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HIVワクチン開発の可能性「ホリエモン×保富康宏医師」オンライン対談

公開日:2022/04/12
HIVワクチン開発の可能性「ホリエモン×保富康宏医師」オンライン対談

長らく不治の病と認識されてきたエイズですが、2000年代以降に治療薬の開発が進み、徐々に発症が抑制できるようになってきました。そして2022年現在、ついに根本的な治療であるワクチン開発の希望が示されつつあります。
そのような状況を踏まえ今回は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター長の保富康宏先生をお迎えし、HIVワクチン開発の可能性についてご講義いただいた上で、予防医療普及協会理事の堀江貴文氏と議論を交わしていただきました。

※この記事は2022年2月16日に実施された対談をまとめたものです。

堀江 貴文

予防医療普及協会理事
堀江 貴文(ほりえ たかふみ)

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1972年福岡県生まれ。作家活動のほか、ロケットエンジン開発やスマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」などのプロデュースも手掛ける。2016年、「予防医療普及協会」の発起人となり、現在は理事として活動。予防医療オンラインサロン「YOBO-LABO」に深く関わる。同協会監修の著作に、『120歳まで生きたいので、最先端医療を取材してみた』(祥伝社新書)『健康の結論』(KADOKAWA)『ピロリ菌やばい』(コマブックス)『むだ死しない技術』(マガジンハウス)などがある。

保富 康宏

医師
保富 康宏(やすとみ やすひろ)

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酪農学園大学獣医学研究科博士課程を卒業後、ハーバード大学でエイズウイルスの研究を進め、ハーバード大学助教に就任。帰国後は三重大学医学部・教授、霊長類医科学研究センター・センター長として研究の第一線で活躍している。

HIVについて

堀江堀江 貴文

本日はよろしくお願い致します。

保富 康宏保富先生

お願い致します。本日はHIVワクチンの開発の可能性についてお話しさせて頂きます。

保富 康宏保富先生

HIVとは、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)であり、免疫を担当する細胞を死滅させることで、さまざまな感染症を引き起こします。
2020年WHOのデータによると、世界におけるHIV感染者は約3770万人、その3分の2以上がアフリカ地域に分布しています。68万人がHIVにより死亡、150万人が新規にHIVに感染、日本における感染者は2.2万人とされています。
HIV発見から40年が経過していることもあり、ウイルス学的・生体病理学的・免疫学的解析や治療薬の開発は日々進展しています。そういった背景もあり、抗HIV薬の処方を通して発症の抑制は可能となっているものの、根本的な治療やワクチンの開発が進んでいないことが問題です。

    

ワクチン接種の目的について

保富 康宏保富先生

私たちの身の回りには様々な病原体が存在し、体内に侵入することで様々な感染症を引き起こします。感染症が起こると、生体の防御機能である免疫が働きます。この免疫には自然免疫獲得免疫というものがあります。

■自然免疫と獲得免疫

自然免疫は、侵入してきた病原体や異常になった自己の細胞を感知し、それを排除する仕組みであり、生まれつき体に備わっています。獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除する仕組みです。ワクチンはこの獲得免疫を誘導し、病原体への感染や発症を予防する目的で使用されます。

獲得免疫は、活躍する細胞の種類や作用の仕方でさらに「細胞性免疫」と「液性免疫」に分けられ、細胞性免疫がエイズウイルスの排除に特に重要です。

I.細胞性免疫

細胞障害性Tリンパ球(CTL)やマクロファージが直接細胞を攻撃する免疫反応です。一部のCTLは、メモリーT細胞となって、異物に対する攻撃性を持ったまま体内に記憶されます。

II.液性免疫

液性免疫は、B細胞と抗体が中心となる免疫反応です。B細胞が刺激されると大量の抗体を産生し、体内を循環し全身に広がります。刺激されたB細胞の一部はメモリーB細胞となって、再度の感染の際には、より迅速に、そして抗原に効果的な抗体を大量に産生することができます。

    

ワクチンの種類とHIVに対する効果について

保富 康宏保富先生

ワクチンにはたくさんの種類があり、それぞれ利点や欠点が存在します。病原体(ウイルスや細菌など)そのもの又は、病原体を構成する物質などをもとに作ったワクチンを接種することで、その病原体に対する免疫ができます。具体的には不活化ワクチン、生ワクチン、組換えタンパクワクチン、遺伝子組み込みベクターワクチン、DNAワクチン、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンなどがあります。

1.不活化ワクチン

代表的なワクチンとして、四種混合ワクチン(ジフテリア、百日せき、破傷風、不活化ポリオ)があります。病原体を不活化しているため安全性は非常に高いものの、細胞性免疫の誘導はされず、HIVにおけるワクチンの効果も今のところ認められていません。

2.生ワクチン

一般的によく使用されるワクチンで、病原性を弱めた病原体からできています。MRワクチン(M:麻疹、R:風疹)やBCGワクチン(結核)などがあります。細胞性免疫と液性免疫の両者を誘導できることが特徴です。
HIVの場合、ウイルスが常に変異を繰り返しているため、弱毒化に対する安全性の確認が必要です。
また重要な報告として、HIVには特定の遺伝子であるnef遺伝子を欠損させると弱毒化することが報告されています。我々が研究したワクチンは、この弱毒化を応用しています。ただし、nef遺伝子の欠損による弱毒化のみでは、感染防御効果が乏しく実用化には至っておりません。

3.組換えタンパクワクチン

安全性は非常に高く、インフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンなどが有名ですが、アジュバントと称する免疫反応を高める物質の投与が必要です。また、細胞性免疫の誘導が難しいという欠点もあります。

4.遺伝子組み込みベクターワクチン

細胞性免疫と液性免疫の両者を誘導可能です。ウイルスに抗原を組み込むため、高い技術が必要であり、ベクターとなるウイルス(アデノウイルスなど)への免疫も一緒に誘導されます。しかし複数回の投与においては、ベクターウイルスのみ免疫誘導が残ってしまうという欠点もあります。

5.DNAワクチン、mRNAワクチン

これらのワクチンでは、ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を投与します。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得します。
現在国内外で承認を受け、日本でも接種が開始されている新型コロナウイルスに対するワクチンとしてmRNAワクチンが該当します。
製造が簡単で安価、細胞性免疫も誘導すると利点は多いですが、HIVに対する実用化にはまだ至っていません。

保富 康宏保富先生

ここまで紹介したワクチンですが、現在は異なった種類のワクチンの組み合わせにおける効果を検討している段階です。

例えば最初に不活化ワクチンを投与し、次に生ワクチンを投与するパターン。最初にDNAワクチンを投与し、次に遺伝子組み換えベクターワクチンを投与するパターンなど様々ですが、効果的な組み合わせを試行錯誤しています。今のところ成功例はなく、最も期待されていたワクチンの組み合わせもアフリカで行われた臨床試験においては2020年の2月に有意差がないという結果となりました。

    

エイズウイルスの完全排除に繋がる免疫応答について

保富 康宏保富先生

エイズウイルスの制御には抗ウイルス薬の投与が行われていますが、エイズウイルスは体内から決して排除されることはなく、潜伏感染を続けるため、エイズ発症抑制のために生涯に渡って投薬が必要です。抗ウイルス薬の長期服用は、耐性ウイルスの出現やさまざまな副作用が問題となります。
エイズウイルスを完全に排除する治療薬の開発が長く待たれる中、我々はついに、アジュバンド分子組み込み弱毒ウイルスを用いて、エイズウイルスを生体内から完全に排除することに成功しました。その研究背景と実際に我々が行った研究結果についてお話しさせていただきます。

■研究背景

エイズウイルスのnef遺伝子を取り除いたエイズウイルスは弱毒になることが知られています。

nef遺伝子とは、エイズウイルスの遺伝子の一つです。この遺伝子を取り除くと生体内での増殖性が低下することがわかっています。このnef遺伝子欠損弱毒エイズウイルスは、遺伝子欠損によりウイルス複製機能が低下し安全性が高まり、弱毒エイズ生ワクチンとして期待されましたが、強毒株に対する感染防御効果がなく、ワクチンとして効果はありませんでした。その後、遺伝子欠損部位にサイトカイン遺伝子を組み込んだサイトカイン遺伝子組み込み弱毒エイズウイルスが開発されましたが、その効果についても十分な効果は得られませんでした。
近年、不活化ワクチンや組み換えタンパクワクチンの免疫増強効果を高めるため、アジュバントの活用が検討されています。アジュバントとは、ラテン語の「adjuvare(助ける)」に由来し、ワクチンと一緒に投与することで、ワクチンの性能を高めるために使用される物質のことです。その中で、抗酸菌の主要分泌抗原であるAg85Bが細胞性免疫を効果的に誘導する新規のアジュバントになりうることを我々は過去に報告しています。

■われわれの研究

研究背景をもとに我々は、nef遺伝子欠損弱毒エイズウイルスの遺伝子欠損部位にAg85Bを組み込んだAg85B発現弱毒エイズウイルスを構築しました。

このウイルスのワクチンとしての免疫応答および感染防御効果についてカニクイザルを用いて検討したところ、強力な細胞性免疫が誘導され、強毒性エイズウイルスが完全に排除されることが確認されました。

さらに我々は、Ag85B発現弱毒エイズウイルスにより、体内のエイズウイルスが排除される根拠の確認と証明を目的として研究を行いましたので、段階的に紹介させていただきます。

Phase1:血液中のウイルスを調査

まず初めに血液中のエイズウイルスの量をnef遺伝子欠損弱毒ウイルスとAg85B発現弱毒エイズウイルスにて比較しました。Ag85B発現弱毒ウイルスを投与したカニクイザルでは投与4週目以降血漿中のウイルスは検出されず、nef遺伝子欠損弱毒ウイルスと比較し8週間も早くウイルスの排除を確認しました。

Phase2:遺伝子へのウイルス感染を調査

エイズウイルスのように慢性感染症は血液中にウイルスが確認されなくても、遺伝子の中に隠れて存在し潜伏感染を引き起こしていることがあります。それに対してインフルエンザのような急性感染症は、急激に感染を引き起こした後は、速やかに血液中、遺伝子上からウイルスが消失していきます。
Ag85B発現弱毒ウイルスを投与したカニクイザルにおいては、感染直後から急激に細胞性免疫が誘導され、投与後12週以降には遺伝子上からもウイルスの排除を確認しました。それに対して、nef欠損弱毒ウイルスを投与したカニクイザルは、8週目以降に徐々に細胞性免疫が誘導され、12週目以降も遺伝子上のウイルスが確認されました。
ここで驚くべきことは、慢性感染症であるエイズウイルスによる感染が、Ag85B発現弱毒ウイルスを投与することで、細胞性免疫が急激に誘導され、インフルエンザのような急性感染症と同様に消失するという点です。

Phase3:強毒性エイズウイルスを投与

次に我々は、Ag85B発現弱毒ウイルスとnef欠損弱毒ウイルスを投与したカニクイザルに、強毒のエイズウイルスを投与し感染を誘発しました。その結果、後者はすべて亡くなりましたが、前者は7頭中6頭において、強毒性エイズウイルスの排除を確認しました。

Phase4:血液成分を輸血

最後に我々は、エイズウイルスが排除されたカニクイザルの血液成分を子猿に輸血し、エイズウイルスの感染の有無を確認しました。その結果、6頭中2頭においてエイズウイルスの感染を確認しましたが、残りの4頭においてウイルスは検出されませんでした。

これらの研究結果は、今後エイズ治癒を目的とした新たな治療薬やワクチン開発の進展につながることが期待されます。

    

エイズ根治を導くワクチン療法の開発について

保富 康宏保富先生

治療用ワクチンとしての実用的な利用も検討・立案が必要です。
第一の案として、投薬治療をしている患者様から血液を採取します。その血液中から分離されたエイズウイルスのnefを取り、そこにアジュバント分子を組み込んだウイルス構築し、そのウイルスをもとの患者様に戻すという方法でエイズの根治が可能と考えています。
また、アフリカなど個別の治療が難しい地域においては、その地域で最も流行しているウイルスの形を分析し、その分析をもとにワクチンを作製することでエイズの治療に応用が可能と考えます。
このような方法が実用化することは、これまで困難であったエイズウイルスの完全排除を可能とし、エイズウイルス感染症の根治に繋がる大きな一歩となることが期待されます。

以上です。

堀江堀江 貴文

研究の段階で、輸血をされた小猿はその後どのような経過を辿ったのですか?

保富 康宏保富先生

6頭すべて元気です。感染を確認した小猿も、投薬なしでコントロールが可能となっています。今までは遺伝子上のウイルスなど少量では誘導されなかった免疫反応が、ワクチンの投与によって少量のウイルスにも反応する強い免疫記憶が残っているのだと思われます。このことが人間において応用可能となれば、投薬なしでエイズウイルスのコントロールが可能となると考えています。

堀江堀江 貴文

エイズウイルスは変異しやすいというお話しがありましたが、どのくらい変異しやすいのですか?

保富 康宏保富先生

体の中で常に変異していると思われます。その点がHIVにおけるワクチン開発の問題と言えます。しかし、我々が開発したAg85B発現弱毒ウイルスは、感染初期から細胞性免疫を誘導するので、変異してしまう前にウイルスを排除してしまおうというわけです。

堀江堀江 貴文

倫理的な問題もあると思われますが、予防的な投与についても実用化は可能なのでしょうか?

保富 康宏保富先生

はい。可能であると思われます。ただ、まずは実際の感染者や感染リスクの高いアフリカなどの地域で効果が発揮されることが重要ですね。まずは治療用ワクチンとしての効果を示し、そこから本来の目的である予防というところにシフトしていくものと思われます。

堀江堀江 貴文

本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

保富 康宏保富先生

ありがとうございました。

    

編集後記

現在、新型コロナウイルスの感染拡大を背景として、ワクチンの効果や安全性、副反応、作用機序など様々な情報が発信され、私たちの関心も高まっています。
40年という歴史の中で、いままで根治が困難であったHIVへの感染ですが、基礎研究の積み重ねとワクチン製造技術の向上などにより、根治が可能となる日がそこまで近づいていることに驚き、期待が膨らむ講義でした。
HIVのみならず、現在治療や予防が困難な疾患は多く存在します。そのような疾患の根治を目指した基礎研究の積み重ねや、更なる医学の発展を願います。