「放射線治療の後遺症」は何がある?副作用を含め対処法を解説!【医師監修】

放射線治療は、手術と薬物治療とともにがん治療において3つの柱となる治療法です。しかし、放射線治療の際には病変の周りの正常な組織にもその影響が現れます。今回の記事では、放射線治療の急性期・晩期の反応を解説し、その対応も述べていきます。ぜひ参考にしてみてください。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
放射線治療の急性期反応

放射線治療中から終了直後の期間に現れる副作用のことを、急性期反応と呼びます。
この急性期反応は、照射部位や治療内容によって異なります。
放射線治療による急性期反応は、全身的な副作用と、局所的なものに分けられます。
全身的な急性期反応
疲労感や倦怠感などの症状が現れることがあります。
放射線治療を開始してから2、3日で、一時的に吐き気や食欲低下、身体がだるいといった症状が現れることがあります。この症状を放射線宿酔(しゅくすい)といいます。しかし、放射線治療に身体が慣れてくると、1週間程度でこうした症状は改善していきます。
また、骨盤や胸骨、椎体などの広い範囲に放射線が照射されると、骨髄機能が低下し、白血球や赤血球、血小板が減少する場合があります。しかし、放射線治療のみの場合には、治療を中断しなければならないほどになることは少ないです。
局所的な急性期反応
放射線治療の対象となる部位によっては、以下のような急性期反応が出ることがあります。ここでは、代表的なものを取り上げます。
放射線性皮膚炎
放射線があたる部位に一致して、放射線治療中に皮膚炎が生じることがあります。皮膚の乾燥や赤みがみられ、かゆみや軽度の痛みなどが症状となります。重度の皮膚炎の場合は皮膚のただれ(びらん)などがみられることもあります。放射線治療中には、皮膚の保湿を心がけることと、強くこするなどといった刺激は避けることが大切です。
口腔粘膜炎
首や口のあたりのがん(頭頸部がん)に対する放射線治療を行う場合、口や喉の粘膜に影響が現れます。軽症の方もいますが、粘膜に潰瘍ができてしまい、食事を変更する必要が出てくる場合もあります。症状の悪化を予防する方法として、口の中を清潔に保つことがあります。症状を和らげるために鎮痛薬を使用したり、食事量低下を補うために栄養補助ドリンクを飲んだりすることもよいでしょう。
下痢
腹部に放射線治療をする場合、治療から2週間で下痢や吐き気、嘔吐、食欲低下などの症状が出現します。前立腺がんや子宮頸がんの治療の際には、特に直腸が影響を受けることはほぼ必須です。
放射線治療の晩期反応

放射線治療の晩期反応は、急性反応が改善してから2ヶ月〜数ヶ月経って出現するものです。放射線治療の晩期反応としては、以下のようなものがあります。
放射線肺臓炎
乳がんや肺がん、食道がんなどの治療では、肺に放射線が照射され、放射線肺臓炎が起こることがあります。抗がん剤と放射線治療を同時に併用した場合や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症などの方では、特に放射線肺臓炎を発症する可能性が高まります。
しかしながら、CTなどの画像所見で肺炎が疑われるものの、症状はほとんどないことも多いです。一方で、特に放射線が照射された範囲が広い場合には症状が現れることもあります。例えば、咳や息切れ、胸の不快感、呼吸のしづらさといったものです。重症の場合には酸素投与が必要となる場合もあります。
治療法は、ステロイド投与や酸素投与などです。気管切開や気管内挿管を要することもまれにあります。
放射線脊髄症
放射線が脊髄に照射されると、脱力感が生じたり感覚が鈍くなるという脊髄炎症状が現れることがあります。
なお、放射線治療終了後 1〜6ヶ月後の亜急性期に、一過性放射線脊髄症(レルミット徴候)が生じることもあります。これは、頸部を曲げた際に、電撃が走るような痛みが手足に広がる症状のことです。この症状は自然軽快するので、特に治療の必要はないと言われていますが、ステロイド治療が有効なこともあります。
しかしながら、晩期に放射線脊髄症は放射線治療によって起こる障害のなかでも重いものの一つで、いったん発症すると回復する見込みは少ないです。
放射線脊髄症を防ぐために、脊髄にあたる放射線の量を制限した治療計画が立てられています。
唾液腺照射による口腔内乾燥
頭頸部がんの放射線治療では、耳下腺などの唾液腺への照射がほぼ避けられません。
唾液腺は唾液を分泌している組織なので、放射線治療によって特に晩期に口腔内乾燥が問題となることがあります。
どれくらい唾液腺がダメージを受けるかは、放射線がどの程度照射されたかや、個人差もあります。唾液腺への照射線量を低下させるために、強度変調放射線治療(IMRT)などの技術が取り入れられています。
口腔内乾燥が起こると、唾液が出づらいために食事意欲が低下したり、むし歯になりやすくなったりするという問題が起こります。口の中を清潔に保つことや、定期的な歯科チェックなどがすすめられます。また、ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®️)が処方されることもあります。
その他にも、晩期有害事象として、皮膚の潰瘍が残ったり、骨の壊死や骨折、骨や軟骨組織の成長・発達異常、脊椎の側弯症、関節の拘縮、リンパ浮腫などもあります。
また、動脈硬化の原因になったり、甲状腺機能低下症がみられる場合もあります。
放射線治療による二次がん

放射線治療によって、がんが新たにできてしまうという可能性がわずかに高まります。
放射線治療後のがん生存者に二次がんができてしまうリスクは、年間0.2%から1%という報告もあります。
二次がんができる場合、最初のピークは放射線治療の3年以内で、主に急性白血病などの血液悪性腫瘍といわれています。一方、2番目のピークは治療後10年以上経過してから発生する固形腫瘍です。
特に小児がんの場合には、二次がんの発生が問題になることがあります。がんの種類としては、甲状腺がんや乳がん、白血病、肉腫といった悪性腫瘍が代表的です。
放射線治療の副作用や後遺症との付き合い方

ここでは、放射線治療中の副作用や、後遺症とどのように付き合っていくのがよいかをご紹介します。
放射線治療の副作用との付き合い方
副作用の緩和には、主治医と相談しながら対症療法を行うことが大切です。例えば、皮膚炎には保湿や冷却を行い、口内炎にはうがいや適切な口腔ケアを実施します。また、食欲不振に対しては栄養管理や食事の工夫が有効です。倦怠感に対しては、適度な運動や十分な休息を取り入れることが有効です。
放射線治療の後遺症との付き合い方
後遺症は長期にわたる管理が必要です。例えば、線維化による可動域制限は、リハビリを続けることで改善が期待できます。放射線性肺炎や腸閉塞は、定期検査を受け早期発見・治療につなげることが重要です。精神的な負担は、カウンセリングや患者会への参加も有効な支援手段です。
放射線治療についてよくある質問
ここまで放射線治療の副作用や後遺症について紹介しました。ここでは「放射線治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療の副作用や後遺症は全員に発生する?
木村 香菜(医師)
放射線治療の副作用や後遺症は個人差が大きく、全員に発生するわけではありません。
照射部位、線量、体質などが影響します。また、動脈硬化症、糖尿病、膠原病、腎機能不全などの合併症によっても異なります。主治医と相談しながら、リスクを理解し予防策を講じることが大切です。
放射線治療を受けたことで家族や周りの人に影響はある?
木村 香菜(医師)
放射線治療は外部照射が一般的であり、治療後に患者さん本人から放射線が出ることはありません。そのため、家族や周囲の方に放射線の影響を与える心配はありません。
ただし、分化型の甲状腺がんに対する放射性ヨウ素内用療法などの体内照射(内部被ばく)の場合は、一時的な隔離や入院、接触制限が必要な場合があります。
まとめ

今回の記事では、放射線治療による急性期障害や晩期障害を解説しました。晩期障害のなかには、一度症状が現れると治癒が難しく、後遺症として残ってしまうものもあります。
しかし、治療の際には正常な組織に不要な放射線が照射されないような治療計画が立てられ、有害事象を最小限にするように配慮されています。
もしも不安がある場合には、事前に、あるいは治療中に放射線治療医や主治医に質問するようにしましょう。
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