ごとに生理用品を交換する必要がある場合などが該当します。
  • 血塊を伴う出血大きな血塊(サクランボ大以上)を伴う出血が見られることがあります。
  • 長期間の出血:通常の月経期間(3〜7日)を超えて出血が続くことがあります。
  • 貧血症状:疲労感や倦怠感、めまいや立ちくらみ、息切れや動悸、顔色の悪さ(蒼白)
  • 月経痛の増強:出血量の増加に伴い、月経痛が強くなることがあります。
  • 下腹部の不快感や膨満感:子宮の収縮や大量出血に伴う症状として現れることがあります。

月経過多が疑われる場合

過多月経が疑われる場合、特に以下のような状況では医療機関への受診を検討することが重要です。
早期の診断と適切な治療により、症状の改善や合併症の予防が可能となります。

  • 1〜2時間ごとに生理用品を交換する必要がある
  • 夜間に起きて生理用品を交換する必要がある
  • 7日以上出血が続く
  • 貧血症状が現れる
  • 日常生活に著しい支障がある

過多月経の検査・診断

過多月経の診断は、主に以下のような手順で行われます。

問診

医師は詳細な問診を行い、患者の月経歴、出血量、症状の程度、既往歴、家族歴、薬剤使用歴などを確認します。月経カレンダーや月経日誌の記録があれば、より正確な情報を提供できます。

身体診察

一般的な身体診察に加え、骨盤内診察を行います。子宮や卵巣の大きさ、硬さ、圧痛の有無などを確認します。

血液検査

  • 貧血の有無を確認するための血算検査(ヘモグロビン値、ヘマトクリット値など)
  • ホルモン検査(FSH、LH、エストラジオール、プロゲステロン、甲状腺ホルモンなど)
  • 凝固機能検査(必要に応じて)

画像診断

  • 経腟超音波検査:子宮や卵巣の状態、子宮内膜の厚さ、子宮筋腫や子宮内膜ポリープの有無などを確認します。
  • ソノヒステログラフィー:生理食塩水を子宮内に注入しながら超音波検査を行い、子宮内腔の異常を詳細に観察します。
  • MRI検査:子宮腺筋症や子宮内膜症の診断に有用です。

子宮内膜生検

子宮内膜の状態を詳細に調べるため、小さな組織片を採取して顕微鏡で観察します。子宮内膜増殖症や子宮体癌の診断に重要です。

子宮鏡検査

子宮内腔を直接観察し、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの診断に役立ちます。

出血量の客観的評価

特殊な生理用品を用いて実際の出血量を測定することもありますが、一般的には患者の自己申告による評価が行われます。

ホルモン負荷試験

ホルモンバランスの異常を詳細に評価するために行われることがあります。

これらの検査結果を総合的に評価し、過多月経の原因を特定します。
原因によっては、さらに詳細な検査や産婦人科医への受診が必要となる場合もあります。診断にあたっては、過多月経が単なる症状なのか、あるいは何らかの疾患の兆候なのかを見極めることが重要です。また、患者の年齢、妊娠希望の有無、全身状態なども考慮に入れ、適切な治療方針を決定します。

過多月経の治療

過多月経の治療は、原因や症状の程度、患者の年齢や妊娠希望の有無などを考慮して決定されます。主な治療法には以下のようなものがあります。

薬物療法

ホルモン療法

  • 低用量ピル(経口避妊薬):エストロゲンとプロゲステロンの複合剤で、月経量を減少させる効果があります。
  • プロゲスチン療法:黄体ホルモン剤を使用し、子宮内膜を安定化させます。
  • GnRHアゴニスト:一時的に閉経状態を作り出し、子宮内膜を萎縮させます。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

月経痛の軽減と出血量の減少に効果があります。

抗線溶薬(トラネキサム酸など)

出血を抑制する効果があります。

鉄剤

貧血の予防や治療に使用されます。

手術療法

子宮内膜全面掻爬術

子宮内膜を掻爬し、異常な内膜を除去します。

子宮鏡下手術

子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫の切除に用いられます。

子宮内膜アブレーション

子宮内膜を焼灼または凍結して、月経量を減少させます。

子宮筋腫核出術

子宮筋腫を摘出する手術です。

子宮全摘術

重度の症状や悪性疾患が疑われる場合に検討されます。

その他の治療法

レバーノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ)

子宮内に留置し、局所的にホルモンを放出して子宮内膜を薄くします。

治療の選択にあたっては、患者の年齢、妊娠希望の有無、症状の重症度、原因疾患の種類などを総合的に考慮します。また、治療開始後も定期的な経過観察が必要であり、効果が不十分な場合は治療法の変更や追加を検討します。過多月経の治療は、単に出血量を減らすだけでなく、原因となる疾患の管理や、貧血などの二次的な健康問題の予防も重要です。そのため、総合的なアプローチが求められ、場合によっては長期的な管理が必要となります。
患者自身も、月経の状態を記録したり、生活習慣の改善(ストレス管理、適度な運動、バランスの取れた食事など)に取り組んだりすることで、治療効果を高めることができます。

過多月経になりやすい人・予防の方法

月経過多になりやすい人

リスク因子としては、まずホルモンバランスの不安定な時期にある女性が挙げられます。思春期、更年期前後、妊娠・出産後の女性がこれに該当します。また、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、甲状腺機能異常、血液凝固障害などの特定疾患を有する患者も高リスク群となります。さらに、慢性的なストレス状態や不規則な生活習慣は視床下部-下垂体-卵巣軸に影響を与え、ホルモンバランスを崩す可能性があります。また、極端な体重異常(肥満または痩せ)も性ステロイドホルモンの代謝に影響を及ぼし、過多月経のリスクを高める可能性があります。

予防の方法

予防法としては、定期的な婦人科検診による早期発見・早期治療が重要です。また、生活習慣の改善として、適切な睡眠-覚醒リズムの維持、栄養バランスの取れた食事、適度な運動が推奨されます。これらは視床下部-下垂体-卵巣軸の正常な機能を支援し、ホルモンバランスの安定化に寄与します。


参考文献

  • 日本産科婦人科学会(編):産科婦人科用語集・用語解説 集 改訂第4版.口本産科婦人科学会,2018;34
  • Munro MG, et a1:FIGO classification system(PALM-COEIN)for causes of abnormal uterine bleeding in nongravid women of reproductive age. Int J Gynaecol Obstet 2011; 113:3-13,

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