「アルツハイマー型認知症」を発症するとどんな「妄想・幻覚症状」が現れるかご存知ですか?
公開日:2025/11/14

アルツハイマー型認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状の2つに大きく分けられます。記憶障害や見当識障害といった中核症状は脳の器質的変化によって生じ、不安や妄想などの行動・心理症状は環境や心理的要因の影響を受けやすい特徴があります。これらの症状を正しく理解することで、患者さんへの適切な対応が可能になります。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
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浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
アルツハイマー型認知症の症状について
アルツハイマー型認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つに大きく分けられます。中核症状の特徴と進行過程
中核症状として代表的なものが記憶障害です。特に新しい出来事を覚えることが困難になる近時記憶障害から始まります。記憶障害の進行は段階的で、初期には物の置き場所を忘れたり、約束を忘れたりする程度ですが、次第に重要な出来事や人の名前、進行すると、家族の顔や関係を認識することが難しくなる場合もあります。この記憶障害は、単なる加齢による物忘れとは質的に異なり、ヒントを与えても思い出すことができないという特徴があります。 記憶障害と並んで重要なのが見当識障害です。これは時間、場所、人に対する認識が混乱する症状で、今がいつなのか、ここがどこなのか、目の前にいる人が誰なのかがわからなくなります。 実行機能障害も中核症状の重要な要素です。計画を立てて物事を順序立てて実行する能力が低下し、料理の手順がわからなくなったり、家電製品の操作ができなくなったりします。これまで当たり前にできていた日常生活動作が困難になることで、患者さん自身も大きな困惑を感じることになります。 失語、失行、失認といった高次脳機能障害も進行とともに現れます。失語は言葉を理解したり表現したりする能力の障害、失行は動作を行う能力の障害、失認は感覚器官は正常なのに物を認識できない障害を指します。行動・心理症状(BPSD)の多様性
行動・心理症状で頻繁に見られるのが不安や焦燥感です。記憶障害により状況が理解できないことで、患者さんは常に不安を抱えており、落ち着かない状態が続きます。この不安から、家にいるのに「家に帰りたい」と訴えたり、亡くなった親を探し回ったりする行動が現れることがあります。 妄想症状も比較的多く見られる症状です。「財布を盗まれた」「誰かが家に侵入している」といった被害妄想や、「配偶者が浮気をしている」という嫉妬妄想などが典型的です。これらの妄想は、記憶障害により物事の説明がつかないとき、患者さんなりに状況を理解しようとした結果として現れることが多いです。 幻覚症状では、実際には存在しない人や物が見える幻視が一般的です。「知らない人が家にいる」「虫がたくさんいる」といった訴えがよく聞かれます。 徘徊行動は家族にとって特に心配な症状の一つで、目的もなく歩き回ったり、外出したまま帰れなくなったりすることがあります。 怒りっぽくなったり、感情が高ぶることが見られる場合もあります。これは不安や混乱、欲求不満が高まったときに起こりやすく、介護を拒否したり、暴言を吐いたりすることがあります。しかし、これらの行動には必ず理由があり、患者さんの立場に立って考えることが重要です。まとめ
アルツハイマー型認知症は、患者さんとご家族の人生に大きな影響を与える疾患です。しかし、適切な理解と支援により、尊厳を保ちながら、その人らしい生活を続けることが可能です。早期発見・早期対応により症状の進行を遅らせ、質の高いケアにより生活の質を維持することで、患者さんとご家族がより良い時間を過ごせるよう支援していくことが重要です。医療従事者、家族、地域が連携し、包括的な支援体制を構築し、社会全体でサポートしていく必要があります。参考文献