野賀 正史 うらわメンタルクリニック 院長 ドクターインタビュー

患者さんが安心して職場復帰できる社会を目指して 自分に何ができるか確かめたい

心療内科の患者にとって気がかりなのは、病気そのものの治療に加えて、どのように職場に復帰するかということだ。うらわメンタルクリニックの野賀正史院長は、国家の福祉のあり方も含めた広い視野で、患者にとってよりよい社会復帰の実現を目指している。野賀院長に、医師を志したきっかけや大切にしている考え方について伺った。



 

野賀 正史 Masashi Noga

野賀 正史

【経歴】
昭和60年 開成高校卒業
平成3年 東京慈恵会医科大学 卒業
平成5年 同大学付属病院臨床研修課程 修了
平成8年 同大学大学院博士課程 修了
平成8年 東京慈恵会医科大学精神医学講座 助手
平成8年 成田病院精神科 勤務
平成16年 戸田病院精神科 勤務
平成20年 うらわメンタルクリニック 開院

【資格】
医学博士号(甲種)
日本精神神経学会 専門医
日本精神神経学会 専門医指導医
日本医師会 認定産業医
精神保健指定医

古代中国の政治家・子産(しさん)に影響を受ける 福祉や社会資源を築こうとした偉大な人物

医師を目指したきっかけはありますか?

母方のおじが一般内科を開業していて甥の私が継ぐという既定路線があり、幼少期から「自分は医者になるんだろうな」という思いを抱いていました。そして高校3年生の時に医者志望の生徒が多いクラスに入り、クラスメイトと人命の尊さや社会への貢献など様々な議論を交わすうちに臨床医を目指したいと考えるようになりました。

先生の人生に大きな影響を与えた人はいますか?

野賀 正史

古代中国の子産(しさん)という政治家です。孔子より前、まだ倫理の体系ができていない時代の人物なのですが、マキャヴェリズム的な実践主義と極めて社会福祉的な考え方を併せ持っていました。彼の方法論は、実地を見て人々が何を求めるかを把握して、計画的に与えるというもので、与える物の量も必要十分にする責務があると考えていました。一代で終わってしまいましたが、福祉や社会資源という通念のない時代にそれを築こうとした点で偉大な人物だと思います。子産の考え方に触れたことで、福祉は非常に大切だと考えるようになりました。

心療内科に進んだきっかけは何だったのですか?

大学3年生の外来実習で大学病院の様々な診療科を回ったのですが、心療内科で多くの方が社会でのストレスの歪みから疾病を患っていることを知りました。その中で、患者さんに対して国家は社会資源を十分に活用できていないことや、患者さんを支えて様々な采配をするケースワーカーという仕事があることなど多くの気づきがあり、仕事のあり方にも非常に共感するものがあったので心療内科に進みたいと考えました。

本当の福祉国家とはかなり違う日本の現状 自分ができることを確かめたい

開業までの経緯についておしえてください。

開業を視野にまずは勤務医として、薬物療法を重視する方や、産業医としてリワークシステム(復職支援)に力を入れる方など、それぞれ高邁な思想で開業されている先生の下で研鑽を積みました。そして平成20年に当院を開業しました。


院長になってから学んだこと、気づいたことはどんなことでしょうか?

野賀 正史

まず、日本は欧米のような本当の福祉国家とはかなり違うということに気づきました。例えばスウェーデンやフィンランドといった北欧は社会資源が豊富で、統合失調症の治療では国家や地域が一丸となって患者さんを見守るオーダーメイド型の福祉が提供されています。一方、日本は患者さんが行政を利用できる部分が少なく、まったくオーダーメイド型とは言えないのが現状です。
就労支援ひとつとっても、職場でリワークシステムが用意されていて、かつ有効に活用できる状態になっていなければ、患者さんは社会に放り出されてしまいます。ひどい例では一方的に解雇通知が届くということもあるのです。勤務医時代はこのような面はすべてケースワーカーに任せていたので、院長になって課題に直面するようになりました。

患者さんの復職を支援する立場から、社会に対して求めることはありますか?

大学3年生の外来実習で大学病院の様々な診療科を回ったのですが、心療内科で多くの方が社会でのストレスの歪みから疾病を患っていることを知りました。その中で、患者さんに対して国家は社会資源を十分に活用できていないことや、患者さんを支えて様々な采配をするケースワーカーという仕事があることなど多くの気づきがあり、仕事のあり方にも非常に共感するものがあったので心療内科に進みたいと考えました。職場にしっかりしたリワークシステムがあるように見えても、実際に利用してみると違う、といったことがあります。代表的な例は公立の小中学校の教諭のリワークシステムです。復職まで2年程度かけて様々なステップを踏まなければならず、その間に悩んでしまい状態が悪化してしまうのです。

また、日本の職場は「リワークシステムの充実」=「復職者を型にはめる」というケースが多く、まったくオーダーメイド型ではありません。このような現状では、治療中の患者さんはストレスに脆弱性があるためドロップアウトしてしまいます。患者さんの中には、職場から電話がかかってきただけでドキドキしてしまう方もいらっしゃいます。職場側には患者さんが安心して復職できるよう配慮をしていただきたいです。

また、最近はストレス性の病態が多いのですが、原因として絶対的に多いのが、お仕事の対人関係、特にモラハラ・パワハラに近いような威圧的な態度です。必要がないものはやめていただきたいと思っています。

その中で先生はどのようなことをしていきたいですか?

まずは外来の医療機関として気軽に足を運んでもらえる存在となり、治療を行うことです。その上で、保険医療の枠内でどんなことができるのかを確かめたいです。上手くいかない点や自分が無力感を感じる点も多々ありますが、本当に自分が無力でできないのか、それとも国家の社会資源が間に合っていないのかまで確かめたいです。そこまでしないと無責任だと考えています。日本精神神経学会が精力的に活動しているので、学会を介して行政や社会にフィードバックしていきたいです。


「これくらい誰でも起こる」「我慢しなくては」と考えすぎないで 大切なのは患者さん自身が潰れないこと

今後チャレンジしたいことはありますか?

リワークシステムに関する連携の密度を高めたいです。標準的なリワークシステムは、まずは午前中のみの勤務を5日間、次に9〜15時勤務を5日間、最後に残業なしのフルタイム勤務を5日間行います。そして、かかりつけの心療内科医と職場の産業医が就労の可否、残業の取り扱い、部署異動の必要性などを判断していきます。このようなリワークシステムを実施している病院やクリニックの数は少ないので、連携をさらに強めていきたいと考えています。

最後に皆さんにメッセージをお願いします。

野賀 正史

かなり辛い段階まで一人で耐えてからようやく受診する方が多いと感じています。ストレス性の症状が多いので「これくらい誰でも起こるものだ」「うちの会社ではこれは我慢しなくてはいけない」と考えてしまっているのです。受診が遅れると、治療が長引くことが多いです。患者さんが自分本位でダメだと感じたら、すぐに心療内科を訪ねてください。
また、特に一定の年齢以上の方は診断書でお休みを取ることに抵抗感が強いケースが多いです。職場に迷惑をかけてしまうことを非常に心配していらっしゃいますが、最も大切にしなければならないのは、患者さまご自身が潰れてしまわないことです。ぜひご自身を最優先して判断していただきたいと思います。


うらわメンタルクリニック

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