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後陣痛
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

後陣痛の概要

後陣痛は、出産後に起こる子宮の収縮痛のことを指します。主に分娩後数日間続く痛みで、子宮が妊娠前の大きさに戻る過程(子宮復古)で生じます。この収縮は産後の出血を抑え、子宮を正常な大きさに戻す重要な生理的な反応です。後陣痛は多くの産婦が経験する一般的な症状ですが、その程度には個人差があります。初産婦よりも経産婦の方が強く感じる傾向があり、出産回数が増えるほど痛みが強くなることが多いです。一般的に、後陣痛は産後3〜5日程度で徐々に軽減しますが、人によっては1週間以上続くこともあります。後陣痛の強さや持続時間は、分娩の長さ、赤ちゃんの大きさ、授乳頻度などの要因によっても影響を受けます。

後陣痛の原因

後陣痛の主な原因は以下の通りです。

  • 子宮収縮
    出産後、子宮が元の大きさに戻るための自然な収縮過程です。この収縮により、子宮内の血管が圧迫され、産後の出血が抑制されます。
  • ホルモンの影響
    オキシトシンの分泌が子宮収縮を促進します。特に授乳中はオキシトシンの分泌が増加するため、授乳時に後陣痛が強くなることがあります。
  • 子宮内残留物の排出
    胎盤や羊膜の残留物を排出するための子宮収縮が起こります。この過程は子宮内感染のリスクを減少させる上で重要です。
  • 子宮筋の疲労
    分娩による子宮筋の疲労が、痛みの感覚を増強させることがあります。特に長時間の分娩を経験した場合、この影響が大きくなる可能性があります。

後陣痛の前兆や初期症状について

後陣痛の主な症状は以下の通りです。

  • 下腹部の痛み
    生理痛に似た痛みや、陣痛に似た周期的な痛みを感じます。痛みの強さは個人差が大きく、軽度の不快感から強い痛みまで様々です。
  • 授乳時の痛みの増強
    授乳中にオキシトシンの分泌が増加し、子宮収縮が促進されるため、痛みが強くなることがあります。この現象は「射乳反射」とも呼ばれ、母乳育児において重要な役割を果たします。
  • 腰痛
    子宮の収縮に伴い、腰部に痛みを感じることがあります。これは子宮と腰部の神経連絡によるものです。
  • 悪寒
    子宮収縮に伴い、一時的に悪寒を感じることがあります。ただし、持続する悪寒や発熱は感染症の可能性があるため、注意が必要です。
  • 出血(悪露)
    子宮収縮に伴い、一時的に出血量が増加することがあります。通常、出血量は時間とともに減少していきます。

症状の程度や持続期間には個人差があり、経産婦の方が初産婦よりも強い痛みを感じる傾向があります。これは子宮筋の弾力性の違いや、過去の出産経験による感覚の変化が影響していると考えられています。

後陣痛の検査・診断

後陣痛は通常、産後の正常な生理現象として認識されるため、特別な診断や検査は必要ありません。しかし、以下のような場合は医療機関での診察が必要となります。

  • 強い痛みが1週間以上続く場合
  • 38℃以上の発熱がある場合
  • 悪臭のある膣分泌物がある場合
  • 大量の出血がある場合

これらの症状がある場合、子宮内感染や子宮内残留物の可能性があるため、以下の検査が行われることがあります。

  • 問診:症状の詳細や経過について聴取します。
  • 内診:子宮の収縮状態や悪露の状態を確認します。
  • 超音波検査:子宮内の残留物や子宮の状態を確認します。
  • 血液検査:感染の有無を確認します。

これらの検査により、後陣痛が正常な範囲内であるか、あるいは追加の治療が必要な状態であるかを判断します。

後陣痛の治療

後陣痛は正常な生理現象であるため、特別な治療は必要ありません。
しかし、痛みが強い場合や不快感が強い場合は、以下のような対処法があります。

鎮痛剤

アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。授乳中でも使用可能な薬剤を選択します。

温罨法

下腹部を温めることで、痛みを和らげることができます。温かいタオルや湯たんぽを使用します。

排尿

膀胱が満たされると子宮を圧迫するため、こまめな排尿を心がけます。これにより子宮収縮痛を軽減できる可能性があります。

リラックス法

深呼吸やリラクゼーション法を行うことで、痛みの感覚を和らげることができます。瞑想やヨガの呼吸法なども効果的です。

授乳姿勢の工夫

授乳時の痛みが強い場合は、横向きで授乳するなど姿勢を工夫します。これにより、子宮への圧迫を軽減できる可能性があります。

後陣痛になりやすい人・予防の方法

後陣痛になりやすい人

  • 経産婦
    出産回数が増えるほど、後陣痛が強くなる傾向があります。これは子宮筋の弾力性の変化や、神経感受性の変化が影響していると考えられています。
  • 双子や大きな赤ちゃんを出産した人
    子宮の過度の伸展により、収縮が強くなる可能性があります。子宮が元の大きさに戻るプロセスがより顕著になるためです。
  • 長時間の分娩を経験した人
    子宮筋の疲労により、痛みを強く感じる可能性があります。疲労した筋肉は収縮時により強い痛みを感じやすくなります。

対処法

  • 適度な休息
    十分な休息をとり、体力の回復に努めます。特に産後の数日間は、可能な限り休息を取ることが重要です。
  • 骨盤底筋体操
    産後の回復を促進し、子宮の収縮を助ける可能性があります。ただし、開始時期については医療専門家に相談することが重要です。
  • 水分摂取
    十分な水分摂取により、子宮の収縮を促進し、回復を早める可能性があります。特に授乳中は水分需要が増加するため、意識的に水分を摂取することが大切です。
  • 産後ケア用品の利用
    腹帯やサポートガードルの使用により、子宮の収縮を促進し、痛みを軽減できることがあります。ただし、使用方法や時期については医療専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。
  • 心理的サポート
    家族や医療関係者からの精神的なサポートを受けることで、痛みへの対処が容易になることがあります。産後うつの予防にも効果的です。

後陣痛は多くの場合、数日で自然に軽減していきますが、痛みが強い場合や不安がある場合は、躊躇せず医療機関に相談することが大切です。産後の体調管理や授乳サポートなど、総合的なケアを受けることで、より快適な産後生活を送ることができます。また、個々の状況に応じた適切なケアプランを立てることで、後陣痛による不快感を最小限に抑え、母体の回復を促進することができます。


参考文献

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