薬の副作用で歯周病(薬物性歯肉増殖症)になる? 2018/12/28

こんにちは。千葉県市川市行徳にございます杉澤デンタルクリニック行徳の杉澤幹雄(日本歯周病学会認定医)と申します。
歯周病は主に歯の周りに付着したデンタルプラークの中に存在する歯周病原細菌による感染によって発症します。しかし歯周病の種類の中にはある薬物によって発症が大きく関与する疾患があります。その疾患を薬物性歯肉増殖症といいます。今回はその薬物性歯肉増殖症について書いていきます。

 薬物性歯肉増殖症とは

歯周病は色々な疾患に分類され、その総称として歯周病と呼ばれています。その分類は歯肉病変と歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周組織膿瘍、歯周―歯内病変、歯肉退縮、咬合性外傷に分けられます。その中の歯肉病変を示します。

歯肉病変

 〇プラーク性歯肉炎

一般的な歯肉炎であり、デンタルプラークに存在する歯周病原細菌の感染により発症します。歯肉が腫れたり、出血しやすくなったり、赤くなったりします。しかし、その炎症の範囲は歯肉だけでその他の歯周組織には波及していない特徴があり、歯周炎の初期の病態です。このプラーク性歯肉炎が進行すると歯周炎となり、炎症が歯肉だけでなく、他の歯周組織にまで炎症が進み、歯を支える骨が溶けてしまったりしてしまいます。

 〇非プラーク性歯肉病変

歯周病原細菌による感染でない歯肉病変であり、アレルギーや外傷による歯肉病変や粘膜の病変などがこれに当てはまります。

 〇歯肉増殖

歯肉組織の中にあるコラーゲン線維が過剰増殖し、歯肉が肥大化した状態です。原因は二つ考えられ、薬物によるものと、遺伝的な要因によるものがあります。薬物性歯肉増殖症はこの中に分類されます。若い人に多く、歯と歯の間の歯肉が腫れた状態から程度によっては歯を覆ってしまうぐらいに肥大化することがあります。薬剤の服用量が多いほどまた服用期間が長いほど肥大が大きくなる傾向にあります。
歯肉が肥大化することにより、プラークの蓄積が助長されかつ、歯ブラシでのプラークの除去が難しくなり、プラークや歯石の蓄積が多くなります。薬物性歯肉増殖症は薬物が大きく関与していますが、歯肉に接触するデンタルプラークの量が多いほど肥大が重症化しやすいことがわかっています。

 歯肉増殖症を起こしやすい薬について

〇抗てんかん薬

てんかん発作による痙攣を抑える薬です。
薬物)フェニトイン
長期服用している患者さんの50%が歯肉増殖症を発症しているといわれています。また、口腔清掃状態が悪い患者さんに多く認められることから、デンタルプラーク歯肉炎と密接に関連していると考えられている。
初期症状は浮腫性(柔らかい腫れ)の歯肉腫脹から始まり、進行すると線維化し硬くなっていく。歯全体を覆うこともあり、肥大化された歯肉に歯が押され病的歯牙移動も認められる。歯がない部位の歯肉の腫脹は認められない。再発傾向が強い。

〇高血圧治療薬

高血圧に対する治療薬の中でもカルシウム拮抗薬
薬物)ニフェジピン
カルシウム拮抗薬の中で歯肉増殖症の発症率が最も高く発現しています。ニフェジピンを長期服用している20%の患者さんが歯肉増殖症を発症しています。フェニトインの服用による歯肉増殖症と類似な臨床所見を示すことが多く、歯肉と接する歯の周囲のプラークがその発症の引き金となることが考えられています。

〇免疫抑制剤

自己免疫疾患や臓器移植に対して免疫を抑制させる薬剤です。
薬物)シクロスポリンA
免疫抑制剤の中でも最も歯肉増殖症の発症率が高く発現しています。長期服用している25%の患者さんが歯肉増殖症を発症しています。

 治療法

1.プラークコントロール

歯肉増殖症の発症には薬物が大きく関与していますが、デンタルプラークを徹底的に除去しキレイに保つことでその発症や再発をある程度防止することができます。そのため、一般的な歯肉炎や歯周炎と同様に、まずは付着したプラークや歯石を徹底的に除去し、さらに毎日のお家でのプラークコントロールの徹底を行います。歯肉が肥大化し磨きにくいことがそのプラークコントロールをしにくくしますが、その腫れた状態におけるプラークコントロールの仕方を歯科医師や歯科衛生士と一緒に歯ブラシの当て方を工夫し、また補助的清掃用具を用いてプラークコントロールの徹底を行います。

2.薬物の変更

薬物性歯肉増殖症を軽減させる有効な方法です。カルシウム拮抗薬ではない高血圧治療薬に変更または、他のカルシウム拮抗薬へ変更することで歯肉の増殖が軽減されることが分かっています。これらの薬を処方した主治医と相談する必要があります。

3.歯周外科治療

薬物性歯肉増殖症において歯周外科治療を行うのであれば、切除療法である歯肉切除術を行います。肥大化した歯肉を切除し取り除いてしまう治療です。増殖した分だけ切除するため、外科治療の予測がたて易く比較的簡単であり、歯肉増殖によりできてしまった歯と歯肉の間のポケットを確実に取り除くことが可能です。
外科治療によりプラークコントロールが行いやすくなるメリットがありますが、プラークが再度付着したり、薬剤の影響で再発してしまう恐れがあります。また、このような薬剤を服用されている患者さんは全身的にも問題を抱えており、外科治療を選択するには全身管理をしている主治医と連携し十分注意することが必要になります。

 まとめ

薬物性歯肉増殖症はある特定の薬物の副作用とデンタルプラークによって引き起こされます。また、その疾患は歯肉に限局され歯周組織全体には及ばないですが、歯肉の増殖によりさらにプラークが蓄積し、歯周組織全体に炎症が波及する可能性もあります。なかなか治りづらい場合もありますが、薬の変更や徹底的なプラークコントロールによって治癒することも十分あり得ます。ご自身がその薬剤またはその種類に近い薬剤を服用していて、歯肉の腫れの自覚があるようであれば歯周病学会認定医/専門医の所属する歯科医院にて検査してもらうことをお勧め致します。