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手術で姿勢も人生も変わる? 「成人脊柱変形症」の治療選択とその後の生活【医師解説】

 公開日:2025/06/26
手術後の生活は?

腰曲がりなどの症状が表れる「成人脊柱変形症」に悩む高齢者が増えています。しかし、近年は医療技術が進化し、安全性の高い手術も可能になり、多くの人が治癒を目指せるようになりました。今回は、成人脊柱変形症の手術前と手術後の生活は一体どのように変わるのかを、「品川志匠会病院」の光山先生に解説していただきました。

光山 哲滝

監修医師
光山 哲滝(品川志匠会病院)

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日本医科大学卒業。その後、東京女子医科大学脳神経外科に入局。国際医療福祉大学三田病院脊椎脊髄センター、亀田総合病院脊椎脊髄外科、テュービンゲン大学脳神経外科などを経て、2016年より東京都品川区に位置する「品川志匠会病院」で勤務。2022年、院長に就任。医学博士。日本脊髄外科学会技術指導医、日本専門医機構認定脳神経外科専門医、日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医、日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術評議員。

編集部編集部

手術が適応となる条件を教えてください。

光山 哲滝先生光山先生

通常、成人脊柱変形症の治療は、運動療法や薬物療法など手術を伴わない「保存療法」をおこないます。しかし、保存療法では改善が見込めない場合や変形が強く著しい歩行障害がみられる場合、麻痺などの神経症状がみられる場合などは、手術が適応になります。

編集部編集部

手術をすると、どのように生活が変わるのですか?

光山 哲滝先生光山先生

成人脊柱変形症の手術は、脊柱を生理的な形状に近い形で矯正することを目的におこなわれます。手術により、腰曲がりや側弯などの脊柱変形が改善することで、日常生活に支障をきたしていた腰痛などの症状が改善します。つまり、腰曲がり姿勢で痛みを伴うゆっくりとした歩行から、腰を真っすぐに伸ばしてのスムースな歩行に変わります。

編集部編集部

歩行や家事なども楽になるのですか?

光山 哲滝先生光山先生

そうですね。以前のように長く歩いても腰痛が強くなることはありませんし、家事などで立っている時間が長い場合でも、腰痛が出現せず楽になると思います。その際には、腰曲がり姿勢から腰を伸ばした姿勢に改善します。また、下肢痛や痺れなども改善しますし、おなかの圧迫も良くなるので、食事も楽しめるようになるでしょう。

編集部編集部

入院期間はどれくらいですか?

光山 哲滝先生光山先生

手術の入院期間は3~4週間です。ただ、足腰の筋力が衰えている場合には、自宅へ戻る前にリハビリテーション病院へ転院し、さらにリハビリを継続することをすすめています。リハビリを含めて、1~3カ月程度の入院期間が一般的です。

編集部編集部

手術後に気をつけなければならないことはありますか?

光山 哲滝先生光山先生

手術後、骨がくっつくまでには時間がかかります。そのため、術後半年~1年の間は、必ず硬性コルセットを装着して生活する必要があります。また、固定された脊柱での動きが失われるため、靴下を履いたり、あぐらをかいたり、足の爪を切ったりする動作が難しいと感じるかもしれません。これは術後に股関節のストレッチをおこなうことで、それらの動作が改善することがあります。加えて、術後は「正座をする」「布団で寝る」など和式の生活を改め、「イスに座る」「ベッドで寝る」といった洋式の生活へ変更すると、矯正固定した背骨に対する負荷が軽くなると考えます。

編集部編集部

ほかにも注意点があれば教えてください。

光山 哲滝先生光山先生

骨粗しょう症がある場合には、少なくとも手術の3カ月以上前から、注射薬による骨粗しょう症治療をおこない、術後も継続することが推奨されています。

編集部編集部

運動で気をつけることはありますか?

光山 哲滝先生光山先生

姿勢を意識した散歩や股関節のストレッチを、足腰の筋力を維持するためや前かがみ動作を改善するために薦めています。一方で、ゴルフなどの大きく体をひねる運動は控えていただきます。

編集部編集部

手術を検討する上で、メリットとデメリットを比較することが大事ですね。

光山 哲滝先生光山先生

はい。成人脊柱変形症の手術はほかの脊椎手術と比べて、侵襲の大きな手術になることは間違いありません。しかし、側方からの手術を組み合わせたり、手術を2回に分けたりすることで、以前と比較して体に負担の少ない手術がおこなわれています。また、成人脊柱変形症は「慢性の心疾患や肺疾患と同じぐらい日常生活の質を下げる」という報告もあります。実際に手術を受けた患者さんからは「これまでは痛みのために外出が制限されていたけれど、手術後は孫と出かけられるようになった」「痛くて控えていた旅行にでかけてきた」「周りから姿勢が良くなったねと驚かれる」などの喜びの声を聞きます。手術を受けることによって日常生活動作が改善するメリットと、手術侵襲の大きさからくるデメリットの両面の説明を受けて理解した上で、手術治療を検討してほしいと思います。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

光山 哲滝先生光山先生

ここ10年ほどの間で、成人脊柱変形症の病態解明がさらに進み、以前と比べて侵襲の少ない手術が可能になっています。そして、以前よりも合併症の発生率も減り、多くの人が手術後に満足な生活を送っています。その一方で、手術には侵襲の大きさからくるリスクも少なからずあるため、医師とよく相談し、手術治療を検討してほしいと思います。また、成人脊柱変形症は病態背景を含めた術前の評価と治療、適切な矯正目標と手術法の決定、リハビリを含めた術後療法など、脊椎外科医としての総合力が必要な病態です。したがって、脊柱変形症の治療経験が豊富な脊椎外科の指導医がいる医療機関に受診することをおすすめします。

※この記事はメディカルドックにて<「成人脊柱変形症」の入院期間はどれくらい? 適応条件や手術後の生活も医師が解説!>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

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