大腸内視鏡検査、通称大腸カメラと呼ばれています。がんやポリープなどの診断における信頼性が高く、精密検査の第一選択として行われます。
大腸がんは、罹患数・死亡数ともに日本人のがんの1~2位を占めてきました。一方で、早期発見により早く治療を始めるほどに寛解率・完治率が上がることが知られています。
こうした大腸がんの早期診断に役立つ大腸カメラは検査ができる施設数も多く、対応している国内の病院・クリニックは1万施設を超えました。
一方、実施内容は、保険適用か自費診療かといった費用体系から鎮静剤の有無まで施設によってさまざまです。
クリニック選びに失敗してがんを見落とされたら?という不安や、費用をかければ安心というわけでもないもどかしさもあるなか、適正な費用で適切な検査を受けられる医療機関はどのように選ぶとよいでしょう。
本記事では費用を確認する際の基本知識から検査内容における注意点をもとにクリニックを選ぶポイントを紹介します。
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大腸カメラの費用は?
大腸カメラは人間ドックなど自費診療で受ける場合と、保険診療が適用される場合があります。自費診療か保険適用かは施設ごとの判断となるようです。
健康診断や人間ドックの専門機関では確認なく自費診療になる場合も見受けられます。まずは保険適用の検査を実施している医療機関で相談するのもよいでしょう。
自費診療の場合
価格設定は自費診療の大腸カメラに対応している各施設に委ねられており、基本的には全額自己負担です。相場は観察費用として2〜3万円(税込)程度みるとよいでしょう。
大腸から組織の一部を採取してさらに検査する「生検」やポリープ切除をする場合はさらに数万円かかります。こうした実施内容の一部を保険適用にする場合もあります。
自費診療を実施しているのは人間ドックや健康診断専門の健診センター、医療機関の専門部署などです。
対象となるのは、医学的な異常がみられない場合です。例えば「症状や健診で異常はないが心配だから内視鏡検査を受けたい」といった方です。
なお自費診療の大腸カメラでポリープが見つかった際、その場ですぐ切除しないことも多くあります。治療のため、自費診療ではない保険適用の医療機関を改めて受診し、再度大腸カメラを受診する可能性もあります。
保険診療の場合
医師による十分な診療や医学的に必要とされた場合、大腸カメラは保険診療となります。例えば、健診で便潜血が陽性となった場合などは保険診療です。
費用は診療報酬で決まっている保険点数をもとに、1〜3割の範囲で自己負担額を払います。大腸カメラの診療報酬における保険点数は1,550点で、3割負担の場合約5,000円です。
これらに初診費・再診費や薬剤費などが加わります。異常がなく観察のみで終わった場合、3割負担で合計10,000円以内でしょう。
例えば生検が追加になると約5,500円~7,000円、ポリープの切除は大きさや臓器数により異なりますが約15,000~21,000円が3割負担の目安です。
実際の費用は観察方法や薬剤の種類などで決まっていきます。なお、保険診療の点数を決める診療報酬は2年に1度改定されます。
改定されたり新しい項目が新設されたり、項目がなくなることもありますので、詳細は都度医療機関などで確認しましょう。
大腸検査を受ける際の流れ
検査を受けてから帰宅するまでは下記のような流れです。
- 患者さんの確認、検査室・前処置室への入室
- 感染対策、腸管洗浄剤、鎮静剤など薬剤投与、局所麻酔・潤滑剤を塗布
- 内視鏡を挿入、大腸の奥(盲腸)まで進める
- カメラを引き抜きながら観察 ※色素で色付けしたり拡大したりする場合もある
- 病変がある際は場合により検体採取・内視鏡治療(ポリープ切除や粘膜切除)
- 終了・リカバリー室での安静
- 検査後説明、帰宅
検査では、先端にビデオスコープのついた内視鏡を肛門に挿入し、大腸内の全体を観察します。そのため、ベッドで横になり膝を抱えるような姿勢で行います。
内視鏡は太さ約12mmです。挿入時には潤滑剤を塗布し、奥に進めるときは仰向けや反対側など体の向きを適宜変えます。個人差はあるものの長さ約150cmある大腸の奥まで観察するためです。
観察は、大腸の一番奥まで内視鏡が到達してから、抜きながら徐々に行います。
このとき内視鏡からガス(空気や二酸化炭素)を噴出させ腸内を広げた状態で行います。腸内を膨らませることで、腸のヒダの裏まで観察し病変を見逃さないためです。
ガスで腹部が膨満するため、痛みや不快感が強い際は適宜ガスを抜いたり、場合により鎮静剤を用います。
大腸カメラのメリットはリアルタイムの観察だけではありません。ポリープなど病変が見つかった際に生検ができること、場合によってはポリープ切除が可能なことも特長です。
大腸カメラの実施にかかる時間は腸の形状等によって異なります。ガイドラインでは高齢者や女性、低BMIなどの場合、内視鏡の挿入が難しいことが予測されるとしています。この場合の挿入には10〜20分程度かかるでしょう。
観察は同ガイドラインで6分以上行うことが提案されています。生検やポリープ切除をしない場合、合計数十分で終了するでしょう。
大腸カメラを受ける際の注意事項
大腸カメラを受ける際の注意事項を、以下の4つに分けてご紹介します。
- 問診時における注意事項
- 検査前日の注意事項
- 検査当日の注意事項
- 検査後の注意事項
問診時・検査前日・検査当日・検査後のそれぞれで注意しなければならないことがあるので、必ず不安や悩みがあれば医師に相談するようにしましょう。
問診時
大腸カメラと一見無関係に思えることも、問診内容に対して正確に答えること、また不安に思っていることを遠慮せず伝えることが大切です。
いくつか具体例をご説明します。まず薬に関して例をあげると、医療機関は大腸カメラに際して鎮静に使用できない薬があるかどうか把握しておく必要があります。
そのため、緑内障の有無や麻薬など強い痛み止め・エイズ治療薬・てんかん治療薬といった服用薬の確認がなされるでしょう。
大腸の動きを抑える鎮痙薬に関しても同様です。緑内障・前立腺肥大症・不整脈・麻痺性イレウス・甲状腺機能亢進症・コントロールの悪い糖尿病・褐色細胞腫などがあると鎮痙薬が使えない場合があります。
こうした疾患があるか確認もされますが、ご自身からも伝えるとよいでしょう。
また、大腸カメラは消化管出血を起こす可能性があります。抗血栓薬を飲んでいる方は出血しやすいため、出血リスクと抗血栓薬の種類や服薬状況から個別に休薬などを検討します。必ず、正確な薬の種類と服用状況を伝えましょう。
なお便秘や過敏性腸症候群・炎症性腸疾患といった疾患では検査時の痛みが強い可能性があるので、これらも問診時に伝えるとよい情報です。
検査前日
前日においては下記のような注意事項がなされることが多々あります。
- 検査前日の「夜〇時」までに食事を済ませる
- 〇時以降は水だけなど、飲み物を制限する
- なるべく消化のよい食品を選ぶ(消化のよさは糖質>たんぱく質>脂質)
- 生物や揚げ物を避け、煮込みや細かく刻むなど消化のよい調理法を選ぶ
- 海藻や豆など繊維質が多い食材やゴマなどの種は避ける
なるべくスムーズに検査時、大腸内がきれいになっている状態を目指すため、前々日や3日前からの指導が行われる場合もあります。また、前日から服用する必要がある下剤などもあります。
当日の検査開始時間などにも左右されるため、具体的に検査施設に指示を仰いで従いましょう。
検査当日
検査当日は下記のような注意事項がなされます。
- 絶食・水分補給は〇時までに〇ml程度まで
- もともと服薬している薬がある場合は休薬や服用時間を調整
- 口検査当日に服用するタイプの下剤など服用
当日は自宅または検査施設で、下剤を2リットル程度数回に分けて飲み複数回トイレを使用します。着脱しやすい服装がよいでしょう。
鎮静剤を使う選択をした場合は、自転車や車など運転の必要がある乗り物で医療機関へ行くのは避けましょう。
検査後
鎮静剤を使った場合は、検査後しばらく休憩スペースなどで安静にする必要があります。
また自動車・バイク・自転車の運転を控える期間があります。少なくとも検査当日は運転できないと指導する医療機関がほとんどでしょう。
鎮静剤を使用して検査を受けたいという希望がある際は、病院までの行き帰りやその日の仕事など活動内容を考慮して相談してください。
また、検査中に大腸に充填していたガスが出そうであれば出しましょう。おならが出る感覚に恥ずかしさもありますが、腹痛や吐き気の原因となるため我慢しないようにします。
観察のみの検査の場合は特に食べ物や飲み物の制限はありません。ただ腸管の動きを止める薬を使用した場合は、ガスが出るなどお腹の張りが改善されてから飲食するほうがよいでしょう。
生検を実施した場合は、血便やふらつきが出た場合の対応や、アルコールなど刺激物の摂取・運動などについて施設で注意事項が出ます。
ポリペクトミーや粘膜切除術(EMR)を実施した場合は予想される症状への対応や、食事・生活の制限がより増えますので、注意して過ごすようにしましょう。
大腸カメラの費用が高額になるケースについて
大腸カメラは検査時に観察だけでなく、ポリープを切除できたり、麻酔や下剤の方法や種類などを希望に合わせて選択できたりするのがメリットにあります。
こうした検査以外の費用例を保険診療の内容から紹介しましょう。
これ以外にも色素や特殊な光を検査に使う場合の加算や、検査前からとる食品(検査食)などの費用が生じることがあります。初診費・再診費といった診察費など必ずかかる費用もあります。
詳細を医療機関に確認する際の参考になれば幸いです。
検査以外に治療を伴う場合
単なる確認だけでなく、生体から組織を採取する生検やポリープ切除などを実施する場合に発生する費用です。
例えば診療報酬において大腸のポリープを切除する大腸ポリペクトミーは5,000点です。診察料や加算などを合わせると、切除するポリープのサイズや臓器数などにも左右されますが、生検も合わせると大腸ポリープ切除の費用は、約15,000円~22,000円(税込)程度かかります。
上述したように保険診療の点数を決める診療報酬は2年に1度改定されますし、実際の費用は個々のケースで異なりますので気になる際は事前に医療機関に確認しましょう。
麻酔などの薬を多く使用した場合
検査ではさまざまな薬剤を使用します。下剤や麻酔は必須ですが、種類や使用法が複数あり、自分に合った内容を選択していきます。
例えば静脈麻酔を追加すると高額なイメージがあるかもしれませんが、実際は薬剤費としては数十円から数百円で、保険適用であれば自己負担率はその1~3割です。
また、大腸の中の泡を消す作用がある薬や吐き気止めなどもありますが、これらも薬剤費としては数百円でしょう。
比較すると下剤の値段はやや高価といえ、また価格帯が幅広くなります。薬剤の管理費等が発生することもあるでしょう。
大腸カメラ受診でおすすめのクリニックの選び方
厚生労働省の調査によると、国内では1年あたり約3,800の病院で23万人、約6,500のクリニックで14万人の方が大腸カメラの検査を受けています。
技術や機器の種類も多様な施設の中から、安心して検査を受けられる自分に合った施設を検討する際のポイントを紹介します。
鎮静剤を使用できるか
鎮静剤は緊張をやわらげ、不安・不快感を抑えます。大腸カメラは複数回受ける可能性があります。検査中のつらさが抑えられるので次回以降の苦手意識や負担が減る効果も期待されるでしょう。
ただ意識の消失や血圧が下がったり呼吸が弱くなったりすることがあります。
また検査前後の当日の活動が制限されることが、鎮静剤を使用する際のデメリットとなる方もいらっしゃいます。
制限される活動の例としては車の運転や運動量の大きい仕事などです。不安感が強い方は、鎮静剤を使用する方針の施設を選ぶのもよいでしょう。
一方で使用しなくても検査は可能です。技術や機器も進歩しており、実際に鎮静剤を使用しないで検査を受ける方は少なくありません。
信頼できる医療機関で、安心して任せられる医師に検査をお願いすることで実際に苦痛は和らぎます。
相談の際に「この医師になら検査をお願いできるか」という視点で考えてもよいでしょう。
検査時の痛みが少ないか
検査時の痛みは、以下のようなときに生じやすいといわれます。
- 内視鏡を挿入する際や、腸内の蛇行している部分を通過させるとき
- 開腹する手術をしたことがあり腸が周囲の組織と癒着を起こして腸が変形している場合、内視鏡を通過させるとき
- 検査のために内視鏡から噴霧させるガスによりお腹が張ったとき
腸の蛇行している部分や癒着して変形している部分では、内視鏡を進めようとした際に不要な圧をかけることになり痛みが生じます。
なお、瘦せている方・小柄な方・便秘の状態では腸の折りたたまれ方がより密になるので痛みも生じやすくなります。
施設を選ぶ際は、こうした痛みへの対応をどのようにしているのか確認するとよいでしょう。
具体的には、内視鏡スコープのサイズや性状を多様に揃えるといった設備の工夫、消化器内視鏡の専門の医師の資格があるかどうかといったスキル面などです。
検査法の工夫として、スコープ挿入時ガスの代わりに水を噴霧する「水浸法」を採用する医療機関もあります。
また上記で解説した鎮静剤は、検査時の痛みの軽減と関連しています。
なるべく痛みを抑えたい方は鎮静剤の使用を検討していることも踏まえて相談すると、より希望に近い医療機関を探しやすくなるでしょう。
内視鏡治療を実施しているか
ここでいう内視鏡治療とは、ポリープの切除(ポリペクトミー)や粘膜切除(EMR)を指します。
大腸カメラのメリットの一つは、単なる観察ではなくリアルタイムで検査や内視鏡治療も行える点です。とはいえ検査で異常が見つかってもそのまま当日治療を行うことが困難なときは多々あります。
少なくとも内視鏡検査だけに対応している施設では治療できません。
治療まで実施している機関であれば検査時に異常が見つかったとき転院の必要がありません。スムーズに引き続き治療の相談を行うことができます。
一つの目安として専門の医師がいる医療機関を探すのもよいでしょう。この場合は、例えば日本消化器内視鏡学会が認定する内視鏡の専門の資格です。勤務期間や内視鏡検査の経験数、研修の受講など一定の水準を満たす必要がある資格です。
下剤に伴う苦痛が少ないか
大腸カメラは、通常は常に便が存在している大腸の中を空にして行う検査なので、下剤の使用が必須です。
検査がつらいと感じる方の不安や恥ずかしさが下剤の使用に伴うことは少なくありません。漏れはしないか、匂いはどうかといった心配がある方もいらっしゃるでしょう。
食生活や緊張する体質かどうかといった個人差も下剤の効用に影響しますし、検査前日から使う下剤もあれば当日使う下剤もあります。
施設選びの際には、生活スタイルや希望に合わせて下剤の種類や使用法を検討してもらえることが検査に対する抵抗感を軽減し、当日を安心して迎えることにつながります。
女性の場合は、女性スタッフが対応する施設を選ぶことも一つのポイントです。
炭酸ガス送気装置が導入されているか
炭酸ガス送気装置とは、検査のとき腸内を膨らませる際、二酸化炭素(炭酸ガス)を噴霧するための装置です。従来は空気が用いられてきました。
ただ、腸内に充填する際のお腹の痛みや膨満感・不快感が課題となっていたのです。その後、空気の数百倍の速さで腸管に吸収される炭酸ガスを用いることでこうした苦痛が軽減されることが分かりました。
有効性だけでなく安全性も確かめられたため、昨今では炭酸ガスを使用する施設が増えています。
まとめ
大腸がんは、日本で年々増加する傾向にあります。大腸カメラはその発見に役立つ最初の精密検査であると同時に、ほとんどの場合複数回受けることになる検査でもあります。
検査として全く安全というわけでなく出血の可能性などもあるからこそ、現在の保険適用は全ての方ではなく、異常がある方・医学的な必要がある方が対象となっています。
身体への負担だけでなく家族の心配・お金の心配なども含めた心の負担は小さくありません。一方でがんになった際のことを考えれば、定期的な検査と早期発見は大切です。
適切な知識のもと、自分に合った医療機関を選ぶことで時間と精神的な負荷を軽くしましょう。本記事が信頼できる医師との出会い・納得感のある検査の一助となれば幸いです。
参考文献