歯周病はうつるってホント?

公開日:2019/07/24  更新日:2020/02/05

こんにちは、埼玉県さいたま市浦和区にある『ナカニシデンタルクリニック』院長で日本歯周病学会歯周病専門医の中西伸介と申します。

執筆歯科医師
中西 伸介(日本歯周病学会専門医)
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ナカニシデンタルクリニック院長の中西です。近年、歯周病と全身疾患との関連性もわかってきています。歯周病や虫歯は一度なってしまうとそのあといくら頑張って磨いても治ることがないのが実情です。そこでどうせ治らないとあきらめないで一日でも早めの治療をしましょう。《保有資格》日本歯周病学会認定歯周病専門医、臨床歯周病学会歯周病認定医等。

 歯周病はうつるの?

最近ではよく、大人の使用したお箸やスプーンで赤ちゃんに食べ物をあげたりキスをすると将来、虫歯歯周病になりやすいという言葉が雑誌やメディアで聞かれることが多くなりました。またそのことが広く知られるようなり、それを実践されているお母様たちも多く見られるようになりました。その反面、それを忠実に守っていらっしゃるお母さんからは『将来、子どもが虫歯や歯周病にならないように、我が子を可愛い!と思っても口にキスするのを我慢したり、子供用のお箸やスプーンを大人のものと別々に使用しているのに、旦那さんや祖父母が自分のお箸で子どもに食事を食べさせてしまったり、可愛さ余って口にキスをしてしまった』などとがっかりされている言葉も聞くようになりました。余談ですが、少し前には食べ物をすりつぶして離乳食を与えるのではなく、母親や祖母が自分の口の中で咀嚼して柔らかくして子どもに食べさせていた家庭も多くあったそうです。
誤解して欲しくないのですが、同じお箸を使ったり、口にキスをする、イコール『虫歯がうつる』『歯周病がうつる』ということではありません。大前提として歯周病や虫歯の細菌が存在していてもプラークコントロールがきちんとしていれば必ずこれらの病気が発症するわけではありません。

 細菌叢とは?

歯周病、虫歯の発生は確かに原因菌が必ず関係しますが、これらの細菌が口腔内に存在しない人はいないのでどちらかというと生活習慣によるリスクが大きく関わってきます。例えば皆さんご存知の腸内には善玉菌、悪玉菌で知られるように腸にとって良い働きをする菌と、炎症などを引き起こしたりする菌が混在して生存しています。
同様に全ての人の口腔内にも700種を超える細菌が存在していて、歯周病・虫歯の原因菌となり悪さをする悪玉菌や過剰な免疫反応を抑えるなど有益な物質を産生する乳酸菌の一種など、いわゆる善玉菌も含めて人の細菌叢(そう)を形成しています。
ただその種類やバランスなどは人間の個性と同じように人によって大きく異なります。極端に言えば、歯周病原因菌の中でも歯を支える歯槽骨を溶かす毒素を産生するなど攻撃性の高い細菌が存在している人と、歯周病原因菌も存在するが攻撃性の高い細菌は存在せず、むしろ乳酸菌などの善玉菌もしくは唾液に関係する特に歯周組織や歯牙にあまり影響のない細菌が多く存在している人など人の口腔内細菌叢(そう)は幅広い事が知られています。

 口腔内細菌叢に関してわかっていることは?

・パートナー(夫婦・恋人同士)間でキスにより細菌の感染は起こる(同じような細菌叢になってくる)
・歯周病細菌の中でも骨破壊など特に毒性の強い細菌から影響の低い細菌など様々あり、強い毒素を産生する細菌が存在している人の方が歯周病の発症するリスクは高い
・強い毒素を産生する菌が口腔内に存在していてもプラークコントロールなど口腔内の環境が整っていれば必ずしも歯周病が発症するわけではない
・生活習慣や体調の変化や妊娠により口腔内の細菌のバランスが変わることがある。

 何歳くらいまで気をつければいいの?

赤ちゃんは出生時、無菌状態で生まれてきますので、出生直後の口腔内は無菌です。しばらくすると赤ちゃんは指をくわえたり、おもちゃを舐めたりするので口腔内に様々な種類の細菌が入るチャンスはあるわけですが、虫歯の原因のミュータンス菌や歯周病の原因菌は存在する場所が、歯の表面だったり、歯の周囲のポケットなど限定されているので歯が生えてこないと定着はできません。また赤ちゃんの指に歯周病の細菌が存在しているとは考えにくく当然これらの感染経路としては周囲にいる大人や、少し上の兄弟からということになります。そういうわけで歯が生えて離乳食の頃からが口腔内の環境、また生活の環境ともに細菌定着のリスクは高くなっています。ところが子供の頃に口腔内の細菌叢はある程度決定してしまうという報告があります。一般にその影響が大きいのは生後19か月(1歳7か月)から31か月(2歳7か月)と言われており、子供の成長においても個人差があるのではっきり線引きがされているわけではないのですが、概ね3歳までは箸やスプーンの使い回しなど気をつけたほうがいいようです。
ここまでくると個々の口腔内の細菌叢がほぼ決まってくるようですから、小学校のお友達との飲み物のまわし飲みも細菌感染するという面においては影響が小さいと考えられそうです。

 大人の場合は?

海外の研究では唾液サンプルから口腔内の細菌叢を調べたところパートナー(夫婦・恋人)間で細菌叢がほぼ一致していたという報告もあります。これは先ほどの3歳までに細菌叢が決定するという報告に矛盾するように聞こえるかもしれませんが、やはり生活習慣などで後天的に新しい細菌が定着するというのは十分ありえることだと思います。特に進行した歯周病に罹患した方の口腔内には歯周病の細菌が優位になっていて数も多く存在していると考えられます。
当然歯周病の原因となる細菌数が多い人とキスをしたりすれば、細菌に被曝するリスクも上がり後天的細菌に細菌叢が変わることも考えられます。つまり唾液中の歯周病の原因菌の量が多ければ相手にも歯周病原因菌が感染定着するリスクが上がるということです。また万が一パートナーやお子さんに歯周病細菌が移行してしまっても歯周病を発症させないことは可能です。プラークコントロールをしっかり行う、定期的に歯科に受診し、検査やクリーニングを行うなど発症のリスクを取り除くことが重要になってきます。

 まとめ

・子供(赤ちゃん)の口腔内の細菌叢(細菌の種類やバランス)は概ね3歳までに決定するのでそれまでは特に、お箸やスプーンの使い回し、口にキスなど唾液の介在する行為に注意する
・万が一、歯周病、虫歯の細菌に感染してしまっても必ずしも発症するわけではないので発症しないようにプラークコントロールに努める
・重度の歯周病(未処置)であればあるほど相手に感染させるリスクも高い
・パートナーに重度の歯周病が疑われた場合(強い口臭、歯肉の腫れ、出血)歯周病治療を勧める。自分も歯科で定期的な検診クリーニングを行う

いかがでしたでしょうか?歯周病原因菌が定着したとしても一番大事なのはプラークコントロールを徹底し、歯周病を発症させないことが重要です。