歯周病の症状の一つ、「骨吸収」とは?

公開日:2020/08/19

歯周病は国民の約8割が罹患している。そんなことを聞いたことありませんか?残念ながら概ね事実であり、日々患者さんを拝見する上で問題のない方はほとんどいないのが現状です。我々が問題視しているのは国民のほとんどが虫歯の有無に意識があり、歯周病への意識が極めて低いことです。痛くなったら歯医者に行くという、先進国では稀な歯科への感覚をお持ちの方はまだまだたくさんいらっしゃいます。歯周病は症状なく進行することが多く、発見が遅れると歯を支えている骨がなくなり、抜歯に直結する恐ろしい病気です。そこで今回は歯周病の症状の一つである骨吸収についてお話しようと思います。

武内 崇博

執筆歯科医師
武内 崇博(日本歯周病学会専門医)

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歯科医師、歯学博士。東京歯科大学歯周病学講座講師(非常勤)。日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会、日本顕微鏡歯科学会の各会所属。

 そもそも歯周病とは?

歯周病は歯周疾患ともよばれ、歯肉炎歯周炎に分類されています。歯周病は歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患であり、歯周組織とよばれる歯を支える4つの組織(歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨)に起こる疾患のことをいいます。驚くべきことにギネスブックにも人類最大の感染性疾患として認定されています。
我が国における平成23年の歯科疾患実態調査によると、歯肉に何らかの症状がみられる患者数を推定すると約9400万人ですが、実際に治療を受けている患者数は約260万人であるといわれています。
また最近、歯周病は生活習慣病として位置づけられ、食習慣、歯磨き習慣、喫煙、さらに糖尿病などの全身性疾患との関連性が示唆されています。
つまり歯周病は歯を支える組織に起こる炎症で、口の中でだけでなく全身とも関わりがある疾患であるこということです。

 歯周病の原因

歯肉炎・歯周炎の原因因子は歯と歯茎の間にある歯肉溝・歯周ポケットとよばれる溝に存在するプラーク(歯垢)であり、プラーク中の細菌と生体防御機能とのバランスが崩れることにより発症・進行します。
通常、お口の中には500種類以上の細菌が存在します。そのなかで歯周組織の破壊を引き起こす細菌は特定されており、これを歯周病原細菌とよびます。これらが、歯肉に存在している免疫細胞や、歯周組織を構成する細胞に作用し、細胞が産生する各種の酵素、サイトカインとよばれる物質が歯周組織の破壊を引き起こすと考えられています。
さらに生体の免疫機構をつかさどる好中球、マクロファージ(単球)、リンパ球などの機能が低下することにより歯周組織の破壊が生じます。とくに細菌感染に対する抵抗性を低下させる全身疾患 (糖尿病、血液疾患、特殊な遺伝性疾患) は、歯周炎の進行を促進させます。また酵素やサイトカインの過剰産生によっても歯周炎は進行します。近年では歯周病に関連した遺伝子型が解明されつつあります。
また、歯周病は生活習慣病としての側面を有しています。生活習慣のなかでも、喫煙、ストレス、不規則な生活、アンバランスな食事などは歯周炎の進行に影響します。とりわけ喫煙は歯周炎の進行を促進するだけでなく、歯周治療の効果を減少させ、また歯周炎の再発を誘発します。
一番大切なことは、歯周病の原因は口のなかの細菌であるということです。その細菌と自身の細胞や細胞の産生する酵素などが炎症反応を起こし、自ら歯を支える組織を壊してしまいます。さらに、破壊を増悪させる因子として、生活習慣が深く関わっていることも重要なポイントです。

 歯周病の症状

健康な歯肉は、一般的に薄いピンク色をしています。歯間乳頭とよばれる歯と歯の間の歯肉はかたく引き締まっていて、形状は三角形に近く、歯の際の部分である辺縁歯肉も鋭い扇状となり、歯面から滑らかに移行しています。
歯肉炎・歯周炎に躍患すると、歯周組織には炎症の徴候である、赤み腫れ熱感痛みのほかにも特有の症状が現れます。
歯肉炎では、歯肉の腫れと歯肉からの出血が認められるようになります。
炎症が拡がり歯周炎になると、歯と歯肉との付着が破壊され、結果として歯と歯肉との溝(歯肉溝)が深くなり、歯周ポケットとよばれる3 mm以上の深い溝が形成されます。歯周ポケットの検査には、プローブと呼ばれる目盛りのついた細い器具を歯周ポケット内に挿入し、深さを測ります。みなさんも一度は経験があるかもしれません。
さらに炎症が進むと歯槽骨の吸収がエックス線上でも認められるようになり、歯の動揺歯の移動が起きます。歯周ポケットでは細菌が増殖し、歯肉縁下プラークを形成し(バイオフィルム)、細菌の代謝産物により特有な口臭を生じます。また、歯周ポケットからの膿が出たり、歯周膿瘍(膿のかたまりのようなもの)が認められるようになります。

 歯周病により骨が溶けるしくみ

では、どのようにして歯周病によって歯を支える骨(歯槽骨)が溶けてしまうのでしょうか。骨の代謝で重要な役割を果たす細胞は、未分化問葉系細胞に由来する「骨芽細胞」とマクロファージ(免疫を担当する細胞)系血液幹細胞由来の「破骨細胞」です。破骨細胞の形成には骨芽細胞あるいは間質細胞との直接的な接触が必須です。
歯周病の活動度の高い部位の歯肉溝中にはIL-1やIL-6、TNFαといった炎症性サイトカイン(タンパク質)が多く検出されることが知られています。それらのサイトカインは歯周病原細菌による刺激を受けると産生が増えるといわれています。産生されたサイトカインは骨芽細胞に作用し、間接的に破骨細胞に分化していきます。増えた破骨細胞により歯槽骨の破壊が進むのです。
難しくなりましたがいかがでしょうか。歯周病の原因となる細菌が直接骨を溶かすのではなく、われわれ自身の細胞に作用して、自ら骨の破壊を進めてしまうということです。

 まとめ

歯周病とはどのような病気かわかりましたか?症状が自身では分かりにくく、気付いた時には重症化し、歯を失うことになってしまうとても怖い病気です。簡単な検査で歯周病の診断ができますので、一度歯周病専門医・認定医のいる歯科医院を受診し、歯周病のチェックをしてみませんか?