この記事を読もうとしている方の中には、脱肛と診断された経験がある方もいるでしょう。
そのため脱肛について「発生原因には何があるのだろうか?」「症状や治療方法について知りたい」など、疑問点を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、脱肛の症状・発生原因・治療法について詳しく解説しています。
また、受診の目安についてもご紹介するので参考にしてみてください。
目次 -INDEX-
脱肛とは
脱肛とは、肛門から直腸が外に脱出してしまう状態です。
直腸は肛門の周りの筋肉や組織によって支えられ、正しい位置を保ちますが、脱肛が起こると直腸が肛門から突出する状態となります。
脱肛は、その原因によって分類され、労作性脱肛・神経因性脱肛などがあります。
労作性脱肛とは、主に重い物を持ち上げるなどの労力を伴う活動によって引き起こされる脱肛です。神経因性脱肛は、肛門筋の機能が低下し、正常な収縮力を失うことによって起こる脱肛です。
脱肛の症状には、肛門からの直腸脱出感・圧迫感・肛門周囲の腫れと痛みなどがあります。
また排便時にも問題が生じることがあり、便秘・下痢・排便困難などがあるため、症状がある場合は、早めに医師に相談することが大切です。
脱肛の症状
脱肛の症状には次のようなものが挙げられます。
- 出血
- 脱出
- 疼痛
- 肛門湿疹・分泌物
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
出血
脱肛の場合、直腸が肛門から脱出するため、肛門周囲の組織が損傷することがあります。この組織損傷によって、出血が生じることがあります。
出血の程度は症例により異なる場合がありますが、脱肛による軽度な出血から、組織の損傷が深刻な場合には激しい出血までさまざまです。
脱肛に伴う出血は排便時に起こることが多いです。直腸が肛門から突出しているため、排便時に直腸に加わる圧力が増大し、組織が損傷することで出血が発生することがあります。
また脱肛に伴う出血に加えて、肛門周囲の組織が炎症を起こすこともあります。
脱出
「脱出」とは、直腸が肛門から脱出し、体外に見えることです。
つまり直腸が正常な位置から外れてしまっている状態を指しており、排便時などに肛門の圧力がかかることで起こります。
脱出は脱肛の中で最も目立つ症状です。直腸が脱出しているため、肛門から直腸が見えることがあり、脱出した直腸が触れることによって、痛みや不快感を感じることもあります。
脱出が軽度な場合は肛門部からわずかに出ていることもあれば、重度の場合には全体が体外に見えることもあります。
疼痛
脱肛によって直腸が肛門から突出するため、周囲の組織や筋肉が引っ張られることで、痛みが生じます。
脱肛による痛みは、通常は脱肛が起こるときや直腸が体外に見える状態での活動時に感じられます。
疼痛の度合いは個人によって異なり、軽度の場合から激しい痛みまでさまざまです。 また脱肛に伴う痛みは排便時にも増強されることがあります。
直腸の位置が正常でないため、便の通過が困難になったり、直腸や肛門の組織が刺激されたり損傷したりすることがあります。そのため、排便時に疼痛を伴うことが多いです。
痛みの軽減のために、鎮痛薬を内服するケースもあります。
肛門湿疹・分泌物
脱肛の症状には、肛門湿疹や分泌物の発生がある場合もあります。
脱肛によって直腸の粘膜が肛門から突出するため、肛門周囲の皮膚が擦れたり、摩擦を受けたりすることがあります。
このように、肛門周囲の皮膚が刺激されることが、湿疹発生の原因です。
また脱肛に伴って直腸からの分泌物が肛門周囲に広がることもあり、直腸内の粘液や便の一部が肛門から漏れ出ることがあります。この分泌物が肛門周囲に触れることで、かぶれや湿疹が生じることがあります。
肛門湿疹や分泌物の症状がある場合は、皮膚の保湿や清潔を保つことが重要です。症状によっては専用の湿疹クリームや保湿剤を使用するケースがあります。
その他
脱肛の症状は、出血・脱出・疼痛・肛門湿疹・分泌物が主なものですが、他にも以下のような症状が現れることがあります。
1つ目は下痢や便秘の悪化です。脱肛によって直腸の位置が正常ではなくなるため、便の通り道が狭くなったり、適切に働かなくなったりすることがあります。
その結果、下痢や便秘が悪化することがあります。
2つ目は排便困難です。直腸の位置が異常なため、排便する際に筋肉や組織が適切に働かず、排便が困難になることがあります。
このような場合、強い圧力がかかることで痛みや不快感が生じることがあります。
3つ目は塞栓です。脱肛の状態が長時間続くと、直腸の血流が阻害されることがあります。
これにより直腸内の血液が凝固して塞栓が生じることがあり、塞栓は痛みや不快感を引き起こすことがあります。
4つ目は尿トラブルです。脱肛によって直腸や周囲の組織が圧迫されることで、尿道に影響を及ぼすことがあります。
尿の通りが悪くなるため、尿意の調節や尿の保持が難しくなる場合があります。
脱肛の発生原因
脱肛の発生原因はさまざまですが、一般的な要因は次のとおりです。
1つ目は筋肉や組織の弱化であり、直腸周囲の筋肉や組織の弱化は脱肛の主な原因です。これは加齢・妊娠や分娩・肥満・慢性的な便秘や下痢・重い物の持ち上げなどが原因となることがあります。
2つ目は過度の圧力です。直腸に強い圧力がかかることで、脱肛が起こることがあります。
3つ目は妊娠と分娩です。妊娠中の子宮の成長や分娩時の強い圧力は、直腸周囲の組織に負担をかけることがあります。これにより脱肛が引き起こされることがあります。
4つ目は先天的な問題です。生まれつき直腸周囲の組織や筋肉が弱い場合は、脱肛を起こしやすいケースがあります。
脱肛を放置するとどうなる?
脱肛を放置すると、以下のような問題が生じる可能性があります。
1つ目は痛みや不快感です。脱肛は通常痛みや不快感を伴います。脱肛が続くと、これらの症状が悪化し、日常生活や活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
2つ目は感染や炎症です。脱肛時に直腸内部が外部に露出し、細菌や他の微生物が侵入するリスクがあります。これにより感染や炎症が起こり、炎症が進行すると腫れ・赤み・膿の排出などの症状が現れることがあります。
3つ目は血液循環の障害です。脱肛が長期間続くと、直腸周囲の血液循環に影響を及ぼす可能性があります。血流に障害がきたされると、組織の壊死や潰瘍のリスクが高まります。
4つ目は慢性的な脱肛です。脱肛が放置されると、繰り返し脱肛が起きることがあります。
これにより筋肉や組織のさらなる弱化および変形を引き起こし、症状の悪化をもたらすことがあります。
5つ目は心理的影響です。脱肛による症状や制限は、個人の心理的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。痛みや恥ずかしさからくるストレス・不安・うつ病などの症状が現れることがあります。
脱肛の治療方法
脱肛の治療方法には次のようなものが挙げられます。
- 薬物療法
- 手術療法
- 注射療法
- 生活習慣の改善
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
薬物療法
薬物療法は脱肛の症状を軽減するために行われ、具体的には抗生物質・抗炎症薬・緩下剤による治療などです。
抗生物質による治療では、脱肛により感染を引き起こしている場合に処方されることがあります。
抗炎症薬による治療では、直腸の炎症や腫れを軽減するために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されることがあります。
また緩下剤による治療は脱肛に伴う便通改善が目的です。便秘に対する緩下剤は、便通を改善し、直腸の負担を軽減するために使用されることがあります。
手術療法
手術療法は、重度の脱肛や薬物療法だけでは改善しない場合に検討されることがあります。
主に行われる手術方法は、直腸固定術です。リフト手術とも呼ばれ、直腸周囲の組織を強化し、脱肛の悪化を防ぐために行われます。
直腸固定術には、以下のような手法があります。
1つ目は腹腔鏡下直腸固定術です。腹腔鏡を使用して、脱肛した直腸を元の位置に固定する手術です。
この方法では腹部に小さな切開をし、内視鏡を挿入して手術を行います。直腸を正しい位置に戻し、それを固定するためのメッシュの使用や縫合を行います。
2つ目は開腹での直腸固定術であり、腹部を開腹して直腸を正しい位置に固定する手術です。
手術を行うために大きな切開が必要ですが、これにより執刀医は術野を広くとることができます。開腹下直腸固定術でもメッシュや縫合により直腸を固定します。
直腸固定術は、脱肛の原因や症状に応じて選択され、直腸の解剖学的な異常や弛緩・直腸脱出の修復・脱肛の再発を防ぐことを目的とします。
手術後、通常は一定期間の経過観察と適切なリハビリテーションが必要となります。
注射療法
いぼ痔(内痔核)で脱肛を伴っている場合、ジオン注射(ALTA・アルタ療法)による治療方法があります。「排便時に脱肛するが、時間が経つと自然に戻る」、「排便時に脱肛し、指で押し込まないと戻らない」などの症状がある場合に効果的です。
生活習慣の改善
生活習慣の改善も脱肛の治療に非常に重要であり、以下はいくつかの改善策の例です。
1つ目は食物繊維の摂取です。食事に食物繊維が豊富な果物・野菜・穀物を含めることで、便通を改善し脱肛のリスクを減らします。
2つ目は水分摂取を増やすことであり、十分な水分摂取は便の柔軟性を高め、便秘を予防するため重要です。
3つ目は適度な運動です。適度な運動は腸の働きを促進し、便秘を防ぐことができます。
4つ目はトイレ習慣の改善であり、排便を促すために、定期的なトイレの利用や適切な姿勢を保つことが大切です。
脱肛の受診について
脱肛の受診に関連したポイントには次のようなものが挙げられます。
- 検査・診断方法
- 受診すべき診療科
- 受診すべき症状の目安
- 受診時の注意点
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
検査・診断方法
脱肛の診断は、症状と検査結果の総合的な評価に基づいて行われますが、検査と診断方法は、以下のような方法が一般的です。
1つ目は直腸検査です。医師が手袋を装着し、指を直腸内に挿入して直腸の状態を評価します。これにより、脱肛の程度や直腸内に異常があるかどうかを確認することができます。
2つ目は経直腸超音波(EUS)です。経直腸超音波は、直腸および周辺組織の画像を提供するために使用されます。医師は超音波プローブを直腸内に挿入し、高解像度の画像を得ることで異常を評価します。
3つ目はCT検査であり、直腸や大腸の形状・位置・動きを評価し、脱肛の原因となる問題を判断することに効果的です。
受診すべき診療科
脱肛の受診には、消化器内科もしくは消化器外科がおすすめです。
消化器内科では、直腸や大腸の疾患や異常に精通しているため、脱肛に関する検査や診断を行うことができます。
また消化器外科では、手術が必要な場合にも対応することができます。
病院・クリニックなどによっては肛門科(肛門外科)として診療を行っている場合もあるので確認してみましょう。
受診すべき症状の目安
脱肛の症状には個人差がありますが、以下のような場合には受診の検討が必要です。
- 長時間放置しても脱肛が繰り返される場合
- 便通に関連して脱肛が起こる場合
- 脱肛による痛みや不快感が強い場合
このような症状がある場合は迷わず受診しましょう。
受診時の注意点
脱肛の症状や治療方法は、個人や症状の程度によって異なります。医師の指示や助言に従い、適切に治療を受けることが重要です。
また脱肛の受診時には、以下の注意点を考慮しながら対応しましょう。
1つ目は早めの受診です。脱肛の症状が出たら、早めに医師に受診することが大切です。放置すると脱肛が悪化したり、合併症を引き起こす可能性があります。
2つ目は症状の記録です。脱肛の症状や発作の頻度、痛みの程度などを日記に残しておくと、医師への情報提供がスムーズになります。
3つ目は身体的な変化の観察です。脱肛の症状や痛みが変化したり悪化したりする場合には、それを医師に報告するようにしましょう。
4つ目は事前の質問準備です。受診前に疑問や不安がある場合は、それらをメモにまとめておくと、医師とのコミュニケーションがスムーズになります。
5つ目は正確な情報提供です。診察の際には、症状の詳細・病歴・現在の投薬状況など、正確かつ完全な情報を提供するようにしましょう。
6つ目は医師の指示に基づいた検査・検診の受診です。医師が必要と判断した場合には、追加の検査や検診を受けることがあります。検査結果や診断結果を正しく理解し、適切な治療方針を確認しましょう。
まとめ
この記事では脱肛の症状・発生原因・治療法・受診目安について解説しました。
脱肛とは直腸が肛門から脱出してしまう状態であり、脱出以外の具体的な症状には出血・疼痛・肛門湿疹などが挙げられます。
長時間放置しても脱肛が繰り返される場合・便通に関連して脱肛が起こる場合・脱肛による痛みや不快感が強い場合は脱肛の受診の目安とされています。
不安な症状がある場合には早い段階で病院を受診しましょう。
参考文献