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認知症の“周辺症状”はご存じですか? 「被害妄想」の特徴や治療法も医師が解説!

 公開日:2025/09/03

「物を盗られた」「あの人が自分の悪口を言っている」などの発言は、認知症の周辺症状による被害妄想でよく見られます。ご本人だけでなく、ご家族など介護をする方にも負担となることが少なくありません。なぜ被害妄想が起こるのだろう、どのような対応をすればよいのかと悩んでいる方も多いのではないしょうか。この記事では、認知症の周辺症状の1つである被害妄想の具体的な症状や治療法、対処法について詳しく解説します。

川合厚子

記事監修医師
川合 厚子(トータルへルスクリニック)

認知症の周辺症状である被害妄想とは

妄想とは、非合理的で訂正不能な思い込みのことです。認知症では妄想や幻覚、異常行動などのさまざまな精神症状がみられます。これらの精神症状の評価にNPI(Neuropsychiatric Inventory)という尺度が用いられますが、NPIの妄想に関する項目は「被害妄想」と「誤認妄想」の2つのみであり、被害妄想は重要な症状であると言えます(1)。被害妄想には、物盗られ妄想、嫉妬妄想、迫害妄想、見捨てられ妄想があり、以下のような特徴があります(1,2)。

  • 物盗られ妄想:誰かが金品を盗んでいるという妄想。盗まれたと訴えるものは、金銭や通帳、財布が多い。犯人とされる者は娘や嫁、婿、夫など身近な家族が多い。
  • 嫉妬妄想:「配偶者、恋人が不実を働いていると確信する」妄想。しばしば暴力などにも至るため、早期に介入が必要になる。
  • 迫害妄想:誰かが自分に危害を加えようと企てているという妄想。
  • 見捨てられ妄想:自分が邪魔な存在として扱われ、見捨てられているという妄想。

認知症の種類別|被害妄想の特徴

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症の4大認知症のうち、特に妄想がみられやすいのはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症です。これらの認知症について、被害妄想の特徴を紹介します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症のご本人の40%程度に被害妄想がみられます。そのなかでも物盗られ妄想が最も多く、見捨てられ妄想、嫉妬妄想などが続きます(3)。特徴は見捨てられ妄想や嫉妬妄想といった不快でネガティブな妄想が目立っていることです。他の認知症に比べると、生活環境の影響が大きく、さらに発症初期から中期に見られやすいことも特徴の1つです。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症のご本人の約25%に被害妄想がみられます。アルツハイマー型認知症と同じく、物盗られ妄想、見捨てられ妄想、嫉妬妄想などが多くみられます。レビー小体型認知症の特徴である幻視などが誘因になって、二次的に嫉妬妄想を形成しやすいと考えられています(3)。鮮やかな幻視が見えてしまい、そこにいないはずの配偶者や恋人が見えてしまいます。人物を誤認することで、嫉妬妄想が形成されやすいことは、初期から中期のレビー小体型認知症でみられやすい特徴の1つです(3)。

血管性認知症

血管性認知症で妄想がみられる有症率は24.7%と言われています(4)。血管性認知症は脳血管障害によって起こるものであり、障害を受けた脳の機能局在に左右されます。血管性認知症はアルツハイマー型認知症と併存しやすいと言われているため(5)、血管性認知症の場合にみられる妄想はアルツハイマー型認知症の影響を受けている可能性があります。

被害妄想の治療法

認知症の被害妄想に対する明確な治療はありませんが、被害妄想の原因が疾患そのものの要因、環境要因、心理社会学的要因であることを考慮すると、通常の認知症への対応と同じように環境を整えたり、穏やかに受け止めるような接し方を工夫すると良いでしょう。また、状況に応じて医師に相談することも視野に入れておきましょう。被害妄想が強い場合など、認知症の周辺症状で困っている内容に合わせて内服薬を調整することもあります。

認知症による被害妄想に対して家族ができること

認知症による被害妄想は配偶者などの家族、周囲の人に対して生じる傾向があります。治療に関して説明した内容のとおり、環境を整えたり、接し方の工夫をすることをおすすめします。 一方で、嫉妬妄想などの場合は暴力行為に至ることもあるため、そのような場合は医療機関の受診を検討しましょう。また、認知症に関する悩みを抱える家族同士が集まって交流を深める「認知症カフェ(オレンジカフェ)」なども利用すると、さまざまな家族のあり方を知る良い機会になり、家族の不安や悩みの解決につながるかもしれません。

まとめ

認知症の被害妄想について説明しました。被害妄想の症状と付き合うことは簡単なことではありません。被害妄想の特徴や原因を理解し、適切な対処法をすることで、認知症のご本人やそのご家族にとって少しでも居心地の良い空間を作ることにつながるでしょう。

参考文献

  • (1)橋本 衛:認知症患者の妄想の発現に関わる要因について. 日本生物学的精神医学会誌.2019;30(2):60‑6
  • (2)橋本 衛:レビー小体型認知症の妄想−被害妄想と誤認妄想−.老年期認知症研究会誌.2017;20(13):69‑70.3, 川畑信也:知っておくべき行動障害・精神症状BPSDの実態. 事例から考える認知症のBPSDへの対応.中外医学社. p.2
  • (3)長濱 康弘:アルツハイマー病とレビー小体型認知症の誤認と妄想. 神経心理学. 2020;36:77-84
  • (4)橋本 衛:認知症患者の妄想.年期認知症研究会誌. 2012;19(1):1‑3
  • (5)日本神経学会監修:血管性認知症 vascular dementia(VaD)の診断基準はどのようなものか 認知症疾患診療ガイドライン2017 医学書院 2017 p.305-7

※提供元:テヲトル「認知症の周辺症状による被害妄想について」 https://theotol.soudan-e65.com/basic/dementia-paranoia