智歯周囲炎って何ですか?

公開日:2021/03/17

こんにちは、東急田園都市線たまプラーザの日本歯周病学会認定歯周病専門医が在籍する歯医者「美しの森デンタルクリニック」院長の村野嘉則と申します。
さて、「智歯」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?これはお口の中にある歯の名前で一番奥に生えてくる第3大臼歯のことで、一般的には「親知らず」と言われています。「親知らず」の由来は諸説ありますが、お口の中に生える時期が子供の成長した20歳前後であることから、親の知らぬ間に生える歯ということで名付けられたようです。
「智歯」はお口の中で一番最後に生えてくる歯ですが、現代人の中には骨の中に留まってしまって正常に生えてこない方や、元々存在しない先天欠如の方がいます。これは日本人が欧米人と比べて「智歯」が正常に生えづらい人種であることや、また硬く容易には噛みきれないような食事をしていた縄文時代と比べ、現代では食生活の変化などにより顎が小さくなり「智歯」がちゃんとした位置に生えづらくなってしまったようです。
この「智歯」がしっかり生えないとなってしまう病気があるのをご存知でしょうか? 親知らずが腫れてしまって痛い思いをした方も多くいらっしゃると思いますが、親知らずが炎症を起こしてしまう病気を「智歯周囲炎」と言います。今回はこちらの病気について詳しくご説明したいと思います。

村野 嘉則

執筆歯科医師
村野 嘉則(美しの森デンタルクリニック 院長)

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《保有資格》
日本臨床歯周病学会認定医。日本歯周病学会認定歯周病専門医。厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医等。
《自己紹介》
美しの森デンタルクリニック院長の村野です。歯を失う原因である歯周病の治療を専門としておりますが、歯周病は歯だけでなく、全身の健康にも被害を及ぼすのではと懸念されている疾患の一つです。各科の専門医と協力することで、「なるべく歯を残す治療」を心がけています。

 智歯周囲炎とは

「智歯」が元々存在しない先天欠如の方や、正常に生えてちゃんと清掃できる方は大丈夫ですが、生えるスペースの不足により「智歯」が中途半端に出てきたり、隣の歯に引っかかったりすると、歯の周りに深いポケットができて汚れがたまってしまい清潔に保てなくなります。その結果、細菌感染を起こして「智歯周囲炎」となってしまいます。「歯性感染症」と言われる虫歯や歯周病が原因で起きる細菌性の炎症の一つで、多くが慢性炎症という状態で症状があまり感じられない状態が多いのですが、状態が悪くなると急性化して腫れたりお口が開かないなどの症状が出てしまいます。

 智歯周囲炎とは

「智歯」の生えるスペースの不足によるものや、生える方向の異常によって起こる「萌出異常」が影響し、そこにお口の中の細菌が感染して起きます。

上顎に比べて下顎に起きることが多く、「智歯」の生え方も大きく影響します。
近心傾斜歯:手前の歯の方向に倒れてしまっているもの
水平智歯:真横に倒れてしまっているもの
逆性智歯:上下逆さまになってしまっているもの

さらに、萌出状態によっても分類されます。
半埋伏智歯:歯肉から一部歯が露出しているもので、智歯周囲炎になりやすい。
完全埋伏智歯:歯肉の中に埋まってしまっていて見えないもの。骨の中に完全に埋まってしまっている物もある。

 智歯周囲炎の症状

・歯肉が腫れて触ると痛みがある
・歯肉から膿が出る
・お口が開けづらくなる(開口障害)
・食べ物や水などを飲むと痛みがある
・顎の下のリンパ節の腫れや痛み
・何もしなくても顎の奥にズキンズキンと痛みがある
智歯周囲炎は慢性期の場合ほとんど症状を感じませんが、急性期になると上記のような症状が段階的に出始めます。炎症が進行すると目立った顔の腫れや発熱、全身倦怠感などを生じて、重症化すると炎症が頸部などに達する「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」となり呼吸困難などの重篤な症状を起こすこともあります。

 智歯周囲炎の治療

軽症の場合、炎症部位の清掃や洗浄、抗生物質の投与により症状は改善します。しかし智歯の生え方などによっては抜歯を勧められる事もあります。
急性期の炎症のひどい場合は上記に加えて、膿んでいる部分の切開やお口が開かない場合は消毒液によるうがいを行い、炎症が落ち着いてから抜歯を行います。重篤な場合は入院や点滴による消炎処置が必要になりますので、何度も腫れた経験のある方は要注意です。
抜歯をする場合、上顎と下顎で比較すると上顎の方が抜歯後の腫れや痛みの症状は少ないことが多いようです。下顎で、横に倒れて埋まってしまっている智歯(水平埋伏智歯)を抜歯する場合などには、どうしても歯肉の切開と智歯周囲の骨を削らないと抜けないため、個人差はありますが1週間程度の抜歯部の腫れや痛みが残ってしまいます。また、下顎智歯付近には大きな神経と血管の管が通っています。術後の神経麻痺などの回避と安全に抜歯するためにCT撮影が必要になる事もあります。

 まとめ

「智歯周囲炎」は生え方が悪ければ抜歯をする事で予防することができます。しかし、ある程度生え方が正常で、しっかり清掃することができれば抜歯する必要がない場合もあります。
「智歯」を残すメリットとして、健康が保たれている智歯であれば、もしも他の奥歯を失った場合に「歯牙移植」のドナーとして使うことができます。これはインプラントや歯を削るブリッジなどの治療を回避することができるため、非常に良い方法だと思います。しかし無症状な事も多いことから久しぶりの歯科医院での検診で指摘され気付いたり、30代以降の成人の場合には歯周病を併発している事も多く、残念なことに歯牙移植に使えない状態になっている場合もあります。
まずは定期的な歯科検診により、ご自身のお口の状態を把握し、もしも「智歯」があれば残せるものはしっかりとケアして、予後が悪いものに関しては「智歯周囲炎」の予防のためにも抜歯をご検討されるとよろしいかと思います。