子宮頸がん予防の「9価HPVワクチン」国内承認へ

従来の2価、あるいは4価のHPVワクチンに加え、新たに9価のHPVワクチン(商品名・「シルガード9」)が国内で承認されることが決まりました。新ワクチンには、なにが期待できるのでしょう。また、安全性の担保や接種を受ける仕組みについても知りたいところ。そこで、日本産科婦人科学会専門医の稲葉先生に、現時点でわかる最新事情を教わりました。
※記事の内容は2020年6月19日時点の取材に基づいたものです。

監修医師:
稲葉 可奈子(予防医療普及協会)
「HPV」は、意外と身近にいるウイルスの一種


「HPV」と「子宮頸がん」の関係について、改めて教えてください。

「ヒトパピローマウイルス」の略がHPV(Human Papilloma Virus)で、その種類は100以上あり、皮膚に感染してイボになるものもあれば、子宮の入口(頸部・けいぶ)に感染して子宮頸がんを生じさせるものもあります。

HPVにはどのように感染するのでしょうか?

インフルエンザや新型コロナウイルスのような飛沫感染ではなく、HPVの感染はほぼ、性交渉によってです。オーラルセックスにより咽頭に感染して、中咽頭癌の原因となることもあります。

子宮頸がんになりやすい年代などあるのでしょうか?

子宮頸がんは好発年齢が20代から40代と、若い方でもなりうる病気です。妊娠・出産前に子宮を失うことにもなりかねません。

HPVの感染を予防することはできますか? ピルでは防げませんよね。

コンドームで完全に予防できるものではないのですが(でもコンドームは大事です)、HPVワクチンによって感染を予防することができます。HPVは子宮頸がん以外の病気の原因でもあるので、HPVワクチンを接種することにより、HPV関連疾患全般を予防することができます。

ワクチンで100%予防できるのですか?

100%予防できるわけではありません。2価・4価HPVワクチンの場合、子宮頸がんの原因となるHPVのうち6~7割を予防できます。ワクチン接種に加え、定期的な検診も重要です。定期的に検診を受けることで、万が一子宮頸がんになりかけても、がんになる手前の前がん病変(異形成)の段階で早期発見することができ、子宮を失わずにすみます。女性は、20歳をすぎたらぜひ子宮頸がん検診を受けましょう。
9価は、日本人に多いタイプのウイルス感染もカバー


HPVワクチンの前に付く「価」ってなんですか?

「価」とは「何種類のHPVの感染を予防できるか」という意味です。今まで国内で流通していたHPVワクチンは2価と4価でした。このたび承認されることが決まった「9価」は、9種類のHPV感染を予防できるということですね。

つまり、予防できるHPV型が5種類増えたと?

そういうことになりますね。2価のHPVワクチンで予防できるのは16、18型。4価のHPVワクチンで予防できるのは6、11、16、18型。9価HPVワクチンで予防できるのは、4価に加えて31、33、45、52、58型です。いずれにしても、1本のワクチンの中に含まれています。9価だから「9回打つ」わけではありません。

従来と比べ、どれくらい効果に差があるのでしょうか?

従来の2価・4価の場合、子宮頸がんのうち、世界的には約7割を予防できます。しかし、日本人はHPV52型と58型が比較的多いという特徴があり、日本人では約6割しか予防できません。9価であれば、日本人でも子宮頸がんの約9割を予防できると考えられています。つまり、「日本人にこそ9価HPVワクチンが必要」と言っても過言ではありません。

今まで9価を接種することはできなかったのですか?

独自に輸入して自費診療で接種をおこなっていた医療機関はありました。「より有効な9価HPVワクチンを打ちたい」というニーズがあったためです。しかし、日本で認可されていない薬によりなんらかの副反応が生じた場合、公的な救済の対象とはなりません。
接種しなければ、せっかくの9価も「絵に描いた餅」


そもそも接種は、子宮頸がんの予防目的ですよね。ということは、女性だけが接種対象なのでしょうか?

日本では、「小学校6年生から高校1年生までの女子」だけが、2価・4価のHPVワクチンを定期予防接種として無料で受けられます。ただし、性交渉で感染するウイルスであることを考えると、公衆衛生的には男性も接種したほうがベターですので、男子にも接種を推奨している国もあります。
また、HPVワクチンは女性の子宮頸がん予防のためだけでなく、男性の病気の予防にもなります。HPVは、中咽頭がんや陰茎がん、肛門がん、尖圭(せんけい)コンジローマなど、男性がかかる病気の原因でもあるからです。

9価も定期接種の枠組みに乗ってくるのでしょうか?

正直、現時点ではまだわかりません。国に対し、我々産婦人科医からも要望を出していきますし、自民党の議連も働きかけてくれているようです。

9価の承認は、2013年に中止された「積極的勧奨」の再開にどのような意味をもちますか?

膠着状態から脱するきっかけになればと期待しています。定期予防接種としてのHPVワクチンは、その積極的勧奨が差し控えられてから7年になりました。今後、仮に定期接種の対象となったとしても、接種率自体が上がらなければ意味はありません。

重い副反応があるのではという不安は、なかなかに根強い印象です。

副反応といわれている諸症状とHPVワクチンとの因果関係は示されていません。現行の2価・4価HPVワクチンはもちろん、新しい9価のHPVワクチンについても、安心して接種できます。9価の副反応が2価・4価と比較して有意に多いということもありません。

不安を払拭するには、なにが必要でしょう?

HPVワクチン接種の安全性は、医学的に確認されています。このことをマスコミにしっかり報じてもらえれば、不安を払拭する手助けになるのではないかと。我々産婦人科医や小児科の先生方も、地道に説明して周知するよう努力していますが、知っている人がうった、という経験談も安心感につながると思います。
編集部まとめ
9価HPVワクチンに期待できる予防効果を、従来に比べ「たかだか2割から3割増し」とは思わないでください。たしかに数字としてはそうなのですが、「約9割の子宮頸がんを予防できる」という結果に注目すべきでしょう。当然、その結果は、接種をしてこそ伴います。女性や子宮頸がんに限らず、HPVが引き起こす多彩な疾患予防に対しても有効です。
予防医療普及協会とは
これまでに胃がんの主な原因である「ピロリ菌」の検査・除菌啓発を目的とした“「ピ」プロジェクト”、大腸がん予防のための検査の重要性を伝える“「プ」プロジェクト”、子宮頸がん検査、HPVワクチンに関する正しい情報の発信、啓発を目的とした”「パ」プロジェクト”を実施。予防医療オンラインサロン「YOBO-LABO」はオープンから一年半で会員数270名を突破。 現在、「パ」、「ピ」、「プ」プロジェクトに引き続き、歯周病予防の「ペ」プロジェクト、糖尿病予防の「ポ」プロジェクトが進行中。
各診療科の専門医、歯科医などが集い、それぞれの専門領域を超え、活動をサポートしている。
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