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高齢者にとって「多剤服用」が危険な理由 掛かる病院が増えると薬も増える悪循環

 公開日:2025/02/11
高齢者にとって「多剤服用」が危険な理由 掛かる病院が増えると薬も増える悪循環

高齢になると、複数の疾患を抱えることが増え、診療科を受診するたびに薬の数が増えていくことがあります。たくさんの薬を飲めば、それだけ体に良いのでしょうか? そこで、多剤服用(ポリファーマシー)のリスクと、適切な薬の管理の重要性について、「あゆみ野クリニック」の岩崎先生に解説してもらいました。

岩崎 鋼

監修医師
岩崎 鋼(あゆみ野クリニック)

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宮城県石巻市あゆみ野クリニック院長。体調に合わせた保険診療内での煎じ薬治療を実践。元東北大学附属病院漢方内科臨床教授。元日本東洋医学会東北地区専門医制度委員長。元日本老年医学会評議員。東北大学医学部出身、老年内科で医学博士取得。その後漢方内科に移籍。

「薬をたくさん飲んでいるから安心」は間違い

「薬をたくさん飲んでいるから安心」は間違い

編集部編集部

家族がたくさんの薬を飲んでいて心配になってしまいます。

岩崎 鋼先生岩崎先生

そうですね。たくさんの診療科にかかっている方は、気づくと薬が何種類も出ているということが多くありますが、やはり注意は必要だと感じています。

編集部編集部

懸念について、もう少し詳しく教えてください。

岩崎 鋼先生岩崎先生

例えば、胃酸を抑える薬と血液をサラサラにする薬、さらに骨粗しょう症の薬と頻尿の薬と便秘薬などの薬を飲み続けている高齢者もいらっしゃいます。もちろん、一つひとつの薬には、確かにそれぞれの効果はあるのですが、これは「多剤服用(ポリファーマシー)」といって、副作用などのリスクが高くなると言われています。

編集部編集部

どのくらい高くなるのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

例えば、日本老年医学会では75歳以上の後期高齢者が6個以上の経口薬(飲み薬)を飲むと、5個以下の場合よりも副作用のリスクが10%上がると報告しています。高齢者が多くの薬を常用するのは決して珍しいことではありません。調査によると、多数の疾患が併存している「マルチモビディティ」の割合は、65歳以上で6割以上と言われています。

多剤服用のリスクを医師が解説!

多剤服用のリスクを医師が解説!

編集部編集部

それは怖いですね。

岩崎 鋼先生岩崎先生

ほかにも、例えば実際に副作用などで体調不良となった時、たくさんの薬を飲んでいるとどの薬が影響しているのか特定しにくいといったリスクもあります。さらに、体調不良が薬の副作用からきていることにも気づかれず、「薬の副作用に対して新たな薬を出す」という状態にもなりかねないと日本老年医学会は警鐘を鳴らしています。

編集部編集部

薬がまた増えてしまうのですね。

岩崎 鋼先生岩崎先生

そもそも、たくさんの薬を飲んでいるケースは、複数の医師がバラバラに処方していることが多いため、ほかにどの薬を飲んでいるのか「おくすり手帳」などを見なければ、それぞれの医師が把握できないことも多いのです。さらにこの「お薬手帳」は、院外処方された薬のみの記録であるため、院内処方された薬については記載されていません。

編集部編集部

確かに、それぞれの医師が全ての治療薬を把握するのは難しいかもしれません。

岩崎 鋼先生岩崎先生

そういった場合、たとえそれぞれの医師が「これは薬が多すぎるかも」と思ったとしても、例えば胃腸科と内科と整形外科と泌尿器科の主治医がみんな集まって相談して薬を整理するというのは現実的に不可能です。

編集部編集部

別々の医療機関ですからね。

岩崎 鋼先生岩崎先生

そうなると「薬の種類を減らしたほうが良いかも」と思いながらも、それぞれが「自分の処方した薬は切れない」という状態が漫然と続くことになってしまいます。だからといって「ほかの診療科で処方されている薬を勝手に切るのも……」と考えてしまう医師がほとんどなので、多剤服用の悪循環となりやすいのです。

高齢者の多剤服用にはどうしたら良い?

高齢者の多剤服用にはどうしたら良い?

編集部編集部

多剤服用を防ぐにはどうしたら良いのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

日本老年学会は「健康長寿診療ハンドブック」において、例えば「可能な限り非薬物療法を行う」「明確なエンドポイントを設定して処方する」など、いくつかの指針を示しています。

編集部編集部

もう少しわかりやすく教えてください。

岩崎 鋼先生岩崎先生

わかりやすく言うと、「運動療法や生活改善など、薬以外の方法でも改善が期待できる場合はそうする」ということと、薬を出す際「まず1ヶ月飲んで、その後どうするかはもう一度見直しましょう」「数値が〇〇になったら飲むのをやめましょう」などの基準・目標を決めて処方すると言うことです。

編集部編集部

では、すでに多剤服用となってしまっているケースはどうしたら良いでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

やはり、医師に相談するのが良いでしょう。その際「老年内科」など、総合的に診てくれる診療科に相談するのがお勧めです。または、それぞれの主治医に「この年齢では薬はなるべく減らしたいので、この薬を止められないか」と相談してみても良いかと思います。

編集部編集部

最後に、メディカルドック読者へのメッセージをお願いします。

岩崎 鋼先生岩崎先生

例えば高齢で活動性も落ち、認知症もあるなどの要介護高齢者が必要な薬というのは、若い方が必要な薬とは優先順位が異なります。要介護高齢者のポリファーマシーに対し、薬を減らす際は便秘・不眠・痛みなど、現時点で困っている症状に対する薬を優先することが大事だと考えています。

編集部まとめ

高齢者が多くの薬を服用している場合、薬の効果よりも副作用が上回ってしまうことが少なくありません。そのような時は、自己判断で中断するのではなく、老年内科や総合内科などで相談し、薬を減らすことを検討するのが良いとのことでした。「薬を減らしたい」という方は、お近くの医療機関に相談し、適切なアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

医院情報

あゆみ野クリニック

あゆみ野クリニック
所在地 〒986-0850 宮城県石巻市あゆみ野2丁目14-1
アクセス JR「石巻あゆみ野」駅より徒歩1分
診療科目 漢方内科・老年内科・心療内科・一般内科

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