歯周組織再生療法におけるリグロス®とエムドゲイン®とは? 2020/05/05

こんにちは。有楽町デンタルオフィスに勤務しております、日本歯周病学会専門医の武内崇博と申します。歯周病は歯を支える組織(歯周組織)を壊す恐ろしい病気です。歯周病により失われた歯周組織は元に戻すことはできないのでしょうか?歯周組織再生療法と呼ばれる術式は存在し、失われた歯周組織を再生させることは挑戦ではなく、身近なものになりつつあります。古くから様々な手技が紹介されてはアップデートされ、今現在行われている手技に進化してきました。リグロス®エムドゲイン®という言葉をみなさんは聞いたことがありますか?いずれも歯周組織再生療法で用いる薬剤ですが、今回はその2種類の薬剤を紹介しながら歯周組織再生療法についてお話しをしていこうと思います。

武内 崇博

執筆歯科医師
武内 崇博(日本歯周病学会専門医)

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歯科医師、歯学博士。東京歯科大学歯周病学講座講師(非常勤)。日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会、日本顕微鏡歯科学会の各会所属。

歯周病とは?歯周組織破壊のメカニズム

まずは歯周病についてどのような病気かをお話ししましょう。歯周病は歯周組織に起こる感染性の炎症性疾患です。歯周組織は歯肉(歯茎)、歯槽骨(歯を支える顎の骨)、歯根膜(歯と骨を支える靭帯)、セメント質(歯の根を覆う組織)の総称です。原因は口腔内に潜む細菌によるもので、歯と歯肉の境目にある歯肉溝と呼ばれる溝に細菌が蓄積し、体の持つ防御機構のバランスが壊れることで発症します。最初は歯肉にのみ限局して炎症が起こります。歯肉が腫れたり出血することは歯周病の予兆と言えるでしょう。そして徐々に深いところに炎症が波及し、歯槽骨が壊れていきます。歯がぐらぐら揺れるようなことがあれば歯周病のステージは重度であることが多く、要注意です。歯並びが悪かったり、合わない被せ物や詰め物などがあると細菌が蓄積しやすい環境となるため歯周病になりやすいと言われています。また喫煙糖尿病なども歯周病を悪化させる副次的な因子であることが明らかになっています。また歯周病は全身疾患に影響を与える病気であることも明らかになりつつあり、お口の中に限局した病気ではなく全身疾患の一部と捉えられるようになりました。
いかがでしょうか?歯周病は痛みなどの症状がでにくく発見が遅れることが多いため、気付いたら重症化する恐れのある大変恐ろしい病気です。

 歯周病になってしまったら?

ではご自身で歯周病が疑われる場合、あるいは歯科を受診した際に歯周病と診断されてしまったらどのように治療していくのでしょうか。前項で述べた通り、歯周病の原因は細菌です。そのため徹底的に自身のブラッシングを見直し、正しいブラッシング法を身に着けていただくことになります。さらに歯磨きだけでは汚れを全て除去することは不可能なため、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニングを行います。場合によっては麻酔を行い深いところの歯石を除去していきます。さほど重度でない歯周病である場合は、ここまでで症状が落ち着くことがほとんどです。
しかしそれでも改善しないような場合は治療のステージが一段階上がり、外科的な治療が必要となっていきます。歯周外科治療と呼ばれ、歯肉を切開し、深いところに残存する歯石などの汚れを除去していきます。歯周外科治療の中に歯周組織再生療法は位置し、深部の徹底的な掃除に加え、歯周組織を再生させるマテリアルを入れ失われた組織を再生させることを目的としています。次の項で詳しく述べていきましょう。

 歯周組織再生療法とは

前項でも述べたとおり歯周組織再生療法は外科的な処置になります。歴史は古く、1900年代から骨移植を中心に様々な取り組みが行われてきましたが、健常な歯周組織を獲得するのは難しかったといわれています。その後研究は進み、1970年代に現在の歯周組織再生療法の理論が構築され、1982年に初めてバリアメンブレン(人工の膜)を用いた歯周組織の再生に成功しました。現在日本で行われている歯周組織再生療法は①骨移植術、②GTR法、③エナメルマトリックスデリバティブ(エムドゲイン®ゲルの応用)、④リグロス®歯科用液キットの応用があります。それぞれ応用方法や再生のメカニズムは異なりますが、良好な治療成績が世界各国で報告されています。今回の記事の主題であるエムドゲイン®とリグロス®はいずれもゲル状を呈しており、骨の失われた部分に注射器のようなもので注入するという意味では似た材料といえるでしょう。組織再生には3つの重要な要素(足場、成長因子、細胞)があり両者はそのなかの成長因子の役割を果たしています。しかし成分やメカニズムなどは異なるため、それぞれ詳細に述べていきましょう。

エムドゲイン®とは

エムドゲイン®は歯の発生にヒントを得て開発されました。歯の発生段階で分泌されるタンパク質がセメント質を誘導するという知見から、幼弱なブタの歯胚(歯の蕾のようなもの)より抽出・精製・商品化された動物由来の歯周組織再生材料です。ヨーロッパで開発された材料で、約20年の歴史があり良好な治療成績が論文として数多く報告されており、世界中で広く用いられています。歯槽骨の失われた部位に応用します。

リグロス®とは

遺伝子組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF-2)製剤であるリグロス®は、日本で開発され世界初の歯周組織再生“医薬品” として2016年に承認されました。エムドゲイン®が動物由来であるのに対し、リグロス®は合成材料であることが特徴で、細胞の増殖や血管新生を促すことで歯周組織が再生するメカニズムです。エムドゲイン®同様に歯槽骨の失われた部位に応用します。臨床試験においてエムドゲイン®より歯槽骨の再生量が多かったと報告されましたが、まだまだ歴史は浅いため結論付けるのは早いといえるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。歯周病により抜歯の診断を受けた歯でも、歯周組織再生療法により救える可能性は十分にあります。しかしどのような材料を応用するにしても高度な技術や知識が必要となるため、どの医院でも必ず行うおとができる処置ではありません。歯周病専門医・認定医のいる医院を受診し、検査を受けてみませんか?そしていつまでもご自身の歯で食事ができるお口を目指してみてはいかがでしょうか。