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【闘病】生まれながらに便が出せず、0歳で「緊急開腹手術」に…《ヒルシュスプルング病》

 公開日:2025/06/25
ヒルシュスプルング病は、生まれつき腸の一部に神経がなく、自力で排便ができない難病です。今回お話を伺った江川さんの息子さんは、生後1歳でようやく病気が判明。長期入院、ストーマ造設、そして2年後の根治術と、幾度も困難な治療を乗り越えてきました。なかなか原因がわからず苦しんだ乳児期、少しずつ「普通の食事」ができるようになってきた現在の様子まで、病気と向き合う日々の実体験を語っていただきました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年8月取材。

江川さん

闘病者の母プロフィール:
江川 翔子

プロフィールをもっと見る

東京都在住、1986年生まれ。夫と全結腸型ヒルシュスプルング病の患者である息子と暮らす。2018年、妊娠36週に妊娠高血圧症候群になり、急きょ帝王切開で出産。無事誕生するがその後の様子が優れず大学病院に搬送されたところ、緊急開腹手術に。入院後、4~5カ月で全結腸型ヒルシュスプルング病と診断。息子は3歳となり、ようやくご飯も少量から食べられるように。現在は病院中心の生活ではなくなり、当たり前の日常を噛みしめながら笑顔のあふれる日々を送っている。

菅谷 雅人

記事監修医師
菅谷 雅人(ふかしばこどもクリニック 院長)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

ヒルシュスプルング病は1歳を過ぎてようやく判明

思うように食べることができない過酷な日々

編集部編集部

聞き馴れませんが、ヒルシュスプルング病とはどのような病気ですか?

江川さん江川さん

ヒルシュスプルング病とは、腸の動きを制御する神経節細胞が生まれつき欠損している病気です。そのことによって自力で排便やおならを出すことができません。5000人に1人の割合で起こるとのことで、症例も少なく原因不明と言われました。大半が生後すぐの排便がないことや、お腹がパンパンに膨らんでいる状態で発覚するのですが、ウチの息子の場合はなぜか1歳になっても判明しなかったため、入院も長期になりました。

編集部編集部

息子さんは、産まれてからの様子がおかしかったとのことですが、いったいどのようにでしょうか?

江川さん江川さん

私が妊娠36週に突然、妊娠高血圧症候群になり、急きょ帝王切開で出産することになりました。無事に生まれましたが、2122gの低体重で、数週間は保育器にいました。その後、体重も多少増え、小さいながら元気に退院したのですが、生後1カ月頃より排便が数日なかったり、ミルクを飲んでも大量に吐いてしまったり、またお腹が膨れているような症状があり、定期的に通院することになりました。その後も何カ月も排便は綿棒やこよりなどを使わないとほとんど出せない状態だったのです。

編集部編集部

それは不安になりますね。

江川さん江川さん

生後10カ月のときに、ミルクをほとんど飲まなくなり、嘔吐することが多く、排便もせず、明らかに元気もなくなっていきました。それまでの間にも近くの病院で診てもらい、浣腸してもらったり、加療をしてもらいましたが、よくなりませんでしたね。その後、忘れもしないクリスマスの夜のことでしたが、大学病院に緊急搬送され、小児外科で診てもらうと、身体のなかで炎症が起きているときに上昇するCRPという値が非常に高いという結果が出ました。通常、赤ちゃんだと0.3mg/dlのところ13mg/dlという値でした。結局、原因不明で緊急開腹手術をすることになったのです。

編集部編集部

手術後に入院が長く続いたそうですね。

江川さん江川さん

はい。そこから10カ月間入院することになりました。入院後もしばらくは原因がわからず、息子は高熱が出たり、ウイルスに感染したり、熱性けいれんで意識がなくなったり、1時間で10本も注射をしたり、絶食を続けたりと、とてもつらい入院生活だったと思います。

編集部編集部

結局、どのように病名の診断がついたのですか?

江川さん江川さん

入院して4、5カ月ごろにようやく生検ができ、「ヒルシュスプルング病 全結腸型」と診断されました。もともと疑いのあった病名でしたが、担当医からは入院前に多少なりとも排便できていたので恐らく違うだろうと言われていましたし、ヒルシュスプルング病の中でも難病にあたる全結腸型だったことで、家族全員が大きなショックを受けました。

編集部編集部

ヒルシュスプルング病にはどのような治療法があるのでしょう?

江川さん江川さん

神経のない腸の部分を摘出してつなげる根治術があります。また、トイレトレーニングなどの訓練をすることで、改善していくことはあるそうです。

「必ず今よりもよくなる」という言葉を希望に治療

「将来的に必ず今よりもよくなっていく」を希望に

編集部編集部

息子さんの場合は、どのように治療を進めましたか?

江川さん江川さん

入院当初は、長期間の絶食でおなかを休めることになりました。小さい子どもが飲まず食わずでガリガリになっていく様子は、見ていてとても悔しかったですね。ミルクなどを飲み始められるようになっても5㏄、10㏄と少量ずつ増やしていく状態。何カ月も入院していたので、どこがゴールなのか、いつ退院できるのか、将来どうなってしまうのか不安だらけでした。ただ、担当医から「将来的に必ず今よりもよくなっていく」という力強い言葉をいただいていたので、それを希望に頑張っていました。

編集部編集部

その後は退院されたのですか?

江川さん江川さん

はい。その後、1歳のときストーマ造設(人工肛門)をしました。医師からは3カ月くらいで閉鎖すると言われていたのですが、結果的には2年近くストーマがある状態でした。その後も体調のアップダウンがあったものの、ついに入院10カ月にして退院しました。

編集部編集部

退院後の様子はどうでしたか?

江川さん江川さん

退院してからも入退院を何度も繰り返し、ストーマ陥没というイレギュラーな症状によるひどい皮膚炎などに悩まされました。退院しても、ご飯もほぼ食べられずにいたのですが、2歳でついに8時間にも及ぶ根治術をおこない、腸の神経のない部分を摘出。息子の場合は、神経のない大腸全てと小腸数十cmを摘出しました。

編集部編集部

手術による生活への影響はないのでしょうか?

江川さん江川さん

便を固める大腸がないことで、便は水っぽく、飲み物や食べ物にかなり気を付けないと、すぐにひどい下痢を起こします。嘔吐や脱水症、体重減少などが起こりうるので、健常児と同じご飯や量を食べることは難しいですね。

編集部編集部

3歳になった今の様子はどうですか?

江川さん江川さん

その後、3歳でストーマ閉鎖術を乗り越え、便がお尻から少し出るようになりました。しかし排便障害はあるので、自力ではほとんど便やおならが出せない状態です。ひどい腹痛に悩まされています。1日に2、3度の洗腸は毎日欠かさずおこなっています。ただ、それまで3歳にも関わらずフォローアップミルクや栄養剤などの水分しか口にできなかったのですが、ようやくご飯も少量から食べられるようになりました。少し前は1日のご飯がボーロ一粒ということもよくあったので本当によかったです。

(後編)【闘病】息子のかわいさと笑顔が闘病中の心の支え

※この記事はメディカルドックにて『【闘病】難病の赤ちゃんと過ごした10カ月に及ぶ入院生活《ヒルシュスプルング病》』と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

この記事の監修医師