監修医師:
中里 泉(医師)
月経前症候群の概要
月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)とは、「月経前の3-10日間の黄体期後期に出現する多種多様な身体的または精神的症状で、月経開始とともに消失または減弱するもの」と定義されています。
身体的症状、精神的症状は多岐にわたり、その中でも精神症状が強く主体である場合は「月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphonic disorder)と呼ばれます。
PMSとPMDDは別々の疾患でしたが、海外では、ISPMD(internatinal society of premenstrual disorders、月経前症状に関する世界的な専門家集団)が、PMSおよびPMDDを含めた月経前の不調を総称してpremenstrual disorders(PMDs)と定義しています。
さらに、2018年に発表された国際疾病分類第11版でもPMSとPMDDは女性生殖器系の疾患として併記されており、これらの疾患は1つにまとめて捉えるようになっています。
治療法としては、カウンセリングや生活指導、運動療法や、利尿薬や漢方薬、低用量ピル、精神症状が強い場合は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用することもあります。
月経前症候群の原因
月経前症候群の原因はまだ明らかになっていませんが、排卵後に分泌される黄体ホルモンの代謝物に対するγーアミノ酪酸-A受容体やセロトニン作動性ニューロンの感受性の関与が示唆されています。
月経前症候群の前兆や初期症状について
PMSは多彩な症状が出現します。
- 身体的症状:下腹部の張り、疲れやすい、腰痛、頭痛、むくみ、乳房の張り
- 精神的症状:気分の変動、怒りやすい、抑うつ気分
日本における、欧米と同じ基準を用いた研究によると、社会生活が困難になるほどのPMSは5.4%、PMDDは1.2%の頻度と報告があります。
月経前には、生殖年齢の女性の70-80%が何らかの症状が出現すると言われていますが、必ずしも全て治療しなければならないわけではなく、日常生活に影響を与える場合は治療の対象となります。
月経前に上記のような症状が出現し、月経が始まると落ち着くなど、上記が疑われる場合は産婦人科に相談しましょう。
月経前症候群の検査・診断
発症時期、身体症状、精神症状から診断します。
具体的には、下記のような診断基準を用いて当てはまるかを判断します。
月経前症候群診断基準(米国産婦人科学会)
過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、下記の身体的および精神的症状のうち少なくとも一つが存在すれば月経前症候群と診断できる。これらの症状は月経開始後4日以内に症状が改善し、少なくとも13日目まで再発しない。
身体的症状 | 情緒的症状 |
---|---|
乳房緊満感 | 抑うつ |
腹部膨満感 | 怒りの暴発 |
頭痛 | 易刺激性、いらだち |
関節痛・筋肉痛 | 不安 |
体重増加 | 混乱 |
四肢の浮腫 | 社会的ひきこもり |
月経前不快気分症候群の診断基準
ほとんどの月経周期において、月経開始最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。
以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
- 著しい感情の不安定性(突然悲しくなる、涙もろくなる、拒絶に関する敏感さの亢進など)
- 著しいいらだたしさ、怒り、対人関係の摩擦の増加
- 著しい抑うつ気分、絶望感、自己批判的思考
- 著しい不安、緊張、および「高ぶっている」「いらだっている」感覚
さらに、以下の症状のうち1つまたはそれ以上が存在し、上記の症状と合わせると症状は5つ以上になる。
- 通常の活動(仕事や学校、友人、趣味など)における興味の減退
- 集中困難の自覚
- 倦怠感、易疲労性、気力の著しい欠如
- 食欲の著しい変化、過食、特定の食物への渇望
- 仮眠または不眠
- 圧倒される、または制御不能という感じ
- 他の身体症状(乳房の圧痛、関節痛、筋肉痛、「膨らんでいる」感覚、体重増加など)
症状は臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、通常の社会生活または他者との関係を妨げたりする(社会活動の回避、仕事や学校または家庭における能率や生産性の低下)。
この障害は、他の障害(うつ病やパニック障害、気分変調症)またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない。(ただし、これらの障害は併存する場合もある)。
月経前症候群の治療
カウンセリング、生活指導、運動療法:症状日記をつけ、頻度や発症の時期、重症度から認識と理解を促します。
アルコール摂取制限や、規則正しい生活、睡眠、定期的な適度の運動が効果的です。
ビタミンB6、カルシウム、マグネシウム、チェストベリー、エクオールは症状改善に効果がある可能性があります。
利尿薬、鎮痛薬、漢方など
浮腫や痛み、その他様々な症状に対して用いられます。
低用量ピル
低用量ピルにも様々な種類がありますが、身体症状に有効であるもの、特にPMDDに有効であるものがあります。
症状に併せて薬の選択をしましょう。
また、1か月に1回消退出血を起こす周期投与法と、最長120日間連続内服する連続投与法がありますが、連続投与法の方が症状改善に効果があると報告されています。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)
精神症状が強い場合に考慮されます。
欧米ではPMS、PMDDの第一選択であり、黄体期のみに投与する方法と継続的に投与する方法で差がないとされています。
効果がみられない時は、より高容量のSSRIの持続投与も考慮されますが、精神症状がより強い場合は、精神科に紹介することもあります。
エストラジオール貼付剤+レボノルゲストレル放出剤子宮内システムや、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH:gonadotropin releasing hormone)アゴニストによる排卵抑制も考慮されます。 また、PMSを疑う症状であっても、もとからある疾患の月経前増悪(PME:premenstrual exacerbation)が隠れている場合があります。
月経がある方は全年齢で起きやすい疾患ですが、日本では思春期の女性に多いという報告があります。 参考文献
また、上記でも治療効果が不十分な場合は最終的には外科的治療(卵巣摘出術)も考慮されますが、年齢によっては医原性に早発閉経を起こすことになり、骨粗鬆症や心血管疾患のリスク上昇などの合併症の増加と関連します。
また、当然のことながら以後の妊娠、出産は望めません。
保険適用外でもあり、適用はかなり限られます。
糖尿病、喘息、てんかん、頭痛、うつ病などをもともと持っている患者さんは、月経前にこれらの症状が悪くなることがしばしばみられます。
PMEが疑われる場合には、その疾患の治療について担当医と相談したうえで、産婦人科的に排卵抑制を行うかどうか検討します。月経前症候群になりやすい人・予防の方法
PMS、PMDDは多彩な症状を呈しますが、体の不調が生理周期と連動して起きる場合は上記を疑い、ご自身でメモに記載するなどしてリズムをつかんでみましょう。
日常生活に影響が出るようであれば、早めに受診してください。この記事の監修医師