インプラントを入れる前に歯周病治療をするべき理由は?

公開日:2020/08/26

こんにちは、日本歯周病学会認定医であり、千葉県市川市行徳にございます、『杉澤デンタルクリニック行徳』の杉澤幹雄と申します。インプラント治療は残念ながら失ってしまった歯の機能的・審美的要素を回復させる治療方法の一つです。ブリッジ治療入れ歯などの他の方法と比べてみると、治療期間がかかり保険外治療となるため高額になる方法ですが、他の方法には難しいメリットも多く存在します。しかし、そのインプラントを気持ちよく長く持たせることを難しくする要因があり、それが歯周病です。今回はインプラント治療を行う前に歯周病治療をするべき理由について書いていこうと思います。

杉澤 幹雄

執筆歯科医師
杉澤 幹雄(杉澤デンタルクリニック行徳 院長)

プロフィールをもっと見る
《自己紹介》
杉澤デンタルクリニック行徳 院長の杉澤幹雄です。歯周病の専門的な治療を行ってきましたので、その知識と経験を活かして、歯の土台となる歯茎や骨からしっかりと健康な状態にしていくことを大切にしています。歯周病をそのままにした状態で、歯だけきれいにしても長持ちしません。まずは歯を支えている土台からきれいにし、いつまでも健康な歯を使い続けられるようにしましょう。

 インプラント治療とは

インプラント治療は失ってしまった歯の部位の顎の骨に人工歯根を埋入することで、失った『咬む』という機能的要素と『見た目』という審美的要素を補う方法です。他に補う方法にブリッジ治療や入れ歯がありますが、どのように違うのでしょうか?

失った歯に相当する顎の骨に人工的な歯根(主にチタン製)を埋入します。しっかり顎の骨と人工歯根がくっついてから、その人工歯根に被せ物(上部構造)を装着し喪失した歯を補います。ブリッジ治療や入れ歯治療と比べ、周りの歯(特に隣接する歯)を削る必要もなく、失った歯の咬合力の負担をかける必要もありません。違和感も少なく咬み心地がいいのも大きなメリットです。

しかし、インプラント治療にはデメリットも存在します。まず大きなデメリットは外科的な治療が必要であり、保険外治療で費用が高額である点です。顎の骨にドリルで穴をあけて人工歯根を埋入する外科治療が必須になります。また、その外科治療による傷の治りを待つ必要があるため、治療期間も長くかかることがデメリットになります。また、歯を歯周病が原因で失った場合、あごの骨が痩せて少なくなっていることも多々あります。そうするとインプラントを埋入する顎の骨の量が少なく、短いまたは小さいインプラントを選択するか、骨を増大させる手術を追加する必要があります。そうするとさらに期間と費用も増えてしまいます。

このようにインプラント治療には他の方法に比べると大きなメリットもありますが、デメリットも大きくあります。しかし、一番重要なのは、インプラント治療で回復した歯の機能的・審美的要素を長期的に持たせることであり、長く毎日おいしく楽しくお食事ができることが大切です。そのインプラントの長期的な維持にとってリスクとなるのが歯周病ですが、どのような病気でしょうか?

 歯周病とは

歯周病は歯と歯の周りの組織への細菌感染によって生じる炎症病変です。まずは歯肉から感染が始まり(歯肉炎)、それがさらに波及すると歯周組織に炎症が進行します(歯周炎)。歯を支える顎の骨が溶け、歯は支えがなくなりぐらつき始め最終的には歯が抜けてしまう病気です。自覚症状がでにくく、気が付いた時には中等度以上に進行していることもあるため、定期的な検査を受ける必要がある病気です。

一般的に歯周病は歯周病原細菌の感染により発症するため、多くの歯で進行する恐れがあり、歯周炎の進行によって破壊された顎の骨は治療によっても治りにくい特徴があります。そのため、歯周病の進行を早期に止めることが大切になります。

歯周病の精密な検査を行い、歯周病が認められ場合は歯周治療が必要になります。治療は主に原因となるプラークや歯石を徹底的に除去、または再度プラークや歯石をつけないような丁寧なブラッシングを行うことが中心となります。歯周治療を行った後に、もう一度歯周病の精密な検査を行い、歯周組織の病状をチェックし、安定した歯周組織を継続していく必要があります。

 歯周病の状態でインプラント治療を行うリスク

 【感染】

インプラントの周囲の歯の周囲に歯周病原細菌が存在している状態では、2週間以内という短期間でインプラント周囲の溝に細菌感染が起こることが知られています。また、インプラント周囲に炎症が生じた症例のインプラント周囲の細菌叢を調査した研究では、歯周病原細菌と同様にグラム陰性菌スピロヘータが多く存在することも報告されています。

インプラントは自分の歯より細菌感染による炎症の進行が速いことも知られています。インプラントは虫歯にはなりませんが、細菌感染による炎症によってインプラントを支える顎の骨が溶けることでインプラントが抜けてしまうことが考えられます。

 【インプラントの隣在歯の抜歯】

歯周病が進行した状態では、インプラント治療した後に、隣の歯が歯周病で抜けてしまうことも考えられます。それではその抜けてしまった部位はどのように補う治療になるでしょうか。骨と結合するインプラントと骨との間に歯根膜というクッションがある自分の歯はなるべく連結してはいけません。そのためブリッジ治療もできなく、その部位を再度インプラント治療を行うことになり、治療期間や費用の増大や治療選択の幅が少なくなってしまいます。

 【残存歯の動揺や病的移動によりインプラントに対する負担が増加する】

歯周病が進行した状態でインプラント治療を行うと、インプラントと隣接する歯がぐらついたり、病的に移動してしまうこともあります。そうするとインプラントと歯の間が広まり、食べ物が詰まりやすくなったり、かみ合わせが変わってしまったりすることで、インプラント周囲への感染が起こりやすくなったり、咬合力の負担が増大する可能性が高まります。炎症が起こりかつ力学的負担が増大すると、さらにインプラント周囲の炎症が進行しやすくなることが考えられ、インプラント治療の失敗につながる恐れがあります。

 【対合歯の抜歯】

インプラント治療によって咬合が回復され強く咬むことが可能になります。しかし、かみ合わせとなる対合する歯の歯周病が進行していると、その歯の負担が増大し、歯周病の進行が早まってしまうリスクが考えられます。せっかくインプラント治療を行って咬みやすくなっても、咬む相手が無くなってしまっては、また咬合の再構成が必要になってしまいます。

 まとめ

インプラント治療は失った歯の機能と審美を補う一つの方法で、大きなメリットも多く存在します。しかし、それを長期的かつ健康的に保つことが重要であります。そのためにはインプラントを埋入する前に、口腔内から歯周病原細菌を可能な限り減らしておくことが必要です。インプラント周囲組織への感染リスクやインプラント周囲の自分の歯の長期的保存を高めるために、インプラント治療に先行して、残存歯に対する歯周病治療は必須事項であると考えられます。