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サイバニクスがもたらす新しい社会 「ホリエモン×山海嘉之」オンライン対談

公開日:2022/02/07

少子高齢化という社会課題は、我が国にとってリスクなのでしょうか? それとも新産業創出のチャンスなのでしょうか? 今回、予防医療普及協会の堀江貴文氏と、筑波大学/CYBERDYNE株式会社の山海嘉之先生をお迎えし、人・ロボット・情報系を融合複合した新領域「サイバニクス」や、『人』と『サイバー・フィジカル空間』が融合するこれからの社会について議論していただきました。

※この記事は2021年10月26日に実施された対談をまとめたものです。

堀江 貴文

実業家
堀江 貴文(ほりえ たかふみ)

プロフィールをもっと見る
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発やスマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」などのプロデュースも手掛ける。2016年、「予防医療普及協会」の発起人となり、現在は同協会の理事として活動。「予防医療オンラインサロン YOBO-LABO」にも深く関わる。同協会監修の著作に、『健康の結論』(KADOKAWA)、『ピロリ菌やばい』(ゴマブックス)、『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)など。

山海 嘉之

大学教授・センター長
山海 嘉之(さんかい よしゆき)

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筑波大学教授、筑波大学サイバニクス研究センター研究統括・未来社会工学開発研究センター長、CYBERDYNE株式会社社長・CEO。脳・神経・筋系を改善・再生・拡張・支援する世界初の装着型サイボーグ「HAL®️」を開発。2004年にサイバニクスを駆使して社会課題を解決する未来開拓型企業「CYBERDYNE」を設立し、2014年東証マザーズ上場。世界初のロボット治療機器「医療用HAL」を上市するなど、イノベーションを起こしながら世界規模で事業を展開している。2019年紫綬褒章受章等、他多数受賞。その他、スウェーデン王立工学アカデミー国際フェローなど。

Society5.0の到来

堀江堀江 貴文

本日は宜しくお願い致します。

山海 嘉之山海

お願い致します。本日は「サイバニクスがもたらす新しい社会」のお話をさせて頂きます。

山海 嘉之山海

人類の進化の過程において、ホモ・サピエンス以降は遺伝子を変えずにテクノロジーを活用することによって社会変革や進化をしてきました。

Society5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く「第5の社会」と言われており、内閣府は「第5期科学技術基本計画」の中で、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義しております。我が国は現在、Society4.0の情報社会にありますが、多くの社会課題を抱えています。特に、少子高齢化や人材不足が深刻です。その中で、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、クラウド、ビッグデータ、ロボットなどの最新テクノロジーの活用によって課題を解決し、より快適な社会を実現することがSociety5.0の目的とされています。

    

サイバニクス治療とは?

山海 嘉之山海

Society5.0を牽引する科学技術の一つとしてサイバニクス技術があります。

サイバニクス(Cybernics)とはサイバネティクス(人工頭脳学)、メカトロニクス、インフォマティクスを中心に、脳・神経科学、行動科学、ロボット工学、IT、システム統合技術、生理学、心理学、哲学、倫理、法律、経営など様々な学問を融合複合した新たな学術領域です。サイバニクス技術を駆使して我々は世界初の装着型サイボーグである「HAL®︎ (Hybrid Assistive Limb®︎)以下HAL」を開発しました。

サイバニクス治療としてのHAL
HALには医療用下肢タイプ、単関節タイプ、非医療用の腰タイプなどがあります。医療用HALにより実現されるサイバニクス治療は、脳・神経・筋系の機能改善・機能再生を促進する「機能改善治療」として位置付けられます。HAL医療用下肢タイプを使用することにより、進行性の神経・筋難病8疾患(脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、シャルコー・マリー・トゥース病、遠位型ミオパチー、封入体筋炎、先天性ミオパチー、筋ジストロフィー)の方の歩行機能を改善する効果が治験(規制当局からの承認取得に向けて医薬品や医療機器の有効性・安全性を評価するための臨床試験)によって確認されており、それらの疾患に対してHALは歩行運動療法を行うための医療機器として承認され、公的医療保険が適用されています。

自立支援、介護支援、作業支援用途のHAL腰タイプの運用
HAL腰タイプは、自立支援用途や介護・作業支援用途など、介護される側の方にも介護する側の方にも利用してもらうことができます。自立支援用途では、腰に装着し体幹や下肢の運動をアシストします。装着して立ち座り動作を繰り返すことによって、歩く速度などを含めた身体機能が維持・向上することで自立度が高まり、介護状態が重くなっていくことを防ぐ効果が期待できます。特に昨今の新型コロナウイルスの影響に伴う外出自粛により、運動機会の減少や運動量の低下による身体機能の低下リスクが高まっています。そこで当社では、自宅でHAL腰タイプを使用することにより脳神経・身体系機能の維持・向上を促すプログラムである「Neuro HALFIT®︎」を開始しています。

また、介護支援・作業支援用途のHAL腰タイプは、装着することで介護や重作業時の腰部への負荷を軽減するために使用されています。この用途では、国内外の介護施設や重量物を運ぶ現場でもある全日本空輸(ANA)をはじめとする企業内での活用や、2020年に発生した熊本豪雨災害での活用事例もあり、今後様々な企業や災害現場での活用が期待されます。

    

その他の製品の紹介とSociety5.0の実現

山海 嘉之山海

CYBERDYNE社では、除菌・清掃ロボットCL02や搬送ロボット、光超音波イメージングAcoustic X、バイタルセンサCyvis等、サイバニクス技術を駆使した様々な製品を開発しております。

除菌・清掃ロボットCL02:最先端の技術を駆使した次世代型清掃ロボット。作業員の高齢化や労働力不足が深刻化する清掃現場において、人とロボットが協働し、安全かつ効率的な清掃業務を実現することで、清掃品質の向上に貢献します。拡張機能として、除菌剤を噴霧する装置や、床面の除菌をする紫外線照射装置を搭載することも可能。

搬送ロボット:工場やオフィス等での搬送作業を実現。搬送経路や屋内フロアの移動は自由自在に設定可能で、人の作業をスマートにサポートすることが可能。

Acoustic X:LED光源と超音波から得られる情報により、従来の技術では難しかった毛細血管の情報をリアルタイムに画像表示することが可能。

バイタルセンサCyvis:小型センサーを装着することにより、心電図、脳活動、体温、酸素飽和度、体動等の人の生理情報の連続的な計測が可能。

山海 嘉之山海

CYBERDYNE社では、サイバニクス技術を駆使して、遠隔医療や人手不足の解消などSociety5.0の社会課題を解決し、人とテクノロジーが共生し相互に支援し合う「テクノ・ピアサポート社会」の実現が可能と考えています。

これまで医療というものは、主に病院や診療所の中だけで行われてきましたが、この「医療機関の中での医療」と「保険適用の医療としては位置づけられていない予防という世界や退院した後の世界」との境界が不明瞭になり、医療と非医療という法律で区切られた線も明確でなくなってきています。さらに昨今の新型コロナウイルス感染症の流行により、遠隔医療や在宅療養時のバイタルモニタリングなどの重要性がより高くなっています。その中で当社が最も大切にしている“個別化医療”という考え方は、非常に重要になっていくと考えています。従来、在宅・病院・職場・施設など異なる場面においては、情報もそれぞれの組織ごとに個別に管理されていました。そのような情報をクラウド上で一括して集積・解析・AI処理することにより、病院の中だけで行われてきた医療が自宅や職場などにも入り込み、個別化医療の質の向上に繋がると考えています。

さらに労働環境においては、HAL腰タイプ介護・作業支援用や除菌・清掃ロボットCL02、搬送ロボットの導入により人手不足の解消に繋がります。それだけではなく、HALの使用情報から作業量を把握することや、CL02や搬送ロボットの作業状態をクラウド上で管理することにより、労働環境の把握・改善に役立つと考えています。

堀江堀江 貴文

大変興味深いお話をありがとうございました。HALはどのような原理で病気の進行を防ぐのでしょうか?

山海 嘉之山海

人が身体を動かそうとすると、脳から動きたいという「意思」の信号が脊髄、運動神経、筋肉へと伝わります。その信号は末梢の皮膚表面からわずかながら漏れ出ており、HALの装着によって拾うことが可能となります。例え病気などで身体の機能が低下している状況であっても「動きたい」という脳神経系由来の信号が少しでも検出できれば、HALは身体の一部のように機能し動いてくれます。HALと一体化した身体の部位から、動いた時の感覚情報が脳へと戻っていきます。こうして、人とHALとの間で脳から末梢へ、末梢から脳へと神経伝達のループが回ることで、人の脳神経系と筋骨格系とHALとの間に双方向のフィードバック(インタラクティブ・バイオフィードバック)が生まれ、神経系のループが再構築されます。結果として、「動けない→神経と神経、神経と筋肉の間のシナプス結合が弱くなる/あるいは強くなる(神経系の過活動状態)→筋肉が衰える/あるいは筋肉が緊張し続けてカチコチになる→動けない」という悪循環が断たれ、シナプス結合が強化・調整され、身体機能が改善すると考えられています。

堀江堀江 貴文

そのような原理で進行性の神経・筋疾患の難病の患者さんでも機能改善の治療ができるのですね。神経・筋疾患以外の疾患についてはいかがでしょうか?

山海 嘉之山海

医療機器としての承認についてですが、日本では2020年の12月に脳卒中における治験が終了し、承認申請の準備中です。また、脊髄損傷に関しても当局と相談中という段階です。さらにHALを使用することによって、パーキンソン病の方の機能改善の事例も報告されてきています。いずれにしても、日本における医療機器としての承認や公的保険の適用には、かなりの時間を要しているのが現状です。

堀江堀江 貴文

日本以外でも運用は始まっていますか?

山海 嘉之山海

はい。現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジア圏など18カ国で運用が始まっており、日本以外では神経・筋疾患だけでなく、脳卒中と脊髄損傷についても既に医療機器として承認・認証を受けています。

堀江堀江 貴文

日本での運用は他国に比べると少し時間が掛かるのですね。何が原因なのでしょうか?

山海 嘉之山海

医療機器としての承認ハードルが高いことです。HALの開発に関しては、全く新しい技術でしたのでまずは規制機関や認証機関が参照するルールをつくるために、ISOという国際標準化機構の中に入り、エキスパートメンバーとして国際規格を策定しました。もちろん、社会実装していくには臨床試験や治験が必要となります。日本やアメリカ、ヨーロッパなどの国では既に医療機器の承認や認証に関して、これまで積み上がってきたルールが蓄積されながら決まっており、そういった部分で新しいものを開発・社会実装していくことのハードルが高くなるのだと思われます。

堀江堀江 貴文

価値ある技術を開発・実用化していくことにも、問題があるのですね。なにか解決策はあるのでしょうか?

山海 嘉之山海

国によって医療機器としての承認ルールが変わりますので、社会の仕組みが柔らかい国から運用を開始して、新たなモデルケースを作ることが解決に繋がるかも知れないですね。モデルケースが存在すると本国にも持ち込みやすくなる可能性はあると思います。医療用ではありませんが、イギリスのハンプシャー州の介護施設において、HAL腰タイプが評価され、2021年の10月から計127台の大型契約が決まりました。そこには、同国における介護事情が関わっていまして、移乗動作(ベッド⇔車椅子)の介護の際には2名以上の介護者が必要というルールがあるそうです。そこでHAL腰タイプを使用したところ介護業務を1名で行うことの安全性が確認され、人材面や財政面といった介護事業が抱える問題を解決する視点から導入が決まりました。各国の社会的背景やルールの違いが、社会実装に繋がる鍵にもなると思っています。

堀江堀江 貴文

サイバニクス治療については、今後も更に発展が期待されますね。

山海 嘉之山海

はい。現在神奈川県の川崎市にサイバニクス医療イノベーションベースの建設が進んでいて、2022年2~3月頃の竣工を予定しています。全室ウェットラボの当該施設には医療・バイオ系のベンチャーを集積し、新たな技術の開発やサイバニクス治療との併用にさらに加速がかかると思われます。

堀江堀江 貴文

本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

山海 嘉之山海

ありがとうございました。

    

編集後記

昨今の新型コロナウイルスの流行により、非接触型のエレベーターや非接触型体表温測定器などの非接触テクノロジー、配膳・運搬ロボットなど今までは触れることのなかったテクノロジーが、今では生活の一部として当たり前に存在するようになりました。また、ウェアラブルデバイスの普及・進化により、日常的にバイタルを測定し体調管理の一貫としてデータを蓄積することもより簡単になっています。
Society5.0の課題となる少子高齢化や人口減少に伴う人手不足は今後も深刻さを増し、新型コロナウイルス感染拡大にも余談を許さない状況が続きます。
今回の対談は、日々進化するテクノロジーが私たちの生活の一部として浸透していることを実感し、今まさにSociety5.0への変換の時期であることをより感じる対談でした。
我が国における医療機器としての承認ハードルの高さや、個人データの一括管理に伴う情報漏洩リスクなど様々な問題がある中、人とテクノロジーが共生し相互に支援し合う「テクノ・ピアサポート社会」実現の今後の加速に期待が高まります。