監修医師:
白井 沙良子(医師)
アセトン血性嘔吐症の概要
アセトン血性嘔吐症は、周期性嘔吐症や自家中毒ともいい、体内でケトン体が過剰に産生されることで、数日間嘔吐を繰り返す症状が周期的に起こる状態です。
主に小児期で発症することが多いですが、成人に見られるケースもあります。
通常、体内の糖分は肝臓に貯蔵されていますが、10歳以下の子どもはまだ肝臓が未熟であり、糖質をためる時間は数時間しかもちません。
肝臓内の糖質がなくなると、エネルギーを生み出すのに脂肪が分解され、ケトン体という酸性の物質も発生します。
ケトン体が体内にたまると血液が酸性に傾き、吐き気や腹痛、頭痛などの症状が起こります。
血糖値も下がるため、生あくびや眠気、意識混濁などの症状が見られることもあります。
アセトン血性嘔吐症は小児期の片頭痛に関連した疾患であることがわかっており、片頭痛に移行する例も少なくありません。
間欠期は無症状であることが特徴で、発症から2〜5年で自然治癒するケースがほとんどです。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター「13周期性嘔吐症候群」)
アセトン血性嘔吐症の原因
アセトン血性嘔吐症の原因は精神的ストレスや感染症(インフルエンザなど)、疲労、偏った食事、月経などです。
7割以上の例でこれらの原因の一つ以上が引き金となり、体内の糖分が不足して症状の発症につながることがわかっています。
アセトン血性嘔吐症の前兆や初期症状について
アセトン血性嘔吐症では、前兆として吐き気や顔色の悪さなどが見られることもありますが、突然嘔吐するケースが多いです。
胆汁や血が混じった嘔吐物を1時間〜数日間ほど吐き続け、ピーク時には1時間のうち6回ほど嘔吐します。
発作中に頭痛が伴う例は4割ほどで、成人後に片頭痛として移行することもあります。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター「13周期性嘔吐症候群」)
アセトン血性嘔吐症の検査・診断
アセトン血性嘔吐症の確定診断には特異的な検査はありませんが、症状の経過や嘔吐発作の特徴、他疾患の除外により診断されます。
診断基準には、国際頭痛分類の周期性嘔吐症候群の基準が使用されます。
- 5回以上の強い悪心と嘔吐を示す発作があり、BとCを満たす
B.症状が定性化し、予測可能な周期で繰り返される
C.①②③の全てを満たす
①悪心や嘔吐が1時間に4回以上ある
②1回の発作が1時間〜10時時間続く
③それぞれの発作は1週間以上の期間をおいて起こる
D.発作間欠期は完全に無症状になる
E.その他の疾患による症状ではない(特に病態や身体所見が胃腸疾患の徴候を示さない)
出現している症状が診断基準と一致し、消化器疾患や肝胆疾患、神経疾患、腎疾患、内分泌疾患などの混同しやすい疾患が否定されれば確定診断になります。
他の疾患と鑑別するために、頭部CTやMRI、上部消化管造影などの画像診断、各マーカーの血液検査、尿検査などをおこないます。
アセトン血性嘔吐症の治療
アセトン血性嘔吐症の治療は、発作時の治療と発作予防の治療にわけられます。
発作時の治療
軽症であれば糖分の入った水分を少しずつ補給しながら経過を見ることもありますが、中等症で脱水が起きている場合は点滴治療が必要になります。
嘔吐の強い重症例では入院が必要となり、ブドウ糖液の点滴や、発作時治療薬を投与します。
発作時治療薬として利用されるのは、スマトリプタン、オンダンセトロン、グラニセトロンです。
スマトリプタンは片頭痛の治療薬で、片頭痛の家族歴がある患者に利用されます。
アセトン血性嘔吐症と片頭痛の関連性が強いケースでは、皮下注射もしくは点鼻薬で投与することで効果が得られます。
オンダンセトロンとグラニセトロンは片頭痛の家族歴がない患者に選択される薬です。
セロトニン受容体に作用して嘔吐反射を抑制させる効果があり、静脈注射で4〜6時間ごとに複数回投与します。
発作予防の治療
1ヶ月に1回以上発作を起こしたり、発作が重症で入院が必要になったりする場合は、発作を予防する内服薬を日頃から投与します。
内服薬にはプロプラノロール塩酸塩、シプロヘプタジン塩酸塩水和物、アミトリプチリン、フェノバルビタール、バルプロ酸ナトリウムなどがあり、症例によって有効な薬剤が異なります。
それぞれ効果がでるのに時間がかかるため、1〜2ヶ月継続して効果を判定しながら種類や量を調整します。
精神的・肉体的ストレスが原因で頻発する場合は、心理カウンセリングをおこなうこともあります。
アセトン血性嘔吐症になりやすい人・予防の方法
アセトン血性嘔吐症になりやすい人は、片頭痛の家族歴がある人や、脂質に偏った食事を日頃から摂っている子どもです。
予防の方法は毎日栄養バランスの整った3食の食事をしっかり摂ることです。
特に夕食を抜いて就寝することは控えましょう。
アセトン血性嘔吐症を繰り返している子どもには、過度な脂質を控え、炭水化物とタンパク質の多い食事を心がけてください。
チョコレートなどの脂質の多い食べ物が、発作を起こすきっかけになることもあるためできるだけ控えましょう。
運動会などで過度にエネルギーを使った後や、風邪やインフルエンザにかかったときも発作が起こることがあります。
疲労がたまっているときは早めに就寝し、体をしっかり休ませることを心がけましょう。
参考文献