監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
ファブリー病の概要
ファブリー病は、先天性代謝異常症のライソゾーム病の一種です。厚生労働省によって「指定難病」および「小児慢性特定疾病(18歳未満)」に指定され、医療費助成制度などの対象となっています。
α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)と呼ばれる酵素の遺伝子変異によって発症し、X染色体劣性遺伝形式をとりますが、ヘテロ接合体の女性にも発症することが知られています。
症状は多彩で男女で差が見られ、発症時期や症状の種類、程度は人によって異なります。進行する前の早期診断が大切です。
発症頻度は欧米人で40,000人に1人程度とされていましたが、
- わが国(九州)での新生児スクリーニングでは男児の3,609人に1人
- 左室肥大や心筋症の中での心ファブリー病の頻度は3〜4%
- 透析患者のスクリーニングでは約1%
- 台湾での新生児スクリーニングでは約1300人に1人
といったように、最近の新生児スクリーニングの研究で高頻度の発症が報告されています。
ファブリー病の原因
細胞内のライソゾームで機能する加水分解酵素α-GALが、遺伝子変異によって酵素活性の欠損または低下をきたすのが原因です。
α-GALが機能しないため、α-GALの基質であるグロボトリアオシルセラミド(GL-3)という糖脂質を体内で分解できません。特に血管内皮細胞、平滑筋細胞、感染、心筋細胞、腎臓、角膜、自律神経節などに蓄積することが知られ、全身の臓器に沈着するために多彩な症状を呈します。
ファブリー病の前兆や初期症状について
ファブリー病の初期症状としては強い四肢末端痛が特徴的で、幼児期や学童期から見られます。「燃えるように熱い」「耐えがたい」といった、苦痛が強い症状とされています。
その他、汗をかかない・かきにくいといった発汗障害、付随する体温上昇も早めに出現しますが、いずれも30歳以上に自然軽快する傾向があります。理由は不明です。
個人差はありますが、その後にタンパク尿や被角血管腫が見られ、20代以降になると角膜混濁、腎障害、脳血管障害、心肥大、難聴、下痢などの消化器症状、精神症状など多彩な症状を認めることがあります。
被角血管腫(Angiokeratoma)は血管の良性腫瘍で、表皮直下の血管拡張とそれを被う表皮の過角化を伴うものです。比較的よく見かける皮膚腫瘍であり、特に陰嚢に多発することが多いです。
ファブリー病で見られる主な症状には、臓器ごとに分類すると以下のようなものがあります。いずれもGL-3の蓄積が原因です。
脳
脳血管障害(若年性脳梗塞、家族性脳梗塞の原因として重要)
皮膚
発汗障害、被角血管腫
神経
四肢疼痛、知覚障害
目
角膜混濁、白内障
耳
突発性難聴
心臓
心肥大、不整脈
腎臓
タンパク尿、腎不全
消化器
下痢、便秘、嘔吐
ファブリー病の臨床病型
また、ファブリー病では病型に男女差があります。
男性では幼児期・学童期より症状を発症する古典型と、成人期以降に心肥大のみを呈するものから末期腎不全に進行する症例まで多彩な遅発型に分類されます。遅発型は、症状により腎亜型と心亜型に分れます。特徴的な四肢末端痛や発汗障害は認めません。
女性ヘテロ患者は男性に比べて発症年齢や症状の進行は遅い傾向にありますが、男性の遅発型と同様に症状はさまざまです。
ファブリー病が疑われる場合は、子どもは小児科、成人は内科のかかりつけ医を受診しましょう。多彩な症状を呈するため、複数の診療科と連携した治療が必要です。
ファブリー病の検査・診断
まず、ファブリー病が疑われる症状の有無を調べます。
四肢末端痛、発汗障害、皮膚の赤い発疹、心肥大、タンパク尿やマルベリー小体・細胞の検出、腎生検によるゼブラボディなどが認められると、ファブリー病の疑いは強くなります。
これらの症状が見られる場合に検査が行われますが、診断に至るまでは男女で異なります。
男性の場合、白血球GLA活性測定による酵素活性検査を行いGLAの活性がない、もしくは活性が低い場合にファブリー病と診断されます。
女性の場合は、GLA活性が低下していなくても、ファブリー病ではないと断定できないため、確定には遺伝子検査が必要です。家族歴があって病原性の変異が分かっている場合はターゲットを絞って解析しますが、分かっていない場合は全ての遺伝子を解析します。
蓄積しているGL-3の量、遺伝子変異の有無、症状を総合的に判断して確定診断となりますが、日本人のファブリー病家系の約5%でGLA遺伝子変異が特定できないとの報告もあります。
その他、尿沈渣、生検による病理診断、心臓エコーやMRIなどの画像診断などが行われることもあります。
尿沈渣はファブリー病に特異的なマルベリー小体やマルベリー細胞の検出が可能であり、スクリーニング検査としても利用されています。
遺伝子検査で考慮されること
ファブリー病はX連鎖遺伝形式の遺伝性疾患です。既に発症している患者さんに対してではなく家族の診断のために行う場合は、十分に考慮した上で遺伝カウンセリングを行う必要があります。
- 遺伝情報が生涯変化しない
- 未発症患者の診断や、出生前診断に利用できる
- 血縁関係にある親族の遺伝子型や表現型が比較的正確に予測できる
- 発症前に将来のリスクが予測できる
といった点は、遺伝子検査前に留意する事柄です。
ファブリー病の治療
ファブリー病の主な治療法として、酵素補充療法とシャペロン療法が挙げられます。男性患者さんの平均死亡年齢は48.53歳とされていましたが、治療法の進歩によって劇的な予後の改善が期待されています。
酵素補充療法
酵素補充療法は、現在の主要な治療法です。欠乏しているα‐ガラクトシダーゼ(α-GAL)酵素を点滴で補い、細胞内に蓄積したグロボトリアオシルセラミド(GL-3)の分解を促進し、症状の進行を抑制します。
症状が多彩な全てのファブリー病患者さんに有効ですが、2週間に1度の点滴治療が必要なこと、酵素製剤に対して抗体が産生されてアレルギー症状を呈する可能性があること、その場合は中和抗体で治療の効果が減弱することが欠点です。
血管内皮細胞、腎・心筋組織でのGL-3蓄積の軽減、四肢末端痛・心機能の改善、腎障害進行の軽減、心筋重量の減少といった効果が報告されていますが、臓器障害や組織の線維化が進行した場合は、治療効果は乏しくなると考えられています。
わが国では、現在3つの遺伝子組換え製剤が承認されています。
シャペロン療法
わが国で2018年3月に承認されたシャペロン療法では、働きが悪いα-GALの構造を安定化させて活性を高め、GL-3の分解を促進します。服用開始前に遺伝子の変異型を調べ、効果が得られることが確認された場合に処方されます。
2日に1回の内服薬で治療可能ですが、適応が16歳以上であること、もともと酵素が産生されない症例や酵素活性がない症例には効果がないことが欠点です。
さらに、それぞれの症状にあわせて対処療法で対応します。腎機能障害、疼痛、消化器症状、中枢神経症状などに対しては薬物療法、心機能低下に対してはペースメーカー、ICD(植え込み式除細動器)、冠動脈バイパス術、末期腎不全に対しては血液透析や腎移植が検討されます。
症状からファブリー病を疑うのは難しいこともあり、発症から診断まで10〜15年程度必要だとの報告もあります。しかし、臨床症状から病状が進行するまでに診断・治療につなげることが重要かつ今後の課題です。
また、治療のみ行っていても自覚症状は軽減されますが、症状の進行に気が付かない場合もあります。定期的に精密検査を行って微小脳血管障害や腎機能、不整脈などの症状の進行を確認することも重要です。
ファブリー病になりやすい人・予防の方法
遺伝性の病気であり、家族歴がある方は発症リスクが高いと言えます。
また、現時点で具体的な予防法は確立されていません。しかし、適切な治療や生活環境の整備によって、病気の進行を遅らせ、日常生活の生活の質の改善が期待できます。
臨床症状から早期発見・早期診断・早期治療につなげることが大切です。
参考文献
- ファブリー病診療ガイドライン2020
- ファブリー病について
- ファブリー(Fabry)病 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター
- ファブリー(Fabry)病