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【闘病】ただの風邪だと思っていたら、心臓が動いていなかった《劇症型心筋炎》

 更新日:2024/08/20

心筋炎は、ウイルスや細菌、真菌、寄生虫、薬物、毒物などにより、心臓の筋肉に炎症が生じて起きるものです。急性、慢性、劇症型、拡張型心筋症類似型などさまざまなタイプの心筋炎があり、発熱、咳、関節痛、倦怠感など、最初の症状は風邪に似ています。そのため診断確定が遅れることも多く、わかったときにはすでに重症化していることもあるのです。現在でも致死率が20~60%程度と高い病気。劇症型心筋炎を患うことになった西田育枝さんに、闘病時の話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年11月取材。

西田育枝さん

体験者プロフィール
西田 育枝

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横浜市在住、1992年生まれ。2017年に風邪症状から劇症型心筋炎が発覚し緊急手術。複数回の手術の後、2か月で退院。リハビリを続け、1年後に社会復帰を果たす。しかし、その数か月後に再度心筋炎になり入院。現在は事務職として、周囲と変わりなく働けるまでに回復。

今村 英利

記事監修医師
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

二度「風邪」と言われ、診断つかず

二度も「風邪」と言われ、診断つかず

編集部編集部

劇症型心筋炎になるにあたって、最初はどのような症状がみられたのでしょうか?

西田育枝さん西田さん

微熱が2~3日続き、なんとなく胸が苦しいような気がすると思って、仕事の帰りに近くの病院に行きました。そこで症状を伝えましたが、「おそらく風邪でしょう」と言われ、自分でも納得し、風邪薬をもらって帰りました。

編集部編集部

たしかに風邪だと思ってしまいそうな症状ですね。

西田育枝さん西田さん

薬を飲んでも熱が上がっていったので、翌日、少し強めの薬をもらおうと前日と同じ病院で診てもらいました。それでも「たぶん風邪でしょう」とのことで、風邪薬を処方されました。ただ、「何日も熱が続くようだったら、念のために大きな病院に行った方がいいかもしれない」と言われて帰宅しました。

編集部編集部

そこからどんどん症状が悪化したのでしょうか?

西田育枝さん西田さん

はい。次の日には、解熱剤の効果が切れたタイミングで熱がグっと上がるのがわかるくらい高熱が続き、心配になりながらも家で寝ていました。背中に変な痛みを感じ、座ったまま休んでいました。

編集部編集部

また同じ病院に行ったのでしょうか?

西田育枝さん西田さん

今まで経験した風邪とは少し違い、すごく辛い症状でした。しかし二度病院に行き、風邪だと診断されたので、また病院に行くのはなんとなく気まずく、夕方までじっと我慢していました。

編集部編集部

よく我慢できましたね。

西田育枝さん西田さん

夕方トイレに行き、便座から立ち上がってまもなく後ろに転びました。その時は貧血と思ったのですが、今思えば一瞬意識を失っていたかもしれません。幸いケガはありませんでしたが、急に不安になり、近所に住んでいた父を呼び、近くの少し大きい病院に連れて行ってもらいました。送ってくれた父はすぐに帰宅し、夫が病院に来てくれました。

編集部編集部

新たに訪れた病院ではどのような検査を受けましたか?

西田育枝さん西田さん

症状を先生に伝えたら、念のために心電図検査をすることになりました。看護師さんに「今まで心電図で不整脈とか何か言われたことはありますか?」と聞かれ、経験がないことを伝えると、看護師さんは「そうなんですね」と言って裏に行ってしまい、その後、「ちょっと気になるから、少し寝ててね」と告げられ、不安を隠せませんでした。

編集部編集部

「気になる」と言われたら不安になりますよね。

西田育枝さん西田さん

その後に血圧を測るものの、血圧計はエラー表示。血圧計で測れないくらいの低い血圧でした。「そんな事があるの?」とさらに不安になりました。点滴を受けつつ、とても喉が渇いたので、飲み物を飲みたいと看護師さんに言うと「今は何も飲まないで」と言われ、より不安が大きくなりました。後日知ったのですが、その時に夫は別室に呼ばれ、「奥さんと喋れるのは今日が最後になるかもしれません。心臓がほとんど動いてない状態です。その事を伏せつつ奥さんを励ましてあげてください」と言われたそうです。

劇症型心筋炎で救急搬送。緊急手術に

劇症型心筋炎で救急搬送。緊急手術に

編集部編集部

急な告知でご主人もびっくりされたでしょうね。

西田育枝さん西田さん

そう思います。私はそこまでの重症だということをお医者さんや夫から伏せられ、「ここでは処置できないため、救急車で他の病院に行きます」とだけ言われました。状況は全く理解できず、不安しかありませんでしたが、私の記憶はこの病気を見つけた病院までしかありません。その後は大きい病院に搬送され、緊急手術になったそうです。

編集部編集部

その大きな病院では、医師からどのような治療を受けたのですか?

西田育枝さん西田さん

緊急手術でしたので、手術説明は全て夫が聞きました。人工心肺装置を装着して心臓の回復を待つしかない状態で、体外ペースメーキング術を受けました。

編集部編集部

体外ペースメーキング術とはどのようなものですか?

西田育枝さん西田さん

弱くなった心臓を機械で動かし、自分の心臓を正常に動くのをただ待つというものです。その手術も10時間程の大手術だったそうです。

編集部編集部

その手術後、どうなりましたか?

西田育枝さん西田さん

私の場合、残念ながら数日経っても心臓の状態が回復しなかったので、さらに人工の補助装置も付けることになりました。ですが、その病院ではできないと言われ、大学病院に転院して人工補助装置を装着する手術を受けました。家族には、珍しい手術であり、成功確率が低いという説明があったそうですが、12時間後に無事に手術は終わりました。

編集部編集部

術後がどれくらいで目が覚めましたか?

西田育枝さん西田さん

目が覚めたのは最初の手術から約1週間後でした。起きてからは本当に不思議な感覚で、長い悪夢をずっと見ていたような気分でした。目覚めてしばらくは、現実か夢かよく分かりませんでしたね。

編集部編集部

目が覚めてから、先生の話などは覚えていますか?

西田育枝さん西田さん

記憶が曖昧なのですが、目が覚めたら先生が「ウイルスが心臓に悪さをしたのですが、よく頑張りましたね」と言ってくれました。体から色々と出ている管についても説明してくれました。機械が心臓を動かしているなんて言われても、ピンときませんでした。

編集部編集部

その時の体の調子はどうでしたか?

西田育枝さん西田さん

そのときの私は声も出せず、笑顔も作れず、頭も上手く働かず、自分が自分ではないみたいでした。自力で寝返りがうてないくらいでしたので、目が覚めた日から早速リハビリが始まりました。

編集部編集部

術後、大変だったことはありましたか?

西田育枝さん西田さん

誤嚥したら肺炎になりかねないので、喉が渇いても水を飲めなかったのが、1番辛かったですね。たまに看護師さんに頼み込んで氷を口に含ませてもらう程度で、しばらく何も口にできませんでした。

編集部編集部

術後に嬉しかったことは何ですか?

西田育枝さん西田さん

先生、看護師さん、理学療法士さん、作業療法士さんらがリハビリを進めてくれたおかげで体力が少しずつ回復し、車椅子に自分で座れるようになったとき「外の空気をしばらく吸ってないから気分転換しましょう」と補助人工心臓に繋がれた私を、車椅子で外に連れていってくれました。先生や多くの看護師さんが、私のために手間と時間を割いてくれて、もう感謝しかなかったです。

問題なく日常生活をおくれるまでに回復

問題なく日常生活をおくれるまでに回復

編集部編集部

病気になってから、「これは良かった」という経験はありますか?

西田育枝さん西田さん

Instagramでハッシュタグ検索すると、劇症型心筋炎になった方が写真を載せていたり、良好な経過を報告していて、それを見て安心しました。もちろん全てが良い情報ではありませんでしたが、それでも自分と同じ経験をした方がいて、とても励みになりました。私もInstagramに「#劇症型心筋炎」と投稿するようになりました。すると身内の方が急に劇症型心筋炎になったなどのDMが来るようになり、答えられる範囲でお返事しています。その人によって重症度や経過も違うので、私の経験が全てではありませんが、何か少しでも役に立てば、と思っています。

編集部編集部

治療やリハビリ中の心の支えとなったものは、何でしたか?

西田育枝さん西田さん

怖くて眠れない日が何日かありました。でも、毎日見舞いに来てくれる夫に会うと、自分でも心が落ち着くのが分かりました。私の家族も夫の家族もほぼ毎日来てくれて、精神的にすごく支えてもらったと思います。

編集部編集部

ご友人にも助けられたそうですね。

西田育枝さん西田さん

千羽鶴がいくつも届いてビックリしたのですが、友達が折ってくれたことを知った時は本当に嬉しかったです。夫が私の友達にお願いして応援ムービーを集めてくれて、それを見た時「あぁ早く元気になりたい」とリハビリする気力を沸き立たせてくれました。

編集部編集部

医師や看護師など、医療関係者の存在はどうでしたか?

西田育枝さん西田さん

基本的に夫が説明を聞いていたのですが、医療の知識が無くても分かるよう説明してくださったそうで、よく理解できたそうです。1番お世話になった先生や看護師さんたちは本当に優しく、良くしてくださったと今でも言っています。

編集部編集部

医療関係者に伝えたいことはありますか?

西田育枝さん西田さん

入院して知りましたが、医療関係者の方々は優しい人が多いと思いました。患者さんの気持ちに寄り添うホスピタリティがあふれる人が多かったですね。退院すると決まると、関わってくれた病院の人たちが大勢集まってくれました。「良かった」と泣いてくれた方もいて、感謝の気持ちを伝えきれないくらいでした。

編集部編集部

現在の体調、生活、仕事の様子を教えてください。

西田育枝さん西田さん

心臓に負担をかけ過ぎないよう、塩分過多には注意していますが、日常生活をおくるには何も問題ありません。現在も少し心電図異常はありますが、年1回の定期検診で経過観察をしています。

編集部編集部

もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?

西田育枝さん西田さん

最初の胸の苦しさは、周囲に「ただの風邪で大袈裟だな」と思われたくない一心で、はっきり意思表示できなかったのですが、苦しいときは、はっきり言うべきだよと伝えたいです。

編集部編集部

劇症型心筋炎を知らない方へ、一言お願いします。

西田育枝さん西田さん

風邪のウイルスがほかの臓器に行き、重病化する事があります。ただの風邪と思っても、自分で少しでも違和感を感じたらすぐに病院に行き、きちんと自分の症状を全て話してください。関係無いような症状(私の場合背中が痛い)も、実は関係があるかもしれません。また、劇症型心筋炎は診断が遅れ、手遅れになることが多い病気だそうで、私の場合は早期発見でき、レアな手術に成功、退院できたことまで全てが奇跡だと言われました。1番最善なのは、風邪を重症化させないことだと思いますが、風邪を予防すること、無理をしないことも大事だと思います。

編集部まとめ

今回は治療の緊急性が高い劇症型心筋炎について、術前から術後について、その貴重な体験を事細かにお聞きすることができました。術後の経過については、ほかの病気でも通じる部分があると思います。身近な風邪を侮らず、早期に受診し、症状をしっかり伝えることも重要と思いました。

この記事の監修医師