監修医師:
大坂 貴史(医師)
チョコレート嚢胞の概要
チョコレート嚢胞は子宮内膜症という疾患の一部です。子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮の外で増殖してしまう病気で、チョコレート嚢胞は子宮内膜組織が卵巣で増殖してしまうものです。
子宮内膜症の原因については様々な議論がされていますが、はっきりとしていないというのが現状です (参考文献 1)。
チョコレート嚢胞のもっとも一般的な症状は慢性の痛みです (参考文献 2, 3) 。その他にも様々な症状がありますが、重要なものに不妊があり、妊娠を希望される子宮内膜症患者の 3割が不妊に悩まされると言われています (参考文献 3, 4)。
検査は婦人科で行う内診や、エコー・MRIなどの画像検査が軸になります (参考文献 2, 3)。
治療にはホルモン療法や外科手術がありますが、方針の決定には将来の妊娠の希望などをふまえて、患者さん本人とコミュニケーションをとる必要があります (参考文献 3, 4)。
チョコレート嚢胞の原因
チョコレート嚢胞は子宮内膜症という疾患の一部です。子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮の外で増殖してしまう病気で、チョコレート嚢胞は子宮内膜組織が卵巣で増殖してしまい、茶色い内容物が溜まることが多いので「チョコレート嚢胞」とよばれています。
子宮内膜症自体の原因ははっきりとはしていませんが、もっとも一般的に言われているのは月経のときに本来であれば身体の外に排出される子宮内膜の一部が逆流した結果、卵管を経由して他の場所へ行きついてしまうというものです (参考文献 1) 。異常な場所で増殖した子宮内膜組織では炎症が起こり、痛みなどの症状が出てしまうとされています (参考文献 1) 。また、炎症が続くことによって卵巣が周囲の組織と癒着してしまう、または正常な卵巣機能が阻害されてしまうなどの影響で不妊症につながることもあります (参考文献 1)。
チョコレート嚢胞の前兆や初期症状について
子宮内膜症全般として、一般的な症状には次のようなものがあります (参考文献 2, 3) 。
- 慢性の腹痛や骨盤周辺の痛みや圧迫感
- 月経困難症
- 性交痛
- 月経過多
- 不妊症:妊娠の希望のある内膜症患者の3割が不妊に悩むといわれています (参考文献 4)
- 排尿障害:頻尿や尿意切迫感などが現れることがあります
- 便に関する症状:下痢、便秘、排便困難といった症状が現れることがあります
これらの症状は他の疾患でも出ますが、当てはまるものが多いほど子宮内膜症である可能性が高くなります (参考文献 2) 。
これらの症状がある方は一度近くの産婦人科へかかることをお勧めします。
チョコレート嚢胞の検査・診断
内診とよばれる婦人科での身体診察で、女性器周辺の痛みや卵巣などの可動性を評価するほか、血液検査で子宮内膜症関連のマーカーの血清濃度を調べます (参考文献 2, 3)。
チョコレート嚢胞の診断では画像検査が重要な役割を担うため、超音波検査、MRI 等を用いて、嚢胞の中の状態を確認することが多いです (参考文献 2, 3)。
チョコレート嚢胞の治療
チョコレート嚢胞の治療方法は大きくホルモン療法と外科手術に分かれます。
軽症であればホルモン療法から始めることが多いです (参考文献 3)。一般的にはいわゆる低用量ピルや視床下部のホルモンである GnRH に関連するホルモン、黄体ホルモンなどが用いられます (参考文献 3, 4) 。そのほかに炎症や痛みのコントロールのためにいわゆる鎮痛剤を併用して治療をしていきます (参考文献 3)
中等症以上では手術が検討されることが多く、嚢胞だけを切り取る術式と、卵巣自体を取ってしまう術式に大きく分かれます (参考文献 3)。嚢胞だけを切り取る術式では卵巣機能は温存されますが再発のリスクがあり、卵巣自体を切り取る術式では再発を避けることはできますが切り取った卵巣の機能が失われます (参考文献 3) 。したがって手術による治療を検討する際には、本人の年齢や将来の妊娠の希望の有無なども併せて考えて方針を決めていきます (参考文献 3) 。
チョコレート嚢胞によって不妊になっている方は、外科的に嚢胞を取除くことによって自然妊娠の可能性を上げるこができますが、現在では体外受精などの技術も発展してきており、体外受精をするのか否かや、チョコレート嚢胞が体外受精の妨げになるのかどうかも治療方法に関わってきます (参考文献 3) 。
また、将来の妊娠希望がない場合、卵巣のみならず子宮や卵管もまとめて摘出するという選択もあります (参考文献 3)。
このようにチョコレート嚢胞の治療法決定には患者さん本人とのコミュニケーションが欠かせません。悩んでいることや将来の希望などがあれば担当のスタッフに遠慮なく相談してみましょう。
チョコレート嚢胞になりやすい人・予防の方法
驚かれるかもしれませんが、子宮内膜症は妊娠ができる年代の女性の約 10% が罹患しているとされています (参考文献 1) 。
子宮内膜症のリスク因子としては、家族歴、未産、初潮が早かったり閉経が遅かった人、月経周期が短い (27日以内)、月経のとき出血が多い、高身長、痩せていることなどがあります (参考文献 1)。
子宮内膜症予防のためにすることではありませんが、リスクを低減させるものとして出産回数が多いことや、授乳していた期間が長いこと、初経がおそいことなどがあげれます (参考文献 1)
参考文献
- 1.UpToDate. Endometriosis in adults: Pathogenesis, epidemiology, and clinical impact
- 2.UpToDate. Endometriosis: Clinical features, evaluation, and diagnosis
- 3.UpToDate. Endometriosis: Management of ovarian endometriomas
- 4.公益社団法人 日本産婦人科学会. 子宮内膜症